
なぜ同じ詐欺が量産されるのか|第九話
― 人間に共通する「判断の癖」
ここまでの記事では、
SNS型投資詐欺が、
LINEという閉じた空間
集団の空気
コントロール幻想
違和感の先送り
サンクコスト
現実感の演出
によって成立していることを書いてきた。
そして前回、
人は真実を確認しているのではなく、
「説明できる世界」
を信じている、
という話を書いた。
では、
なぜその世界を信じてしまうのか。
なぜ、
年齢も職業も学歴も違う人たちが、
似たような判断をしてしまうのか。
その背景には、
人間に共通する
「判断の癖」
がある。
① 人は「多数派」に安心する
人は、
自分一人で判断することに不安を感じる。
だから、
周囲にいる人たちの行動を参考にする。
これは日常生活でも同じだ。
行列ができている店を見ると、
「きっと人気なのだろう」
と思う。
口コミが多い商品を見ると、
「きっと良い商品なのだろう」
と思う。
本来は合理的な判断方法だ。
しかし、
SNS型投資詐欺では、
この性質が利用される。
LINEグループには、
感謝のコメントが並ぶ。
利益報告が並ぶ。
成功体験が並ぶ。
すると、
人は無意識に考える。
「これだけ多くの人が参加しているなら」
「自分だけが間違っているわけではないだろう」
と。
② 人は「最初の説明」を信じ続ける
人間は、
一度受け入れた説明を、
簡単には手放さない。
最初に、
「投資勉強会です」
と言われる。
すると、
その後に入ってくる情報も、
すべてその前提で解釈し始める。
LINEだけなのは、
会員限定だから。
出金できるのは、
本物だから。
個人口座なのは、
特殊な事情があるから。
本来なら、
一つ一つ検証すべきことでも、
最初の説明が基準になってしまう。
③ 人は「自分だけは大丈夫」と思う
第五話でも触れた
コントロール幻想にもつながる話だ。
人は、
事故のニュースを見る。
詐欺被害のニュースも見る。
しかし、
どこかで思っている。
「自分は違う」
「自分なら見抜ける」
と。
これは特別な人だけではない。
むしろ、
ほとんどの人が持っている感覚だ。
だからこそ、
被害は繰り返される。
④ 人は「自分で調べたこと」を信じる
ここが特に重要だと思う。
人は、
他人から言われたことより、
自分で確認したことを信じる。
しかし、
その確認自体が、
最初から用意された材料の中で行われていることがある。
実在企業名。
金融庁登録。
出金実績。
活発なLINEグループ。
私自身も、
「ちゃんと調べた」
と思っていた。
しかし今振り返ると、
調べていたのは真実ではなく、
安心できる理由だったのかもしれない。
⑤ 判断の癖は能力の差ではない
ここで誤解してはいけない。
これらは、
知識不足の話ではない。
頭の良し悪しの話でもない。
人間である以上、
誰もが持っている性質だ。
だから、
被害者の中には、
会社経営者もいる。
公務員もいる。
医師もいる。
投資経験者もいる。
「判断の癖」は、
能力ではなく、
人間の標準装備なのだ。
⑥ なぜ同じ詐欺が量産されるのか
私は長い間、
不思議だった。
なぜ、
これほど似た手口が、
何度も繰り返されるのか。
しかし今は、
少し違う見方をしている。
詐欺師たちは、
新しい人間を作っているのではない。
昔から変わらない、
人間の判断の癖を利用しているだけなのだ。
だから、
モデル化できる。
だから、
再現できる。
だから、
量産できる。
■ まとめ
SNS型投資詐欺が利用しているのは、
特別な心理テクニックではない。
多数派を信じる、
最初の説明を信じる、
自分だけは大丈夫と思う、
自分で調べたことを信じる。
そんな、
誰もが持っている判断の癖だ。
■ 帰結
人は、
騙されるために騙されるのではない。
信じるべきものを探した結果、
騙される。
そしてその過程で利用されるのは、
人間の弱さではなく、
人間らしさなのかもしれない。
■ 次回予告
投資は余剰資金で行う。
投資経験者なら、
誰もが知っている鉄則だ。
では、
なぜ人は、
知っていたはずの鉄則から逸脱してしまうのか。
次回、
このシリーズの核心とも言える
「前提が書き換わる瞬間」
について整理します。
今回はここまで