
早くババアになりたくなった日【珈琲貴族館】
気分は貴族、
ついに貴族の館へ行く日が来た。
その名も「貴族館」。
ずっと気になっていた店だ。
名前だけでも強い。
貴族見習いとしては避けて通れない。
覚悟を決めて向かった。
モノレールを降りて歩くこと約10分。
そろそろ着くはずなのに見つからない。
さすが貴族。
庶民には簡単に姿を見せないらしい。
目的地の周辺をぐるりと一周して
ようやく発見した。
隣は歯医者さんだった。
勝手に洋館を想像していたので少し驚いた。

店内に入る。
そこは確かに貴族の館だった。
濃い木の家具。
薄暗い照明。
重厚な椅子。
昭和の純喫茶らしい空気が漂っている。
新参者の私は奥のテーブル席へ。
すると店員さんが声をかけてくれた。
「この席寒くない?」
「ゆっくりしていってね」
優しい。
庶民なのがバレているのかもしれない。

店名に珈琲と書いてある。
ここは迷わずブレンドを注文した。
運ばれてきたカップも見事に貴族仕様だった。
こういう空間で飲む珈琲は不思議と美味しい。
先ほど見てきた展示の内容を
iPadにまとめながら過ごした。
美術館へ行って。
喫茶店で振り返る。
好きなものばかり詰め込んだ時間だった。

しばらくすると、
カウンター席から楽しそうな会話が聞こえてきた。
常連客と店員さんらしい。
どうやら毎週来ているらしい。
羨ましい。
まさに貴族である。
年齢は私の祖父母くらい。
ところが会話の内容が面白かった。
アルバイトの話。
カラオケの話。
今度どこへ行くかという話。
年齢の話を除けば学生と変わらない。
驚くほど元気だった。
最近、未来のことを考えるのが少し苦手だった。
ニュースを見れば暗い話題ばかり。
ネットを見れば年齢に関する言葉も多い。
「平成一桁ババア」という言葉を見かけて
少し落ち込んでいた。
平成二桁の私も、
そう呼ばれるのは時間の問題だろう。
もう若くない。
もう遅い。
そんなことを考える日もある。
けれど、この館では違った。
みんな未来の話をしていた。
次は何をするか。
どこへ行くか。
何を楽しむか。
そんな話ばかりだった。
そして私は館の中で一番若かった。
何がババアだ。
何が「もう遅い」だ。
まだまだこれからじゃないか。
さらに別の常連客がやってきた。
先にいた人とは知り合いではないらしい。
話を聞いていると、お互い90代だった。
免許を返納したとか。
どれくらい歩いているとか。
健康診断がどうだったとか。
元気マウントを取り合っているように見えた。
なんだか楽しそうだった。
貴族館は薄暗い店だった。
けれど帰る頃には気分が明るくなっていた。
珈琲を飲みに来たはずだった。
でも持ち帰ったのは少し先の未来への希望だった気がする。
早くババアになって、
私も元気マウントを取りたい。
早くババアになりたくなった場所
☕️珈琲貴族館
千葉市にある純喫茶。
重厚な内装と優しい店員さん、そして元気な常連客たちが迎えてくれる。
ブレンド珈琲一杯500円。
庶民にも優しかった。