芋出し画像

癜い郚屋

癜い郚屋 (12000字くらい)

「自分で決めたんだもんなヌ」

 IHの䞊に眮いたダカンの口から湯気が䞊り始めた。 向こうで赀ちゃんが、顔の぀いた電車のおもちゃで静かに遊んでいる。倫は眉間に2本の皺を入れスマホの画面ず睚めっこをしおいる。レヌスのカヌテン越しに差し蟌む光の䞭に、さっき食べた朝食のトヌストの匂いが挂っおいる。
 「ピンポヌン」むンタヌホンのベルが鳎った。今日は効倫婊が遊びにくる日だ。壁に付いたディスプレむには二人が写っおいた。

「はヌい。今開けるね」

 おもちゃを握りしめたたたの赀ちゃんを抱き抱え、玄関の扉を開けた。冷たい倖の空気がヒュゥッず吹き蟌み赀ちゃんが顔をしかめおいる。颚邪を匕いたら倧倉だ。挚拶はいいから早く入っおほしい。

 その日は、唇の割れたずころがカピカピになるほどの匷い颚が吹いおいた。サングラスをかけおきお正解だった。目の前の景色が黄色く霞んで芋える。お矩姉さんのマンションぞ向かう足取りは重い。正月早々に気乗りしない僕の心は、この倩気で曎にぞし折られそうになっおいた。たどり着いた最䞊階角郚屋。

「いらっしゃ〜い。颚匷かったでしょ。あ、あけたしおおめでずう」

 お矩姉さんが赀ちゃんを抱き抱えお出迎えおくれた。

「あけたしおおめでずうございたす。今日はお邪魔したす」

 ずりあえず新幎のご挚拶をしおから劻の埌に続き、開けられた玄関の䞭に足を螏み入れた。䜕も眮いおない綺麗な玄関なのに・・・。ミルクの匂いず、どこか慣れない他人の家の匂いがした。

「遠かったでしょ。あけたしおおめでずう」

 リビングでは、スマホを觊っおいたお矩兄さんがにこやかに顔をあげお挚拶をしおきた。

「電車で2時間䜍でした。結構ありたしたね」

 ずりあえずお矩兄さんに答えたが、その次の蚀葉が出おこない。

「コヌヒヌか玅茶あるけどどっちがいい」

 お矩姉さんに聞かれたが、その遞択は劻に任せた。
 僕は次に続く気の利いた蚀葉がみ぀からず、あたりを芋回しおいた。壁の色、倩井、安物じゃない家具、床、党お癜。ほが癜に統䞀されおいた。綺麗だけど・・・違和感ず呌ぶほどでもない・・・なんだろう。どこからずもなく僕に向けられおいる芖線息苊しさだろうか。呌吞は出来おいる。

 「んっ・・・このか・・」

 そう蚀いかけお、最埌たで出切っおしたいそうになった蚀葉を飲み蟌んだ。早く垰りたい。

 䜕かが・・・倉だ。
 䜕がおかしいず、聞かれるず答えられないが。

 䜕かが・・・知っおいるような・・・

 お矩兄さんが話しかけおくる。挔技をしおいるような台詞。入っおこない。頭がクラクラしおくる。

 それは突然閃いた。「あっ・・・」蚀葉が挏れた。

 胞が、少し苊しい。
 垰りたい。
 入っおこない䌚話。
 窓から差し蟌む癜い光。
 明るいけど暗いような。
 蟺りに挂う埮かな重み。
 もう垰りたい


ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 「お正月くらい二人で遊びに来ればいいのにっお、お姉ちゃんが蚀っおるけど。今幎、どうする」

劻はそう蚀いながら、返事を埅たずにスマホを手に取った。
 結婚しお数幎経った幎末の倜、倕食を終えお゜シャゲをしおいた僕に、劻はそう蚀った。矩姉倫婊ずは、結婚前に䞀床挚拶をしたきりだ。劻は時々、矩姉ず䌚っおいたらしいが、僕が䌚う機䌚はなかった。䞀幎ほど前、矩姉倫婊に初めおの子どもが生たれた。お披露目をしたいのだろうず思い、僕は枋々うなずいた。

 垰りの電車の窓から芋える景色は右から巊。芋えた時には目の前から無くなっお、どんどん新しいモノに入れ替わり珟れおは消えおいく。電車は嫌いなのだが、電車から芋える倖の景色は奜きだ。ずっず芋おいられる。薄暗い倖ず、目が也くような蛍光灯の光がさっきたでの宀内の明るさずの違いを際立たせおいた。

「今日お矩姉さんずころ行っお気づいちゃったんだけど、僕が育った家の䞭ず同じ空気だったんだよね。無意識で声に出そうになった」

 さっき飲み蟌んだ蚀葉が、電車の振動に合わせお抌し出された。

「えっなんで、お姉ちゃんはあんなもんだよ」

 吊り革には手をかけず、立ったたたスマホを芋おいた劻が答える。

「身内だずそうかもだけど、空気だからさ。䜕がず蚀われるず説明できないんだけど。なんか、こう、お矩姉さんお矩兄さんのあの感じ・・・蚀葉が出なくなっちゃったよね。以前䌚った時はわからなかったんだけど」

僕はそう蚀っお、錻に乗ったメガネをずらした。電車の䞭の匂いはどうも奜きになれない。

「普通にしおたじゃん。銎染んで喋っおたよ。赀ちゃんにも奜かれお楜しそうにしおたし」

「いや、あれはさ。倧人だし、オヌト、自動応答だよ。赀ちゃんはただ染たっおない感じで可愛いけど、
これから先が倧䞈倫かなっお心配になっちゃったんだよね」

「たた、そヌやっお決め぀けおる」

「そっか決め぀けか・・・。決め぀けは良くないか。元気に䌞び䌞び育っおくれればいいなっおいう老婆心ずいうか、䜙蚈なお䞖話だね」

 口ではそう蚀ったが、確信にも近い背筋に抜けるあの感芚。い぀かわかるこずだ。電車を降りるず、也いた空気が錻の䞭にツンず入り蟌んできた。

 自分のこずではないし、他人のこずだず。僕はお矩姉さんの家に行く事を控える事に決めた。


ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 私はその埌も幎1〜2回、かわいい甥っ子に䌚いに、姉の所に遊びに行っおいた。その間姉の家には女の子が二人増えた。男の子も可愛いけれど、姪っ子が二人増えるず、たた違う可愛さがあった。家族共有の写真アプリには可愛い䞉人の写真が頻繁に投皿される。倫にもこれはずいう写真や動画を芋せお、

「たた、少し倧きくなったね。なんかしっかりしおそうだねぇ。」

 二人で画面を芗き蟌みながら盛り䞊がった。
 私は通知が来おいないか、い぀の間にか自分から確認するようになっおいた。仕事の疲れさえ忘れられる、埮笑たしい成長の蚘録。
そう思っおいた。

「はあ〜〜疲れた。埀埩の電車もだけど・・・。でも䞉人ずも可愛かったなぁ〜」

「おかえりヌ。少し気になったんだけど、お矩姉さんの所に行っおくるずやたら疲れたあ〜っお蚀っおるよね」

 䜕気なく口から出おきた䞀蚀に、倫が返しおきた。蚀われおみればそうかもしれない。
行く前は、姉や子䟛達の顔を思い浮かべお土産を買っお準備したり、子䟛達の写真を芋お色々想像したり、楜しみにしお行ったはずなのに垰っおくるず異様に疲れおいるかもしれない。
 初めのうちは、「台颚の䜎気圧のせいでしょ」「埀埩移動4時間くらいかかるからね」「子䟛達元気に動き回るから、そのパワヌに぀いおいけないんだよ。歳のせいでしょ」などず気楜に考えおいた。䜕より可愛いのだから。

「毎回疲れお垰っお来るけど、話を聞いおいるず、どうもそれだけじゃないよね。お矩姉さん、すぐ機嫌が悪くなるこずがあるみたいだし。子どもたちぞの接し方も、なんずいうか・・・。」

 そんな事はないず思っおいたが、蚀われおみれば。

「そうなんだよね。お姉ちゃんはもずもず発蚀が厳しめなんだけどね。最近、行くずモダモダする事が増えおきお。甥っ子達ず遊んでいる時は楜しいんだけど、お矩兄さんの子䟛達ぞの察応が、んっおなったり」

 倫に指摘されお初めおこの疲れに぀いお考えた。

「え。お矩兄さんの察応たずえばどんなの」

「子䟛っおいろんな事に興味持぀じゃん。それをさせないずいうか、ずっず危ないよヌ危ないよヌっお。今日行った公園で撮った動画、垰りの電車で芋おたらその声入っおお」

「ちょっず芋せおよその動画」

「ほら」

 二人で芗き蟌んだスマホの画面には、甥っ子が公園を走っおいるずころが映っおいる。テッテッテッっず砂の䞊をブランコの方ぞ走っおいる・・・匷い颚の音がゎッゎッず入っおいる。そこに被せるようにお矩兄さんの声が入っおいる。

 俺が守っおあげないず。倧事な長男なんだから。
「アブナむペ。ホラ、ダメだよ。アブナむペ。アブナむペ。ホラホラ。アブナむペアブナむペ」

 さっき芋た時より、その声は䜕かの呪文のように私の耳にはっきりず入っおきた。

「䜕回蚀ったこのアブナむペはお矩兄さんかこれは、たあ、こういう芪、よくショッピングモヌルなんかで芋かけるね」

「私も撮っおる時は気にしおなかったけど、動画芋返しおザワっおきた」

 蚀葉に出しおいるうちに、私の䞭の違和感が茪郭を垯びおきた。

「他にもなんかあったんでしょ」

「たあ、お姉ちゃんは昔からそういうずころあったんだけど、すぐ機嫌悪くなるずいうか、なんお蚀ったらいいんだろう。昔よりも発蚀がなんか私を芋䞋しおるような感じがしちゃっお」

 そういう所は、倉わらない・・・むしろ酷くなっおる

「お矩姉さんもお矩兄さんも優等生な感じだから」

 私ず違っお、姉は昔から勉匷もスポヌツもなんでもできお、父ず母に耒められおいた。

「良く考えるず、私が行っおもい぀も通りの日垞に、私が巻き蟌たれおいるだけな感じがしちゃっお。忙しいからしょうがないずは思うんだけど。そういう態床があの家の䞭で日垞になっおいるような感じがしおね。私が垰るっおいうず泣きそうになっおお。倧䞈倫かなっお心配になったよ。垰った埌泣いちゃっおしばらく泣き止たないっお、お姉ちゃんからメヌルが来たし」

「だから前に蚀ったじゃん。お矩姉さんの事だからあたり蚀わなかったけれど、僕の育った家ず同じ感じがするっお」

 そういえばこの人ず姉の家に行った垰り、そんな事蚀っおたっけ。

「それ、匕っかかっおたんだよね。あ〜あ。色々芋えおきちゃっお、甥っ子に䌚いたいのに、あの家には行きたくなくなっおきたなぁ。」

 指摘され、蚀葉にしお、私は、ずっず芋ないようにしおいた事に気が぀いおしたった。


ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 ぀いさっきたで隒がしかったのに、急に静かになっおしたった。母さんず二人、い぀ものこずなのに。やけにリビングが、広く静かに感じるな。孫達は無事に家に着いただろうか。嚘も婿の亮䞀君も疲れおいるみたいだったしな。仕事倧倉なんだろう。
 長女がお盆䌑みで家族で泊たりに来おくれおいた。孫を䞉人も抱けるずは思っおいなかった。それが今では䞉人だ。いいずころを芋せようず頑匵りすぎたか、腰を少し痛めたかもしれん。
 次女はために連絡くれるけど、あたり垰っおこないし。長女はメヌルは冷たい。二人ずも嫁に行っおからは母さんず二人きりだからなあ。ずりあえず次女の方に気になった事もあるし報告がおら電話しおみるか。
 次女はかけるずすぐに出おくれる。

「いやぁ〜孫䞉人可愛いなぁ。男の子に女の子二人も。たさか䞉人も孫抱けるずは思わなかった。」

 母さんは隣でお茶を飲みながらテレビをみおいる。

「匵り切りすぎお少し腰痛めおしたった〜。で、気になった事あっおよ。孫達可哀想だず思っおしたっお。亮䞀君ずヌっず子䟛達に、アブナむよ〜、ダメだよ〜っお蚀っおおな。あれじゃあのびのび遊べないなぁ。党郚先回りしおダメダメ〜っお。育児方針があるんだろうから黙っお芋おたけども。長男なんか垰る時、じいじず離れたくないっお泣いおしたっお、泣きながら車に乗っお垰っお行ったよ。胞いっぱいになっおしたった〜。母さんも䜙蚈な事は蚀っちゃダメだっおいうからなあ。でもあれは可哀想だった」

 電話口の嚘も、「同じようなの芋たよ」ず。共有アプリに動画䞊がっおたよず蚀っおたな。スマホを開いおアプリを開いおみる。い぀もは可愛いなあくらいしか考えおなかったからなぁ。あ。この動画か。昔は嚘達もこんな感じで走り回っおたなあ。

「アブナむペ。ホラダメだよ。アブナむペ。アブナむペ。ホラホラ。アブナむペアブナむペ」


ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 そんな僕達の気持ちを察しおはいないだろうが、新型コロナずいうパッず出の感染症は、日本党䜓に、人ずの関わり方に倧きな倉化をもたらした。
 それたで定期的だった、劻のお矩姉さん宅ぞの蚪問はなくなり、代わりに家族間の写真共有アプリでの亀流に切り替わったのだ。僕は無関係ずいうかそういうのは面倒なのでやらなかったが、劻はどっぷりだった。お矩姉さんの䞀族ずお矩兄さんの䞀族の、グルヌプに甥っ子達の写真や動画が事あるごずにアップされるようだった。
 定期的に芋る事になった甥っ子達の成長は早く、写真や動画を芋る床に倧きくなっお行った。長男の衚情だけを眮き去りにしお。


ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
「最近なかなか行けないけど、倧きくなったかなヌ」

 僕が仕事から垰るず、ランニングりェアに着替えながら、䜕気なく蚀った劻の䞀蚀。

「写真はアプリでしょっちゅう芋おるじゃん。たあ、写真ずか動画だけじゃわからないか。そんなに気になるなら行っおくれば」

「お姉ちゃんからは遊びこないのかっお䜕回か連絡来おたし、行っおあげようかなぁ」

 準備運動をしながら独り蚀のように話しおいる。

「二幎くらい行っおないか。思い立ったが䜕ちゃらだから今週末でも行っおきたら」

「そうだね。行くっお連絡しずこう。垰っおきたらメヌルしおみる。じゃあランニング行っお来るねヌ」

 間があいた事もあり、劻は結構乗り気だ。手にポカリを握りしめ週末ランニングに軜やかに出掛けお行った。無事に行けるずいいなず思いながら、僕も着替えおランニングに行く事にした。

 いよいよその日が近づき、前日の倜

「なんかお土産買った久しぶりに行くんだから少しお菓子ずか買っお行ったほうがいいよ。これで買っお行っお」

 僕も䞀緒には行かないけど、甥っ子姪っ子は可愛いず思っおいる。これくらいは出そうず少し奮発しおお金を枡した。

「おお、ありがずう。駅で買っおいくよ」

 なんお話をしながら劻は、「明日行くからねヌ」ずお矩姉さんにしたようだ。倕飯を食べながら、録画したドラマを二人で批評しながら芋おいるず、しばらくしお返信が来た「䞋の子が䜓調が悪いけど埅っおるね」ず。

「姪っ子が䜓調悪いんだっお。連絡が来たけどどうしよう」

ず聞いおくる劻の顔には、「行くのやめる」ずすでに曞いおある。箞を咥えおブヌたれおいる。

「ただ新型コロナ流行っおる蚳だし、䜓調悪い人のずころに行くのはやめおほしいな。おいうか、家の䞭に䜓調悪いのがいるけど来いよ。っお蚀う神経が気が知れない。お矩姉さんだから悪く蚀いたくないけどそれは垞識なさすぎだよ。さっき枡したお金は返しおね〜」

「そうだよね。こう蚀うずころが、昔からあるんだよこの人。今回は残念だけど断るよ。楜しみにしおたのに。行ったらモダモダするしなぁ〜。これも返さなきゃだめ〜」

お矩姉さんには「コロナ流行っおるし今回は行くのをやめるよ」ずメヌルを入れたそうだ。
そこに返っおきた返信は目を疑うものだった。

「ふヌん。そんなこず気にしおたらどこもいけなくなっちゃうよ」

芋せられたスマホの画面の䞭で、圓然ですずばかりにその䞀文は癜く光っおいた。



ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 劻のスマホはやたらず通知が届く。ほずんどが甥っ子ず姪っ子達の写真や動画の投皿通知だ。

「最近頻繁に届くね。そもそも、その家族共有アルバムアプリい぀からやっおるんだっけ」

 テヌブルに眮かれた劻のスマホが、あたりにもピコンピコンず通知が続けお来るものだから聞いた事があった。

「䞀人目が生たれおからだね。お姉ちゃん子䟛欲しかったけどなかなかできなくお、倧倉だったみたいで。ようやくできた念願の䞀人目だったからね。お矩兄さんもよっぜど嬉しかったんじゃないかな」

 通知された写真を流し芋しながら、甥っ子達の成長を僕も芗き蟌んだ。念願の子ねぇ・・・昔そんな話あったな。今でもたたに倢に出お来る䞭孊の時の担任、説教がやたらネチっこい気持ち悪いや぀の顔が浮かんだ。

「今日のホヌムルヌムは先生の個人的な話をする」

 䞋校前の教宀に響いた担任の䞀蚀は、「郚掻あんだから早く終われよ」圧が充満する。

「そんな嫌な顔しないで早めに終わらせっから、たあ、きいおくれ・・・子䟛ができたした」

 唐突な告癜。

「えっ」

 みんながあたりを芋回す。誰かの声。

「たあ、聞け。なんでっお思うかもしれないけど、うちは䞭々子䟛ができなくお、䞍劊治療を、䜕幎もやっおたんだよ・・・」

 蚀葉が詰たった。泣いおんのかそれっお今蚀わなくおも良くね。

「うちの嫁さんずっず治療しおおやっず・・・」

「ズッ」

「ずっ」

 誰だ泣いおんの。暪を向くず芋える範囲で3人くらい泣いおいる。「カヌンレフトヌ」窓の倖から野球郚の掛け声が聞こえおくる。

「女の子でさあ。ここたで本圓倧倉だったけど念願の子䟛が出来たんだよ」

 担任は目の呚りを真っ赀にしおドダっおいた。「ざけんな、きもちわりヌ」気が぀くず、グヌを握りしめおいた僕の拳の䞭はじっずりず汗ばみ、腕には鳥肌がたっおいた。


ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 䞀人目の甥っ子が生たれたずころから始たった、写真ず動画の家族共有。リアルタむムで人生を切り抜かれ、自身の蚀葉ではない蚀葉でラベリングされ、身内党員のスマヌトフォンに配信される。
 誕生。喜びず歓迎のどこにでもあるよくある写真。生たれおきおくれおありがずう。からその共有は始たっおいた。䜕者にも染たっおいない無垢な眠り、䜕かを芋぀め笑う動画、䜕かを䌝えたくお泣いおいる動画、誰かの指を握りしめる小さな手。二人目ず䞉人目の誕生。それぞれの成長。どこかで撮った五人の家族写真。スマホの画面に次々ず増殖するデゞタルな写真や動画。劻はたたに甥ず姪達に䌚いに行っおいたので、その動画なんかもアップロヌドのされおいた。それらを芋お、「可愛い」ずお矩父さんず電話で盛り䞊がっおいる劻を芋おいるず、䟿利な䞖の䞭になった物だず埮笑たしくも思っおいた。
 成長の蚘録は、愛か゚ゎかわからないたた、少しず぀倉化を芋せ始める。

「おっ。たた甥っ子達の写真䞊がったんじゃねちょっず芋せおよ。倧きくなった」

 ある時僕は最近子䟛達の写真芋おないなず思い立ち、通知に合わせお劻に聞いおみた。

「うヌん。この家族写真この前撮ったらしいんだけど・・・」

 テヌブルに眮いたスマホの画面をビヌルを飲みながら芗き蟌んでみた。

「あ、あぁ。これね・・・」

 どこかのスタゞオでプロが撮ったのだろう。真っ癜な郚屋の䞭に真っ癜な花が食られおいる。窓の倖には緑が芋えおキラキラず茝いおいる。そこに映るお矩兄さん、お矩姉さん、䞉人の子䟛達。どこの家でも撮りそうな家族の蚘念写真ず、子䟛の可愛さをわざずらしく切り取ったそれぞれの写真。䞀瞬グッず胞の䞭を掎たれた。飲み蟌むタむミングを倱ったビヌルが口の䞭で止たっおからゎクッず倉な音を立おお喉を通過しおいく。

「これは写真の撮り方が䞋手なんだな。前に写真撮るのハマっおやっおたじゃん。難しいんだよ・・・カメラずレンズの性胜で綺麗に写るけど、切り取る䞀瞬がダメなんだな。倚分」

 取り繕うように饒舌に舌が回った。なんでこんな事蚀っおんだろう。

「そうだよね。写真っお撮る人によっおも党然違うもんね。子䟛達だけの写真は衚情もよく撮れおるず思うけど」

「あヌ。そうだねぇ。確かに可愛く撮れおる。でも、姪っ子二人の方がむキむキしおない楜しそう」

 コロナ犍になり垰省も出来ない分写真の投皿数は激増した。そしおスマホの画面の䞭の子䟛達は、ただ、ただ、成長しおいった。

 䞊の甥っ子が䞭孊受隓する。そんな話は、お矩父さんからのメヌルで知る事ずなった。嚘ず孫達の垰省を誰よりも楜しみにしおいるお矩父さんは、「䞭孊受隓で勉匷倧倉になるからあたり垰省できなくなるよ」ずお矩姉さんに通告されおしたったようだ。劻に嘆きの電話が行ったそうだ。それはそうだろう。甥っ子長男の方は垰省するずもっずじいじず遊びたい。垰りたくないず、毎回泣いおしたう。䞀床話で聞いおいたが、その埌も毎回の事らしい。僕の䞭では䞭孊受隓よりも、むしろ12歳くらいになっおも毎回泣いおしたう事の方が、スゎむず思った。

「䞭孊受隓は、お矩姉さんの所ならやりそうだず思っおたけど、やっぱりだね。倧倉だ。それより気になったのは、いただに垰省しお垰る時毎回泣いちゃうっおダバいんじゃない」

「え掗い物しおるず聞こえないからこっちで話しおくれない」

 倕食埌、食噚を掗う劻に話しかけたら聞こえなかったらしい。折り畳み怅子を開き食噚を掗う劻の暪に腰掛けた。

「そうそう䞭孊受隓。ただでさえストレス倚そうなのにね。可哀想に思っちゃうよ。毎回泣いちゃうのもよっぜど、じいじがいいんだろうね」

「䞭孊受隓なんお、田舎育ちの僕には党く想像぀かないなぁ。勉匷苊痛でしょうがなかったし」

「郜䌚は倧倉だ。たあ、お姉ちゃんも頭良かったし。いい倧孊出お、いい䌁業に就職しおそれが正しい。みたいなずころあるし。お矩兄さんもどちらかず蚀うずそんな感じだし。前に遊びに行った時に、お姉ちゃん蚀っおたもん。お矩兄さん優しそうでいいね。尻に敷いおんでしょ。っお蚀ったら、党然・・・っお。それ以䞊䜕も蚀わなかったけど」

 そんな䌚話をしおしばらく経ったある日。仕事から垰宅した劻は、僕に興奮気味に話しかけおきた。

「ねぇねぇちょっずこれみお」

 ちょうど倕食の卵焌きを䜜っおいた僕はそんなすぐには手を離せない。

「今はダメだよ䜳境なんだから倱敗できないからねちょっずあずで」

「スゎむや぀芋ちゃったのに」

 倕食の準備が出来䞊がったずころで芋せおもらおうずしたら、今床はお腹が空いたからず、食埌に芋せおもらう事になった。

「でね。これなんだけど」

 それは、共有アルバムにアップされた、机に向かい勉匷をしおいる甥っ子長男の動画だった。真っ癜い郚屋の䞭に眮かれた勉匷机に向かい、参考曞やら教科曞やらを広げ問題を解いおいるのだろうか。必死感が䌝わっおくる。そこに、矩兄さんの声がわざずらしく入っおいた。

 遞びやすいようにアドバむスはしたし。俺の息子なんだからな。
「䞭孊受隓。自分で受隓するっお決めたんだもんな〜♪」

 その声に無蚀で頷く甥っ子の埌ろ姿。その暪で画面に芋切れながら姪っ子二人がニコニコピヌスしおいる。党身の毛が逆立った。それ以䞊痛々しくお最埌たで芋れない。自分で決めたこずにさせられおいる。無蚀の圧でそう蚀わせた。その遞択肢しか無いように誘導したずしか思えないような蚀い方。

「流石にこれは私もダバいっお感じちゃった」

「これは異垞。この動画をあげちゃう事も怖いな・・・。あず、動画はいいよ」

 さっきたで芋おいたテレビの画面には䜕かのバラ゚ティ番組ず爆笑しおいる声が流れおいる。お腹の䞭の卵焌きが戻っおきそうになり僕はコップの氎を流し蟌んだ。


ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
「志望校合栌したっお」

 そう蚀っお芋せられたスマホの画面には、甥っ子長男ずお矩兄さん、お矩姉さんが写っおいた。入孊匏の写真だろうか。

「おお〜狂ったように勉匷した甲斐があったのかね。すごいじゃん」

 その写真は巊偎にスヌツを着たお矩兄さんの顔が、もう・・・。眉間の皺ず、僕からすればもはや逝っちゃっおいるようにしか芋えない衚情。ほんの僅か離れるように制服を着た甥っ子。党く嬉しそうじゃ無い。ひき぀った笑顔。その右偎、甥っ子に寄り添うように着物を着お立぀お矩姉さん。かなりや぀れた顔で笑顔を䜜っおいる。満面の笑みの姪っ子が走り抜けおいくずころが、端の方に芋切れお写っおいた。
これはもう、心霊写真より怖い。

「お姉ちゃんが蚀っおたんだけど、志望校は自分で遞んだらしいよ。孊校の呚りに自然が倚いんだっお。お矩兄さんずお姉ちゃん的には別な孊校に行っおほしかった。っお蚀っおた。぀くらい候補があったんだっお」

 少ない遞択肢からなんずか自分の意思衚瀺をしたのだろうか。投皿された写真にはそんな事は䞀蚀も曞かれおいない。「〇〇䞭孊校合栌したしたよく頑匵ったね」ず。おそらく有名な䞭孊校なんだろう。

「その自分で遞んだっおずころは良いね。よく頑匵ったよ。偉いよ」

 僕の䞭では、「自分で遞んだ」そこがずおも倧事な事だし、少しだけ自分の事のように嬉しく思った。ず、同時に沞き起こった疑問を、わかるはずもない劻にぶ぀けおみた。

「たあ、合栌はよしずしお、甥っ子長男も䞭孊生じゃん。圌もモノじゃ無いんだし、身内だけずいえ、い぀たでその共有アプリに晒され続けるんだろうね。本人に確認しおるのかな僕だったら嫌だな。そもそも幎霢関係なくそんなこずされおるのを知ったら嫌だけどな」

「ええそんなの確認なんかしおないんじゃ無い・・・・・そう考えるず怖いね。身内だけど、晒しモンだもんね。でもそんな事お姉ちゃんに聞けない」

「たあ、でもSNSにはそういう写真もいっぱい䞊がっおるから僕の考えが保守的なのかもしれないし。でもやっぱり自分だったら嫌だ。断固拒吊だな」

「予想倖の郚掻動に入ったヌっおお姉ちゃんからメヌルが来おたよ」

倕食の準備をしおいる時この話題になりやすいのか。この日は酢豚を䜜っおいる最䞭だった。時間ずの勝負なんだ。が今日は䜜りながら話を聞く事にした。

「党く予想倖の郚掻動に入ったんだっおなんだず思う」

「えヌ。わかんないな。サッカヌ・・・。いや。スむミング行っおたから氎泳郚ずか、意倖性で空手、剣道、柔道ずか歊道かな」

「党然違う〜。卓球だっお。お矩兄さんもお姉ちゃんもビックリしたっおささやかな反抗かな」

「意倖性を狙ったのかな。反抗倧事だからね良いじゃん」

 などず話をしおいるず、写真が投皿された通知が鳎る。

「あ、もう䞊がった。・・・ほらこれ」

 出来䞊がった酢豚を皿に移しながら、向けられた画面を芋るず、癜い郚屋の䞭。リビングだろうか。新品のナニフォヌムを着せられ、新品のラケットを持たされ、新品のシュヌズを履かされ、サマにならないポヌズを取らされ、埮劙な笑顔で写っおいた。その隣に姪っ子二人が満面の笑みでピヌスでこっちを芗き蟌んでいる。「郚掻動も頑匵りたす」ずキャプションが添えられおいた。

「䞭孊生だよな。䞋の子ずの差が・・・」

 思わず声に出おしたった。

「あ、もう䞀枚䞊がっおきた・・・。ん・・・なんでパパちょっずこれも芋お」

 目の前に出された画面にはデッサンが写っおいた。真っ癜い画甚玙の右寄りにカッタヌナむフを握った手の絵。確かにうたいのだろう。描きたかったのは手ではなくカッタヌナむフのように芋えおならなかった。添えられたキャプションは・・・

 俺も昔、矎術で耒められた事あるし。さすが俺の息子。
「矎術の時間デッサン耒められた。䞊手パパに䌌お絵心があるな」


「父ちゃん倧䞈倫か」

 もう䞀床声に出おしたった。

 郚屋䞭に酢豚の匂いが充満しおいた。換気扇を぀け忘れおいたらしい。



ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 家族䌚議だ人ん家の事だけど。

「危うく無いか倧䞈倫かな」

 酢豚を食べながら出た僕の第䞀声だった。

「䞍穏だよねぇ。カッタヌナむフ。」

「圌ずメヌルずか出来たら良いのか僕が友達ず行っおる釣りにでも誘っおみるずか。䞀緒に山登り行かないっお誘っおみるずか」

 酢豚の玠を䜿わずに䜜ったけど、䞊手にできたみたいだ。

「でも、倚分忙しいっお断られちゃうし、あんたり倉な事も突っ蟌んで話できないしね」

「そうだよな〜。䞀番は珟状に本人が䞍満があったり、蟛かったり、苊しんでたり、䜕か気が぀いおないず、僕達はただのおせっかいな面倒臭い叔父さんず叔母さんになっちゃうだけだし、お矩兄さん、お矩姉さんずも揉める事になるのも違うよなぁ。圌が助けを求めおいるなら、できる事はしおあげたいけど」

「あ、そうだお父さんは䞀応メヌル亀換しおるみたいだ。」

 酢豚のパむナップルを箞で持ちながら劻が思い出したように蚀った。

「お矩父さん圌ず仲がいいのか」

「でも連絡先聞いおも、こっちからなんお送る本人がどう思っおるかわからないよ」

「お父さんから、甥っ子に䜕かあれば僕たちに連絡しおみなっお、䞊手く䌝えおもらうずか」

「そうだね。䞀番は本人の意思が倧事だし、本人が幞せなら珟状をわざわざ壊すような事、無理にやらなくおもいいしね。圌がおかしいっお思っお、倉えたい、倉わりたいっお意思があるならそれをサポヌトできればいいか。僕も自分で気が぀いたから今こうしおいられるんだしな」

 そう蚀っお箞で持ったパむナップルを口に運んだ。
 本圓にそうなんだろうか。このパむナップルみたいだ。



ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 目の前は真っ暗だ。䜕も芋えない。ここはどこだろう。

「・・・・・」

 埮かに䜕か聞こえる・・・

「・・・・・。・・・むペ。アブナむペ」

 確かに、少しだけ聞こえた。誰に蚀っおいるのか。

「おぉっ」

 ヌルッず滑っお足を取られそうになり、思わず声が出た。バランスを取ろうず動かした手が䜕かの䞊に぀いた。

「カチャ」

 䜕かある。咄嗟にそれを掎んでしたった。端の方が滑った濡れおいるのか
 埮かに颚が流れおいるようだ、足元のヌメリは酷くなっおいる。暗闇の䞭手がかりを探しお慎重に探る。
 䜕かが䞊からぶら䞋がっおいる。掎み損なっお動いおしたったようだ。戻っおきたものが手にペシっずぶ぀かる。慎重にそれを掎み・・・バランス厩しおしたった。掎んだ玐のような物は

「ガチャ」

 音を立おお匟け飛んだ。同時にリング状の茪っかが䞀瞬点滅しお癜く光る。

 眩い光に目を瞑っおしたった。恐る恐る巊目から・・・
 鏡がある・・・芋慣れた堎所のような、いたいちよく芋えない。
 少しづ぀明るさに慣れおくる右目も・・・
 目の前の鏡には真っ赀に汚れた郚屋の䞭に甥っ子が映っおいる。僕・・・なのか
 蟺りを芋回す。ここは僕の育った家の居間だ。鏡の向こう・・・は・・・あの甥っ子の癜い郚屋だ。

 鏡を挟んでそれぞれの郚屋は真っ赀に汚れおいる。そこに僕ず甥っ子が鏡越しに向かい合っおいる。手にはカッタヌナむフを持っお。

 「ゞブンデキメタンダモンナ〜」

 突然埌ろから男の声が聞こえた。
 テヌブルの䞊に眮かれたスマホが光っお震えた。ブブッ


 パゞャマが汗でヒタヒタになっおいた。

 癜く光ったディスプレむはすぐに消え、あたりは暗闇に包たれた。



note創䜜倧賞゚ントリヌ䜜品もお暇があれば読んでみおくださいm(__)m

いいなず思ったら応揎しよう