ラジオを聴く僕は、本当に身勝手だ。
僕が通っていた小学校の隣にある、小さな公園。
公園のベンチには、メガネをかけたおじさんがマイクを片手に座っていた。
僕は自転車を降り、恐る恐るそのおじさんに目を合わせた。
リスナーの方ですか?
僕はコクリと頷いた。
ありがとうございます!それでは14時半にインタビューしますね。
即決かよ。
その瞬間、僕のラジオデビューが決まった。
公園の中を見渡すと、いかにもこのコーナーの常連と思わしきおじさん2人が、キャッキャ言いながらキャッチボールを始めていた。
なんでだよ。
インタビューが始まった。
どうしてここにいるんですか、とか。
普段何しているんですか、とか。
そんな当たり障りのないことを聞かれた記憶がある。
最後に、リクエストお願いします。
リポーターであるおじさんが、僕に話を振った。
僕は、事前に打合せたとおり、こう答えた。
HYの「AM11:00」をお願いします。
やり取りが終わると、ポータブルラジオから優しいキーボードのメロディが聴こえてきた。
曲が終わると、僕はリポーターのおじさんに一礼して、自転車に乗った。
時折吹く秋風が、熱くなった耳の端を冷ましてくれるようで、気持ちよかった。
◇
日曜日の午後1時から始まる、地元ローカル局のラジオ番組。
高校生の頃の僕は、リビングに備え付けられていたMDコンポへイヤホンをつなげて、よく聴いていた。
昼下がり。
夕方からのアルバイトまでは、まだ時間がある。
余った食材を活用してよく母親が作ってくれた、チャーハンとか焼きうどん。
雑な昼食を済ませたあとにラジオを聴きながら過ごすくらいが、ちょうどよかった。
僕がよく聴いていた番組では、メッセージにあわせて好みの曲をリクエストできる。
アルバイトまでの隙間時間を、なるべく心地よく過ごすために。
ただそれだけの理由で、僕はよく番組あてにメールを送っていた。
メールが読まれることもあるし、箸にも棒にもかからないときもある。
駆け込みで送ったメッセージなのに、番組の最後にラジオネームだけ拾われたこともあった。
また、メッセージとは別に、リポーターが地元の駅とかスーパーとか公園とかのスポットを巡って、そこにいる現地の人へインタビュー&リクエストするコーナーが人気だった。
インタビューコーナーが地元の公園だと知った時、僕はいても立ってもいられずに自転車へ飛び乗った。
◇
高校3年生の夏。
部活の引退試合の日は、日曜日だった。
さすがに大会の会場へラジオを持ち込むわけにもいかない。
そこで。
今日は高校生最後の大会の日。
今まで思うようにいかないときもあったけど、最後までやり遂げることができた。
これも仲間のおかげ。本当にありがとう。
大会を終えたあとの僕は、泣いているのかな。
部活が終わるとすぐ、受験という現実が待っています。
大学、合格できるように頑張ります!
リクエストは、部活を最後まで頑張った僕へのエール「栄光の架橋」をお願いします。
みたいなことを送った。
いや、アオハルすぎるだろ。
僕が送ったメッセージは読まれていたのか、はたまたリクエストは届いていたのか。
当時、radikoなんて便利なアプリはなく、ラジオを録音できることすら知らなかった僕は、その真相がいまだにわからない。
◇
あれから20年。
僕はラジオとは無縁の日々を過ごしてきた。
大学に入っても、社会人になっても、結婚して子どもが生まれても。
ラジオがなくても、別に困ることはなかった。
そして。
あの時、公園にいたリポーターのおじさんと同じくらいの年になった僕。
最近、日曜日の昼前の時間は、買い物で車に乗る機会が多い。
今年の春。
粗大ごみセンターへ家具を処分しに行ったとき、ちょうどiPod touchの電源が切れていた。
早くプリキュアを流せ!と指示する娘。
すまんといいながら、僕はカーナビのオーディオ画面をいじっていた。
その時。
そういえばと、僕は思い出したようにラジオのボタンを押した。
車内にDJの声が流れた。
交通情報。
あ、高速道路渋滞してるな。
この曲懐かし。
これさぁ、なんて曲だっけ?
英語を感覚だけで突破してたって。
私、この人の気持ち、わかるなぁ。
自然と家族の会話が弾んだ。
そして、運転に集中している僕にとってその空気感がとても心地よかった。
そして。
あれだけプリキュアを流せと主張を繰り返していた娘も、なぜかラジオを流しているときはおとなしく聴き入っていた。
なんでだよ。
この日以来、日曜日になると、ついラジオを聴いてしまう。
そして、最近では日曜日にドライブをしない日は、平日の通勤途中にradikoで聴いている。
◇
ラジオを聴くときの自分は、本当に身勝手だ。
聴きたいときには聴けばいいし、聴かなくても人生に影響なんてない。
これから先も、いつの日かまたラジオを聴かなくなる日が来るだろうし、そのうちふと聴きたくなる瞬間が訪れると思う。
そして、投稿したいことがあれば投稿すればいい。もちろん、読まれれば嬉しいし、たとえ読まれなくてもなんかちょっとスッキリする。
きっと、僕にとってのラジオは、これくらいの距離感がちょうどいいのかもしれない。
◇
最近聴いているラジオの番組。
「まんてんサンデーズ」の次回のメッセージテーマは、公開生放送のゲスト・ザブングル加藤さんにちなんで、「悔しいです!」に設定された。
悔しいです!か。
そう聴いて、僕は娘とのエピソードを思いついた。
そして。
約20年ぶりにラジオへメッセージを投稿した。
ノルオブさん、初めてメールします!
現在3歳の娘がいるのですが、生後1か月の頃から、泣きそうになると、まるでザブングル加藤さんの「悔しいです!」のように、顔をくっしゃくしゃにしていました。
ところが最近、その「悔しいです!」顔をめっきりしなくなりました。
先日、トイレトレーニングに失敗したときも、悔しさのあまりカーテンに隠れて泣いていました。
娘なりに悔しい気持ちはしっかりあるようですが、親としては、あの「悔しいです!」顔をしていた頃がちょっと懐かしいです。
加藤さん、今からでも娘に「悔しいです!」顔の作り方を伝授してもらえませんか?
3歳、まだ間に合いますか?
今度の日曜日は友人たちと出かける用事があり、リアタイ勢になる予定はない。
僕にとってラジオは、これくらいの熱量だ。
このメッセージが読まれるのか。
はたまた、箸にも棒にもかからないのか。
それは僕にもわからない。
このなんとも言えない気持ちは、20年経っても変わらなかった。
◇
日曜日の夕方。
僕は友人との用事を済ませて、自宅に帰ってきた。
リビングのソファーに座ると、ワイヤレスイヤホンを耳に入れた。
そして、radikoの再生ボタンを押した。

