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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー5ー

    「特別室」

    「そういえば、向井君が持ってるその紙袋はなに? 」

    早紀が向井の横に置かれた袋を指さした。

    「ああ、これは特別室の土産と、
    冥王が読んでる雑誌と源じいに頼まれてた本」

    「なんだと。冥王は俺たちをこき使って、
    マンガ読んでんのか? 
    端末でいいじゃん」

    牧野は袋の中をのぞくと、
    雑誌を見てパラパラめくった。

    「紙じゃなきゃ嫌なんだそうです」

    「神だけに? 」

    田所が親父ギャグを言いながら笑った。

    「………」

    「三人してそんな冷たい目で見ないでよ。
    親父は寂しいです」

    そんな田所を無視して牧野が言った。

    「源じいは…へえ~時代小説? シリーズものなんだ」

    「老眼も無くなったんで、
    読みたかった本が沢山あるみたいですよ」

    「ふぅん。で、この箱は…お菓子では? 」

    「特別室の住人達に頼まれてね。
    有名店だから手に入れるのも大変だったんだよ。
    わがままも大概にしてもらいたいです」

    「あのさ、特別室って誰がいるの? 」

    早紀が興味深そうに聞いた。

    「早紀ちゃんは知らないのか」

    「はい! 俺も知らない」

    牧野もその横で手を挙げた。

    「あの部屋には政財界の方々がいるんだよ。
    もう死んでるけど、まだ居座っているのがね」

    田所が小声で言った。

    「なんでさ。特例以外の霊は再生されるか、
    焼却されるんじゃないのか? 」

    「そうなんだけどね。
    地獄の沙汰も金次第ってね」

    田所が指で金の形を作った。

    「なにそれ」

    早紀が怪訝そうに言う。

    「要するに寿命で死んだんだけど駄々こねて、
    居座っている霊がいるんだよ」

    「そんなことできるの? 」

    「規則違反なんだけど、
    冥界も面倒な霊には、
    多少大目に見ちゃうんだよ」

    「でもお金って、六文銭? 」

    「六文銭って三途の川の代金だろ? 
    俺も舟に乗る前にじじいとばばあに金払ったもん」

    奪衣婆だつえばと懸衣翁けんえおうと呼ばれる鬼だ。

    高齢の鬼夫婦が毎日のように霊を運んでは、
    冥界の関所まで連れてくる冥王の使役である。

    本で見るような怖さもなく、
    人……? いや、鬼のよさそうな夫婦だ。

    罪の重さを測るため服を脱がすとされているが、
    金がないと舟には乗せてもらえず、
    浅瀬を歩いて渡ってくるように指示されるだけだ。

    早紀と牧野はお互いの顔を見ながら、
    首を傾げた。

    「それとは別に渡す金、隠し財産と命があるんだよ」

    「死んだのに命をどう渡すんだよ」

    「それは彼らの身内の命」

    田所が声を潜めて言う。

    「!! 」

    早紀と牧野は声にならない驚きの表情をした。

    身内の命をささげてもまだ、
    成仏したくない往生際が悪い死人もいるのだ。

    人間は人として生まれただけで業が深いとされ、
    回忌に人を連れていくものもいる。

    一人であの世に行くことができない。

    それだけ罪深いのが人間というわけだ。

    ただ、死人なので、
    冥界では大したこともできないが、
    それでも特別室にいる限り、
    人間と同じく美味しいものを食べたり、
    趣味に興じたり、
    好きなことをして過ごせる。

    それと多少ではあるが、
    現世に圧力をかけることもできる。

    特別室は部屋であって部屋ではない、
    特別な空間なのだ。


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    初めまして八雲翔です。 人生を楽しもうと好きな物語を好きに書いています。 ファンタジー、ミステリーを中心に、新聞の連載小説のような感じで投稿中。 他サイトにも投稿しています。 web小説で人気の題材とは言えませんが、読んでいただけたら嬉しいです。

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