メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

創戯旅団 理念の蚘録-SM奇譚 第倜-鎖の鳎る朝、ただ䞖界は倒れおいなかった

    二〇〇八幎九月十五日。

    䞖界が音を立おお傟いた日を、私は、埌になっおから知った。あの日、地球のどこか深い地䞋で、巚倧な歯車がひず぀欠け、芋えない機械仕掛けの文明が䞍気味な軋みを䞊げたのだず、今の私は理解しおいる。けれど、その日の私は、そんなこずにはたるで気づいおいなかった。台颚の目の底に立぀人間が、空の青さだけを芋䞊げおいるみたいに、自分の頭䞊で䜕が起きようずしおいるのか、ひどく鈍感だった。無知ずは、時に幞犏の仮面をかぶる。䜕も知らない者は、ただ厖の瞁に立っおいおも、そこを花畑だず思い蟌める。私はたさにそういう皮類の人間だった。経枈のこずも、経営のこずも、䞖の䞭の湿床の倉化を肌で読む術も知らない。朮が匕く気配を読めぬ持垫のように、空気の色が倉わっおいるこずさえ芋抜けなかった。もしあの頃の私に、䞖盞のかすかな異臭を嗅ぎ分ける錻があったなら、この話は今ごろ歊勇䌝になっおいたのかもしれない。だが珟実は、い぀だっお胜倩気な者から順番に爪先を焌く。だからこれは成功譚ではない。じりじりず足裏から炙られた人間の、火傷の蚘録である。リヌマン・ブラザヌズが倒れたずいうニュヌスは、海の向こうで起きた火事のようでいお、翌日にはもう、こちらの空たで煀で曇らせおいた。遠い囜の高局ビルで起きた厩萜が、どうしお千葉の工堎の片隅にたで粉塵を運んでくるのか、圓時の私には分からなかった。だが䞖界ずいうものは、ずいぶん前から䞀枚の薄い皮膚で぀ながっおいたのだろう。アメリカで負った傷口から流れ出た血は、海を越え、蚀葉を越え、業界の垣根を越え、私たちのような堎末の暮らしにたで滲み蟌んできた。教科曞の䞭にしか䜏たないはずの倧恐慌の亡霊が、実際の生掻の襖を開けお入っおくるなど、私は倢にも思っおいなかった。

    その頃、ただ゚レガンスは存圚しおいない。私ず゚レガンスの人生線は、倜空の別々の堎所に打たれた釘のように、ただ無関係を装っおいた。だが運呜ずいうや぀は、芋えないずころで勝手に糞を匵る。こちらが知らぬ間に、足銖に茪をかけ、ゆっくりず匕き寄せ始める。埌になっお振り返れば、その時すでに、私の未来は音もなく係留され始めおいたのだ。十六幎埌、自分が厚朚゚レガンスの屋台骚だか人柱だか分からぬ立堎で、店の息継ぎを支えるこずになるなど、圓時の私に告げおも、きっず錻で笑っただろう。いや、笑えたならただ幞せだ。未来はたいおい、冗談みたいな顔をしお近づいおきお、気づけば胞の䞊に腰を䞋ろしおいる。私は父の営む小さな町工堎で働いおいた。小物絚毯を䜜る、斜陜産業の末端も末端、倕焌けのさらに向こう偎みたいな堎所である。繊維業界。蚀葉にするずそれだけで、昭和の煀けた工堎の窓、也ききらぬ糞、油ず汗の混じった匂いたで立ちのがっおくる。華やかな産業ではない。時代の衚通りからずいぶん遠ざかった、眮き去りの仕事だ。けれど、眮き去りにされた堎所にも生掻はある。朝起きお働き、誰かの家蚈を支え、子どもの孊費になり、芪の薬代になる。産業ずしお叀びおいおも、そこに流れる血だけは、どこの倧䌁業ずも同じ赀さをしおいた。十二月になるず、郜内ぞ向かう電車は毎日のように遅れた人身事故。その四文字が、車内アナりンスで告げられるたび、私は胞の奥で小さな氷片を噛たされる気分になった。乗客の誰かは舌打ちをし、誰かは腕時蚈を芋お苛立ち、誰かは慣れた顔でスマヌトフォンもない時代の退屈をやり過ごしおいた。けれど私には、ただの遅延ずは思えなかった。レヌルの先に散っおいった人間の、その盎前の呌吞を想像しおしたった。どんな重さが肩に積もれば、人は鉄の塊の前ぞ歩き出すのだろう。どんな静けさが心を満たせば、あの蜟音を救枈に芋間違えるのだろう。真面目な人から先に折れおいく。䞖の䞭は時々、そういう残酷な順番で人を奪う。いい加枛に生きられる人間なら、倜逃げもできたかもしれない。自己砎産だっおあった。名前を倉えお、別の町で、別の誰かずしお生き盎すずいう極論だっお、遞択肢の棚には䞀応䞊んでいたはずだ。だが、真面目な人は自分を捚おられない。家族を捚おられない。責任を捚おられない。だから最埌には、自分の呜そのものを捚おる。私は電車の遅延に腹を立おたこずがない。むしろ、止たった車内でがんやり吊革に぀かたりながら、䞖界は今こんなずころたで壊れおいるのかず、途方もなく暗い海を芋䞋ろす気持ちでいた。赀の他人の死なのに、他人事ではなかった。明日は我が身。その蚀葉は脅しではなく、圓時の空気そのものだった。

    圓然、父の工堎も無傷では枈たなかった。いや、もずもず無傷でいられるような身䜓぀きの䌚瀟ではなかった。借金ずいう名の芋えない骚組みで、なんずか姿勢を保っおいた小さな建物である。私が戻った時点で、すでに自転車操業だった。母の嘆きを聞きながら育った私は、そのこずを薄々ではなく、ほずんど確信に近い圢で知っおいた。若い頃、別の堎所で働いおいた私を父が呌び戻そうずした時も、芪心だけではあるたいず思っおいた。跡継ぎがいれば銀行の顔色が少しはたしになる。融資の糞が䞀本でも现く長く぀ながる。そういう蚈算が父になかったずは思わない。実際、戻っお垳簿を芋た私は、総勘定元垳の数字の䞊びから、䌚瀟の肺がずいぶん前から氎で満たされおいたこずを知った。ここから先は延呜治療だな、ず私は思った。完治ではない。再生でもない。どれだけ長く、息を止めずにいられるか。その勝負でしかなかった。父も知っおいたはずだ。私も知っおいた。だが知っおいおなお、すぐには終われないこずがある。䌚瀟ずいうのは䞍思議なもので、垳簿の䞊ではずっくに死んでいおも、珟堎ではただ朝瀌があり、電話が鳎り、埓業員が出勀し、昌には味噌汁の匂いがする。数字が死を宣告しおも、生掻はしぶずく続いおしたう。だから人は諊めきれない。明日ひょっずしたら䜕かが倉わるのではないかず、也いた井戞の底で、ただ空から氎が萜ちおくるのを埅っおしたう。父は䜕床も、䌚瀟を畳むずいう私の提案を聞かなかった。その頑なさを、若い私は愚かさず芋た。だが今なら少し分かる。人を切るずいうのは、数字を切るこずではない。䜕十幎も芋おきた顔を、家族構成ごず、癖ごず、病歎ごず、知ったうえで、明日から来なくおいいず蚀うこずだ。正しい刀断ず、できる刀断は違う。解雇が正解でも、それを口にする自分を蚱せない人間がいる。父もそうだったのだろう。垫匠もそうだった。぀いでに蚀えば、たぶん私も同じ穎のむじなである。血は時々、性栌ずしお遺䌝する。理屈ではなく、眪悪感の受け止め方ずしお。

    その頃、私の垫匠の店もたた、暗い海を航行しおいた。垫匠は根っからの颚俗人で、氎商売の朮目を読む勘を持ち、倜の街の息遣いを知り尜くした男だった。それでも、リヌマンショックの倧波は避けられなかったらしい。あの冬の冷え蟌みは、業界を問わず、あらゆる店の灯りを青ざめさせた。客の財垃が固くなるずいうのは、単に売䞊が萜ちるずいう意味ではない。街の欲望そのものが痩せ现るずいうこずだ。人は䞍景気になるず、明るい堎所に行く前にたず、暗い将来を数える。店のネオンは点いおいおも、そこぞ歩いおくる足音が枛る。そういう時代だった。垫匠の店では、翌幎も手探りの修正が続いたずいう。暗䞭暡玢。この四文字ほど、経営䞍振の珟堎に䌌合う蚀葉もない。手元に地図はなく、灯りもなく、矅針盀も壊れおいる。それでも前ぞ進かねばならない。そんな時に浮䞊したのが、高絊だけを吞い䞊げる䞭間管理職の問題だった。働かない。責任も負わない。だが怅子にだけは深く腰かけおいる。倧きな店には、そういう湿った苔みたいな人間が匵り぀くこずがある。珟堎の必死さずは無瞁の枩床で、ただ利益を食い朰しおいく存圚。二人。たった二人。されど二人。その腐りきった重石が、沈みかけた船には臎呜的だった。私はその二人を昔から知っおいた。二十八幎前から数えお五幎半、私は若い時分を垫匠のグルヌプで過ごしたこずがある。だから知っおいる。偉そうな顔ず、仕事のできなさは必ずしも反比䟋しないこずを。いや、あの二人に関しおは、芋事なたでに反比䟋しおいた。普通なら切る。切っお圓然だ。だが垫匠は切らなかった。優しさず甘さはよく䌌おいお、しかし圓人にずっおはたいおい同じ根から生えおいる。遊ばせおおくわけにもいかない。ならば別の店を持たせるしかない。そうしお生たれたのが、埌の゚レガンスだった。䜕ずいうか、出自からしお、すでに船底に穎が開いおいる。私があずからその経緯を知った時、苊笑いするしかなかった。そんな理由で新店を立ち䞊げるのか、ず。垌望の船出に芋せかけお、実際は厄介払いず延呜措眮が半分ず぀混ざった出航である。しかも舵を握るのは、櫂の持ち方すら芚えようずしない連䞭だ。座瀁の未来が、枯を出る前からもう芋えおいた。それでも垫匠は、人を切れなかった。切れない人間が、切れないたたに遞ぶ次善策ずしお、店は生たれたのだ。今なら、あのずきの垫匠の心䞭が少し分かる。間違いだず知っおいながら、それでも自分が匕き受けるしかないず腹を括る瞬間。人を守りたいずいう感情は、しばしば経営の合理性ず反察方向ぞ走る。だが人は、機械ではない。正解を知っおいおも、正解どおりには動けない。その意味で、垫匠ず父はよく䌌おいた。そしお、嫌になるくらい、私も䌌おいた。人を切れない者たちが、それぞれの持ち堎で、自分の骚を削っお時間を買う。たるで冬山で焚き火が尜きた倜、家具を壊しおは薪にしおいくようなものだ。怅子がなくなり、机がなくなり、最埌には家の柱にたで斧を入れる。暖を取るために家を壊す。愚かだが、人間的だ。そういう矛盟を、私はいく぀もの珟堎で芋おきたし、自分でもい぀か同じこずをするのだろうずいう、いやな確信がある。

    やがお私の実家の工堎にも、決定的な倜が来る。二〇䞀〇幎十月。父は぀いに、支払いに行き詰たっおいるこず、銀行からこれ以䞊の融資が芋蟌めないこず、䌚瀟を朰さざるを埗ないこずを私に告げた。遅すぎる告癜だった。なぜもっず早く話さなかったのかず問うのは簡単だ。だが父には父の沈黙があった。最初に私を半ば隙しお匕き戻した負い目。閉めるべきだずいう私の提案を䜕床も退けおきた意地。埓業員を守るず決めおしたった人間の、匕き返せない䞀本道。そういうものが党郚絡たり、父は䞀人で抱え蟌むしかなかったのだろう。自業自埗ず蚀えばそれたでだ。だが人間はたいおい、自業自埗の十字架をいちばん真面目に担ぐ。あの時の父の顔を、私は今でもうたく思い出せない。顔の造䜜ではなく、挂っおいた気配だけを芚えおいる。長い間、堀防ずしお立ち続けおきた男の、足元の土が぀いに厩れた時の沈黙。悔しかっただろう。情けなかっただろう。それでも泣けなかっただろう。男ずいう生き物は、ずきどき涙の代わりに沈黙を飲み蟌む。その沈黙が胃の底で石になり、晩幎たで居座る。私は父を責めたい気持ちず、責めきれない気持ちのあいだで、ずいぶん長く揺れた。だが今では、父の愚かさの茪郭の䞭に、自分自身の圱が芋える。だからあたり倧きな声では眵れない。父が父なら子も子である。垫匠が垫匠なら匟子も匟子である。救いようのない血瞁ず垫匟関係が、私の䞭で仲良く肩を組んでいる。そうしお惚劇は、䞀床始たるず連鎖する。ひず぀の䞍幞は単独では終わらない。火は燃え移るためにあるのではないかず思うほど、次の也いた堎所を芋぀けるのがうたい。私の人生も、垫匠の店も、゚レガンスの運呜も、それぞれ別の堎所で燃えながら、やがお同じ炎の色を垯び始めおいた。そしお、その先にはさらに巚倧な灜厄が埅っおいる。二〇䞀䞀幎䞉月十䞀日。あの日のこずは、ただこの段では語らない。だがあの震えが来る前から、私たちはすでに十分揺れおいたのだ。地面より先に、生掻が揺れおいた。建物より先に、人生の方が眅割れおいた。それでも人は生きる。生きおしたう。それが祝犏か呪いかは、日によっお倉わる。私は自分の人生を、ずきどき鎖だず思う。重く、冷たく、匕きずるたびに金属音がする。だが鎖ずは、どこかに぀ながっおいる蚌でもある。家族に。仕事に。垫匠に。店に。過去に。倱敗に。責任に。愛着に。愚かさに。私が今なお歩いおいるのは、自由だからではない。きっず、この鎖がただ切れおいないからだ。人は案倖、垌望よりも鎖によっお前に進む。逃げられないから、仕方なく今日も起きる。仕方なく働く。仕方なく笑う。だが、その“仕方なく”の䞭に、劙な生呜力が宿るこずがある。

    悲劇を喜劇に倉換しなければ、やっおいられない倜がある。自虐は敗北ではなく、時に止血だ。私は自分を笑うこずで、どうにか自分を腐らせずに枈たせおきた。人柱だの、どMだの、そんな軜口で傷口をごたかしながら、実のずころ、䜕ずか今日を枡っおきただけなのだ。けれど、そのみっずもなさこそが人間の本䜓ではないかずも思う。立掟な理念や、敎った成功談より、泥だらけで笑っおいる倱敗者の方が、時々よほど生きおいる。血を流しながら「たあ、ただ死んでないしな」ず笑う声の方が、よほど本物だ。十六幎ぶりに、私はこの重い鎖のこずを回想した。ただ走銬灯にするには早い。だが、振り返る必芁のある倜ずいうものはある。人生は䞍思議だ。こうしお過去を曞き起こしおいるず、たた同じような宿呜を私は遞んでしたうのではないかずいう、いやな予感が胞をよぎる。たぶん私は、懲りるこずはあっおも、根本では倉わらない。誰かの重荷を芋れば、たたうっかり肩を差し出しおしたうのだろう。孊習はする。倚少はブラッシュアップもする。以前よりは、火の熱さも、借金の匂いも、人の沈黙の危うさも分かる。それでも最埌には、性分が勝぀気がする。人は知恵で改善できおも、宿呜からは少ししか逃げられない。だから私は曞く。人の䞍幞話は蜜の味、などず䞖間は笑うけれど、圓人にずっおは噎き出す鮮血の味だ。鉄の味がする。生ぬるい。だが、その血でしか曞けない文章がある。綺麗事では届かない堎所に、傷の蚀葉だけが届く倜がある。もしこの先、たた十幎埌に私は䌌たような堎所で立ち尜くし、「ほらやっぱり、たたこうなった」ず苊く笑っおいるのだずしおも、その時には少しだけ、今より䞊手に火傷しおいたいず思う。たったく無傷ではいられない人生なら、せめお傷の意味くらいは芋倱わずにいたい。䞖界が倒れた朝、私はそれに気づかなかった。だが、気づかぬたた歩いたその無防備な䞀歩䞀歩が、のちに私を゚レガンスぞ運び、父の沈黙ぞ繋ぎ、垫匠の優しさの歪みぞ繋ぎ、数え切れぬ倱敗の広堎ぞ連れおいった。すべおは無関係に芋えお、実は䞀本の鎖で぀ながっおいる。遠いりォヌル街の厩萜も、千葉の工堎の垳簿も、冬の電車の遅延も、名もない店の灯りも、私の未来の銖茪の金具も、党郚どこかで同じ鉄から䜜られおいたのだ。そう思うず、人生はあたりに皮肉で、あたりに矎しい。壊れながら続いおいくからこそ、物語になる。朰れそうな店にも、沈みそうな䌚瀟にも、切れそうな瞁にも、ただ次の䞀行が残っおいる。ならば私は、その䞀行を曞く。鎖を鳎らしながらでも。朝がただ、完党には終わっおいないうちに。



    【INDEX】

    【関連SNS・Blog】

    ◉noteフォロヌよろしくお願いしたす※フォロバ100



    ◉SNSフォロヌよろしくお願いしたす※フォロバ100


    ◉Blogフォロヌよろしくお願いしたす※フォロバ100


    ◉匿名質問箱

    ◉海倖SNSComing Soon


    ◉FANComing Soon


    ◉動画あたり投皿しおたせん🙇‍♀

    【ランキングサむト参加䞭】

    ※氎商売ランキング最高䜍党囜䜍

    ※総合ランキング

    ※総合ランキング、颚俗ランキング、デリヘルランキング最高䜍党囜䜍

    ※颚俗店・関係者日蚘ランキング最高䜍党囜䜍

    ※倧人の生掻ブログランキング

    ※日本ブログ村総合ランキング

    ※日本ブログ村PVランキング

     
     
    欲望ず珟実の亀差。垌望ず珟実の亀錯。混沌ず悲劇ず悊楜が乱雑に織りなす人間暡様。 SMクラブ経営者が綎る倜物語。 著者がSM哲孊、颚俗文化、心理構造を孊ぶ䞭で、 自分の描いた䞖界芳に匕き摺り蟌たれおいく狂気の人間ドラマ。 颚俗教育プログラム🏫暪浜颚俗倧孊開蚭

    あなたぞのおすすめ