
[大腸がんの新常識]「鋸歯状(きょしじょう)ポリープ」とは?知っておきたいもう一つのがん発生ルート
「大腸ポリープ」と一口に言っても、実はいくつかの種類があるのをご存知でしょうか?
これまでは「ポリープが大きくなってから、がんになる」という経路が一般的と考えられてきました。しかし最近では、**「鋸歯状(きょしじょう:ノコギリの歯のような形)」**という特殊な形をした病変からがんが発生する、もう一つのルートが注目されています。
今回は、専門用語で**「serrated pathway(鋸歯状経路)」**と呼ばれる、新しいがん発生の仕組みについて解説します。
大腸がんの約5〜10%に関わっているとされるのが、この「鋸歯状経路(きょしじょうけいろ)」です。通常のポリープとは異なる遺伝子の変化が関わっており、医学界でも非常に重視されています。
⚠️ 本記事をお読みいただく前に 本記事は「大腸癌取扱い規約(第9版)」やWHOの分類に基づいた専門的な内容を含みます。鋸歯状病変にはいくつかのタイプがあり、それぞれ「がん化のリスク」や「性質」が異なります。
1. そもそも「鋸歯状(きょしじょう)」ってなに?
顕微鏡で組織を観察した際、腺管の形が「ノコギリの歯」のようにギザギザして見えることからこう呼ばれます。
この経路に関わる主な病変は、以下の3つです。
SSA/P(SSL): 無茎性鋸歯状腺腫/ポリープ(最近はSSLと呼ぶことも多い)
TSA: 伝統的鋸歯状腺腫
HP: 過形成性ポリープ
特に SSA/P(SSL) は、平らな形をしていて見つけにくく、特定の遺伝子変異を伴って急速にがん化する可能性があるため、注意が必要です。
2. がんへ至る「3つの遺伝子的特徴」
鋸歯状経路で発生したがんには、通常のルートとは異なる「3つのサイン」が見られることが特徴です。
BRAF変異: ポリープの初期段階で見られる遺伝子の変化。
CIMP(シンプ): 遺伝子のスイッチが異常に「オフ」になってしまう現象。
MSI(マイクロサテライト不安定性): 遺伝子のコピーミスを直せなくなる状態。
これらが複雑に絡み合い、最終的に**「MSI-high」**と呼ばれる特殊な性質を持つがんに進展していきます。
3. SSA/P(SSL)を見分けるポイント
SSA/Pは、顕微鏡で見ると「腺管の底」の部分が、T字やL字型に異常に広がっている(ブーツのような形)のが特徴です。
がん化率: およそ2〜5%前後と見積もられています。
見た目: 粘液が付着していたり、平坦で周囲の粘膜と区別がつきにくかったりします。
一方、TSAは鉛筆のような形をした細胞が並んでいるのが特徴で、通常のがん化リスクと同程度と言われています。
診断項目(SSA/Pの例):具体的な特徴
陰窩(いんか)の分岐:腺管が不規則に枝分かれしている
陰窩の拡張:腺管の入り口や奥が広がっている
腺底部の異常変形:底の部分が逆T字やL字、ブーツ型(boot-shaped)になっている
これらの所見が一定以上見られる場合、適切な処置(切除など)が検討されます。
まとめ:新しいルートを知る意味
大腸がんには、通常のポリープとは異なる「鋸歯状」という発生ルートがある。
特に「SSA/P(SSL)」は、平らで見つけにくいが、がん化のリスクがある。
内視鏡技術の向上により、これらの特殊なポリープも早期に発見・治療が可能になっている。
一昔前までは「放っておいても大丈夫」と言われていた小さな平坦なポリープの中に、実はこの「鋸歯状経路」に属するものが隠れていることがあります。定期的な内視鏡検査と、専門医による精緻な診断が、将来のがんを防ぐ鍵となります。
信頼できる情報源
本記事は以下の知見に基づき構成しています。
大腸癌取扱い規約(第9版)
WHO Classification of Tumours of the Digestive System (5th Ed)
大腸癌研究会 プロジェクト研究データ
免責事項 本記事の情報は執筆時点(2026年4月)のものです。医学用語(SSA/PやSSLなど)は現在過渡期にあり、施設によって呼び方が異なる場合があります。検査結果の診断名については、担当の病理医や主治医の解説を優先してください。