
雨の日のフードコートとあの子の話
わたしは珍しく一人で、
休日のイオンにでかけていた。
今日はどうしても一人でいたい気分だった。
「ちょっと出かけてくるね。夕方には帰るから。」
と夫に声をかけると
「わかった、雨降ってるし気をつけてね。」
と優しく言ってくれる。
夫はわたしには勿体無いくらい、
本当にいい人だ。
30代後半でやっと結婚したけれど、
それはこの人と出会う時期が遅かったからだと
自信を持って言える。
当てもなく車を走らせて、
昼ごろふらりと郊外のイオンに立ち寄った。
雨の日の休日。
フードコートは家族連れで大混雑だ。
自分の読みの甘さを後悔したが
来たからにはわたしも楽しみたい。
今朝生理がきたせいか、やけにお腹が空く。
今日は辛味噌ラーメン、大盛りで食べちゃおう。
フードコートに併設されるように
小さい子どもの遊び場がある。
ラーメンをすすりながらぼんやり眺めていると
一人の子が目に入った。
2歳か3歳くらいだろうか。
女の子が一人で遊んでいる。
あんなに小さいのに近くに親の姿が見えず、
わたしは少し不安になる。
そのうち、女の子が靴を履いて
一人の男性に駆け寄った。
女の子は一生懸命抱きついたり
話しかけたりしているが、
父親であろう男性はスマホをいじったまま、
女の子の顔も見ていない。
そのあとも女の子は遊び場に戻ったり
たまに父親の元へ戻ってみたりを繰り返している。
父親の目線はずっと、スマホに落ちている。
あんなに目を離せないなんて
何がそんなに面白いのか、教えてほしいくらいだ。
ラーメンを食べ終えると
遊び場の隣のアイスクリーム屋が目に留まった。
今日はもう、アイスもいっちゃおうかな。
お店の列に並ぼうと向かうと、
靴を履こうとしているあの女の子と目が合った。
まんまるのほっぺ、
綺麗に結われたサラサラの髪、
茶色がかって澄み切った目。
本当に可愛らしい子。
「…一緒にアイス、食べる?」
思わず声をかけてしまった。
女の子はびっくりした様子だったが、
すぐにニコッとして頷いた。
「食べられないものとか、ない?」
聞くと、コクリと頷く。
「好きな果物とかはある?」
「…いちご。」
彼女にはいちご味、わたしはキャラメル味を買う。
父親からは影になってすぐには
見えないような位置の席を選んで座った。
自分の鼓動が数段速くなっているのを感じる。
ごめんなさい。
アイスを渡すと、くりくりの目が一際輝いた。
口の周りをピンクにしながら
夢中で食べている。
気持ちのいい食べっぷり。
服はブラックコーデで
シンプルだけど新しそうだし、
髪も編みこみまでされて綺麗に結われている。
今はいないけどきっと母親はちゃんといて、
この子を愛しているのだろうな、
などと、いらぬお節介考察をしてしまう。
「お口ふこうか、ほっぺまでピンクよ。」
とティッシュで拭くと、
ふふふーと無邪気に笑っている。
このままもう少し、もう少しだけ
この子とお買い物でもしたい、
なんでも買ってあげるのにな、と
なんとも我儘な考えが浮かぶが、
それは無理だとわかっている。
じゃあね、と遊び場の前で
控えめに手を振る。
彼女は、また遊び場に消えていった。
彼女の父親は、スマホを見ていた。
わたしがラーメンをすすっていた
1時間前と同じ体勢で、
スマホ以外なにも見ていなかった。
わたしは次の日、
4年続けた不妊治療をやめた。
※完全なフィクション、創作です。
初めて自分のことでない創作を書いたので
困惑させていたらすみません。
意外と楽しく?書けました。