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#創作大賞2026 #恋愛小説部門 「年上の女性を好きになる」という感覚を知ったN先生との出会い

    小学五年生のゴールデンウィーク明け。

    教育実習の先生として、N先生が私たちのクラスにやって来た。

    ショートカットに眼鏡が似合う、優しい先生だった。

    当時の私は勉強が苦手で、特に算数には苦労していた。

    放課後になると補習で居残りになることも多く、クラスメイトからは、

    「サッカー部ではレギュラーじゃないのに、算数の補習はいつもレギュラーだな」

    と笑われていた。

    そんな毎日の中で、N先生が教室に入ってくるだけで気持ちが明るくなった。

    先生に話しかけられるだけで嬉しかった。

    褒められた日は、一日中機嫌が良かった。

    今思えば、あれは私にとっての淡い恋心だったのだろう。

    当時はもちろん恋愛という言葉すら意識していなかった。

    それでも間違いなく言えることがある。

    N先生のことを想う気持ちは、クラスの誰にも負けていなかったはずだ。

    教育実習の終盤には、クラスのみんなで先生の自宅へ遊びに行く機会があった。

    松戸から電車を乗り継ぎ、さらにバスに揺られて到着した先生の家。

    私は驚いた。

    「先生は毎日ここから通っていたのか……」

    小学生の私には、それはちょっとした旅のような距離だった。

    その時は気づかなかったが、今思えば先生もまた、一生懸命に私たちと向き合ってくれていたのだろう。

    そして教育実習の最終日がやって来た。

    先生は生徒一人ひとりに手紙を渡してくれた。

    そこに何が書かれていたのかは、もう覚えていない。

    けれど、自分の名前が書かれていたことだけは覚えている。

    たぶん、それだけで十分だった。

    あれから何十年もの月日が流れた。

    恋愛も仕事も、決して順風満帆だったわけではない。

    思い通りにならないこともあった。

    悔し涙を流したこともあった。

    けれど、「年上の女性を好きになる」という感覚の原点は、間違いなくN先生との出会いだったと思う。

    最近、ふとあの頃のことを思い出しながら音楽を聴いていた。

    その時に改めて心に響いたのが、相川七瀬さんの『恋心』だった。

    歌詞を追いながら聴いているうちに気づいた。

    あの頃の私は、まさに恋心という言葉そのものだったのだ。

    会えるだけで嬉しい。

    声をかけてもらえるだけで嬉しい。

    特別な関係になりたいわけではない。

    ただ相手の存在が気になる。

    そんな純粋な気持ちだった。

    N先生との別れも、きっと誰もが一度は経験する淡くて切ない片思いだったのだろう。

    あの頃の恋は叶わなかった。

    けれど、その恋があったからこそ、私は人を好きになる気持ちの温かさも切なさも知ることができた。

    人生で最初に恋心を抱いたN先生との出会いは、今も私の大切な思い出の中に生き続けている。

    そして時折、相川七瀬さんの『恋心』を聴くたびに、算数の補習で居残りをしながらも、N先生の姿を目で追っていた小学五年生の自分に再会するのである。

     
     
    毎朝6時「井田隆志の今日の一曲」🎵を発信中。 今日も頑張ろうと思ってもらえるような、渾身の一曲をお届けします。 音楽を中心に、時々、料理・本・映画の感想も🍳📚🎬ゆるく発信中。

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