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虚無カレーのレシピ

    河野さんのカレーが
    レッテルを
    貼られたのは訳があって。

    ⸻

    例えば僕は

    飴色の玉ねぎ
    トマト缶
    種類のスパイス
    2時間以上の煮込み

    質問なぞされれば、
    工夫や工程をベラベラと喋り始める。

    料理をしている人ほど
    市販のカレー粉を利用はしても、
    裏面通りに作らない人が多い。

    「母の」とか
    「男の」といった
    情緒的スパイスも加わる。

    ⸻

    河野さんは山小屋の賄いから
    カレーを奪う。

    いつも同じ味で

    簡単に作れることが
    命題のように
    日々の賄いを作る。

    15年は厨房にいたはず。

    ⸻

    どうやって作っているのかを
    聞いたら

    炒めてもいない。

    ということが判明した。

    切る
    煮る
    溶く

    「普通にウマイ」

    妙な感動さえ覚えるスタッフ達。

    彼がカレーを奪う度に

    禅カレーだの、
    虚無カレーだの
    僕らは好き勝手に言いはじめた。

    「実は本ダシを入れてるんだけどな」

    と彼は抵抗していたが
    虚無にかき消されていた。

    ⸻

    カレー
    生姜焼き
    冷凍アジフライと春雨サラダ

    目を瞑っても作れる味を
    河野さんは安定供給していた。

    ⸻

    河野さんは山を降りた。
    人生の半分ぐらい一緒にいた気がしたけど
    10年もない付き合いだった。

    ⸻

    今は
    僕が彼のレシピを奪っている。

    昨夜は冷凍アジフライと
    春雨サラダを作った。

    誰の感想も漏れない
    静かな食卓だった。