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地味な恋愛|帰国の翻訳ー上海⑯ー

    ⸻

    たった3時間で変わってしまう。

    空気、匂い、地面の立ち心地。

    千葉は肌寒かった。

    成田線の鈍行に乗って
    柏に向かう。
    飛行機よりも時間を感じる。

    青々とした田園が流れていく。

    まだ大学4年生だった。

    留学でも
    休学でもない。
    上海の一年。

    Rinは寂しいと
    泣いている絵文字を送ってきた。

    そばにいないと意味がなさそうだった。

    彼女と付き合ってから
    僕の中国語は止まった。

    帰国直前。
    朱さんは、私は日本にはもう行けないと
    言った。

    あなたの母親が悲しむようなことは
    絶対しないの。

    あなたの父親が死んでも
    葬式にも行かない。

    毅然と言った。

    ジンジンは身長が伸びて
    声変わりが進んでいた。

    会話もずっと少なくなった。
    オンラインゲームで
    賞金を稼ぎはじめた。

    僕は使えるレベルではない
    上海訛りの拙い中国語を持ち帰った。

    winnyが規制されて
    winmxで細々と時間をかけて
    ダウンロードに励んだ。

    XPはフリーズを繰り返した。

    最後にRinとチャットをしてから
    ずっとPCは開けていない。

    「もうむりー。」

    まともな返事もできないまま
    距離が遠のく。

    上海に戻りたいとは思わなかった。

    タバコを吸う。
    いつもの食堂のテラスから
    灰皿が消えていた。

    ここに居たいとも思えず
    学生でいることも
    どこか違っていた。

    全ての手触りが変わってしまった。

    それだけは分かった。

    ⸻

    夏が来て
    ようやく就活を始めた。

    チャットがピョコつく。
    インインからだった。

    息が止まる。


    ヒゲの絵文字に
    同じ絵文字を返す。

    久しぶりに打つ中国語。
    まだ学生をやっていること。
    就活を始めたこと。

    ピョコ

    ピョコ 

    空白の時間。

    返事を待つ。

    ピョコ


    日本語が並んでいた。

    画面が滲む。

    声が消えない。

    シャジャノン。


    ゼイウェイ。



    記憶にしまう。




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