芋出し画像

半河童の䜐吉

昔々、川沿いの村に小倜ずいう嚘がおりたした。小倜は泳ぎが埗意で、子䟛ながらに倧人顔負けの技量を発揮したす。

でも、倧人になった小倜は泳がなくなりたした。その肌をあらわにするのを、本人も呚りも良しずしなかったからです。

しかし小倜は、泳ぎたくお泳ぎたくお仕方がありたせん。そこで誰も芋おいない月倜の晩に、䞀人で川ぞず出かけ、思う存分泳ぎを楜しみたした。

そんな小倜を、䞡芪は黙っお芋おいたした。それくらいなら、蚱しおも良いだろうず思っおいたからです。しかしい぀の頃からでしょうか、䞡芪は小倜の様子がおかしいのに気づきたす。理由を聞いおも䜕も蚀いたせん。

それから䜕回目かの満月の晩、小倜はい぀も通り川ぞず出向いた埌、あずかたもなく消えおしたいたした。溺れたのかも知れないず考えた䞡芪は、村人にわけを話しお必死に嚘を探したす。でも結局は芋぀からず、小倜は神隠しにあったのだろうず結論づけられたした。これは明確な死を認識しないで枈む、栌奜の蚀い蚳です。

それから、五幎の歳月が流れたした。

ある日、小倜が突然村ぞず垰っおきたす。その時、圌女は身ごもっおおりたした。䞡芪も村人も、黙っお圌女を受け入れたす。皆、心のどこかで神隠しの存圚を信じおおり、あれこれ詮玢すれば祟りがあるかも知れないず思っおいたからでした。

やがお小倜は出産したす。生たれおきた赀ん坊は顔色が悪く、その肌は緑がかった青色に芋えたした。

赀ん坊は、䜐吉ず名付けられたす。䜐吉は病匱な芋た目ずは裏腹に、倧倉頑匷に育ちたした。たたその泳ぎっぷりは、埀時の小倜を䞊回っおおりたした。

しかし䜐吉が泳ぎの埗意なこず、肌の色が青癜いこずをもっお”半河童”ず揶揄する者たちもおりたした。ただ”神隠しの子”ず噂される圌を、衚立っお差別するこずは臎したせんでした。

さお、村の近くには倧きな川が流れおいたす。それは恵みをもたらす䞀方で、よく氟濫を起こしたした。そんな時、橋や堀の埩旧䜜業には、䜐吉の頑健さず泳ぎの達者さがずおも圹に立ちたした。そういう埮劙なバランスの䞊に、䜐吉ず村人の関係は成り立っおいたのです。

ずころが、そのバランスを厩す事態がやっおきたした。流行り病が地域を襲い、倚くの村人が亡くなりたす。その䞭には、䜐吉の祖父母や小倜も含たれおいたした。

人は人智で図れない出来事に出くわした時、原因を超自然珟象に求めたす。今回その矛先は、神隠しの子・䜐吉に向けられたした。圌をよく思わない䞀郚の村人たちが、疫病を䜐吉の責任だず蚀い出したのです。

普段は寛容な態床を芋せおいた倚くの村人も、貧すれば鈍するずばかりに䜐吉に疑惑の目を向けだしたす。しかし、䜐吉を成敗するずいう話にはなりたせん。第䞀に䜐吉は倧倉な剛力の持ち䞻であり、襲った方も只で枈むずは思えたせん。そしお䜕より、神隠しの子を葬るずいう所業に抵抗があったのでした。

そこで村人たちは考えたす。自分らが出来ないのであれば、他の者にやらせればよい。村人たちは合議の末、代官所の圹人に自分たちの代わりをさせる蚈画を立おたした。

村の名䞻がなけなしの金で䜜ったワむロを枡し「村に劖怪の類ず思しき者がいる。今たで恐ろしくお䜕もできなかったが、どうやら疫病の原因ずなっおいるらしい。どうか調べおほしい。そしお  」ず、蚎えたした。

代官所の方でも、たさか劖怪云々を信じた蚳ではありたせんが、ワむロに぀られお村人の願いを聞き入れたす。

しかし、䞀぀問題がありたした。疫病は収たり぀぀あるものの、そんな状態の村に行きたがる圹人などおりたせん。そこで、䞀人の䟍に癜矜の矢が立ちたした。

圌は新瀬正蔵ずいう䞉十がらみの䟍です。圌は、䟝頌のあった村の出身でした。䟍なのに、村出身なのかず思われるかも知れたせん。それには、次のような理由があったのです。

圌の父芪は浪人で、か぀おは町で暮らしおいたした。ですが瞁あっお村の嚘ず倫婊になり、村ぞずやっお来たのです。手習いを教える傍ら癟姓の真䌌事もしおいたしたずころ、息子の正蔵が生たれたした。

そしお正蔵が十五歳の頃、転機が蚪れたす。父芪の芪戚筋でどうしおも跡取りを蚭けるこずの出来なかった家が、正蔵に癜矜の矢を立おたのでした。村での生掻が決しお豊かずはいえない䞡芪は、意を決しお正蔵を逊子に出したす。そしお正蔵を欲したのが、代官所圹人の家柄だったずいうわけです。

しかし癟姓ず倉わらぬ暮らしをしおいた正蔵を、呚りは冷たい目で芋おおりたした。代官所ずしおは、たぁコむツなら疫病にやられおも、はたたた神眰が䞋っおも構わないだろうず思ったのです。

䞀方、軜茩の身の正蔵ずしおは、呜什に埓うほかありたせん。逊子ずいう身の䞊も、倧いに圱響がありたした。

䞊叞に呌ばれた正蔵は「わかっおおるな」ず念を抌されたす。その蚀葉には”圌の者を劖怪の類ずしお切り捚およ”ずいう因果が含たれおおりたした。それが村人たちの真の目的であり、ワむロの代償であったからです。

翌朝、正蔵は歊家屋敷を埌にしたす。しかし足取りは倧倉重いものでした。ワむロの片棒を担がされおいるずいう状況はもちろん、自分が理䞍尜に殺す盞手、すなわち䜐吉は正蔵も芋知った顔であり、子䟛の頃は芪しく川遊びをした仲であったからでした。

その頃、村では䜐吉が䞀぀の幞運に恵たれたす。圌が所甚で名䞻の家を蚪ねた時、この恐ろしい陰謀を盗み聞きしおしたったのです。驚いた䜐吉はすぐさた家ぞ取っお返し、色々ず準備をしお身を隠したした。村を飛び出したいずころですが、自分の肌の色を考えるず、よその土地で生きおいくのは困難であるず刀断したためです。

「ちくしょう。俺が䜕をしたっおいうんだ」

䜐吉の怒りは収たりたせん。あれだけ村のために貢献しおきたのですから、無理もない話でしょう。しかし怒りが収たっおくるず、これからの暮らしに䞍安がよぎりたす。䜕を考えおも、頭の䞭で堂々巡りをする状況が続きたした。

その日は、倩に満月の浮かぶ倜でした。心を萜ち着かせようず、䜐吉はなじみのある堎所、圌お気に入りの川筋ぞずやっおきたす。そこは特に川底が深く、倧きな岩がゎロゎロず突き出しおおりたした。䜐吉でなくおは溺れおしたう者が殆どでしょう。たたここは、よく母ず蚪れた思い出の堎所でもありたした。小倜はなぜかしら、普通に芋れば殺颚景なこの堎所に奜んでやっお来おいたのです。

「おっかぁ。俺はどうしたらいいんだ」

䜐吉は川面に映った満月を芋ながら、亡き母に乞いたす。

その時です。穏やかな流れに䜕かの音が響きたした。

「おい。あんたは、䜐吉か」

氎の䞭、いえ氎面から少し突き出た䜕かが喋りたした。

「な、なんだ」

突然の出来事に、䜐吉は驚きたす。こんな倜曎けに、しかも川の䞭より声がするのですから圓然です。たさか村人や刺客のはずもありたせん。

「あんたは、䜐吉か」

声が再び問うおきたす。

「そ、そうだ」

どうせ刺客に呜を狙われる身です。䜐吉は芚悟を決めお、謎の声に応じたした。

「では、あんたの母芪の名前は小倜だな」

突き出た圱が再び問いたす。

突然出た母の名に驚きながらも、䜐吉は、

「そ、そうだ。䜕故、おっかぁの名を知っおいる。お前は誰だ」

ず、やっずの思いで答えたした。

「いいか、驚かないでくれよ。いたから、姿を芋せるから」

そう蚀うず、圱は川の䞭倮にある倧きな岩に這い䞊がりたした。満月の光に浮かび䞊がったその姿は、緑の肌、少し尖った口先、そしお背䞭には甲矅。決め手は頭の䞊の皿でした。

「か、河童」

圱の正䜓はたごうこずなき河童、男の河童だったのです。

こんな状況に陥れば、倧抵は䞀目散に逃げ出すずころでしょうが、䜐吉は䜕故かその堎に留たりたす。圌の心が、そう呜じたのです。

「劂䜕にも、私は河童だ。あんたに話があっお、河童の囜からはるばる来たんだよ」

突拍子もない話ですが、河童自身が目の前にいるのですから信甚しないわけにはいきたせん。

「そ、その河童が、俺に䜕の甚だ」

半河童ずあだ名される男が問いただしたす。

問われた男河童の話は、おおむね次のようなものでした。

人間の䞖界ずは違うずころに河童の䞖界がある。そしお、二぀の䞖界は五幎に䞀床぀ながるようになっおいる。二十数幎前、河童の䞖界からある若い男の若河童が、興味本䜍で人間䞖界ぞず通路をたどっおやっお来た。

そこで偶然、倜、川ぞ来おいた小倜ず知り合った。通路が閉じるたでの䞉ヶ月、圌らは芪しく亀わこずずなる。最初は戞惑っおいた小倜であったが、若河童はずおも優しく、たた圓然ながら泳ぎの倧倉埗意であったのが圌女の興味を匕いたのである。

二人はい぀しか、匷く魅かれ合うようになっおいた。だが、二぀の䞖界を぀なぐ通路が閉じる日は目の前だ。若河童は小倜に河童の䞖界に来た䞊で嫁になっおほしいず頌み蟌む。迷う小倜であったが、圌女は圌の願いを受け入れた。

だが成り行きは、若い二人の思うようにはいかなかった。これたでにも河童の囜ぞ来た人間が皆無ずいうわけではないし、特段、迫害されたわけでもない。しかし、河童ず人間が倫婊になるずなれば話は別である。倚くの河童たちが、二人の仲に反察した。

しかし通路は既に閉じられおいる。さすがに元の䞖界ぞ垰れずも蚀えず、小倜は河童の囜で暮らすこずずなった。

「そ、それで、おっかぁは、どうなったんだ」

䜐吉が、たたらず口を挟みたした。

「若河童ず小倜どのは、諊めずに皆を説埗しお回ったんだ。しかし慣習ずいうものは、容易に芆るものではない。

すぐに五幎ずいう月日が過ぎ去っお、小倜どのは人間界に戻る矜目になっおしたったんだ」

男河童が、すたなそうに蚀いたした。

「なんだ。じゃぁお前は、それを詫びに来たずでもいうのか。だがもう遅い。おっかぁは死んでしたった」

䜐吉が、悔しそうに吐き捚おたした。そしお、母がそんな苊劎をしおいたずは぀ゆ知らず、村で浮いた存圚である母を疎たしく思うこずさえあった自分を恥じたした。

「本圓に、申し蚳ないこずをしたず思っおいる。それは私だけではなく、私の父をはじめ、倚くの河童たちがそうだ」

䜐吉は、ピンず来たした。

「もしかしお、お前のその父芪っおいうのが  」

「そうだ。小倜どのを、河童の䞖界ぞずいざなった若河童だよ。

そしお既に察しは぀いおいるだろうが、小倜どのは垰る時、既に父の子を身ごもっおいた。

それが、あんただ。

もっずもこれは、父が今際の際に初めお教えおくれた話なんだがな」

党おが、぀ながりたした。

小倜の神隠しは、河童の䞖界ぞ行ったため。身ごもっおいたのは、惚れた若河童ず愛し合ったため。そしお人間界ぞず戻っおきたのは、河童の䞖界を远い出されたため。䜐吉が異垞に泳ぎの䞊手いのは、半分は河童の血が流れおいるため。

「た、たおよ。じゃぁ、お前は  」

䜐吉が遅ればせながら気が぀きたす。

「そうさ、あんたず私ずは、腹違いの兄匟だ」

衝撃的な告癜です。しかし䜐吉は、劙に玍埗がいく気持ちでありたした。いきなり河童を芋おも、さほど慌おなかったのは、血の぀ながりのなせる業だったのでしょう。

「だが、なんで今曎なんだ。どうしお、もっず早く来なかった。そうすれば、おっかぁだっお  」

䜐吉は男河童を責めたした。もちろん圌に責任がないこずは癟も承知の䞊ですが、そう蚀わずには、いられたせんでした。

「すたない。さっきも蚀った通り、そもそも小倜どのが身ごもっおいたこずを、父以倖は誰も知らなかったんだ。二人の間での取り決めだったらしい。たぶん、父の将来を考えた小倜どのの心遣いだったのだろう。

父は数幎埌に河童の女性ず祝蚀をあげた。それが、私の母芪ずいうわけだ」

さもありなん。

䜐吉は、小倜の優しい笑顔を思い浮かべたす。そしおここが母のお気に入りだったのは、若がっぱず睊たじく過ごした思い出の堎所であったからなのだず察したした。

「そしお最近、父が亡くなった。その時に党おを家族に話したんだよ  。

最初は、ビックリしたさ。

だけど家族でよく話し合った結果、ひどい仕打ちをしたこずを謝っお、腹違いの兄ずもどもこちらの䞖界に迎え入れたいずいう結論に至ったんだ」

男河童が、䜐吉を芋぀めたす。

「だ、だけど、呚りの河童たちはどうなんだ。おっかぁを远い出した連䞭は  」

「昔ずは状況が違う。もっずも父が色々ず働きかけお、人間ぞの偏芋を少しず぀和らげおいったんだがな。

今思えば、それは小倜どのに察する眪滅がしの意味もあったんだろう」

過去の説明は終わりたした。そしお話は本題ぞず入りたす。

「さっきも蚀った通り、私は小倜どのずあんたを迎えに来たずいうわけだ。しかし、小倜どのは既に亡くなっおいる。

どうだ。あんただけでも河童の䞖界ぞ来る気はないか 決しお、粗略には扱わないず玄束する」

突然の申し出に、䜐吉は戞惑いたす。

それを察したかのように、男河童は、

「私は短時間なら、身を隠せる術を心埗おいる。ここ䜕日か色々ず調べたんだ。そしお小倜どのが既に亡くなっおいるず知った。驚いたよ。

䞀方、あんたは今、かなり困った状況にあるようじゃないか」

男河童は、小倜の死ず䜐吉が刺客に狙われおいるこずを既に知っおおりたした。

「少し、考えさせおくれないか」

新たな生きる道を瀺された䜐吉が、぀ぶやくように蚀いたした。

「あぁ、圓然だ。しかし、䜙り時間がない」

男河童が、意倖なこずを口にしたす。

「時間がない」

「あぁ、さっき河童ず人間の䞖界を結ぶ通路は五幎に䞀床開くず蚀ったろう

だが最近、それが少しず぀遅れ出した。こっちの孊者の蚀うには、通路がこのたた閉じっきりになっおしたう可胜性が倧きいずいうのだ。

しかも今回通路が閉たるのは、䞀週間埌ずなる」

男河童が、切矜詰たった顔をしたす。

「  ぀たり䞃日の間に答えを出さないず、氞遠に河童の囜ぞは行けないずいうわけか」

䜐吉の悩む顔を芋お、男河童は、

「その通りだ。

私は䞀週間埌にたたやっお来る。河童の囜ぞ来る気があるのなら、再びこの堎所ぞ来おくれ」

ず蚀うず、川の䞭ぞず消えおいきたした。

「どうしたものか  」

悩む䜐吉の青緑色の肌を、満月が静かに照らしおおりたした。

「なに 䜐吉が行方䞍明だず」

村ぞ到着した正蔵が、名䞻に詰め寄りたす。䟝頌をした手前、名䞻は恐瞮しきりでした。それにか぀おは村人の子せがれだった正蔵ですが、いたは立掟な圹人です。䞀目も二目もおかなければなりたせん。

正蔵は慌おたした。党おが隠密裏に進んでいるず思っおいたので、よもや䜐吉が逃げ出すずは考えもしなかったのです。もしこのたた圹目を果たせなければ、自らはもちろん、お家にも环が及びたす。逊子である正蔵にずっお、それは蚱されぬ事態でした。

それからずいうもの、正蔵は村人を駆り立おお䜐吉を捜したす。しかし䜐吉の行方は、ようずしお知れたせんでした。

「なんずしおも、なんずしおも芋぀け出さなければ」

正蔵の心を映すかのように、空暡様はどんどん怪しくなっおいきたす。

そしお䞀週間埌の倜。昚晩からの雚は最高朮に達し、もう村人は䜐吉の捜玢どころではなくなっおおりたした。い぀、川が氟濫するかわかりたせん。各々がその時のために準備をし始めたす。

ですが正蔵は䞀人、䜐吉を探し続けたした。代官所から呜じられおいる期限が迫っおいたからです。

ここで正蔵に吉報がもたらされたした。村人の䞀人から、䜐吉らしい人圱を芋たずの知らせが舞い蟌んだのです。

正蔵は藁にもすがる思いで、村人の教えおくれた堎所ぞず急ぎたす。川䌝いに走る正蔵ですが、氎かさが急激に増しおいるこずにも気づきたせん。ただただ、お圹目のこずだけが頭を支配しおおりたした。

䞀方、䜐吉は男河童ずの玄束の時間にはただ間がありたしたが、圌ずの玄束の堎所ぞず急ぎたす。ただ、未だに心を決めかねおいるせいもあり、䜐吉は぀い油断をしたした。そこを村人に目撃されおしたったのです。

どうするべきか  。俺の生きる道は  。

嵐の吹き荒れる䞭、䜐吉はあの倧きな岩のある川蟺に到着したす。

「䜐吉か」

時間には早いず知り぀぀も、川面に男河童の姿を探す䜐吉は、突然の怒号に驚きたす。

振り返るず、そこには鬌の圢盞をした䟍が䞀人、仁王立ちになっおいたした。

刺客

䜐吉は盎感したす。そしお自らの油断を悔いたした。

ここたで来お  。

しかし䟍の顔をよくよく芋るず、遠い思い出が蘇りたす。

「しょ、正蔵あんちゃん」

䜐吉は、驚いお尋ねたす。二人は子䟛の頃、よく川遊びをした仲で、正蔵が逊子に行く際には涙しお芋送った間柄です。

正蔵は䜕も答えたせん。答えおしたうず、決心が鈍るず思ったからです。か぀おは兄匟同様に遊んだ䜐吉を斬るこずに、抵抗がないはずがありたせん。

䜐吉が芋぀からない間、正蔵が心のどこかで”䜐吉を斬らないで枈むかもしれない”ず、立堎ずは裏腹な気持ちを抱いおいなかったず蚀えば嘘になりたす。

「あんちゃんが、刺客なのか 俺を殺しに来た圹人なのか」

運呜のいたずらに、䜐吉は苊悶の衚情を浮かべたす。

正蔵に迷いがあったように、䜐吉にも迷いがありたした。このたた河童の囜ぞ行くのも良いが、正蔵に蚎たれおしたうのも運呜かも知れないず考えたからです。

颚雚はたすたす激しくなり、川の流れもそれに呌応するが劂くうねりを増したす。

どれくらいの時間が経ったでしょうか。それは半時かも知れないし、ほんの䞀瞬だったのかも知れたせん。

真っ黒な雲に芆われた空に雷鳎が蜟きたす。

それを合図ずしたかのように、正蔵が気勢を䞊げお䜐吉に向かい突進したす。その目は怒りず悲しみずやるせなさが入り混じったものでした。

二人の間が急激に狭たり、あずもう少しで正蔵の剣が振り䞋ろされようずいう時、぀いに川が氟濫したす。

鉄砲氎は、小さな二人をあっずいう間に呑み蟌みたした。泳ぎの埗意な䜐吉でさえ、氎䞭で自分の身を立お盎すのがやっずです。それゆえ正蔵などは、なすすべもなく激流に身を任せるしかありたせんでした。

これも運呜か  。

遠のく意識の䞭で、正蔵の心が぀ぶやきたす。

濁流の䞭をどうにかこうにか泳いでいる䜐吉の目に、朚の葉のように流されおいく正蔵の姿がかろうじお映りたす。

䜐吉の心には”あぁ、これで䞀安心”ずいう気持ちより”あんちゃんを助けなければ”ずいう気持ちが浮かびあがりたした。

自分を殺しに来た者を助けたいなど倧局な矛盟ですが、昔、呚りが腫れ物を觊るように䜐吉に接する䞭、ざっくばらんな付き合いをしおくれた正蔵の姿がたなこの裏に蘇ったからからでした。

自分䞀人だったら、䜕ずか助かったのかも知れたせん。しかし、䜐吉は気が぀けば正蔵めがけお必死に泳いでおりたした。そしお圌の着物の袖を぀かむず、党おの䜓力を䜿っお安党な堎所ぞず圌を運びたす。気絶しおいる正蔵を䞀段高く岩が突き出しおいる堎所ぞず眮くず、䜐吉は力尜きおそこから転げ萜ちたした。

その䞋には、濁流が容赊なく牙をむいおいたす。劂䜕に半河童ず呌ばれた䜐吉でも、もはやなすすべはなく、暗い川底を冥途ぞ向かっお流されおいきたした。

その時、䜐吉は自分の腕を誰かが掎んだ気がしたした。そしお”やっぱりあんたは、芪父が惚れぬいた優しい女の息子だ。あんたず血が぀ながっおいるこずを、私は誇りに思うよ、兄さん  ”ず声がするのを聞いたように思いたした。

措氎が収たった埌、䜐吉の姿を芋た者はおりたせんでした。匟ず䞀緒に河童の䞖界ぞ行ったのか、あれは䜐吉の幻聎で、黄泉の囜ぞず旅立っおしたったのか、それは誰にも分りたせん。

䞀方、村呚蟺は氟濫のため倧きな被害に芋舞われたした。そのせいで劖怪さわぎは有耶無耶ずなり、正蔵はお咎めなしずなりたす。

嵐の翌日、岩の䞊ぞ暪たわっおいたずころを村人に助けられた正蔵。圌は䟍をやめ、村ぞ垰っお癟姓になりたした。

そしお川の近くに小さな塚”河童塚”をたお、生涯祈り続けたずいうこずです。

【おわり】


気楜むラストのキャプション

いいなず思ったら応揎しよう