
#149 歌えるスナック「足の匂い」 第4話「元学校の先生」
歌えるスナック「足の匂い」の常連には、
学校の先生もいる。
常連客の江口さん。
名前は修一という。
今は中学校で時間講師をしている。
授業だけ担当して、
担任は持たない。
「気楽でいいよ」
と本人は笑う。
だが、
若い頃は正規教員として、
担任も学年主任もやっていたらしい。
焼酎の水割りが進むと、
江口さんは時々、
昔の学校の話をする。
「今の先生は仕事が多すぎるよ。
俺には正規教員、
もう無理だと思って辞めちゃった」
ママは黙って氷を足す。
江口さんは、
どこかホッとした顔で続ける。
「でもね、
生徒との関係は、
今の方がいいんだよ。
昔はさ、
“舐められたくない”
って気持ちが強すぎた。
生徒と、
変な対立関係だったな」
カウンターの端では、
常連の小林さんが、
柿ピーを噛みながら聞いている。
「特に女子の指導は難しかったねえ」
江口さんは、
少し笑いながら言う。
「ある日さ、
放課後に忘れ物取りに行ったんだよ。
四階まで上がったら、
教室から女子二人の声が聞こえてさ」
江口さんは、
水割りを一口飲む。
「“江口の修は臭いの臭〜♪”
って歌ってるわけ。
ハハハハって笑っててさ」
カウンターの空気が、
少しだけ静かになる。
「中学生って、
時々残酷なんだよな」
そう言ったあと、
江口さんは少し考えて、
「いや、
残酷っていうか、
あれも一種のコミュニケーションだったのかな」
と付け加えた。
「本当に嫌われてたら、
歌にもしないか」
ママが笑う。
「江口さん、
愛されてたのよ」
すると、
ずっと黙っていた小林さんが言う。
「いやでも、
“臭”はキツいですよ」
店内が少し笑う。
その時、
カラオケの予約音が鳴った。
江口さんは立ち上がり、
マイクを持つ。
イントロが流れる。
歌うのは、
なぜか
TUBE
だった。
♪ 夏が来る前に〜
そこだけ妙に上手かった。
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