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ビスケットを1枚


    「ビスケットが一枚足りないんだ」と男の子が叫んだ。


    夢を見た。

    何もない。風景の色もないそんな空間の中で僕は男の子と二人でぽつんと立っていた。そよ風が髪を揺らし、静けさだけが辺りを取り囲んでいた。

    男の子は僕に向かって何度も叫んだ。
    「ビスケットが一枚足りないんだ」
    僕は彼の瞳をじっとみつめた。汚れひとつない澄んだブルーの瞳だった。
    「ビスケットが一枚だけ足りないんだ」また彼は叫んだ。


    そこで目が覚めた。


    僕は朝方のぼやけた頭を左右に振りながら、夢の中に出てきた男の子の顔を思い出そうとしたけれど、彼の綺麗な瞳以外には何一つ思い出すことができなかった。


    夢の中で彼はどうしてビスケットを欲しがったのだろう。それもたった一枚だけ欲しがったのである。


     子供の頃にプラモデルを集めていたことがある。数種類のシリーズがあってそれを全部集めようと必死になっていたのだけれど、どうしてもあと一つだけ揃えることができなかった。

     たった一つでも欠けると、どこかバランスが崩れてしまって、全てがバラバラになってしまったような感じがしてしまう。


     少年も足りないビスケットをどうにかして見つけたかったのだろうか。もがいて苦しんで叫んでも、足りないビスケットを。


     ふとそれはビスケットという言葉に隠された僕の中に存在する欠けているモノなのかもしれないなと思った。


    そして悲しいことではあるけれど、それがわかる日が来ることはない。



     
     

    こう

     
     
    小説やエッセイを少しずつ。 誰かの記憶に残るような静かな物語を書けたらと思っています。 アメリカのWV在住。

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