神の実力
今日もあの子がやってきた。
毎日昼の12時を過ぎると、あの子はやってくる。
櫛を通しただけの無防備な髪の毛にマスクをつけ、adidasのパーカーを着た女の子。
今日も、恥ずかしそうに一礼をしながら鳥居をくぐってこちらに向かってくる。
目の前に立つと、浅めの二礼と小さめの二拍手をした後、生年月日と住所、名前をごにょごにょと呟き、今日の困りごとを相談してくる。
最近の悩みは専ら仕事のことらしい。
一緒に仕事をしている先輩があまりにシゴデキで、付いていけないのだとか。
(そんなの俺にじゃなくて直接先輩に相談しろよ)とも思うが、これが仕事なのでそう突き放すわけにもいかない。
というわけで、今日も黙って彼女の悩みを聞いている。
「黙って」と言うように、俺には聞く以外には何もできない。なにか助言を与えることも、彼女の能力を引き上げることも、現実を動かすこともできない。
我ながら自分の無力さに落ち込むこともあるが、仕方がない。俺にだってできないことくらいある。
彼女は一通り悩みを話した後、また、角度にして10度くらいの浅い一礼をして去っていく。
お辞儀くらいもう少し丁寧にしたって良くないか?住所言う時もマンション名しか言わないし。酷い時にはGoogleマップでピン刺して共有してくる時あるし。もう少し崇めてくれても良くないか?
だが、彼女にもいいところはある。
彼女は絶対にお願いをしてこない。
「自分で何とかするから見ててね」と、まるでこちらが何もできないことを最初から知っているかように、「私を見守れ」としか言わない。
黙って聞くことしかできない俺にとっては非常に好都合だが、毎日山ほどお願い事をされている身からすると、なんだか物足りない気持ちにもなる。
悩み事を吐き出した彼女の後ろ姿を見送る隙もなく、後ろに並んでいたおじさんが目の前にやってくる。
このおじさんは奥さんとの関係に悩んでいるらしい。分かる、この年齢になると難しくなる時あるよね。
「妻との関係が良くなりますように、妻が優しくなりますように」
そうそうこれこれ〜!やっぱりこの仕事してるなら、お願い事されたいよね!俺、何もできないけどね!
でも、たまに思う。
この仕事をしていると、頼めば何でも変えてくれると無闇に崇められ、期待され、落ち込まれる。
本当は俺よりよっぽど、みんなの方がすごいのに。自分の足で、手で、言葉で現実を変える力があるのに。
明日も彼女はやってくる。
俺は黙って話を聞く。