メインコンテンツへスキップ
見出し画像

読書手術、毎週ショートショートnote、410字

    氷堂出雲



    僕にはひとつの異能がある。
    本を読んでいるとき、イメージの中で行間にメスを入れると、作者が言葉にしなかった思いが、切開した傷口から溢れ出すのだ。

    登場人物が沈黙の裏に隠した感情。
    選ばれなかった比喩。
    削られたエピソード。
    ページに収まりきらなかった全てが、血のようににじみ出て、僕の眼前に広がっていく。

    初めてそれを体験したとき、世界が一変した。
    僕は喜びに震え、片っ端から本を手術しては、作者の思考の奥底に触れた。

    だが、ある時ふと気づいた。
    僕の読書から、驚きが失われていた。
    切開すれば、行間の謎も余白の沈黙も、すべて曝されてしまう。
    想像の楽しみ、読者としての自由を自らの手で奪っていたのだ。

    気づいた瞬間、僕はメスを置いた。
    いや、心の中で、その力を封じた。

    もう二度と切り開かない。
    たとえ苦しくても、わからなくても、行間に沈黙を残したまま読もう。

    ページを開くと、久しぶりに胸の奥がざわついた。
    それは、僕自身が『読者』に戻れた証だった。

    #毎週ショートショートnote
    #読書手術
    #毎週ショートショートnote

     
     
     
    ・ソニー・ミュージックエンタテインメントのドラマ原案コンテストにてグランプリ受賞。ドラマ化。 ・第20回Yomeba!で優秀作 ・エブリスタ超・妄想コンテスト年間選出数11位(2021年) ・島根県文芸公募 金賞 その他はプロフィールページで

    あなたへのおすすめ