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大嘘寺(ホラー)、毎週ショートショートnote、759文字

    氷堂出雲


    山の奥に、大嘘寺があった。

    ついてしまった嘘に震える毎日…そんな嘘と別れられる寺。

    私が訪れたのは、妹が死んで一年経った日のことだ。最後に会ったとき、こんな嘘をついてしまった。
    「また、すぐ会いに来るよ」

    忙しくてそんな気などないのにそう言った。
    妹は寒い玄関先で私を待ち続け、病状を悪化させて死んでしまった。

    嘘の重さが、今も胸を締めつける。

    「嘘を預けに来たのですね」
    私が頷くと和尚は奥から小箱を持ってきた。

    「ここに息を吹きかけてください。嘘は形を得て、箱に沈みます」

    そっと息を吹きかけると、箱の底で何かが動く音がした。

    和尚はうすく笑った。
    「嘘をここにしまっておけば、心は軽くなるでしょう。嘘のことは忘れてください。忘れたくないと強く思っていると…」

    和尚は言葉を濁した。質問にも答えてくれなかった。
    私は礼を言い、寺をあとにした。心の重さは少し消えたような気がした。

    しかし、その夜、聞き覚えのある声がした。

    「ねえ、すぐ、来るんでしょ?」
    体が凍りついた。妹の声だった。

    翌朝、私は大嘘寺に駆け戻った。
    「妹の声が…」

    和尚は、目を伏せた。
    「あなたのは忘れたくない嘘だったんですね。そんな嘘は、持ち主のもとへ、必ず帰ろうとするのです。どんな嘘だったんですか?」

    「妹に『すぐに会いに来る』と言ったのに、行かなかったんです。どうすれば…」
    「簡単ですよ」
    和尚はにっこり笑った。

    「嘘があなたを苦しめる前に、あなた自身がその嘘を本当にすればよいのです」

    「本当に…?」
    「ええ。すぐ来ると言ったのでしょう。ならば、行きなさい。妹さんのところへ。あなたが行くまで、その嘘はあなたを苦しめますよ」

    和尚の背後の闇の中で、小箱が揺れた。昨日よりもはっきりとした声が漏れている。
    「お姉ちゃん、おそいよ。早く、こっちへ」

    死んだ妹のところに行くと言うことは、つまり…。

     
     
     
    ・ソニー・ミュージックエンタテインメントのドラマ原案コンテストにてグランプリ受賞。ドラマ化。 ・第20回Yomeba!で優秀作 ・エブリスタ超・妄想コンテスト年間選出数11位(2021年) ・島根県文芸公募 金賞 その他はプロフィールページで

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