メインコンテンツへスキップ
見出し画像

沈む寺、毎週ショートショートnote、410字

    氷堂出雲

    雲の上に空中寺院があった。村人たちは、その寺院に向かって祈りを捧げた。

    ある日のこと、若い僧侶が空中寺院に選ばれた。僧侶の体は宙に浮き、雲の切れ間に姿を消した。寺院の門にいた老人が手を挙げると、寺院は二つに分かれた。
    「それはお前の寺だ」
    そう言うと老人と老人の寺院は、風に漂いながら消えていった。

    僧侶は、村人のために念仏を唱え続けた。
    ある日、寺の奥の部屋に小さな池を見つけた。僧侶が覗き込むと、そこに映るのは遥か下の彼の故郷で、村人たちが雨乞いをする姿が映っていた。僧侶は池に飛び込んだ。
    池の底の石を動かすと水は下界へと落ちていき雨になった。僧侶も下界に落ちかけたが、なんとか穴の縁を掴んでぶら下がった。

    空中寺院は、高度を下げていき、やがて、村の池に着水し、沈んでいった。

    空の上で老人はため息をついた。
    「お前は、すでに天の者。手を放したところで空に浮かび、寺院に帰れたものを。己の命を惜しむ心が、この空中寺院をも沈めたのだ」
    (410字)

      #毎週ショートショートnote  
    #沈む寺

     

     
     
     
    ・ソニー・ミュージックエンタテインメントのドラマ原案コンテストにてグランプリ受賞。ドラマ化。 ・第20回Yomeba!で優秀作 ・エブリスタ超・妄想コンテスト年間選出数11位(2021年) ・島根県文芸公募 金賞 その他はプロフィールページで

    あなたへのおすすめ