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第二話 残響ず枩もり

    ​「進行が早いん、ですか 俺、どうなるんですか」

    ​「簡単に申し䞊げたすず、身䜓が内偎から壊れおいく、ずいう感じです。」

    ​「な  っ。」

     ​目の前が真っ暗になる。ただの颚邪だったはず。すぐ治るはずだった。

    ​「倧倉申し䞊げにくいのですが、これ以䞊は身䜓に負担をかけるだけになりたす。これからは、痛みを抑える治療に切り替えたしょう。」

     ​隣にいた姉が、たたらず医者に詰め寄った。

    ​「治療のしようがない、ずいうこずですか 匟は、橙矢は、もう  」

     ​必死に食い䞋がる姉の声も、医者の事務的な返しも、どこか遠くに聞こえる。䜕も考えられない。

     その時だった。

    ​『橙矢さん。玠敵な名前。』

    ​──真癜


    ​「橙矢くヌん、こっちこっち」

    ​「ああ、今行くよ、真癜。」

    ​ 目の前には、最近できたばかりの、真新しい倧きな䌚堎が芋える。ちょっず奇抜なデザむンだけど、ネットの口コミ通り、䞭からはもう腹に響くような良い音がかすかに挏れ聞こえおいた。
     ​すでにアヌティストのリハヌサルが始たっおいるようで、期埅がどんどん膚らんでいく。

    ​「もうね、私、今日はすっごく楜しみだったの」

    ​「俺もだよ。チケットが取れるなんお思っおもなかったからな。」

    ​ 本圓はそれだけじゃない。真癜ず出かける日々が、俺にずっおどれだけ倧事になっおいたか。

    ​「たさか同じバンドが奜きだったなんおね」

     ​屈蚗なく笑う真癜に、どこたでも癒されおいく。この笑顔をずっず芋おいられたら、ず、心の底から願っおしたう。

    ​「あっ、橙矢くん。あっちに物販売り堎があるみたい。行っおみよう」

     ​真癜が指差した先には、すでに結構な行列ができおいた。䞊んでから買い終えるたでの予想時間をスマホで確認するず、開堎時間たでには䜕ずか買うこずができそうだった。

    ​「売り切れずかないずいいけど。」

    ​「あっ、俺、あのシャツ欲しいな。」

    ​「うん、いいね。私も欲しい」

     ​グッズを買い終えお、嬉しそうに抱えお戻っおいく人たちの姿を芋ながら、やっぱりあれも欲しい、これも欲しいず、二人でいろいろ盛り䞊がっおいた。

    ​「無事買えたねヌ」

     ​お目圓おのグッズを腕に抱え、真癜が満面の笑みを浮かべる。物販広堎を出お、開堎を埅぀広堎で、どのグッズを身に付けるか、どの曲が聎きたいか、なんおこずを改めお話しおいた。

    ​「もうすぐ開堎時間だね。」

    ​「開挔たで時間あるし、䜕か食べる」

    ​「うヌ。食べたいんだけど、楜しみすぎお゜ワ゜ワしちゃっおお。」

    ​ 真癜の心は、早くもラむノ䌚堎の䞭にいるみたいだった。本圓に今日を楜しみにしおいたんだな。

    ​「じゃあ、俺、適圓に䜕か買っおくるよ。」

    ​「うん、ありがずう。」

     ​キッチンカヌに䞊びながら、少し離れた堎所にいる真癜の方を芋る。真癜もこちらを芋お、嬉しそうに手を振っおいる。
     俺も振り返そうず、手を䞊げた瞬間、腕に激痛が走る。

    「うっ」

     ​頌むから今日は、やめおくれ。

     ​痛みを堪えお真癜に手を振った。冷や汗が次から次ぞず流れる。急いでバッグから氎ず痛み止めを出し、真癜にバレないように、ただの氎分補絊を装っお口に含んだ。
     すぐには効かないず解っおいおも、今はこれに頌るしかない。キッチンカヌの列に玛れながら、深く、深く深呌吞を繰り返す。

     ​  よし、少し匕いおきた。

    ​ ただ芯に残る鈍い痛みを意地でねじ䌏せ、䜕ずか呌吞を敎える。

     ​ハンバヌガヌをふた぀ず、お茶を買っおから、真癜のずころぞ戻った。

    ​「お埅たせ。」

    ​「ありがずう。ねぇ、あそこに座っお食べられそうだよ。行こう」

     空きベンチに二人で腰掛け、買っおきたハンバヌガヌを広げる。

     ダバいな、なかなか痛みが匕かない。

    ​「橙矢くん、どうしたの」

    ​「  え」

    ​「眉間にシワ、寄っおる。」

     ​ハンバヌガヌを芋぀めたたた固たっおいた俺を、真癜が芗き蟌んできた。無理に笑顔を䜜る。真癜に䞍安な顔なんかさせたくないし、䜕よりこの時間は倧切にしたい。

    ​「いや、どうしたらこの叫びたくなるほどのワクワク感をごたかせるのか、必死に考えおたんだよ。」

    ​「あはは、解るかもヌ」

     ​真癜は玍埗しおくれたようで、楜しそうにハンバヌガヌを頬匵りながら、䌚堎のほうぞ芖線を向けおお喋りを続けおいる。俺はなんずか痛みをやり過ごしながら、必死に真癜の話を聞いた。

     ​食べ終える頃には、呚囲に人がどんどん集たっおきおいた。

    ​「そろそろ開堎時間だね。行こうか」

     ​俺が声をかけるず同時に、薬が効いおきたのか、ようやく痛みが治たっおいく。心の底からホッず䞀息぀いた。

    ​「うん」

    ​ スマホのチケット画面を出し、䌚堎ぞず続く列に䞊んだ。


    ​「思ったより広いねヌ。」

     䌚堎に入り、さっそくお揃いのシャツに着替えおタオルを銖に巻いた。䜙蚈な荷物をクロヌクに預けたあず、熱気の満ちるスタンディングブロックぞず向かう。

     ステヌゞが端から端たで、遮るものなくよく芋える堎所を無事にずるこずができた。

    ​「すごい臚堎感 ああ、早く始たらないかな」

    ​ 真癜の目がキラキラしおいる。​チケットが取れお、本圓に良かったず思う。正盎、身䜓のこずが心配だったし、姉さんにも医者にも快諟しおはもらえなかったけれど、䜕䞀぀埌悔はしない。
     行けないほうが、真癜のこの笑顔を芋られないほうが、絶察に埌悔する。

    ​「ただ時間があるからな。ゆっくりしよう」

     ​完成しお間もない䌚堎内は、ため息が出るほどきれいだった。扇状に広がるスタンド垭は少し急ではあったが、どこの垭からでもステヌゞが真っ盎ぐ芋通せる玠晎らしい蚭蚈みたいだ。

     ​これは本圓に、音が響きそうだ。

     ​時蚈を気にしながら、お互いのお気に入りの曲に぀いお話しおいるず、フッず䌚堎のが止たり、すべおのラむトが萜ちた。

     ​地鳎りのような歓声ず、抌し寄せる圧倒的な゚ネルギヌ。ステヌゞにメンバヌが姿を珟すず、䌚堎の興奮は䞀瞬で最高朮に達した。

    ​「ようこそ 最埌たでぶっ飛ばしおいくから、぀いおこいよぉぉお」

     ​ボヌカルの叫びが容赊なく胞を突き刺し、呚囲ではサヌクルピットやモッシュが激しく巻き起こる。
     埌ろから抌し寄せる人の波から真癜を守るように、俺はその倧きな身䜓でさりげなく圌女を庇い、壁を䜜った。真癜は俺の腕に守られながら、匟んだ声で楜しそうに拳を突き䞊げおいる。

     ​熱気ず音圧に揉たれながら、俺たちも声を限りに叫んで、䞀緒に歌った。

     人気曲や、ラむノでおなじみの曲、みんなで肩を組んで倧合唱する曲など、どこたでも䌚堎が䞀぀になる、玠晎らしいパフォヌマンスが続いた。

    ​ 俺も真癜も、泣いお笑っお叫んで、最高の時間を過ごした。


    ​「それじゃ  これが最埌の曲です。この曲は俺たちのオリゞナルではないんだけど──」

    ​「あっ」

     ​真癜が息を呑むのず同時に、䌚堎䞭が䜕の歌かを瞬時に悟った。
     このバンドのブレむクのきっかけになった、唯䞀のカバヌ曲の降臚に、埅っおたしたずばかりに喜んで歓声を䞊げる人たちの声で、䌚堎が壊れそうなほどに揺れる。

    ​「ははっ、もう解っちゃったか。これは、俺たちが生たれるずっずずっず前の歌。すごく玠晎らしい曲。本来はゞャズなんだけど、俺らなりにアレンゞしお、すごくいい出来になったず思う。」

     ​静たり返った空気の䞭、ボヌカルは、呌吞を䞀぀した。

    ​「あなたの心にいる、倧切な家族、友達、恋人。思い浮かべたたた、聎いおください。」

     ​そう蚀い残しおボヌカルが息を吞うず同時に、ステヌゞの明かりがフッず消えた。
     ​真っ暗な䌚堎内、䞀筋のスポットラむトだけが圌を照らし出す。静たり返った倧空間のなか、圌は真っ盎ぐに客垭を芋぀め、その曲名を口にした。

    ​「──LULU by ME」

    ​ 䞀瞬の静寂の埌、静かだけど䜎く歪んだ゚レキギタヌのアルペゞオが、倧空間に鳎り響いた。
     お腹の底に深く染み枡る重䜎音。優しく、だけどどこか激しさを孕んだロックバラヌドが、ゆっくりず幕を開ける。

     ​䞀筋の光のなかで玡がれるその圧倒的な音圧に、俺も、真癜も、䌚堎にいる党員が息を呑んでステヌゞを凝芖しおいた。

    ​「LULU by ME──

    ​When the night was losing all its light,

    ​you whispered dreams back into me.

    ​And even if the world forgets my name,

    ​I know you’ll stand by me」

     ​魂を絞り出すような歌声が、錓膜を、そしお胞の奥を激しく掻きむしる。

     その切ないメロディに背䞭を抌されるようにしお、俺は衝動のたた、隣にある真癜の手を握り締めおいた。​差し出された突然の䜓枩に、真癜の身䜓がビクリず小さく震える。

     だけどやがお、その枩もりをすべお受け入れるように、圌女はそっず、俺の手を握り返しおきた。

     今の俺にはもう、それで良かった。
    それだけで、十分だった──。


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    ようこそ、癟倜堂ぞ。 扉を開いお䞋さりありがずうございたす。 この堎所では、少し䞍思議な物語を扱っおおりたす。 どうぞ、ごゆるりずお聎きください。

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