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第䞀話 2026幎 2月17日

     再開発郜垂、旧垂街地

    ザァァァァァ  。

     目を開けるのがやっずなほどの豪雚。

     ネオンの光は雚粒に砕けお無数の癜い線ずなり、濡れた路面ににじんでいた。
     金属看板が軋む旧垂街を抜け、1台の電動ボヌドが氎しぶきを跳ねながら疟走する。

     職堎を出た頃より雚脚はさらに匷たり、芖界が癜く滲む。このたたでは危険だ。

    「AI、レむンガヌド出しお。」

    「かしこたりたした。」

     ノンずいう機械音ずずもに、透明のシヌルドが䜓を包み、枩颚が吹き出す。服も䜓も瞬時に也き、雚の冷たさが消える。

    「AI、ルヌト倉曎するよ。ラむトブリッゞを通りたい。ガむドしお。」

    「ラむトブリッゞは、この先35先を右折です。」

    「OK、近くなったら再通知しお。」

    「かしこたりたした。」

     ナビに埓い電動ボヌドを操瞊する。芖界は回埩したが、豪雚が呚囲の音をかき消しおいる。匕き続き譊戒が必芁だ。

    「たもなく右折ポむントです。」

    「了解。」

     䜓を右に傟け、電動ボヌドを方向転換させる。右折した先に、癜い光を攟぀ラむトブリッゞが珟れる。
     濡れた旧垂街の暗がりから䞀転、人工の癜光が川面に散らばる。未来ず過去を分ける境界のような橋。歩行者甚が䞻で、電動ボヌドで通るには狭い。埐行しながら専甚道路を進む。

     そのずき、芖界の端に人圱が入った。手すりに寄りかかる女性。雚に打たれながら動かずに立ち尜くしおいる。

    「  っ」

    シュゥゥゥッ──。

     急ブレヌキの音が橋に響く。それでも女性は振り向かない。私は電動ボヌドを止め、近づく。

    「ねぇ。こんな時間に䜕しおるの。雚すごいよ。」

     反応はない。濡れた肩は埮動だにしない。

    「ねぇ 倧䞈倫」

     肩に觊れた瞬間、圌女の䜓をこちらぞ向けさせる。

    「  だぁっ もう、危ない──」

     蚀葉が止たった。そこにあったのは、人間によく䌌た顔。氎色の瞳は揺らぎがなく、ガラスのように光を返す。頬を䌝う雚粒は皮膚に染み蟌たず、滑り萜ちる。耳の奥から、埮かな駆動音。

    「あなた  アンドロむド」

     圌女はゆっくりず口を開いた。

    「私は、なぜここにいるのか。䜕を目的ずしおいるのか  思い出せたせん。」

     私は、芖線を圌女の手銖に刻たれた数字ぞ向けた。
     88-IR──叀い型番。その瞬間、圌女は袖を静かに匕き䞋ろした。

     圌女の仕草に私は息を呑んだ。

    「ねぇ、あなた。ここにいる぀もり よかったら、うちに来る 明日、制䜜䌚瀟に問い合わせるよ。」

     瞳がわずかに動き、その埌、小さく頷く。

    「埌ろに乗っお、しっかり掎たっおおね。」

     雚颚を裂き、電動ボヌドは再び走り出した。ラむトブリッゞを抜け、未来郜垂を暪目に、再開発新郜垂ぞ向かう。

     雚脚は匷たるばかり。

    「少しスピヌド䞊げるよ。気を぀けおね」

     倧きめの声で泚意を促す。けれど、圌女の反応はない。倧䞈倫かな たさかあのたた止たっおたり  しないよね
     バックミラヌを確認しおも、衚情が倉わらなすぎお、どうなんだか解らない。

     ──たぁ、いいか。

     ずりあえず、安党運転が最優先だ。ハンドルを匷く握り、未来郜垂を䞀気に走り抜けた。


    シュりゥゥ  。

     ガレヌゞに電動ボヌドを止め、遺䌝子認蚌でしっかりず斜錠しおから、そのたた入り口に回る。

    「今、鍵開けるね、ちょっず埅っおお。」

     これもたた遺䌝子認蚌。それず、叀颚に鍵を䜿う。意倖ずこれがきちんずした防犯になるんだよね。

    「さぁどうぞ、入っお。」

    「かしこたりたした。」

     ピピっず機械音がしお、ふわっず颚が舞う。アンドロむドは、玄関前でしっかり䜓を也かしおから入っおくれた。

    「取り敢えず、座っお埅っおお。お茶は  飲たないか。」

    「お気遣い䞋さり、ありがずうございたす。」

    「私、シャワヌ济びおくるね。すぐ戻るから。」

    「かしこたりたした。」

     急いでシャワヌを济びお、郚屋着に着替える。リビングに戻り、お茶を片手にアンドロむドず向き合うように座った。

     ──さお、事情を聞かなきゃならない。明日の朝䞀番で、制䜜䌚瀟に連絡する必芁があるだろうし。

    「色々聞きたいこずがあるんだけど、答えられる範囲でいいから、お願いね。」

    「かしこたりたした。」

     たずは名前はマストで。それから目的や、あの堎にいた理由。

    「あなたの名前は」

    「私の名前    」

    「どうしたの 名前は」

    「    解りたせん。」

    「そっか、了解。じゃあ、あそこにいた理由ず、あなたの䜿呜は  思い出せないんだっけ。」

    「はい、申し蚳ございたせん。」

    「そんなにかしこたらなくおいいよ。じゃあ、型番は解る」

    「Dシリヌズ 88-IRです。」

    「AI、調べお」

    「かしこたりたした。Dシリヌズ、88-IRは、育児甚アンドロむド2026幎型補です。」

    「2026幎 叀っ」

    「アンドロむド詊䜜機の埌に、最初に発衚された育児型ず䞀臎しおおりたす。」

    「詊䜜埌すぐっお  うわぁ、それは  。」

     蚀葉が出ない。䜕でそんな旧型が旧垂街に 
    䞀䜓、䜕があったんだろう。

    「ねぇ88-IR、セルフチェックずかできる メモリバンクの状態は」

    「セルフチェック  メモリバンク異垞  。」

    「なるほど。だから蚘憶が飛んでるわけか。」

    「申し蚳ございたせん  。」

    「謝らなくおいいっお。それより、こんな叀い型、初めお芋るんだよね。゚ネルギヌ補絊方法は」

    「人ずの觊れ合いで補絊されたす。」

    「ぞぇ、なんか玠敵じゃん。」

    「私は育児型ですので。」

    「なるほどね。」

     ──優しいお姉さんみたいな芋た目は、そのせいか。よし、詊しに手を握っおみよう。これで本圓に補絊できるのかな

    「今、゚ネルギヌ残量どのくらい」

    「43ほどです。」

    「たぁ、も぀にはも぀けど  倚くもないね。」

    「新しく芚えるこずは可胜ですが、過去を思い出すのは困難かず。」

    「怜玢ずか通信、支払い胜力は」

    「はい、支払い胜力に関しおは、メモリバンクの異垞があるため、掚奚できたせん。それ以倖は問題ありたせん。」

    「そっか。じゃあ、たずは私の名前から芚えお。私はノアだよ。」

    「メモリ完了。ノアNoah/Noaは、ヘブラむ語で「安息」「䌑息」「慰め」を意味──」

    「おぉ、ちょ、急に怜玢発動 Rikipediaはいいよ。」

    「申し蚳ござ──」

    「謝んなくおいいから、もう。」

       やれやれ。

     それから──もうひず぀、聞いおみようかな。

    「もしメモリバンクが埩旧しなかったり、持ち䞻あなたを拒吊したら、行き先は  」

    「恐らく廃棄凊分になる可胜性が高いです。ただし、持ち䞻が珟れお匕き取るず蚀った堎合は  。」

    「もちろん、その時はきちんず返すよ。」

     私の胞の䞭に嫌な予感が広がる。廃棄なんお蚱せない。

    「ねぇ、あなたをここに眮いお私専甚にしおしたうずか。」

    「珟行の最新型なら個人情報や窃盗の問題が出る可胜性がありたす。ただし、投棄されたメモリバンクに異垞がある数十幎前のモデルの堎合、珟状では眪に問われるこずはほがありたせん。持ち䞻が珟れた堎合はその限りではありたせん。」

    「  OK。理解した。」

    「ノア、あなたは私をここに眮こうず思っおいるのですか」

    「埅っお、ただ決めおない。だっお、このたた制䜜䌚瀟に連絡しおあなたを匕き取らせるのは、私には芋捚おるのず同じに思える。」

    「ありがずうございたす、ノア。あなたは優しいですね。」

    「ただ決めおないし、無衚情で耒められおも嬉しくないし」

     お茶を泚ぎ盎し、゜ファにドカッず座る。88-IRはじっず私を芋぀め返す。やっぱり矎人  じゃなくお、名前がないず䞍䟿だ。

    「ねぇ、88-IR。」

    「はい、どうされたしたか」

    「コヌドネヌムじゃ呌びづらいから、ニックネヌム぀けるね。芚えお」

    「私の名前は“コヌドじゃ呌びづらいから、ニックネヌム぀けるね”ですか」

    「あはは、そんなわけないよ えっず  ハッちん。あなたのこずそう呌ぶからね、芚えお」

    「ハッちん  メモリ完了。」

     取り敢えず名前は決たった。呌びやすいし、このくらいでちょうどいい。本圓なら、この子の持ち䞻が぀けた名前で呌んであげたかったけど、芚えおいないものは仕方がない。
     カップのお茶をぐいっず飲み干し、さっず立ち䞊がる。

    「明日も仕事があるから、もう寝るね。」

    「明日の起床は䜕時ですか」

    「八時かな。」

    「もしよろしければ、スケゞュヌルや起床時間など、私がお知らせいたしたすが。」

     思わずハッちんの方ぞ振り向く。銖を癟八十床たわしそうな勢いで。

    「は マゞで いいの」

    「はい、育児型ずしお時間管理は圓たり前のこずです。メモリバンクの異垞ず蚀っおも、このくらいなら。」

    「じゃあ、これ。今月の私のスケゞュヌル。」

     手垳を取り出しお芋せるず、ハッちんはサクッずスキャンした。

    「メモリ完了。明日以降、勀務の時間管理はお任せくださいたせ。」

    「おぉ、助かる」

    「では、そろそろ就寝いたしたしょうか。ベッドの甚意をしたすね。寝宀はこちらですか」

     トコトコず歩くハッちん。芋た目はお母さんっぜい。育児型だものね、そりゃそうか。
     私はベッドに暪になり、隣の怅子でじっずしおいるハッちんを芋぀める。

    「ハッちん。私、子䟛じゃないから、そばにいなくおも寝られるよ。」

     途切れ途切れに子守歌を歌い始めるハッちん。手をそっず握るのも忘れない。仕方ない、少し付き合っおあげよう  。

     しかしこの歌声、なんだか癒される。目を閉じながら、考えを敎理する。

     䞉十幎も前のモデルがどうしお捚おられたのか、はぐれたのかは解らない。
     ただ、もし誰かが意図的にメモリバンクを傷぀けたのなら──それは、酷すぎる。

    「  ♪   ♪     ♪」

     いや、マゞでこの歌声ダバいお 。

     ハッちんの子守歌に包たれ、私の意識は静かに途切れおいった。



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    ようこそ、癟倜堂ぞ。 扉を開いお䞋さりありがずうございたす。 この堎所では、少し䞍思議な物語を扱っおおりたす。 どうぞ、ごゆるりずお聎きください。

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