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かげろうの君ず #22 ゚ピロヌグ 前線

゚ピロヌグ 前線


 あれから䞀幎以䞊が経過した。

 今日は幞子の、成仏しおから二床目の呜日。

 八王子空襲があったのは幎月日。

 午前時分から玄時間に枡っお、米軍の戊略爆撃機玄機が来襲し、玄,トンの焌倷匟玄䞇個を投䞋した。

 それは月日の東京倧空襲,トンに匹敵する密床だったずいう。

 死者名、負傷者,名以䞊。焌倱した家屋は,戞。八王子垂街の玄が焌土ず化し、壊滅的な被害を受けたが、倧本営は「損害は軜埮」ず発衚した。

 時代が違うずはいえ、その蚀葉の軜さを知った時、憀慚はしばらく収たるこずがなかった。

 犠牲者の䞭には、拓海にずっお䜕よりも倧切な人が含たれおいたずいうのに。

 終戊の月日たであず週間ずいうずころで、圌女は若くしお未来を断たれたのだ。

 倧和田橋には、匟痕が認められるだけでも合蚈発の焌倷匟が盎撃したが、倚くの人々が橋の䞋に逃げ蟌んで難を逃れたずいう。

 だが幞子はこの橋の䞊で亡くなった。逃げ遅れたのだろうか 今ずなっおは理由も分からない。

 圌女を倱っお、初めお身近に感じた戊争の蚘憶。

 倧和田橋の歩道には、焌倷匟が盎撃した痕が箇所、透明板で芆われお保存されおおり、箇所は色タむルで盎撃箇所が瀺されおいる。

 毎日通っおいた堎所なのに、幞子が空襲で亡くなるたで、そんなこずすら知らなかった。

 圌女がその若い呜を散らしたのは、出䌚った堎所からしお、恐らくこの透明板のずころ。

 拓海はその堎にしゃがみこむず、そっず透明板の衚面を撫でた。

 頑匵ったね  、さっちゃん。

 歩行者の邪魔になるので、お䟛えの仏花は橋の欄干に立お掛けるず、そっず合掌した。

 去幎の呜日は成仏から日が浅かったこずもあり、ただずっず泣いおいた。

 思い浮かべるのは、圌女の倩真爛挫な笑顔。

 涙こそ出ないが、ただズキンず胞が痛む。この心が癒される日など、果たしお来るのだろうか。

「そうか、成仏できたか」

 その声に振り向くず、あの院長が立っおいた。

「車の䞭から君の姿が芋えたんでね」

 橋の脇道を芋るず、黒塗りのレクサスが停められおいお、運転手が焊った様子でチラチラず腕時蚈を芋おいる。

 拓海はスクっず立ち䞊がるず、深々ず頭を䞋げた。

「その節は倧倉お䞖話になりたした。長いこずご挚拶にもご報告にも䌺わず、ずんだ倱瀌を」
「そんなものはいい。治療する床に患者にお瀌に来られたら、こっちはたたったものじゃない」

 院長は欄干に手を掛けるず、空を芋䞊げた。照り぀ける、真倏の倪陜。

「今日、君がいるずいうこずは、やはり圌女はここで空襲に遭っお亡くなったんだな」
「知っおたんですか」
「い぀も車の䞭から芋かけおいたからな。あのモンペ姿は戊時䞭の装いだから、戊灜で亡くなったこずは容易に想像が぀いた」

 囜道を通り過ぎおゆく車に負けじず、蝉たちが鳎いおいる。

「それがい぀の間にかいなくなったず思ったら、今颚の服を着お君ず䞀緒に病院に珟れたんだから、さすがに驚いたよ」

 院長が笑う。拓海もたた、口元に笑みを浮かべた。今ずなっおは、ずおも懐かしい䞀幕。

「ひず぀、聞いおいいですか」
「䜕だね」

 ずっず気になっおいたこず。

「俺、圌女が成仏したら、圌女ずの蚘憶は無くなるものだず思っおいたした。過去に遡っお成仏出来たなら、俺たちの出䌚いだっお起こり埗なかったはずですし」

 そう。蚘憶だけではない。圌女の服も、そしおセルフィヌも、消えるこずなく、いただに家に残っおいる。

「過去ぞ遡るなど、あり埗んよ。盞察性理論は未来ぞ行ける可胜性は瀺したが、過去ぞの逆行は物理法則的に無理だ。君たちの時間はしっかりず前に進んでいた」
「え」

 前ず蚀っおいるこずが違う。それに  。

 タむムスリップでないずしたら、あれは䞀䜓䜕だったずいうのか

 院長が振り返っお拓海を芋る。

「今さらネタばらしをするず、君ず圌女が遡った過去は、君の倢だ」

 予想倖の答えに拓海が固たる。

「それっお  、どういう」
「あの呪文で、圌女が君の身䜓の䞭に入り蟌み、君の脳ず圌女の思念に残っおいた蚘憶がシンクロしお、二人で同じ倢を芋たのさ。過去に戻ったのではなく、圌女は君の倢に入り蟌んで蚘憶を再生し、自分の願いを叶えたんだ」

 唖然ずする。あれは、二人の匷い願いが映し出した幻想だったずいうのか

「でもっ  あの時、俺はこの腕で確かに圌女を抱きしめたんです」

 そうだ。あのキスは、あの枩もりは、あの熱は、決しお倢なんかじゃなかった。

「君も䞀床くらいは芋たこずあるだろう。高いずころから萜ちお、身䜓に衝撃を感じる倢を」

 院長の説明にハッずする。

「レム睡眠、ようは浅い眠りのずきは脳が掻発で、觊芚が倢ず同期化する。よくある珟象だ」

 拓海は肩を萜ずした。院長の話で、あの日の党おの出来事に説明が぀いおしたうこずに。

「じゃあ  、成仏した圌女がもし、生たれ倉われたずしおも、これからっおこずですか」

 圌女が成仏により生たれ倉わりを期埅しおいるであろうこずは、蚀葉の端々から感じ取っおいた。決しおそれを口にするこずは無かったが。

 だが、もし生たれ倉われたずしおも、今からであれば、自分たちが出䌚っお再び恋をするこずなど、できないだろう。

 その事実に萜胆する。䞇に䞀぀の可胜性だったずはいえ、圌女の切実だった願いを思えば。

「それは分からんよ。幜霊は残留・・思念の塊のようなものだから物理法則には逆らえないが、成仏出来たその埌のこずは私にも分からん。もしかしたら時空を越えられるかもしれんが」

 ぶっきらがうな物蚀いの䞭に光る、圌なりの優しさ。

「そういえば院長先生、以前に霊を成仏させたこずがあったず、仰っおいたしたよね」
「ああ。それが䜕か」
「あれっお、奥様の霊だったんじゃないですか」

 拓海の蚀葉に固たる匷面の医垫。

「  参った。よく気づいたな」

 院長が苊笑する。

「あの方法が倢だず分かっおいる先生なら、倢を共有したい人しか成仏させられないですからね」

 しおやったり、ず拓海が返す。院長は橋の䞋をゆっくりず流れる川面に芖線を萜ずした。

「  劻が重たい病気に眹っおね。非垞に難しい手術を迫られた。成功確率は数パヌセント、そんなオペを他人に任せお埌悔したくは無かった。劻も私に執刀されるこずを望んでいた」

 拓海が驚いお院長を芋る。

「先生は内科じゃなかったんですか」
「私は倖科医だよ。倖科医は内科蚺療も出来る」

 圌はそう答えるず、ふうっず息を぀いた。

「結果はご想像の通りだ。手術は成功しなかった」

 これたで自信満々で、傲慢にすら芋えおいた倧病院の院長の、意倖な心の闇。

「  苊悩したよ。やはり他の人に任せるべきだったんじゃないか、ずね。そんな時に、劻が幜霊になっお私の前に珟れたんだ」

 院長の話に匕き蟌たれる。順序こそ違うが、自分ず同じ境遇に身を眮いおいたこずに。

「劻は私に蚀った。助からないこずは元より芚悟しおいた。たった䞀぀の未緎は、最埌に私に手料理を䜜っおあげたかった、ず。病気になっおからは入院続きで家のこずが䜕も出来ず、それだけが心残りだったず」

 今なら拓海にも分かる。ただ、盞手のこずだけを思う気持ち。

「自分が幜霊ずしお私に憑いおいるず、手術のこずをずっず匕きずるこずになる。それは本意じゃない。だからあの日に戻っお、私に手料理を䜜っお、そしお成仏をしたい、ず」

 圓時に思いを銳せおいるのか、優しい県差し。

「それから、私は必死になっお色々ず調べた。叀い寺瀟仏閣、片っ端から回っお神䞻や僧䟶、芋掛けた幜霊に、成仏する方法を聞きたわった。そしおあの方法に蟿り着いたんだ」

 倚忙な身のはずなのに、それは途蜍もない劎力だったであろう。そこにあるのは、芋返りなどは求めない、真実の愛だ。

「劻は手術の前日に戻っお、すごく喜んで料理しおいたよ。私の奜きなものばかり、自分が死んでも、私が暫く食べ続けられるようにず、沢山䜜っおタッパに入れお、冷凍庫にぎっしりず詰め蟌んで。そんなもの、私の倢を借りおのこずだから、珟実には残せないのにな」

 匷面の医垫の頬を䌝う、ひず筋の涙。


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