
クチナシ 第4話
完成したものが、
静かに、何かを動かし始める。
(所要時間:約3分)
第4話 佳乃の日記 3月25日(水)
本当に驚いた。
孝輔が、『アプリを書きたい』とか言い出してから、一月ぐらい。
バイト先の影響で、そんな真似事をしたくなったのだろうと思っていた。
ところが、アプリを完成させたらしい。
どんなアプリなのかよくわからないけれど、
孝輔が言うには、完璧な出来栄えらしい。
名前まで決まっていた。
“クチナシ”だって。
とてもきれいな響きで私も気に入った。
「なんで?」って聞いたら、
「なんとなく。」だそうだ。
孝輔は、たまにそういう“ひらめき”で動き出すことがある。
今回もそうみたい。
こうやって、次々にアプリを作れるなら、
何かもっと身近で便利なアプリを作れば、
かなりの収入が確保できるのに。
つい、そんな計算をした自分が、少し浅ましく感じてしまった。
「佳乃、PCありがとう。」
「できたわ。」
「あら、おめでとう。」
「でも、私が見ても何かわからないわね。」
「それよりも孝輔、すごくがんばってたじゃない。」
「どうして、あんなにがんばってたの?」
「楽しかったんだよ。」
「頭で『こういうのがいいな。』って考えると、どんどんコードが出てくるんだよな。」
「いつもは、霧がかかった俺の頭が、すごく晴れてくるような感覚があったんだ。」
「それでさ、せっかく作ったのに、データのまんまじゃ意味ないだろう?」
「そのうち、佳乃のスマホにインストさせてくんない?」
「え~。やだなぁ」
「何だか怖いよ」
「大丈夫だって、何かあったらすぐにデリート出来るようにしてるし。」
「そもそも、問題を起こさないから。動作確認だけさせてよ。」
「それでスマホ壊したら、メーカーの保証効かないじゃん。多分…。」
「まぁな。でも、そんなこと起こらないから。」
「俺を信用してよ。お願い。」
「わかったわよ。」
「そのうちね…様子見させてちょうだい。」
「おう、感謝する。」
「ところで、クチナシって何するアプリなの?」
「簡単に言えばさ、みんなが気付かない“ちょっとした損”を自動で拾ってくれるアプリ。」
「サービスポイントってさ、ルールが多すぎて、つい、放ったらかしにして、損しちゃうだろ?」
「そういう、放ったらかしを、自動で回収してくれる。起動させとけば、期限切れとかを防げるようになるんだ。便利だろう?」
「まぁ、超簡単に言うと、“お得なポイ活アプリ”だな。」
「へぇ~、そんな凄いの作ったんだ。めっちゃ便利じゃない。」
「孝輔ってば、本当は天才かもよ?」
「だろう?もっと褒めていいよ。」
「たださ、なんかクチナシの大元っていうかさ、“きっかけ”みたいなのって、出先の会社の人のコードなんだよ。」
「パクリじゃないよ。9割は俺が組んだから。」
「ただ、基本的なところで、あれ?ってぐらいの疑問は持たれるかもしれないんだ。」
「でさ、後から、『裁判するぞ』とか言われても面倒くさいだろ。」
「だから、まぁ、佳乃のスマホにインストする一つだけしか作らない。」
「わかった。大ぴらにしなきゃいいのね。大丈夫、内緒にしておく。」
「よろしくな。」
「心配だ」なんて言ったのは、ただ会話の流れだった。