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Photo by40camera

権助は夜明けと共に

    雲呑

    落語の権助提灯って知ってる?

    ある旦那がいて、本妻と妾の家を行ったり来たりしてる。ある晩、本妻が「風が強いし、向こう(妾)の家に行ってあげたら」と気を利かせて送り出す。夜道やから、奉公人の権助に提灯を持たせて一緒に行く。

    ところが妾の家に着いたら今度は妾が「奥さんに悪いから今日は帰って」と言う。しゃあないから戻る。戻ったら本妻が「え、なんで帰ってきたん?」みたいな感じで、また行かされる。

    その繰り返しで、一晩中行ったり来たり。
    旦那は提灯持ちの権助を連れて歩き回るんやけど、最後に提灯の火が消えかけて「おい権助、提灯つけろ」って言うたら、そしたら権助が、

    「提灯には及びません。もう夜が明けました」

    ってオチ。

    実はこれと似たことがあったんよ。

    喫煙者ならわかると思うんやけど、出かけた先では絶対喫煙所探すのよ。
    行き慣れたところなら探すまでもないんやけど、初めて行く場所とかならまず事前に探す。

    喫煙所って一種のセーブポイントみたいなもんでさ、一本吸うて初めて一息つけるんよ。
    やから喫煙者にとって喫煙所ってほんまに大切。

    その日も夜遅くに急遽出掛ける羽目になり、あっち行きこっち行きってしてたのね。

    あっち行っては喫煙所で一服。
    こっち行っては喫煙所で一服。

    それに用事もどっちかと言うと楽しくない系の用事でさ。
    父親の介護問題ってやつ。
    そもそも父親に対して、ネガティヴな思いや感情を抱いてるからこの手の話は結構しんどい。

    働きもせず、昼間から酒に酔っては躾と称して暴力を振るって自己保身の為に嘘ばかり吐く。
    代わりに日中働きに出て帰宅後は家事を卒なくこなすオカン。

    どれだけの苦労がオカンのか細い体に乗し掛かってたか、大人になった今ならあの頃よりわかる。
    わかるからこそ許せへん気持ちと許したくない気持ち。

    でもそのオカンが離婚した今でも、できる限り父親をサポートしてる。
    なんであんなクソにそこまでしたるん?って聞いたらオカンは「後悔を残したくないから」って。

    甘い。
    優しいとかじゃない。
    甘い。
    そしてワガママ。

    オカンが父親に振り回されるたびに俺や姉も付随して振り回されることになる。
    現に夜中に人騒がせな問題起こして振り回されてる。

    ほんまにお人よし。

    それでもそんなオカンやからこそ、俺は大切に思うし大事にしたい。
    俺もオカンに後悔を残してほしくない。

    そのためなら嫌な過去があっても、父親として尊敬できなくても、大嫌いな人間でも手を貸す。

    でもさ、言葉ではそう言えても、気持ちが。

    この問題を乗り越えれたら一段と男前になれるってわかってても感情が追いつかへんのよ。

    感情だけが過去にポツンと取り残されたまんま。
    遠い昔の俺が三角座りしてこっち見てるんよ。

    あぁ、気がつけばもう日も昇るくらいの時間。
    辺りはうっすら明るくなりだして、スズメもちゅんちゅん言うてる。

    最寄駅に降り立った時にはもう立派な朝よ。
    とりあえず、行き慣れた喫煙所に向かう途中で缶コーヒーを買う。

    喫煙所に着き煙草を咥える前に、やっと用事が終わった達成感とワンテンポ遅れてやってきた疲労感と心の葛藤に苛まれつつ大きく深呼吸。

    吸って〜〜〜〜吐いて〜〜〜〜。
    俺は〜〜〜〜男前〜〜〜〜。
    宮崎あおいと〜〜〜〜結婚したい〜〜〜〜。
    深津絵里でも〜〜〜〜可〜〜〜〜。

    早朝ってすごく清々しいんね。
    さっきまでの疲労感もあっという間にどっか行ったし爽やかな気持ちが心に広がる。

    缶コーヒーを一口飲んで目を軽く閉じる。
    こんなに清々しいなら煙草いらんわな。って思った次の瞬間に、煙草に火つけてたからとことん自分が信じられへんくなったね。

    でもそこはさすが心のセーブポイント。
    一息つけた安心感と、朝の冷えた空気と煙草の相性の良さによだれ垂れそうなったわ。

    せやけど、やっと心の奥底にあるなにかが変わりそうな気がする。

    俺の中の夜が明けた。

     
     
     

    雲呑

     
     
    ひっそり書き出す訛りの効いた一人言

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