
「うまくいかない介護と父の日の手紙」
俺は介護の仕事を20年以上やってる。
特別養護老人ホームで働いてるから、
朝早く出勤することもあれば昼から出勤することもある。
もちろん夜勤もある。
そこには何十人と利用してるおじいちゃん、おばあちゃんがいて、歩ける人もいれば、車椅子の人もいる。
病気もそう。色々な症状がある人が生活している。
その中には認知症の方も当然いる。
今日書きたいのは、うまくいった話じゃなくて…
正面からぶつかってもどうにもならなかった話と、この仕事をしてないと絶対に見えなかった景色の話を、いくつかしようと思う。
あと、ずっと言えなかった話も最後に。
家から施設にお泊まりに来るショートステイっていうサービスを利用したおばあちゃん。
「じゃあ行ってきまーす。」
家族に挨拶。
おばあちゃんを送迎車に乗せて施設へ。
2泊3日のショートステイの旅に出発。
荷物はちょっと大きめな旅行カバンに詰め込んだって感じで、家族も車が見えなくなるまで見送ってくれている。
ちょっと物忘れがあるおばあちゃん…
車の中も職員と笑顔で話してて、特に出かけることに対しての抵抗もなくて和やかな雰囲気。
自分の荷物も膝の上に置いていて
「重たいでしょ?持ちますよ。」
って言っても
大丈夫と笑顔で返事するばかり。
天気とか健康の話をしてる間に
施設に到着。
バッグは相変わらず離さない。
「荷物、何を持ってきたか確認させてください」
って言っても自分で持っておくからいいってさ。
結局、午前中はずっと荷物を片時も離さず持ち歩いてる。
無理に取りあげることも出来るけど…
これから何回もショートステイを利用してもらいたいし、スムーズに預かれる方法をみつけたいってのが本音。
さすがに昼食の時間になると、
自分だけ大荷物でご飯を食べに来てるのは変だって思ったのかね。
荷物を部屋に置いてきた。
これはチャンスと
そのうちに荷物のチェックをして…
カバンをそのまま置いておくか…
職員が預かるか…
今回は初めての利用だし預かってみることに。
どのくらいバッグのことを覚えてられるのかとか
荷物がない時どうなるのかを確認できれば…
…
食事が終わって、
皆とテレビを見て話をして…
今のところ荷物がないとか言わずに過ごせてる。
あとは居室に戻ってからどうなるか。
居室に戻ると
「私のバッグがないの!」
ってやっぱり大きな声で訴え始めちゃった。
まぁ、そうなるだろうなとは思ってたけど。
どんなバッグか本人に聞くと
「このくらいのバッグで手提げのついてるやつ」
って持ってきたバッグと大きさなんかは同じ。
あぁ、覚えてるんだな。
たまたまって可能性もあるけど。
今回は
ご飯食べに行く時、誰もいなくなって
荷物がなくなったら困るから預かったよって話してなんとか落ち着いてくれた。
自分で着替えたり、タンスに入れてみたり…
いつかは紛失しちゃう…
みんなで知恵を出し合い
明日は新たな作戦を決行する。
…
その作戦とは
白衣を着て医者になりきれ作戦。
お年寄りは「先生」って言葉に弱い。
だから医者役と看護師で一芝居うつことに。
この案を出してくれた職員は
小さい時に、悪い事をすると親が
「鬼さんに電話するからね!」って脅かされてたのを思い出したらしい。
脅かされてたのをポジティブな考えとして利用しようとか賢過ぎる職員。
白衣を着て、伊達メガネをして、聴診器を首からぶら下げて…
「おばあちゃんどこか悪いところある?」
「たまに息切れするでしょ?」
「重たいものは少しの間持たないように。」
「あのバッグは預かって貰いなさい。」
「わかりました、先生。ありがとうございます。」
って
簡単に納得しすぎだろ。
この人は先生じゃないとか、荷物は自分でとか
もうちょっとなんか言わないの?
しばらくは落ち着いて過ごせてたけど、
夕方になって帰りたくなったみたいで…
実は荷物云々よりも帰宅願望の方が厄介でした。
外が暗くなると家に帰らないとって思うのは当然なんだろうけどね。
荷物については
毎回お医者さんの登場も大変だし、手元に自分の物があった方が落ち着くだろうってことで、
次のお泊まりからは
本人用の小さい手提げバッグと
本人には見えないようにこっそり車に積む着替えとか入ったバッグを用意してもらうことに。
家族も
「無くなってもいい物しか持たせてないので、そんなに気にしないでください。」
って言ってくれて、
あぁ。
こういう風に言ってくれる家族は、ほんと理解してくれてるんだなぁって感じる。
家でも物への執着が酷いことがあるから、外ではもっと大変なんだろうって思ってくれてたみたい。
利用者本人の介助なんかが多少大変でも、家族の理解があるだけで、一緒に介護してる気がするし、安心感が全然違う。
大変なことをわかってくれてるから、
それでも施設ではこんな事が出来たぞーって良い報告が言えるくらい頑張りたいと思う。
長く利用してもらって、そのうち特養へ入ってほしいなぁと思た出来事でした。
そして、これは俺が新人の頃の話。
だから20年以上時代は遡る。
それでも施設には、また違う車椅子を使うおばあちゃんがいる。
なんで高齢者ってみんな好きなんだろう
トイレットペーパーとティッシュ。
俺の偏見かもしれないけどね。
でも、自分の祖父母からお小遣いもらう時にティッシュに包まれてたことを思い出しちゃう。
そんで施設のおばあちゃん。
ティッシュは使う分だけにしてねって言っても
返事は「はいよっ」っていうのに取っては畳んで取っては畳んでを繰り返す。
なくなったら諦めてくれるかと思ったら大間違い。
なくなったらちゃんと
「紙がないよ」って知らせてくれるもんだから、
こちらも用意してあげなきゃなってなる。
いっぱい持ってるでしょって言うと機嫌が悪くなる。
んー、まぁ俺でいうスマホみたいなもんか。
なきゃ不安になる。
あると安心できる。
まぁそう思ば共感できなくもない。
それで、持ち帰った紙はどうしてるのか…
枕の下に入れて保管。
部屋のゴミ箱に紙はないし使った形跡なし。
でも待てよ。
持って行った量とと枕の下の紙の量が全然合わない。
その方が車いすでトイレに行ってる時、他の職員が声かけて時間を稼いでもらい捜索。
タンスの引き出しの中。
いつも持ち歩いてる中身のないハンドバッグ。
着替えをした服のポケットの中。
出るわ出るわ。
声かけして時間を稼いでくれてる職員も本人に
ティッシュある?足らなかったら言ってねっ
て話したら、
上着を少しめくって、ズボンのゴムのところに挟まれたティッシュを自慢げに見せてくれたらしい。
それと車いすの座布団の下にも。
一度使ったであろう紙も一緒になってた。
こりゃ衛生的にもよろしくない。
どんどん増えていくし回収しなきゃだけど…
本人に話したら機嫌悪くなるし…
納得するまで話す………
おばあちゃんが納得する未来が見えない。
どうしたらいいものか。
半分だけ回収させてもらおう!
全部片付けるって話しをしてから、じゃあ半分って言えば納得してくれるかも!
…
…
うん。納得はして貰えなかった!
後日、違う先輩職員がおばあちゃんと話して回収成功。
どうやって回収出来たんですか?って聞くと
普通に声かけて出来たよ。
ある程度貯まってきたら回収してるし。
そうそう、洗った本人のタオルを持っていってね、それをタンスにしまうねって話してタオルを入れる時にティッシュを回収しちゃうの。
タオルが入らないからちょっとティッシュ減らすよって。
タオルが入らないのも困るみたいだからね。
だって。
声かけの仕方が悪かったのか、タイミングが悪かったのか…
タオルと引き換えとは考えなかった。
真正面から普通に話すだけじゃうまくいかないのねぇ。
新人の頃の俺、上手く出来ないこと多いわぁ。
頑張れ自分。
帰宅願望が強めな男性のご利用者の話。
「タクシー呼んでくれよ」と夕方に訴え多くなり、タクシー乗り場で待ってるおじいちゃん。
ショートステイで泊まりに来てる男性利用者。
認知症で帰宅願望がある。
施設に泊まって朝を迎えるんだけど、
朝は帰りたい感じは殆どないの。
おやつを食べ終わった頃からだんだんソワソワしてくる。
それを決定づけるのが上着と帽子。
ちょっとハイカラなおじいちゃんはお出かけしたい時に上着と帽子を身につける。
だからソワソワしてるうちはまだいいが、帽子まで被ったら危険信号。
どこか開くドアはないか廊下をウロウロとし始める。
ドアがあれば一個一個確かめて、ガタガタ強めに開けようとする。
職員も声をかけるけど、帰るんだからとドアを開けるのに必死。
そんなときに時々言うのが
「タクシー呼んでくれよ」
って職員に言うことがある。
お金持ってるの?
どこまで帰るの?
タクシーの電話番号わかる?
とか声を掛けたくなる。
雨が降ってれば、濡れちゃうよ!
寒ければ、風邪ひくよ!
とか
なんだかんだ言って外に行くのを阻止しようと職員も声をかける。
相手も強者で
「タクシーだから家の前まで送ってくれるから寒くても大丈夫。」
「濡れても家の前からだから大丈夫」
確かに(笑
今までの入居者だと
バスで帰るとか、迎えに来てもらってとか言う人がほとんどだったから、風邪ひくとか暗くなってきたからとか、バスの時間終わっちゃったとか言い訳してなんとかなったけど…
タクシーって夜中までやってるし
呼べばくるし
お金も下手したら自宅に着いてからお金用意して払えちゃうかもしれないし。
職員が言い訳するの難しくない?
だんだんソワソワする時間が来る…
あぁ、また始まったぁと嫌な空気に…
おじいちゃんの対応が最近大変になってきたねって話しを介護職員同士で話してる時、
何かと用事を作ってちょこちょこ仕事を抜ける若い男性介護士がいるんだけど
「タクシー乗り場作ったら、そこで待ったりしません?作りましょうか?」
って提案。
老人ホームの廊下にタクシー乗り場作って、タクシーが来ると思うか?
またサボる口実だろ?
なんて皆んな言うかと思ったら
やってみようかぁって前向きでビックリ。
業務を抜けて1人で作るのは大変だからって
2人くらいが1時間ぐらい抜けられるように皆んなで仕事を分担して時間を作ったり、
面白そうだからって、休みの日にお菓子を持ち込んで一緒に作り始める子もいて。
皆んなで協力してやってるこの一体感。
文化祭準備みたいで懐かしい。
こうゆうやる気のある時に、
「いいじゃん、作っちゃいなよ」って材料を買ってきてくれる施設長。
普段は偉い人だからちょっと近寄りがたい気もするけど、今回はいい人。
スーパーにいって段ボールを集めて、
初めはカッターで段ボールを切ってたんだけど、
100均にダンボールカッターっていうのがあるっていう主婦介護士の助言で購入。
嘘のように切れ味抜群。
作業のスピードがあがりまくりで
3日くらいで完成。
タクシー会社の名前、電話番号まで書いてある。
本物っぽく見せるために立体で作るあたり本気で作ったんだなって感じる。
出来の良さに皆んなで拍手。
皆んなで作った達成感でおじいちゃんの為に作った事を忘れちゃうくらい。
一旦片付けて
夕方…
不穏になり始めたところで
再度設置。
タクシー乗り場の看板的な物だけだと立ってなきゃいけないからって
事務所から長椅子を拝借。
ほんと本格的。
段ボールだとは思えないくらい。
待ちに待ったその瞬間…
…
座った。
嬉しくて、無駄に職員が声をかけに行くもんだからおじいちゃんも何事かなと困り顔。
少しでも座ってくれる時間が出来て良かった。
若い子の発想力と行動力。
今回の件で、何かあれば作ろうみたいな空気になってて、
次はバス停を作るかもしれない。
祭り用にお神輿もとか話は膨らむばかり。
そんな幸せな時間も束の間…
おじいちゃん
座ったはいいものの、なかなかタクシーが来ないもんだから職員に
「電話してくれよ、番号は1234」
ってお願いするように…
本格的に作ったのが逆に仇になったぁぁぁ。
電話が繋がらないって話すと、今度は自分で電話するって電話を探し始める…
次は公衆電話を作らなきゃだよー
また文化祭が始まる予感?(゚ρ゚)ノ
その日は事務所に内線をかけて、おじいちゃんと事務員で話してもらった。
もちろん事務員がタクシー会社役でね。
こうゆうのは嘘も方便ってやつよね。
眠れない男の話。
今日は夜勤。
老人ホームの夜は長い。
夜でも眠れない人もいる。
静かな夜であってくれと願いながら出勤する。
それがフラグ。
そういう時って何かが起きちゃうもんだ。
タイムカードを押して現場へ…
すでに鳴ってるナースコール。
あぁ、今日も忙しいかなぁなんて思いながら廊下を歩いてると…
ステーション近くの椅子におじいちゃんが座ってるのが見えた。
物忘れがあって、頑固なおじいちゃん。
自分ではなんでも出来るって思ってる。
あっ、今日は大変な夜だ。
一瞬で悟った。
1人で歩けるけど、フラフラしてる。
施設って家と違って廊下の幅が広い。
トイレだって車椅子が入るように広くなってる。
ちょっと転びそうだからって
手を伸ばして壁にもたれることが出来なかったりする。
手すりを掴んで歩くなんてしてくれるわけがない。
しっかり歩いてると本人は思ってるんだから。
だから
歩いていれば付き添う。
もう時間は23時…
眠たくないんですか?って声をかけると
「寝るよ、おやすみ」
ってまさかの返事。寝ないよって言われると思ってたから。
一緒に居室へ行き、ベッドに横になってもらって、
寝てくださいねと気持ちを込めて掛布団をかけてあげる。
「おやすみなさい」
って挨拶をして居室を出てステーションに戻る。
ドアが開く音がして
振り返るとおじいちゃんがドアから出てきてる。
寝るんじゃないのかよっ
って思いながらも
どうしたんですか?
って聞くと「トイレ」って返事。
トイレの場所もわからないことがあるから付き添わないと。
「ジョロジョロジョロー」
ってみんなが寝て静かな施設内に聞こえてしまう音。
でも、しっかりとおしっこが出てるって確認も出来た。
お部屋に行って寝ましょう
って声をかけると
「そうだな」って言って、また居室に戻る。
さっきと一緒。
布団をかけておやすみなさいの挨拶。
布団をかけて居室を出る。
寝ててくれよと思い居室のドアを少し開けて様子を見ると、掛け布団をかけてる。
寝てくれるなと安心してその場を離れる…
ステーションに戻る最中に
またドアが開く音が…
おじいちゃん
寝たんじゃないのかぁい。
どうしました?って声をかけると
「トイレ」
さっきと同じ展開。
残尿感があって行きたくなるかもしれないしと思い再びトイレへ。
ジョロジョロの音は全く聞こえないけど
終わりました?って聞くと、終わったよって返事が返ってくる。
出てないのに?
また同じように部屋に帰って布団をかけて…
おやすなさい。
二度あることは三度ある。
「トイレ」
別におじいちゃんもふざけてるわけじゃない。
自分の思う通りに行動してるだけ。
同じ事を繰り返してもと思い
「さっき行ってませんでした?」
って聞いてみると
「行ってないよ」と答えは返ってくる。
でしょうね。
でも、ここで何も考えないのは介護士じゃない…
トイレに行きたいから起きてくるのか…
眠れないからトイレに行くのか…
ちょっとでも疲れれば寝れるかもしれない。
近くのトイレじゃなくて
ちょっと離れたトイレまで…
あんまり話しかけると覚醒して眠れないのかもしれない。
声かけも最低限で…
その後も何回か繰り返したけど…
やっと寝た。
0時を回ってる…
やっと寝てくれた安心感からか
どっと疲れを感じるわぁ…
遅れをとったから
バタバタで出来なかった他の仕事をやらなきゃで頑張る俺。
おじいちゃんの事が頭から離れかけてきたとき
ただいまの時間深夜2時…
ドアが開いた。
おじいちゃんが顔を出す…
「トイレ」
…
また始まるのかぁ。
次はどうやって寝てもらおうか…
トイレに連れて行くのは何ともない介助だけど…
何度も何度も起きてくることに対して、
またかよってイライラせずに、毎回が初めてのように介助する…
体力的には問題ない…
どちらかというと
精神が削られるのを必死に保たないと…
正面突破できない話ばかりしてきたけど、介護の仕事をしてると、こういう景色も見える。
「足りますか?」っておやつを貰いそうになってて、
ダメダメって職員が慌てた話と見せかけて…
特別養護老人ホームに入所したおじいちゃん。
物忘れは無いけど、足の悪いおばあちゃんとの2人暮らしは難しかったみたい。
スタスタは歩けないけどヨロヨロ歩いてる。
ちょっと危ないかなぁと思うけど、転倒したことはないんだって。
いつも、ニコニコしてるけど、お腹が空いたぁってよく言ってて、人の食べ物も取って食べちゃいそうになってる。
認知症状があって、食べちゃいけない物を食べないかとか心配なことも…
でも社交的で、会う人会う人に
「おはようございます」って挨拶してるのが印象的。
そんなおじいちゃん、
食堂で向かいの席になったおばあちゃんと仲良く喋ってる。
「このお魚食べました?美味しいですよ」
「俺にはなかったなぁ、いいですねぇ」
「じゃあ少し差し上げますよ」
っておばあちゃんが。
おいおいっ、って職員が止めてた。
この前は他のおばあちゃんから
「おやつ足りました?これ食べます?」って
食べきれなかったやつを貰いそうになってたし。
色々なおばあちゃんが、お裾分けしようとしてて目が離せない。
なんでそんなにもらえる?
なんでそんなに人に好かれる?
やっぱり自分から挨拶したり、話しかける積極性が大切?
それとも笑顔か?
たまに気が向いた時にハーモニカ吹いてるんだけど、それもいいのかもね。
ハーモニカを吹いてると自然と人が何人か集まるし。
でもね、
そんなのも長くは続かないのよ。
3週間ぐらいして
新しく入居してきた人がいて、それまでとは違うというか…
おばあちゃんと食堂で楽しそうに話してたけど、なんかちょっと笑顔が少ないなぁ。
ハーモニカ…
やるの少なくなったなぁ。
でも凄い笑顔の時もあるんだけどね。
それはなぜか…
それは奥さんが入所したから。
あまり社交的ではない奥さん。
喋るのは旦那さんとばかり。
おじいちゃん…
奥さんがいると旦那の顔になる。
奥さんの姿が見えないとよそ行きの顔になる。
最初の明るい感じのおじいちゃんしか見てなかったから、あれ?って思ったけど…
こっちが普段のおじいちゃんなのかもなぁ。
おやつを食べる時も、少しお茶をこぼしたりすると奥さんが拭いてたり…
車いすの奥さんだから
タンスの整理する時も奥さんのこと手伝ってたり…
旦那の肌着が見えてるとズボンの中に入れてあげたり…
あげればキリがない。
見てて
夫婦やってんなぁ
って思った。
性格が全然違う感じでも何十年も一緒に過ごしてきたってのは凄い。
片方に物忘れあって、奥さんの事わかってるのなわかってないのかって時があっても
性格を知り尽くした奥さんの言うことには耳を傾けてるし。
奥さんの指示に従順なおじいちゃん。
自分を見ているみたい。
いやぁ
自分の何十年後…
こんなに一緒にいるかなぁ?
会話はあるかなぁ?
そもそも一緒にいるかなぁ?
じゃなくていてくれてるかなぁ?
なんて考えさせられる…
普段見ることのない他所の夫婦の素の姿。
愛なのか情なのか…
どちらにしろ一緒にい続ける事が凄いと思った。
おしどり夫婦。
現場の話をいくつか書いてきた。
でも実は、正面突破できなかったのは現場だけじゃなかった。
うちの息子が少し大きくなって、
小学校2年生ぐらいの時、
「パパって仕事してるの?」
って聞いてきた。
急にどうしたのかなと思って
「なんで?」
って質問を質問で返すと、
「パパいつも寝てるでしょ?仕事してるの?」
子供だから気を遣うなんてないから
思った事を言ってくれる。
たしかに夜勤の前は寝てから出勤してる。
子供が学校から帰ってくる時間に寝てる事も多い。
子供が寝てから出勤する…
夜勤明けで
子供が寝てる時間に帰ってきて、
起きたときに父親が寝てたら
「まだパパ寝てる」ってなるかもしれない。
子供から見たら一年中
ゴロゴロしてるダメなお父さんに見えてるんだろうなぁと思いながらも、
「仕事の時はテキパキ動いてるんだぞぉ」
なんて明るく話をすることも。
「えぇー、信じられない」
と無邪気な笑顔で話してくる。
結局、何の仕事をしているかは教えなかった。
このときは教えたいと思えなかったから。
子供もそれ以上は聞いてこなかったしね。
でも4年生ぐらいになると
だんだんと物事の理解もできるようになってくる。
仕事に行ってないとは思ってないけど、どんな仕事をしているかはわかってない。
自分も仕事の話は子供の前でしないようにしてた。
介護の仕事ってバレないように。
別に介護の仕事自体が恥ずかしいとは思ってない。
昔の上司に
「今は若いけど、歳をとってから介護の仕事してて、オムツ交換してるって子供に言えるか?出世して現場から離れた方がいいぞ」
って言われたのを思い出したけど、
その考えは俺には理解できなかったし、オムツ交換含め、やってる仕事を嫌な仕事と思った事はない。
だから20年以上続けてる。
でもまた子供から
「パパの仕事なに?」
って聞かれて
つい口から出た言葉は
「接客業だよ」
だった。無意識というか頭の中をフルスピードで働かせたのかわからないけど、
咄嗟に発した言葉は接客業。
入居者やご家族を相手にしてるんだから間違いではないと思うけど、
介護の仕事をしてる人からすれば、
接客業とは言わないでしょ。
老人ホームで働いてるよ。
おじいちゃんおばあちゃんのお世話してるよ。
介護の仕事なんだから介護って言えばいい。
とか思うかも。
でも言えなかった。
…
なんでだろう
…
…
…
何でか考えて答えは出た。
介護の仕事は賃金が安い。
言えない理由はこれだと思った。
介護士の給料は安いっていうニュースをよく見かける。
確かに自分の給料も20年働いてるのに高いとは思えない。
それとは対照的に
夏のボーナスの平均は◯◯◯万円
大手企業のベアは◯万円アップ
新入社員の初任給が大幅に増額
介護の仕事をしていると、全く想像もしないような金額の話がわんさか。
大手企業の初任給のニュースなんか見たくもないと思うこともあった。
20年働いてもこの金額なのかと考えさせられる。
子供もわかる歳になって
介護の仕事をしてるからお金がないんだと思われたくないっていう意識がそうさせているんだと気づいた。
何でも買ってあげるわけじゃないけど、人並みにとは思ってやってきたつもり。
贅沢は出来ないかもだけど。
でもそんな子供が
「パパの仕事なに?」って聞いてこなくなった。
何でだろうって思ってたんだけど、
父の日に
「いつも、お仕事してくれてありがとう。おじいちゃんおばあちゃんのお世話するの大変だと思うけど頑張ってね。」
って手紙をくれた。
読んで目がうるうるすると同時に知ってたんだと思った。
子供が寝たあとに妻が自分に、
「そろそろ話してもいいかなと思って話したよ」って。
子供には仕事のこと言わないでって言い続けてたのに。
コロナで大変だった時期に、
自分が感染するかもしれないのに、
それでも人の面倒を見てる仕事なんだよ。
って話したらしい。
お金のことを気にしてばっかりだった自分がちょっと恥ずかしかった。
でも
こうやって理解してくれる人がいてくれて、それを伝えてくれた事に感謝しなきゃと思った。
20年働いてきてよかった…
今まで、父親の背中を見せられていなかった気がする。
でもこれからは、
少しでも大きく見えるように、胸を張って働いていきたい。
現場でも家でも、正面突破できないことがたくさんある。
何も考えてなければ
何も怖くなくて、何も気にしないで
やりたいようにやれると思う。
でも、
自分をよく見せたい。
相手に嫌われたくない。
仕事だってプロとしてやっていきたい。
色々な事を考えてるから壁にもぶつかる。
ぶつかりそうなら避ければいい。
ひとりじゃない。
家族や職場の仲間…
危なければ手伝ってくれるし
そっちじゃないよって教えてくれる。
正面突破だけじゃない。
20年働いてきて
やっと気づいたことかもしれない。
この仕事が好き。
1年でも、1日でも長く続けていきたい。