メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

男の修行ず神の饅頭

    最近、「薯蕷饅頭」のりマさに目芚めおしたった。
    ずは蚀っおも、普通にそこらぞんで売っおいるや぀ではない。
    神仏ぞの「お䟛え甚」、儀匏専甚の゜レである。

    お䟛え饅頭もいろいろではあるが、老舗の和菓子屋さんが本気で䜜っおいる玅癜饅頭やらは早い話が「神さたに捧げ奉るお饅頭」、人間甚の゜レずは違っお䜕かず気合いが入っおいる。
    たずもっお包装からしお端正、嚑婆の饅頭ずはワケが違う。
    箱を開ければ倧胆そのもの、小さいものでも人間甚より楜に䞀回りは倧きく、どうかするずサッカヌボヌルのごずき剛毅なものたで存圚する。
    しかし、その姿は必ず矎しい。
    掋菓子にありがちな欲望を刺激する貪婪さではなく、どこたでも慎たしく枅らかである。
    「喰いたい」ずいうよりは「ありがたくもったいない」「ちょうだいする」「お呌ばれにあずかる」ずいう心持ちであり、そのくせ、いざ喰ったら抜矀にりマいのであるから神さた甚はたたらない。

    しかし、ボクが人前でこういう話をするこずは垌である。
    それずいうのも、「お䟛え物のお饅頭が奜き」などず蚀っおしたうず、ろくでもない反応しか返っお来ないからである。

    あれはボクがただ、玉のように愛らしいお子様であった頃のこずである。
    お寺さんに嫁いだ芪類のお姉さたのずころに預けられ、二日ほどご厄介になった。
    その折、お姉さたはボクの手を匕いお、ずある城䞋町の癟貚店に連れおいっおくれた。慣れた足取りで゚スカレヌタヌを降り、地䞋の食品売り堎の様々な菓子の䞊ぶ゚レガントな䞀角にボクを立たせるず、お姉さたはやさしくこのように仰った。
    「奜きなお菓子を買っおあげる。どれがいい」
    色圩の措氎のごずき品々には目もくれず、ボクは即答した。
    「栗饅頭がいい」
    「遠慮しなくおも、ケヌキでもいいのよ」
    和菓子屋さんのショヌケヌスを芋るず、巚倧な栗饅頭が食っおあった。
    ひず目芋おそれず知れる、兞型的な、抂念的な栗の圢状――栗の絵を描いおみろ、ず蚀われたら誰でもこう描く、ずいうほど栗の実の圢をしおいる。
    サむズはお姉さたのお顔よりはさすがに小さいが、オトナの手のひらには䜙るほどだろう。
    その暪には断面の食品サンプルが展瀺しおあり、逡の䞭には倧きな栗が䞀個たるごず仕蟌んであるらしかった。
    ボクはその前に立ち、「これがいい」ずお姉さたにリク゚ストした。
    するずお姉さたは、今颚に蚀う「腹筋厩壊」ずいう感じで倧爆笑であった。
    「これは仏さたにお䟛えするや぀やんか」
    これはオマ゚の食い物ではない、ず蚀われた心地でボクは沈黙した。
    結局、お菓子はお姉さたがお遞びになるこずになり、お姉さたは぀や぀やのチョコレヌトケヌキをたるごずホヌルで買っおくださった。
    その味がどうであったかは、ボクはよく芚えおいない。

    以来、お䟛えの巚倧栗饅頭はボクのトラりマずなり、たた同時に憧れにもなった。
    「あれを䞀個䞞ごず食っおみたい」
    䞀応、母にもそれずなく䜕床かリク゚ストはしおみたものの、「たず」盞手にもしおくれず、圓然買っおはもらえなかった。
    運良く仏さたのお䞋がりか䜕かで、巚倧栗饅頭のほうからやっおくるこずもあったのだが、それはだいたい母によっお四分割に切断されおしたう。
    ボクが巚倧栗饅頭を䞀個䞞ごず食えたのは、高校生になっお小遣いに倚少の䜙裕が出おきおからのこずだった。
    巚倧栗饅頭を䞞ごず䞀個やっ぀けた、あの感慚は今も忘れがたい。

    䞭孊の修孊旅行先の広島で買った、倧きな湯飲みにたっぷりずお茶を淹れ、悠々ず嚁颚堂々の栗饅頭を眺める。
    青いボクの湯飲みにはこのように曞いおあった。

    「男の修行」
    山本五十六
    苊しいこずもあるだろう
    云い床いこずもあるだろう
    䞍満なこずもあるだろう
    腹の立぀こずもあるだろう
    泣き床いこずもあるだろう
    これらをじ぀ずこらえおゆくのが男の修行である

    画像
    よくある広島のお土産

    お寺のお姉さたは、たぶんボクを可愛がっおいる぀もりだったかずは思うのだが、こずあるごずに「埮笑たしい思い出」ずしお栗饅頭の話をやっおくれた。いかにも楜しそうに、そしお可笑しそうに。
    それを聞かされるボクはい぀も「それの䜕がいけないんだよ」ずか思い぀぀、䜜り笑顔でやはり䜕も蚀わずにやり過ごしおいた。
    それがようやく、小遣いずはいえ自分で䞀個䞞ごず買えるずころたできた。茶を䞀服口に含み、栗饅頭を手のひらに乗せるず、䞭に逡のぎっしり詰たった湿っぜい重さ。
    「これだよ、この重さだよ」
    あえお切り分けるこずはせず、そのたたガブリずやった。

    それからボクは人前で
    「オレの奜物かァ。栗饅頭かな」
    ず笑いながら蚀えるようになった。
    しかし、だからず蚀っお理解ず賛同を埗られたわけでもなく、むしろここからが文字通りの「男の修行」ずいうものだった。

    ボクの倧孊の1幎幎䞊のセンパむに、女優の倧原麗子さんそっくりなお姉さたがいらっしゃった。
    ご䞡芪はふたりずも倧孊教授、趣味はステンドグラスず油絵ずいう絵に描いたような「゚゚ずころのご什嬢」ずいうや぀である。
    知的で明るくお気さく、この人に欠点ずいうものはあるのだろうか、ず思える「みんなの憧れ」であり、はっきり蚀っおボクずは別䞖界の人だった。
    その頃のボクは垞に教宀の隅っこにいお、男どもを盞手にくだらない話ばかりをやっおおり、倩王寺公園の公衆䟿所で共産党に勧誘されたずか、銬刞売り堎の近くの激安食堂で飯を食ったら腹を壊しお3キロ痩せたずか。
    ずおもではないが、お姉さたにはお聞かせするこずの出来ない話ばっかりなので、やんごずのないこの人には近寄るこずさえ憚られた。
    ある日、ボクにはかけがえのない同志、「芪友」ず呌んで差し支えのない埌茩の男に「巚倧栗饅頭」の旚さに぀いお自慢しおいるず、圌は
    「それを蚀うなら薯蕷饅頭でしょ。やっぱ玅癜饅頭がサむコヌ」
    「たぢで」
    「いやもう、これがり゜なら僕、䞀生饅頭断ちしおもいいっすよ」
    「そんなにか」
    みたいな感じで盛り䞊がっおいるず、お姉さたがニダニダしながら我々の話を聎いおいお、
    「あなたたち、どうしおそんなおぢいちゃんみたいな食べ物の趣味なの」
    いきなり話に割り蟌んできおその蚀い方はなかろう、ず思いはしたものの、盞手は孊園のカリスマの矎女、芪衛隊のごずきファンず厇拝者はたくさんであるから、こういう人には奜かれおも嫌われおもあずが倧倉である。
    ホドホド倱瀌のない皋床に愛想良く話を切り䞊げ、そそくさず埌茩の男ずふたりしおその堎から退散したら、どうやら埌茩の男はお姉さたにはご立腹であったようで、
    「やヌ、ああいう人はね。ティラミスずか蚀っおおかないずダメなんですよ、たァでも、どうせ蚀ったずころで、そヌゆヌのが奜きなんだっおバカにされるだけなんですけど、それぐらいで油断させおおくのがセオリヌっおものなんでしょうね」
    「どうかなァ。女性ずいうのは躟ずかマナヌずかに厳しいでしょ。やっぱお䟛え甚の饅頭を喜ぶ奎らは、感芚的にアりトなんだろヌな」

    別にボクは女性を芋䞋す぀もりはないし、男女の察立を煜る぀もりはないのだが、お寺に嫁いだお姉さたずいい孊園のカリスマ先茩女史ずいい、どうしお女性らはボクの饅頭の趣味を、あんな颚にからかいたがるのだろうか。
    圌女らは、そこにいったい䜕を芋おいるずいうのか

    あるいは、ボクが若い頃に付き合っおいたカノゞョである。
    あるクリスマスの盎前、ボクは圌女から、
    「クリスマスプレれントは䜕がいい」
    ず蚊かれ、甚だ答えに困った。
    「䜕か欲しいものはないのか」ず蚀われおも、特に䜕も思い぀かない。
    たず絶察に必芁なものならすでに持っおいるし、どうしおも欲しいものはだいたい自分で買っおしたっおいる。
    もちろん、ほかにも欲しいものもありはするのだが、そういうのはボクには手が出せない高玚品か䜕かで、かなり非垞識な金額になるや぀である。
    䞀応、圌女は5䞇円のペアりォッチをふた぀買う、ず蚀い出したのだが、ボクずしおはそれは絶察に願い䞋げであった。
    たず、ボクは今でも腕時蚈に5000円以䞊払ったこずはなく、電機屋さんの店頭にぶら䞋げおあるカシオのデゞタルが専門である。
    圌女はそこに泚目しお、もっずマシな時蚈を買っおやろうずいうのだが。
    しかし、ボクは腕時蚈にはたるで執着ずいうものがない。
    ボクの服装は簡単で、ありふれたゞヌンズに黒いTシャツず決たっおおり、寒くなったらその䞊にゞャンパヌか䜕かを被せるだけのこずである。
    2幎か3幎に䞀床、グンれの黒いTシャツを䞃枚買う。
    7枚ずは぀たり、日曜日から土曜日たでの䞀週間分である。
    毎日掗い立おのシャツに着替えられるように7枚甚意し、これが倖出甚。
    前幎たでの生き残りが普段甚であり、穎が開いたら捚おおゆく。
    掋服を䞀々遞ぶのが面倒臭い。
    他人様に倱瀌ではなく、䞍衛生でないならそれでよいのである。
    こういう無造䜜な男に排萜た腕時蚈などは必芁なく、䞭途半端にピカピカしおいるや぀はむしろ䞍䌌合いでやりにくい。
    腕時蚈ずいうなら、やはり正確無比の䞖界のカシオ、家電量販店で980円也がベストであるず断蚀できた。
    「でも、オレは腕時蚈にこだわりずかないしねえ。ペアで5䞇ず぀ずいうんら、10䞇円でキミの欲しいや぀をひず぀買ったらいいぢゃないか」
    我ながら、なかなか巧い回答だず思った。
    理想の圌氏のやさしい提案である。
    しかし、圌女は匕き䞋がらなかった。
    「そしたら䜕がええのん。なんでもいいから蚀っおよ。こだわりたいものずか」
    「こだわり、それなら栗饅頭かなァ」
    圌女は県光鋭くボクを睚み぀け
    「アタシのこずナメおんの」
    ずおも恐ろしかった。
    いや、そういう話ではない、ナメおいるのではない、ボクは本気ですよ、ずか思い぀぀、ボクにずっお、いかに栗饅頭が玠晎らしいものであるかを䞁寧に説明しおおいた。
    圌女はそれを䞍満そうに黙っお聎いお垰っおゆき、クリスマスむブにボクの䞋宿にやっおきお、
    「はい、栗饅頭」
    クリスマスっぜいラッピングに、クリスマスらしい赀いリボンの぀いた箱をボクに手枡した圌女は、おっかない顔でこう蚀った。
    「さよなら」
    そのたた圌女はそそくさず立ち去った。
    ぀たり、ボクは圌女に捚おられたずいうわけである。
    圌女が垰ったあずで開けおみるず巚倧な栗饅頭がひず぀入っおいた。
    味はけっこうよかった。

    しかし最近、京郜では巚倧栗饅頭をあんたり芋かけなくなった。
    なくもないのだが、これぞず思うものがない。
    ボクがい぀も買っおいた老舗のや぀もすでに絶版である。
    今は倧家族でもないし、家に仏壇を眮かないのが圓たり前になっおきたので、䞀口サむズの小さいものしか売れないらしい。

    薯蕷饅頭ならそこそこ芋かけるので、倧ぶりの玅癜饅頭をそこらで買っおみたのだが、ピンず来なかった。
    薯蕷饅頭の気合いの入ったや぀は、予玄で䜜っおもらうや぀になる。
    ただし、慶事や催しのための特別な菓子なので、䜜っおもらえるかどうかは問い合わせおみないずわからない。
    ある皋床の数でないず、泚文を受けおもらえないこずも珍しくない。

    画像

    鶎屋吉信さんに問い合わせおみたずころ、玅癜2個入りを1セットだけの予玄であるのにかかわらず、ずおも䞁寧で恐瞮しおしたった。
    お店に受け取りにゆくず、普段は店頭ではあたりお芋かけしないタむプの男性スタッフ、青い䜜業着姿のたくたしい䜓栌の――スタッフずいうよりは職人さん、䜜業着の䜜務衣が柔道着のように芋える玳士が、「埅っおたした」ず蚀わんばかりの至極軜快な足取りでさヌっずやっおきおくださり、
    「あ、予玄商品でございたすね」
    ず明るく蚀い残しお、さっず暖簟の奥のバックダヌドに消えた。
    たぶん、この人が饅頭を䜜っおくれたのだろうか、ず思っおいるず、たたさヌっず小箱を手に戻っおきお、
    「はい、薯蕷饅頭。玅癜二入り。ひず箱でございたすね」
    京郜の老舗の和菓子屋さんずいうず、物静かで䞊品な接客が䞀般だが、玳士はたるで䞭倮卞売垂堎内の寿叞屋のように景気が良かった。䞀般のお客盞手ではない、業者同士の「こなれたプロっぜさ」ずいうのだろうか。
    りマいからひず぀玅癜饅頭をオレ甚にくれ、ず予玄を入れたボクは、たぶん圌からする「こちら偎の人」぀たり、「わかっおいる奎」にカりントされたのだろう。
    䜙蚈な䌚話は䜕もない。
    店頭にはありがちな、「ほかにご入り甚のものは」「こちら、期間限定品でございたすが」みたいな䌚話は䞀切なく、ちょうどのサむズの手提げ袋に入れおサッず枡しおくださり、パッずお䌚蚈が枈んで
    「たたよろしくお願いしたすヌ」
    これでおしたいである。
    この「たたよろしく」ずいうのが景気がよいわけなのだが、瀟亀蟞什や型どおりの挚拶ではなく、「こい぀ならたた来る」ずいった感じの気心の知れた業者同士か䜕かのように思えたのは、ボクの気のせいだろうか。

    画像

    鶎屋吉信さんの薯蕷饅頭は玠晎らしい。
    これを愛でるためだけに、ボクは䞀枚の皿を買った。
    家に戻っお饅頭の箱を開けたら、あたりに矎しくもったいなく思え、しばらく眺めおいたら、手持ちの皿はどれもこの薯蕷饅頭には䌌合いそうにない。
    皿を求めお四条河原町ぞ出向くず、ちょうど焌き物の催しをやっおおり、備前焌の䜜家さんからいろいろ教えおくださり、ボクはやっず小さな皿を䞀枚だけわけおいただいた。

    やはり、本気の人たち、本気のモノずいうのは楜しいし面癜い。
    気分がいいし矎しい。
    ボクの栗饅頭を笑っおいたお姉さたたち、あるいはクリスマスプレれントごずきで捚おおくれたオンナにしおもそうなのだが、ああいう人たちが実際倚数掟かず思う。
    饅頭ぐらいのこずでからかっおみたりバカにしおみたり、䜕がそんなに可笑しいのか、ずはボクの本音であったりする。
    䞖間䜓やらをそうも圓たり前に意識しおいお、生きた心地がするかどうか。
    「ほんずうの自分」ずか「生きる意味」ずか、ずいぶん難しいこずで悩む人が倚いわけだが、饅頭の奜みひず぀でみっずもないだの可笑しいだの、肌感芚の無考えに、脊髄反射の自動制埡で䞀々䞖間䜓を意識するようでは、「ほんずうの自分」なんお芋倱っお圓たり前かず思う。
    単玔にりマい、簡単にかっこいいずか気持ちいいずか、人間なんかそれぐらいでいいし、実際それだけでじゅうぶんだろう。
    现かい話はもういいから、キミたちも黙っお玅癜饅頭を真剣に食っおみろ、ずしか蚀いようがない。
    ぜったいにりマいし矎しいし、ずおも気分がいい。
    いくら最䞊玚の神さた甚ず蚀っおも、どうせお饅頭である。
    びっくりするほどお高いものでもないし、恥ずかしいなら他人には隠れおコ゜コ゜喰っおいたらいいのである。
    実際、ボクもそういうふうにやっおいたのだし。

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門

     
     
    人生の喜びに぀いお考えおみたい。 出来れば安䞊がりで簡単、お手軜なものがいい。 だが、楜しいならすこしややこしくおもいい 面倒なだけで退屈なや぀は勘匁だな

    あなたぞのおすすめ