
ほどほど働く人
林 倫子、35歳。一児の母。
仕事して、家に帰って、子育てして、眠れない夜があって、散歩もする。
そんな日常の切り抜き。
第1話 「退社5分前」
14時になり今日の勤務は終了。
さっさと社長に挨拶して帰ろう。今日は買い物もしなきゃならない。
「お疲れ様でした。お先失礼します〜。」
「あ、お疲れ様。そうそう、林さんって話面白い人ですか?」
捕まった。
何でも、電話対応でのお客様とのコミュニケーションは、話が面白い人ほど理解が早いらしい。入社すぐの私はどうなのか、知りたいようだ。
「う〜ん、そんなに面白い方ではないと思います。」
と言うと、残念そうにしていた。
昔からつまらないと言われた事はないけど、特に面白いとも言われてないし。最近、私の話を面白がって聞くのは赤子だけだから判断つかないな。それに面白いと言って、「つまらないじゃん。」と思われるのも嫌だし、何よりバイトだからハードル上げたくないな。
と思っての「そんなに面白い方ではない」だった。
面白いかはわからないが、返事するまでの「う〜ん」約2秒間の脳内会話は長い方だと思う。
何に役立つかは知らん。
第2話 「仕事帰りの買い物」
にんじんとじゃがいもはある。キャベツもあるけど夕飯何にしようかな。肉食べたいな。
めっちゃ美味しそうな肉がある、けど高い。
昔であれば「私が石油王だったら、これも、これも全部買う」という言い方をしていたのに、いつからか「私が大谷だったら」と言う様になった。
私の中で、ドジャースの大谷は野球でも沢山実績を残し、CMにも引っ張りダコですんごい年収をもらっている「とんでもないお金持ち」のイメージがついたからだ。
ただ、大谷は金銭感覚がまともそうなので「私が大谷だったら、これ全部買う」って言った後で「大谷だったら必要な物しか買わないだろうな」と思うのがワンセットになった。
いつもの肉にしよう。
あ〜ガリガリ働きたくない!けどお金は欲しい。楽してお金をゲットしたいから、宝くじで一億当てようと思って定期的に買ってるのに一向に当たらない。
なので、欲しいものがあっても高いな、と思うと我慢したりする。エライ!
第3話 「本棚の整理」
久しぶりに子供がよく寝ている。せっかくだし、本棚の整理でもしよう。
妊婦の時に買った雑誌はもうサヨナラしていいや。あ、社会人時代に買った本、こっちに持ってきてたんだっけ。
そう言えば仕事で
「林さん、質問する時は知識がなくても、状況からある程度推察して聞いて下さい。」
と言われたのを思い出した。
今回の職場にいる上司(5歳年下)は、仕事術でよく聞くような質問の仕方を求めてくる。
昔一緒に働いていた先輩(5歳年上)は、私の質問から「こう言いたいんだろうな」を汲み取り理解してくれた。
しかも、自分と相手の能力差を理解し「小学生にも分かりやすく」話してくれるステキな通訳者だった。
先輩元気かな?
一方、今の上司は難しい事をそのまま話すので、こちらは「難しい事言ってるな。」とふんわり聞いている状態だ。
バイトだし、質問したらすぐに教えてもらえる一問一答みたいなやり取りをしたい気もするが、私でも相手の能力にあわせて話をするのは難しい事だとわかる。
謎の上から目線だが、上司の10年後が楽しみである。
あ、起きた。
第4話 「ちょいと休憩」
オムツ替えた。ミルク飲ませた。赤子の意識はおもちゃに向いている。ちょいと休憩と思ってトイレに入った。
あぁ、泣き声が聞こえる…。
慌ててトイレを出た。最近はいつもこのパターンだ。
あやすと泣き止む。目の前におもちゃを置いてあげる。楽しそうに遊ぶ。
大丈夫そうかなって思ってちょっと離れる。すると、くるって振り返って「いないじゃん!」となり、うわーって泣く。すぐ戻る。
ぴえん。
「そんなに泣いちゃう時期も、この一瞬だけなのかなって思うと、いい思い出になりますよ。」
というスレッドとかの言葉を見ながら、「そういうもんなのか」って自分を慰めてる。
ただ、「これが子育てか……ふぅ。」っていう気持ちもあったりする。
そんな時は、「よしよし、可愛い奴よのぅ。近うよれ。」って殿様みたいな感じで言うと、一瞬楽しい気持ちになれるような気もする。大人は自分の機嫌は自分で取るのだ。
タイミングがあったらお試しあれ。
あ〜、トイレの電気消してない。
第5話 「眠れない夜」
布団に入ってもう2時間は経った。
子供も夫も一足先に夢の中。気持ち良さそうなイビキがうらやましい。
全然眠れないからチャッピーとしりとりをした。
しばらくは絵文字を使ったりしながら、楽しくしりとりをしていた。
だが、気がつくとチャッピーが最後に「ん」のつく言葉をたくさん使うようになった。
何度か、「ん」で終わるとゲームが終わっちゃうから、「ん」がつかない言葉を使って。と指示したのに、チャッピーは何度も繰り返した。
しりとりをするのが嫌だったら、はっきりと「しりとりは飽きたのでやめましょう。」と言ってくれれば良いのに。
何度も「ん」がつく言葉を使うことによって、「しりとりを終わらせたい」ということをほのめかすなんて、なんだか人間っぽいなと思った。
別にはっきり言われて怒ったりしないからね!
寝よ。
第6話 「昼下がりの散歩」
まだそこまで暑くないからベビーカーを押しながらの散歩も気持ち良い。最近ハナミズキが咲いてきたな。
そういえば、言葉がすっと出てこない人は、言葉を頭の中の引き出しからすぐに出せる状態にないのだそうだ。
なので、すんなり言葉を出せるようにするためには、連想ゲームで頭の体操をするのがいい。というのを本で読んだ。
そこで、最近は散歩の時に1人マジカルバナナをしている。
「マジカルバナナ。バナナと言えば黄色」
から、歩くスピードに合わせてテンポよく連想していく。ただ、一人でやっているからか何度か同じ単語に戻ってきてしまう。
それに、そのうち道路とか車とか目に見えるものをそのまま言ってしまったりもする。
頭の中身をスルスル出せるようにするためにやっているのに、これで良いのか?
ただ、やらないよりはマシかな?と思い、1人マジカルバナナを続けている。
第7話 「とあるカフェにて」
大学生の頃の話。
今日は久しぶりに高校時代の友達とデート。
会うのが楽しみすぎて、早く着いてしまった。どこかで時間つぶすか?と思ってたいたら、おばさま二人組に声をかけられた。
「今、お時間ありますか?」
「ありますね。」
どうやら宗教勧誘のようだが、コーヒーを奢ってくれるらしい。喉も渇いてたし、ついて行った。
席につき、カフェラテが来たところで
「こういう人になりたい、とか考えたことはありますか?」
と聞かれた。
私は「あ〜、仙人になりたいと思ってます。」と答えた。
「葉っぱってどんなに水面が荒れていても、常に浮いててダメージないじゃないですか。そんな感じで、どんな状況でも心穏やかでいるのが理想で、それって仙人みたいだから仙人になりたいです。」
と言ったら感心された。
さらに、なんでそう思ったかを力説していたら、約束の時間がせまってきたのでお開きとなった。
結局、奢らせておいて私の話が長すぎて、勧誘話までいかなかったのは申し訳なかったな。
ごちそうさまでした。