
静かな違和感シリーズ#3朝のロッカールーム 百貨店時代のお話
いつも、
始発電車に乗り通勤している。
今日もいつも通りの電車を待ち、
いつもの乗り口、
いつもの席に座る。
周りを見渡すと、
一度も話したことはないが、
毎日顔を合わせる
私の通勤電車のレギュラー陣。
その空気が何故か心地よく、
到着駅まで少しだけ眠る。
百貨店の一日は、
いつもここから始まる。
今日はオーブン担当。
ミキサー担当の日は
一分でも早く厨房へ入りたい。
階段は右側を下りるか。
改札を出てどのラインを走るか。
そんなことまで考えていた。
たった1〜2分。
でも、その1〜2分が
パン屋には大きなアドバンテージになる。
今日はオーブン。
少しだけ気持ちに余裕があった。
タイムカードを押す。
ガチャ。
今日は15日。
月の半分を過ぎると、
タイムカードは裏返して使う。
……あれ?
誰も裏返していない。
静かな違和感が、
胸の奥で小さく動いた。
「ヤバいかもしれない。」
急いで着替え、
地下食品売場へ向かう。
いつもなら、
店に近づくと聞こえてくる。
パン。
パン。
ミキサーの音。
今日は……
シーン。
厨房は真っ暗だった。
誰も居ない。。。
静かな違和感が
どうやら的中🎯したようだ。
確信に変わった。
考えている暇はない。
ミキサー2台。
オーブン3台。
次の出勤者が来るまで
全部一人で回す。
スマホなんて無い時代。
電話しても繋がらない。
百貨店だから
開店は絶対に遅らせられない。
頭の中で
工程表が一気に組み替わる
「先にクロワッサン。」
「次にデニッシュ。」
「ミキサー1号終了。」
「2号投入。」
オーブンのタイマーと
ミキサーの終了時間だけが、
私の時計だった。
あの日、
私が感じた違和感は、
タイムカードでも、
静かな厨房でもなかった。
実は、
**「いつもと違う空気」**だった。
職人は、
音だけでは仕事をしていない。
空気。
匂い。
時間。
人の動き。
その全部を、
無意識のうちに感じながら仕事をしている。
お店に買いに行くお客さんは、
きっと知らない。
毎日当たり前のように並んでいる
パンの裏側では、
こんな朝もある。
百貨店でも、
スーパーでも、
個人店でも、
長く現場に立てば、
必ず何かが起こる。
それでも店は開く。
それでもパンは並ぶ。
それが現場で働く人たちの仕事なのだと思う。
静かな違和感は、
いつも大きなトラブルの少し前に現れる。
そして今でも、
小さな違和感を見逃さないように
心掛けている。
現場では、静かな違和感ほど怖いものはない。
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