
正装
■僕の風景
毎日電車の窓から見える
建設中の高層ビル
完成してしまえば見向きもされない
駅から少し離れた
空のテナント
何が入っていたのかギリギリ思い出せない
こんな感じで僕も
誰かから少しずつ確かに
忘れられたんだろう
だけどいきなり今日は
昔好きだった人の誕生日なんだと
降り注ぐ事がある
自分がどうしても覚えておきたいこと
どうでもいいのに記憶に残り続けてること
どちらが大事かなんて
どうだっていいと思えた
■とある食事
僕のとっておき雑学を
笑いながら調べてくれる
検索しても出てこない事を知りたい
伝えたいのに
口いっぱいに頬張るお世辞と
粉をたくさん付けられた名前もわからん魚
「今度また皆でこのお店に行こうよ」
カレンダーを埋め尽くしては
社会にいていいんだって
チケットを保持してる気になる
この人との距離や
自分の隙間を
埋める必要はあるのだろうか?
■祈り
ニュースを見ていつも思ってしまう
「自分じゃなくてよかった」
どうか大地震にあわないでほしい
どうか事故にあわないでほしい
目が見えるまま 耳が聞こえるまま
五体満足のままで生きて欲しい
そんな濁りのある願いに抱かれながら育ったから
僕はそんな事を思ってしまうのかも知れない
祈りは綺麗なだけではなく
怒りは汚れてはいない
感情に名前を付けることが
僕らには出過ぎたことだったのかもしれない
この名もなきものを胸に携えて
次のチャンネルを探す
■時計の針
時が流れなければ 皆に笑われ消えたいほど惨めになることもなかった
時が流れなければ 理不尽への諦念を
テクニック等と言い換えることもなかった
時が流れなければ おばあちゃんが僕を忘れた後で死ぬこともなかった
時が流れなければ その後襲って来る悲しみを薄目で誤魔化すこともなかった
時が流れなければ 遺された場所から立ち上がる強さに気付くことはなかった
時が流れなければ 好きな人を好きな自分と出会うことはなかった
時が流れなければ 子供の寝顔に生きる意味を決めることはなかった
生きなければ
生きなければ
■夜明け
40過ぎてもまだ知らない
深夜に黒く渦が巻いた時の解き方
外行きの顔で話しながら
強かに脳に浮かぶ損得勘定の消し方
今からでも知りたい
蚕の様に黙々と
次の街灯までと言い聞かせ夜を歩き
白い光に導かれる様に進みたい
何もなくても