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ほんとのはなし 「えんぴつくん」

    黒板の前に立つ先生の後ろ姿
    チョークでひらがなをひと文字
    大きく書いた

    そして揃えた指で大きくなぞりながら
    書き順を子供たちへ伝える

    生徒たちは手をあげて
    先生の手の動きに合わせて
    発音を声に出しながら
    一緒に空間に字を書いた
    「あー!」


    そして
    まだ新しい削りたてのえんぴつを手に持って
    開いたノートに習いたての字を書いた


    小学生になって
    これまでわからなかったことが
    わかるようになって
    とても楽しい
    わくわくの毎日


    何時間目かの休み時間
    教室の自分の席に座り
    筆箱を開けると

    あれ!
    えんぴつがない!

    筆箱の中に5本並んでいたはずの鉛筆が
    1本なくなって
    4本になっていたことに気がついた


    机の上にある教科書やノートを持ち上げて探すも見つからない

    机の引き出しをのぞいたけど見つからない
    椅子の下にも見つからない
    ランドセルの中にもみつからない

    なくなったけどまーいーや!
    新しいえんぴつ削ろう!

    家には入学祝いで頂いた新しいえんぴつが
    まだいくつかあった

    家に帰って
    新しい箱のなかから
    真新しい鉛筆を取り出す

    えんぴつ削りに差し込む
    ハンドルをぐるぐる回して
    先端をぴんぴんに尖らせる
    そして筆箱の空いたスペースに並べる

    よし!
    これでいい


    その数日後

    あれ?!
    わたしのえんぴつじゃない!

    こんどは自分のえんぴつがひとつ
    なくなったかわりに
    中くらいの長さの
    知らないえんぴつがしれっと
    並んでいた

    えー!
    だれの?!

    手に取ってみると
    そのえんぴつには知らない子の名前

    だれー?
    知らないひとのやー!
    なんでー?

    なぞは解けないまま、ふぅーん?と
    筆箱の蓋を閉じた

    お母さん!
    これ知らないひとのえんぴつ!
    ふでばこに入っててん!
    なんでやろ

    家に帰って母へ報告

    えーなんでやろ

    当然母が知るわけない




    そこからまた数日後

    あーまたえんぴつなくなった!


    なくなったらまた新しいのを出せばいい
    そんな考えだから

    行方知れずのえんぴつはそのままに

    新しいえんぴつもどんどん消えていった


    それから数ヶ月たったある日の夜、
    夢を見た


    木造の古い一軒家
    いつもの部屋でテレビを見ている

    すると

    「おーい!」

    呼ばれた気がした

    振り返るわたし

    勉強机のいちばん手前にある横長の浅い
    引き出しがさっと開いてなにかが顔を出した。

    !!!

    気味の悪い笑顔


    「こっちこっち」
    わたしと目が合うと引出しの中に引っ込んだ

    机に近づいて引き出しの中をのぞく

    いつもの引出し
    なにもいない


    すると離れた箪笥の引出しから顔を出す

    「こっちだよ」

    振り向いて目が合うとまた箪笥の中に引っこんだ

    そして
    台所の炊飯器から顔を出す

    「こっちこっち」

    その次は母の三面鏡の隙間

    テレビの後ろ
    お鍋のなか

    そしてまた机の引出し


    大きさはどのくらいだったろう
    こどもだったわたしにはとても大きく見えた
    身長は80㌢くらいだったか
    小さかった当時のわたしとあまり変わらない大きさだったかもしれない
    それといわゆる二頭身な感じだった

    目と口があって
    鼻は覚えていない
    手はあったかもしれない
    足もあったような気がする
    削りたてのピンピンに尖ったあたま


    その夢はその日で終わらず

    その数日後も

    その数日後もまた
    繰り返し夢にでてきた


    またこの夢!
    えんぴつくんだ!
    なんで何回も出てくるの⁈
    怖い!

    寝たらえんぴつくんが夢に出てくるから
    寝たくない!と思うほど

    泣きながら目覚めた日もあったと思う

    何週間?
    何ヶ月?
    繰り返し見ただろう
    あんなに怖かったのに
    気がつくまでに時間がかかってしまった
    そして気がついてハッとした

    えんぴつくんは怒ってるんだ
    わたしが何回も鉛筆を失くすから
    失くさないでって言いに出てきたんだ

    失くしてごめんなさい
    ちゃんと大切に使います

    気がついたその場で
    何度も心の中で繰り返した


    その日からすぐ筆箱に並ぶ鉛筆を毎日
    背の順に並べて授業の始まりと授業の終わりと机の上に筆箱を出すたびにえんぴつの数を
    確認するようになった

    ちゃんとある。

    誰かに貸したらちゃんと返してって
    返してもらう

    なくさないように
    出したら元に戻す

    その日以来えんぴつを失くすことはなくなり
    それと同時に
    えんぴつくんが夢に出てくることもなくなった


    うん十年以上経ったいまも
    印象に強く残っているえんぴつくん
    思い出すといまでもやっぱり怖い

    あのとき気がついて良かったといまでも思う

    長いこと忘れ去っていた記憶
    突然蘇ってきた
    なにか忘れてる大切なことがあるのかな



    いまこの文章を読んでいるそこのあなた、
    読んでくれてありがとう。

    何かに導かれたのかもしれないね
    日々感謝はしていますか
    目の前のモノやヒトを大切に扱っていますか


    えんぴつくんのことを文章にしてみようと思いつき、文章を書き終わり、電車の中で読み返した。

    読み返している途中で窓の外の青い空を眺めて
    ボーッとした。

    そしてまた手元のスマホの画面に視線を落とした。

    そこでドキッとした


    『いまこの文章を読んでいるそこのあなた』

    この文章はわたしに向けられた文だ
    えんぴつくんからのメッセージ

     
     
    じぶんのあたまの中を整理するべく文字に起こす。

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