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大丈夫です。の意味がわからなくなった日

    「これで釣れたらどんな風に竿曲がるやろ」

    その日は釣具屋に来ていた。

    釣竿を買う時、めちゃくちゃワクワクする!

    「よし!この値段帯のやつなら大丈夫やな」

    釣竿を買おうとして、髪の毛がツンツンのスタッフのレジに持って行く。

    レジで、

    「商品チェックしますね」

    そう言うと、チェックする前に会計すると言う。

    店員さんに確認した。

    「チェック終わる前に会計なんですね?」

    「大丈夫です。」

    ツンツンくんは僕のキャッシュカードに目をやったまま、そう言った。

    ん?

    「大丈夫です。」の意味がわからんかった。

    その言葉がずっと引っかかっていた。

    違和感を感じながら「ピーッ」とカードを切る。

    ここで初めてチェックが始まる。

    すると、

    「あの、副店長いいですか。」

    インカムで何やら話している。

    慌てて来た副店長。

    副店長がチェックすると思いきや、何か不具合があったらしい。

    (お金払ったのに、もしかしてその竿、不具合があるかも。ってこと?)

    ここでニヤニヤするのは僕の悪いクセだ。

    副店長も

    「在庫あったかなぁ。」

    そう言うとバックルームへ小走り。

    店内で出せる最高速度だ。

    一瞬ツンツンくんに目をやった。

    目が合った。

    「なにか?」

    そんな顔だ。

    ここでイラっとしてしまう。

    すると、

    「よかったー! あった!」

    副店長が嬉しそうに出てきた。

    「チェックさせていただきました。異常なく状態もいいです!」

    副店長がニコニコしていたのは、売り上げが上がるからではなく、釣り人にとっての新しい竿への嬉しさが混ざっていた。

    「副店長、ありがとうございます!」

    このタイミングで、

    「じゃあ、お会計お願いします。」

    「え? チェックする前にお金払いましたよ。確認したんですけど、『大丈夫です。』って言われて。」

    僕はありのままをしゃべった。

    ツンツンくんも、

    「副店長! それもうやっときましたよ。」

    そんな顔だ。

    副店長の丸い身体が直角に曲がった。

    「すみません。チェックする前にも関わらず、お会計をいただいてしまったようで。」

    出てきた感情は安心だった。

    「大丈夫です。」に違和感を感じたのは、僕の間違いじゃなかったんやな。

    長居は無用。

    新しい釣竿を買ったワクワク感は、全て失っていた。

    副店長の直角は健在だった。

    その後のツンツンくんの、

    「ありがとーござーしたぁー。」

    で、副店長の直角の身体が今度は後ろへ

    「おいーっ!!」

    とのけぞったのだけ見えた。

    「なんで新しい釣竿買って嫌な思いせなあかんねん。」

    副店長のニコニコには、釣竿と「僕のワクワク」に共感してくれるサービスがあった。

    ツンツンくんにはそれがなく、

    「通販の受け渡し係の人」

    に思えた。

    この店に来れば、またあの接客にお金を払うのか。

    美容室を経営する僕も同じ商売人。

    それもあり、許せることではなかった。

    イライラの奥底にある2センチほどの冷静な感覚が、

    「悪気ないんやろし、あそこで怒ってたらカスハラになるんか。」

    そんな思いでいっぱいだった。

    チェックが終わっていない商品に対し、先にカードを切った。

    もし僕がその場で怒っていたら、周りから見ればギャーギャー騒ぐ迷惑な客に見えたやろな。

    時間が解決してくれるイライラもあるだろう。

    あの日から「大丈夫です。」の意味がわからない。

    #創作大賞2026

     
     
    不真面目に見えるマジメなハードモヒカン美容室経営者。 お客さんとの会話、家族、日常の出来事を「不真面目なマジメ」目線でエッセイに。 読んだ人が「ふぁー、もういいかぁ」と肩の力を抜けるような文章を書いてます。 いつか書店に本を並べるのが目標。

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