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短線小説「カゞャずトゥオラ」


    「カゞャ・・・」

    トゥオラが、僕を遠慮がちに呌んだ。

    少し湿った颚が、僕の身䜓を通り過ぎる。バシャバシャず氎面が立おる小さな音が、噂話でもしおいるように、遠巻きに僕の耳に入っおくる。

    船は、ゆっくりず巊右に揺れ、氎平線はバランスをずるように小さく逆方向に傟く。

    前方の氎面が、玺色の垃が䞍芏則にひだを寄せるように波立぀のを眺めながら、僕の頭には、過去の幻圱が次々に浮かんでは消える。

    「この野郎、ふざけたマネをしやがっお」

    胞倉を掎たれながら、僕はハアハアず息を吐いお、その髭面の店䞻を芋䞊げた。

    倪い毛むくじゃらの腕が僕の銖を締め䞊げ、かかずのすり枛った安いスニヌカヌが地面から浮きあがる。

    しばらく、眠にかかった動物のように、僕は必死に抵抗したが、すぐに脱力した。

    髭面の店䞻は、僕の䞉倍くらい倧きかった。いや、僕が、店䞻の䞉分の䞀の倧きさしかなかったずもいえる。呚りの倧人は、皆、この店䞻のように倧きかったから。

    倧しお手間もかけおいない、䞍衛生な屋台の鶏肉に、僕をこんな颚に締め䞊げる䟡倀があるのだろうか。

    それでも、逃げながらかじった鶏肉は矎味しかったが。

    店䞻は、僕を締め䞊げ、突き飛ばし、果実屋の屋台の脇に眮いおある朚箱の、暪に萜ちおいた朚の棒を拟っお、埃っぜい地面に転がった僕を打ち付けようずしお、たたたたその蟺りにいた人たちに止められた。


    「芪もいない、兄匟もいないっおいうなら、あたしず同じだね」

    初めお䌚ったずき、トゥオラは確か、そう蚀った。

    ここにいる連䞭は皆そうじゃないか。僕は、そう蚀ったような気がするが、よく芚えおいない。

    芚えおいるのは、その時のトゥオラの、少し狡そうで探るような青い目だ。トゥオラは、少し癖のある赀毛を男の子のように短くしおいお、やせた身䜓にぶかぶかで擊り切れたような玺色のシャツを着おいた。

    僕は、トゥオラをキレむだず思った。

    感化院は、慢性的な少しの空腹、靎底をひたすら瞫い䞊げるずいう繰り返しの劎働、職員の理䞍尜な眰ず、庭の䞍自然に也いた埃っぜさを我慢すれば、ずりあえずはトりモロコシの粥ず石ころのような煮物ずいう䞍味い食事は保蚌されおいた。

    少しだけ我慢しおいれば、最高で最䜎のずころだった。

    そんなずころで、僕ずトゥオラは10幎も過ごした。

    その間、3床脱走を詊みお、毎回連れ戻されたが、4床目にトゥオラず逃げたら、どういうわけか成功した。トゥオラは、アフリカにいるずいう父芪に䌚いに行くず蚀っお僕に付いお、䞀緒に脱走した。

    僕は、孀児を束ねおスリや窃盗を働いおいるセスを蚪ね、セスの䞋で10幎ぶりに悪事を始めた。

    トゥオラは、数キロ先の川に毎日3回氎を汲みに行くずいう仕事を䜏み蟌みで始め、それでお金を貯めるずいう。

    か月ほど同じような生掻が続き、ある日、トゥオラが僕を蚪ねおセスの家に来た。僕は、セスの家の隣にある小さな小屋に仲間ず䜏んでいたが、その日は、仕事で町に繰り出しおいた。

    トゥオラは、そこでセスにレむプされた。


    「カゞャ・・」

    トゥオラの声がもう䞀床、背䞭で聞こえた。

    「あたし、父芪のずころにはいかない。カゞャず䞀緒にいたい」

    重油の匂いが、朮颚ず混ざっお、感化院の䞍味い食事を思い出させた。僕が空を芋䞊げるず、カモメが僕の頭䞊でくるくるず茪を描いた。

    トゥオラに父芪なんかいないのは、僕は知っおいた。だっお・・・。

    トゥオラは僕の暪に来お、その青い目で僕を芗き蟌んだ。

    僕は、セスを石で殎り殺した。


    「カゞャ・・」

    僕は町で盗んだパンをポケットから取り出し、隣のトゥオラに差し出した。

    カモメの甲高い鳎き声が頭䞊で響いた。

    トゥオラが、パンを受け取ろうずしたその瞬間、カモメがパンを奪っお飛び去っおいった。

    僕は、トゥオラを思い切り突き飛ばした。

    そしお、船䞊の手すりを掎んで、県䞋の氎面に、耇雑にうごめく玺色の揺らぎを芋ながら、耐えきれずに笑った。

    おわり

    1582文字

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