連作詩「空の境界(パノラマ)」
序、天使の落とし物
光の都、その最果ての庭に
ひとひらの純白が舞い降りる
神殿の柱を巡る朝霧に濡れ
大理石の床で静かに息づく
それは、目覚めの前の柔らかな記憶
誰も気づかぬ、朝の静寂
百合の香りが、その白さを讃える
それは、天から溢れた小さな「奇跡」の始まり

その羽が、ひとつ、ふたつと、空の青に溶けていく
溶けた羽は、巨大なヒレとなり、尾となり
やがて、雲の海を総べる「島」となる
破、空を泳ぐくじら
背中に街を乗せ、星の巡りを道標に
潮を吹けば、それは七色の雨となる
悠久の時を、静寂と共に泳ぐ、生ける大地
その大きな瞳(め)には、下界の営みが映る
争いも、愛も、すべては雲の下の出来事
くじらはただ、風の歌を聴きながら、境界を越えていく

急、ドラゴンの宅配便
くじらの背にある、小さな、小さな街の、その一角
「お届け物で〜す!ちょっと焦げてるけど、気にしないでね〜」
その声と共に、紅蓮の翼が風を切る

くじらの上から、さらに下の、人間の街へと
焦げ跡は、彼が「嵐」を突き抜けた、名誉の印
受け取る娘の、弾けるような笑顔
くじらの上の、静かな時間と
人間の街の、温かな営みをつなぐ、紅い風
結、空の記憶
天使の羽が、くじらの背を潤し
くじらの潮が、ドラゴンの道を照らす
ドラゴンが運ぶのは、ただの荷物ではなく
空と、海と、大地をつなぐ、温かな「想い」
見上げれば、そこにある。
誰もが見落とす、天使の落とし物が、
世界を、今日も静かに、動かしている。



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