ままならないからだとわたし⑥
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新学期から数か月が経ち、季節はまた夏を迎えようとしていた。昨年とは違った色のスリッパとネクタイを着用するのもすっかり慣れてきた。
結局、私は、学校に戻ってきた。とはいっても、一つ下の学年だから、理津たちのいる棟とは違うところで、クラスも進学クラスだ。正確に言えば、出席日数が足らずに留年したということになる。そんな人は、進学クラスに珍しくないのか、同じクラスにもう一人いた。その人とは、同じ境遇だからか、すぐに打ち解けられた。
「里奈ちゃん、次の授業の宿題、終わってる?」
同い年のさっちゃんが私の机を覗き込むながら言う。
「ごめん、今終わらせているところ。なんで?」
「いや、亜美とはるが見せてーっていうから。私、字汚いし。」
そして、今はさっちゃんと元特進クラスだった私に対して、勉強を教えてくれと縋る女の子二人と一緒に過ごすようになった。
「いやいや、私の字の方が絶対汚いよ。」
という言葉を遮って、
「見せて!やばい!英語の課題が終わってない!」
「私も!」
と滑り込むように亜美とはるが来た。
「英語?英語なら午後じゃない?」
とさっちゃんが穏やかに返す。
「え、じゃあ、ぎりセーフ?」
「え、じゃあ、実質数学の課題終わってないの里奈だけじゃん!」
と二人が笑う。
「頑張れ、頑張れ!」
ふざけ半分で応援する二人に、
「もう数分で始まるよ。次、英語って思ってたんなら準備できてないんじゃない?」
と言うと、
「あ、ロッカーだわ。」
「私もチャート持ってこないと。」
「え、チャート、授業でいるかね?」
「一応、持ってきとく。」
そう言い合いながら、私の机から離れる。
突然、あることがふと脳裏に浮かんだ。
「あ、ちょっと聞きたいことが……。」
離れる友人たちの背中に、声をかける。
「ん、何?」
一人ひとり丁寧に、立ち止まって、振り返る。
自分でも分からないまま、急に思いついたことを口に出した。
「あの、もしさ、自分が慕ってた先生に、おまえは必要ないとか言われたら、どうする?」
言ってみて、不穏な空気にしてしまったかもしれない、と後悔した。
ごめん、と謝ろうとした次の瞬間、
「えっ、何それ、クソじゃん、そいつ!」
「〇〇、誰かに何か言われたの⁉あっ、もしかして▢▢⁉」
「やばー、そんな奴、こっちがいらんわ!」
亜美も、さっちゃんも、はるも、あり得ないという顔をして、憤慨している。
「まじで教師としてどうなん?」
「教師っていうか、人としてやばいやろ。」
予期せず担任に疑いの目がかかってしまい、慌てて否定する。
「いやっ、誰に言われたとかじゃなくて、例えばの話‼」
大きく両手を振って、苦笑いする私を見てようやく、
「えー……。」
と彼女たちも罵詈雑言を収める。
「本当に大丈夫?何かあるなら、話聴くよ。」
と心配そうな、怒ったような顔で言う。
「本当になんでもない!大丈夫、ありがとう!」
と言いながら、むしろそんなに怒ってくれて有難うと心の底で噛み締めるように思う。と、亜美が私の両肩をしっかり掴んだ。そして、私の目をしっかりと捉えた。
「んー、里奈は優しいけんね、はっきり言い切らんのやろうけど……ムカつくこと言われたらちゃんとうるせーって言うんよ!」
その視界の奥で、
「里奈が教師にうるせーとか言ってたらウケる。」
「別の意味でやばい。」
と、はるとさっちゃんが笑っている。
「わかった、わかった、心の中で思っとくわ。」
と笑いながら言うと、
「いや、ほんまに、まじで。」
と一瞬ぎゅっと両腕で私のからだを抱き締めた。
「あっ、先生来たよ。」
「やばっ、授業始まる!」
そして今度こそ、彼女たちは教科書を取りにドアの方へ駆けて行く。
それを眺めながら、あぁなるほど、こういう風に反応すればいいのか、と思う。
また一つ、健康的に生活を送る方法を知ることができた、と新たな発見に喜びを噛み締めながら、私は瞳が湿っていることに気付いた。
fin.