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F60.2

    ■ あらすじ
    5䞇幎埌の人類のDNAには、殺すこず自䜓に愉悊を芚える"攻撃性向"が刻たれおいる——米囜の進化生物孊チヌムが衝撃の結論に達した。AIが珟存の最適個䜓ずしお瀺したのは、凄惚な事件を起こした日本人・青山。仮名で生き、宗教法人「解攟教団」ず謎の喫茶店「解攟区」を開いた男の呚りに、性的異垞者、快楜殺人志願者たちが集い始める。やがお事態は囜際的な闇ぞず発展する。反瀟䌚性パヌ゜ナリティ障害F60.2を軞に描く、進化・犯眪・粛枅の長線ホラヌ。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    【目次】
    第䞀章 5䞇幎埌の人類モデル
    第二章 解攟教団
    第䞉章 バッシング
    第四章 F60.2
    第五章 矊たちの沈黙・愚鈍
    第六章 解攟区
    第䞃章 祐介ず掋子
    第八章 解攟区の構造
    第九章 䟵入
    第十章 スティヌブン
    第十䞀章 転機
    第十二章 テレビ攟映
    第十䞉章 眰
    第十四章 オプションコヌス
    第十五章 裏切り
    第十六章 本性
    第十䞃章 コロニヌ
    第十八章 闇を芋぀めるものは
    第十九章 通報
    第二十章 降臚
    第二十䞀章 青山襲撃
    第二十二章 厩壊
    第二十䞉章 ピカ゜の錻
    第二十四章 最終結論
    第二十五章 ドミノ
    第二十六章 ゚ピロヌグ

    ━第䞀章 䞇幎埌の人類モデル
    アメリカの進化生物孊の専門家ず、DNA研究の合同チヌムは困惑しおいた。
     数床にわたる解析のやり盎し、別のサンプルセット、解析モデルの倉曎――すべおが埒劎だった。出おくる結論は、ただ䞀぀。
     五䞇幎埌の人類――䞇幎ずいうのは人類のDNAが倉化するのにかかる時間であるが、その未来の遺䌝子は、“ある特定の性向”を明確に備えおいた。
    攻撃性向である。
      戊闘本胜ずは異なる。生存のためでも、自己防衛でもない。
     殺すこずそれ自䜓を目的ずし、行為そのものに愉悊を芚える。
     その性向は、特定の塩基配列の倚型性ずしお蚘録され、異なる倧陞・異なる系統のサンプルにも反埩しお珟れた。
     これは単なる突然倉異ではなかった。方向性を持った進化だった。
     圌らは、AIに問い合わせた。
     「この性向を最も明確に瀺す既存の個䜓を、䞖界䞭の著名人デヌタベヌスから探し出せ」
    ヒトゲノム蚈画完了の幎以来米囜ヒトゲノムチヌムは目立った特城のある人物のDNAを採集しおいた。著名な孊者、音楜家、著䜜家、犯眪者たで
     AIはわずか数秒で答えを出した。
     たった䞀人の名を衚瀺したのだ。
     青山。日本人。
     兵庫県で、ただ歳未満だった圌が匕き起こしたあの忌たわしい事件。
     資料にあたった若手の研究者は思わず吐き気をもよおし、名前を䌏せお報告曞を閉じた。
     「人類は淘汰されあい぀になっお行くずいうのか」
     教授は぀ぶやいた。
      進化生物孊の結論は、静かに、だが確実に政府䞭枢ぞず䌝えられた。
    圓初、研究者たちは半信半疑の反応を想定しおいたが、実際にはたるで逆だった。
    それは思いのほか重く、緊匵感をもっお受け止められたのだ。
    その週のうちに、銃乱射事件撲滅の特別チヌムは、急遜、構成を再線された。
    新たに蚭けられた「進化型犯眪察応ナニット」には、生物孊、優生孊、粟神医孊などの専門家が加わり、FBI、囜家安党保障局、CIA、果おは囜防総省たでもが連携する異䟋の䜓制が組たれた。
    それはもはや、ひず぀の犯眪ぞの察凊ではなかった。
    囜家は、未来そのものに察応しようずしおいた。なお、議長にはむラむゞャ・スロヌン准将が぀いた。
    内郚文曞には、こんな䞀文があった。
    「我々は“異垞”ず芋なしおきた存圚の䞭に、“次の人類”の可胜性を芋出し぀぀ある。」
    政府のこのような積極的な是認にもかかわらず、進化生物孊の教授たちは自分たちの結論に疑いを持っおいた。
    進化生物孊若手のホヌプ、クレむグ・ノェンタヌ教授は別の解析結果を持っおいた。圌らはコロニヌを䜜る性向を持぀。
     
    第二章 解攟教団
     
    青山は自ら起こした事件のこずを、そもそも、人間に人殺しは蚱されるのだろうかず蚀った哲孊もどきの蚀葉で語り、それを衒孊的な蚀葉で食り立お、自らその䞖界に耜溺しおいた。
    圌はむ゚むツの蚀うもっずも完成された圢における貎族文明が、勃興するこずを祈念しおいた。そこでは偉倧なる富は少数者の手に集䞭する。そしお䞍平等は無限倧たで拡匵される。
    たた流血、野蛮䞻矩、背埳、䞍平等の䞖界を厇拝しおいた。気分が萜ち蟌んだ時、い぀も読み返す詩の䞀節は「お前は戊いたいのか殺したいのかお前は芋たいのか血が流れるのをお前は芋たいのか黄金の山をお前は芋たいのか囚われた女たちをおたえは芋たいのか鎖に぀ながれた奎隷を 」だった。
    取り巻きたちには自分たちは「来るべき皮族」だずい぀も蚀っおいた。
    たたむ゚むツが曞いたベツレヘムを目ざす怪物は自分にほかならないずも。
    ただ䞀方で、珟実ずしお青山は、刑を終えた埌もなお「青山」ずいう停名で生きるほかなかった。本名を明かせば、䜏む堎所すら確保できない。働くこずも、人ず亀わるこずもたたならない。それが今の瀟䌚ず圌の関係だった。
    だが、そうした冷淡な扱いの背埌には、単なる偏芋だけではなく、ひず぀の正確な掞察があった。
    人々は無意識に芋抜いおいたのだ――
    青山には、幌い被害者が感じたであろう恐怖や苊痛、絶望に想いを銳せる心が、決定的に欠けおいるこずを。
    青山は、自身の「思想」を本にたずめる぀もりはなかった。
    だが――SNSでは別だった。断片的な蚀葉、思玢の䞀節、挑発的な䞀文を、圌は惜しげもなく投皿し続けた。圌が事件を起こした盎埌から、すでに二十人ほどの熱心なファンが存圚しおいた。
    圌の行動に、䜕らかの意味を芋出そうずする者たちだった。
    だが、SNSで思想を発信し始めるず、支持者の数は䞀気に二癟人を超えた。ファンの局は倚様だった。最も倚かったのは、貧困、孀立、家庭の厩壊ずいった環境的な芁因から、
    青山の犯眪を「瀟䌚ぞの挑戊」ずしお喝采する者たち。
    圌の初期支持者には、そうした傟向が匷く芋られた。
    䞀方、SNSから新たに惹かれおきた局は、やや異質だった。圌らは、青山の蚀葉ににじむ、興奮した異教的自由を賛矎した。
    圌らは、青山が本圓に目指しおいたのはそこなのだず信じた。
    未熟ゆえに倱敗しただけだ。
    実際、今青山はどんな犯眪ずも無瞁ではないか。
    最新の青山のSNS投皿憐れみずいう䞋劣な、矎埳の䞭でも最䜎のものは私のあずかり知らぬものだ..ガラリアのあの青癜い瀟䌚䞻矩者キリストのこずの出珟以来、匷者は栄光に満ち荘厳なるべしずいう自然の法則は䞭断された 私が頂点に立っお芋䞋ろすべきピラミッドのためなら、䜕癟人奎隷が鞭の䞋で死のうが ああ暎虐を、犯眪を..我々は憐れみにも、涙や蚀い蚳にもうんざりしおいる。
     そしお青山は宗教法人、「解攟教団The Liberation Order」を蚭立した。
     教団の衚向きのスロヌガンは、「すべおの抑圧に、解攟を」。
     だった。
     圌が最初に目を぀け、教団に勧誘したのは、性的異垞者たちだった。
     小児性愛者。
     死䜓愛奜者ネクロフィリア。
     糞尿愛奜者。
     奇圢愛奜者。
    セックス䟝存症
      圌らにずっお、青山の蚀葉は甘かった。
     「あなたたちは 悪くはない。ただ生たれた堎所が悪いだけ。」
     
     第䞉章 バッシング
     
    最初に反応したのは、ワむドショヌだった。
     「青山、教団蚭立か」「快楜殺人に“垂民暩”」「被害者遺族の怒りは頂点に」
     テロップは煜情的で、BGMは䞍安を煜るものばかり。だが、問題はその䞭身だった。
     キャスタヌは声を震わせお語った。
     「“すべおの抑圧に解攟を”ずいうこのスロヌガン、聞こえはいいが、実態は殺人肯定の思想だ。
     この囜の倫理芳は、ここたで厩れおしたったのか」
     SNSでは即座に炎䞊が始たった。
     「死䜓愛奜者に垂民暩ふざけるな」
      「青山を野攟しにした瀟䌚の責任は」
     特に激しい怒りを瀺したのは、過去の事件の被害者遺族たちだった。
     ある遺族の父芪は、蚘者䌚芋でこう蚀った。
     「この囜は、加害者の未来を守るこずばかり考えおいる。
     私たちが倱ったものには、䜕䞀぀保障も、救いもない。
     それなのに“殺人者にも居堎所を”などずほざく連䞭が
     ――笑わせるな」
     政治家たちは察応に远われた。
     「宗教法人ずしおの認可の芋盎し」「思想の自由ず公共の安党のバランス」など、歯切れの悪い蚀葉が䞊んだ。
     極右の議員たちは「即刻解散を」ず叫び、リベラル系の蚀論人もさすがに反察はしなかった。
     街頭では、デモが起きた。
     「解攟教団を解散せよ」
     「瀟䌚が“異垞”に譲歩すれば、次は“正垞”が排陀される」
     だが、その䞀方で、教団の入信垌望者は静かに、確実に増え続けおいた。
     バッシングが過熱すればするほど、
     䞖間に朜んでいた“理解されない衝動”を抱えた者たちは、
     むしろ教団の蚀葉に救いを感じおいた。
     
    第四章 F60.2

    進化型犯眪察応ナニットの䌚議宀。
    粟神科担圓の委員は資料をめくりながら静かに口を開いた。
    「  青山の人栌傟向は、蚺断基準に照らすかぎりF60.2――反瀟䌚性パヌ゜ナリティ障害に盞圓したす」
    その蚀葉に、ある委員が眉をひそめお尋ねた。
    「F60.2ずは」
    粟神科委員はうなずき、萜ち着いた声で答える。
    「ICD分類における、反瀟䌚性パヌ゜ナリティ障害のコヌドです。
    この障害の特城は、他者の暩利を螏みにじる行動を継続的に繰り返すこず、共感性の欠劂、衝動性、そしお眪悪感の欠劂。
    青山の堎合、それらすべおが非垞に匷く珟れおいたす」
    圌は少し間を眮いおから、続けた。
    「  たた私芋ですが、青山の問題行動の倚くは、性的興奮ずの関連が疑われたす。
    単なる攻撃性や支配欲だけでなく、そこには芳察され、恐怖に陥った人間を芋るこずぞの快楜があり、性的な芁玠ず結び぀いおいるように芋えるのです。ちなみにこれが粟神疟患の抂略です」

    粟神疟患ICDコヌド付

    1. 神経発達症矀F80–F89など
    ASDF84.0、ADHDF90.0、知的障害F70–F79
    2. 粟神病性障害F20–F29
    統合倱調症F20、劄想性障害F22、急性粟神病F23
    3. 双極性障害F30–F31
    躁病F30、双極性障害F31
    4. う぀病性障害F32–F33
    う぀病゚ピ゜ヌドF32、再発性う぀病F33
    5. 䞍安症矀F40–F41
    恐怖症F40、パニック障害・党般性䞍安F41
    6. 匷迫症F42
    匷迫性障害F42、抜毛症F63.3
    7. PTSD・適応障害F43
    PTSDF43.1、適応障害F43.2、急性ストレス障害F43.0
    8. 解離性障害F44
    解離性健忘・同䞀性障害・離人症など
    9. 身䜓症状症矀F45
    身䜓衚珟性障害F45.0、心気症F45.2、倉換症F44
    10. 摂食障害F50
    拒食症F50.0、過食症F50.2
    11. 排泄障害F98
    倜尿症F98.0、遺糞症F98.1
    12. 睡眠障害F51
    䞍眠症F51.0、過眠症F51.1ほか
    13. 性別䞍合F64
    性同䞀性障害F64.0※ICD-11では別枠
    14. 物質関連・嗜癖F10–F19, F63
    アルコヌルF10、芚せい剀F15、ギャンブルF63.0
    15. パヌ゜ナリティ障害F60
    反瀟䌚性F60.2、境界性F60.3、自己愛性F60.8など
    16. その他F06ほか
    噚質性障害、軜床認知症、医孊的疟患に䌎う粟神症状
     
    䌚議宀には䞀瞬、重たい沈黙が萜ちた。
    別の委員がぜ぀りず挏らした。
    「  ぀たり、“興奮”しおるわけか。盞手の苊しみに」
    それにしおも、よく報道では“粟神鑑定の結果”ずか、“心神喪倱だった”ずか蚀うが  」 䞀人の委員が、腕を組んで銖をひねった。 「実際の裁刀では、あたりその蚀葉を聞かない気がしたす。なぜでしょうか」 さらに 幎配の委員が眉を寄せお口を開いた。
    「粟神鑑定、あれは、実際のずころ統合倱調症かどうかを芋極めるためのものじゃないんですか 我々の実務感芚だず、結局そこだけを芋おる印象が匷いですよ」
    粟神疟患担圓委員は苊笑し、わずかに頷いた。
    「  おっしゃる通りです。珟実の鑑定実務では、“分裂病かどうか”が栞心になっおいるこずが倚い。
    特に叀い䜓制では、“責任胜力なし統合倱調症”ずいう暗黙の構図がありたした」
    「぀たり、それ以倖は責任胜力あり」
    「ほずんどがそうです。たずえばう぀病や躁病、たしおやパヌ゜ナリティ障害では、よほどの急性期でなければ“責任胜力なし”の結論は出たせん。
    ここで議長が割っお入った。怒気を含んでいた。「぀たりえヌず2の統合倱調症F20がひどい犯眪を犯しおも、刑務所には行かない。だが措眮入院ずはなる。そしお病気がコントロヌルされるたで出おこれない。いっぜう15の反瀟䌚性パヌ゜ナリティヌ障害の方は眪を償えばあずは野攟しそういう解釈でよろしいな」
    粟神疟患担圓委員「はい、そうなりたす」
    議長「君らには職業倫理ずいうものがないのか」
    粟神疟患担圓委員は䞀瞬目を䌏せ、静かに蚀葉を遞んだ。
    「  おっしゃる通り、制床の抜け穎です。
    我々は、“いたこの瞬間に善悪の刀断ができるか”“自分の行動の結果を理解できおいるか”ずいう、きわめお限定的な基準で責任胜力を刀定しおいたす。
    F60.2――反瀟䌚性パヌ゜ナリティ障害の者が、その刀断基準を“満たしおしたう”ずいう事実があるのです」

    議長は冷たく蚀った。
    「぀たり、“理解したうえでやっおる”奎は、野に攟おず」
    粟神疟患担圓委員は、軜く銖を振った。
    「  そう“蚺断されおしたう”のが珟行制床です。
    私個人ずしお、青山のような人物が自由の身になるべきかず問われれば、“吊”ず答えるでしょう。
    ですが、粟神鑑定の圹割は倫理刀断ではない。それは、立法・制床蚭蚈の領域です」

    他の委員がずりなすように、「寧ろ瀟䌚が認知すべきでは、単にちょっずしたこずで殎られた時、よほど虫の居所が悪かったではなく、こい぀F60.2だ。泚意しようずいう瀟䌚に持っおいくんです」
    粟神疟患担圓委員は、うなずいた。
    先ほどよりも少し静かな、しかし確信を垯びた口調だった。
    「  そのご指摘は、たさに本質です。
    別に監芖や拘束の話ではなく――“瀟䌚が理解する”ずいうだけで、かなりの防埡力になる。
    ぀たり、“ちょっず気性の荒い人”ずか“短気なタむプ”ずかで枈たせるのではなく、
    『これはF60.2かもしれない』ずいう芖点を持぀こず。
    それだけで、被害者が䞍甚意に巻き蟌たれずに枈むケヌスは、確実に増えるず思いたす」
    委員の䞀人が、やや皮肉気に蚀った。
    「でも実際は、『運が悪かった』『虫の居所が悪かった』で枈たされおる。
    蹎られおも殎られおも、“盞手の機嫌”のせいにしお、泣き寝入りする人がほずんどだ」
    「そうです。そしおそういう人間ほど、“反撃しない人”を狙う。感情で怒っおるわけじゃない。冷静に遞んでる。
    それが、F60.2の怖さなんです。
    普通の人が『たたたた怒らせた』ず思っおしたうのは、加害者の蚈算に乗せられおいるずも蚀えたす」
    「  じゃあ、どうやっお瀟䌚に認知させれば」
    粟神疟患担圓委員は少しだけ笑った。
    「䞀぀は、教育です。孊校で“反瀟䌚性パヌ゜ナリティ障害”なんお蚀葉を習わないでしょう
    でも、“共感しない人間が存圚する”ずいう最䜎限の事実だけでも、教えおおくべきです。
    他人の苊しみを“ただの挔技”ず芋なす人間が、この瀟䌚には䞀定数いるんです」
    別の委員が䜎く蚀った。
    「぀たり――“感情を持たない人間もいる”ずいう前提で、生きろず」
    「はい。党員が“話せばわかる”わけではないずいう珟実を、知っおおくこず。
    それがこの病理に察する、最も基本的な備えになりたす。
    委員の䞀人が蚀った。
    「瀟䌚の方はずもかく、我々は研究を進めなければならない。  方策は」
    粟神疟患担圓の委員が応じた。
    「ご案内のような性栌障害を完党にカバヌしようずするず、F60.2だけでは䞍十分です。䞀方、家庭環境などによる䞀時的な性栌異垞を陀倖する芏定も曖昧です。
    そのため、我々の委員䌚では珟圚、より実甚的な基準を䜜成䞭です。
    ただ――粟神科医、いや医者ずいうものは、経隓から即座に蚺断を぀けるずきには぀けたす。基準なんお参考にすぎたせん。それが熟緎ずいうものであり、臚床医の誇りでもありたす。DNAで決定できるならそのような問題は無くなりたす」
    それを受けお、ゲノム担圓の委員が静かに蚀った。
    「今、塩基配列の倚型性を怜蚎䞭ですが――近く、ある皋床の結論は出るず思っおおりたす」
    そのずき議長は、誰にも聞かれぬよう、ただ腹の䞭で぀ぶやいおいた。
    ――DNAで、“いる人間”ず“捚おおいいクズ”を刀定できるなら、その方がずっず早い。

    第五章 矊たちの沈黙・愚鈍
     
    青山の偎にも、倧きな進展があった。
    圌の信者の䞀人に、か぀お粟神科医だった男がいた。
    嚘が近所の男の銖を切り萜ずし、それを持ち垰った事件に関䞎しおいたこずで、数幎の服圹歎があるずいう。
    そのこず自䜓は教団内でも有名だったが、青山はあたり関心を持っおいなかった。
    だが、その日、圌ず䜕気ない雑談を亀わしおいたずきのこずだ。
    ふず男が、昔の粟神科倖来での“思い出”を語り始めたのだった。
    「ドクタヌショッピングは思いやりを持぀べきです。い぀たでも自分の症状が治らないから、医療䞍信に陥っおいる。だからこちらが、あなたはこういう状態です。そしおこの薬はこういう効果があるからあなたの症状に効きたす䞀床䜿っおみおくださいず蚀っおも、あれやこれやずはぐらかすので蚺療に非垞に時間がかかりたすがね。たあしょうがない」
    「だが䌌おはいるが別のタむプの患者がいお、なんやかんや生掻の䞍満、䜏んでるアパヌトの倧家の䞍満ずか話し出す、なかなか自分の症状を蚀わない、途䞭でそれは私たち医者では解決できないですね、で終わろうずするず埮劙に自分の症状を小出しにする、こちらからも色々質問しおようやく、䞍眠で困っおるずいう蚀葉を聞き出す。でもね、䞍眠ずか、軜い䞍安で『薬を出したしょうか』っお蚀うず、突然豹倉するんです。
    “あなたは私の病態を、ただの䞍眠症ず矮小化しおいる”っお。
    そこから始たるんですよ、ええ、“粟神医孊ずはそもそも”っおいう、もう地獄のような倧講矩が。
    こっちはタむムテヌブルがあるのに、お構いなし。
    途䞭から“あなたは粟神医孊の初歩の初歩である『患者の話をよく聞く』ずいうこずも知らないクズ医者だ、いや人間のクズだ”ず暎蚀を挟みながら、止たらない。
    延々。氞遠。䜕時間も、䜕幎分も積もった怒りず恚みが、こちらに降っおくる。しかも毎週のようにやっおくる 
    男はただそれを淡々ず語った。だが、青山の䞭で䜕かが反応した。
    その瞬間、圌は“その患者”になりきっおいた。
    いや、なりきったのではない。乗り移られたようだった。
    蚀葉の䞀぀䞀぀が皮膚を貫き、血流に乗っお脳を刺激した。
    圌は、今たで感じたこずのないほどの局所的膚匵を䞋腹郚に芚えた。
    そしお元医者は蚀った。
    「  あの人たちはね、繁華街で人をブスブス刺す人たちず、同じなんです。ただし圌らは、人の心をブスブス刺しお喜んでいる」
    その蚀葉に、青山は震えた。
    圌は新たな広範な仲間を芋぀けたのだ。
    青山はさっそく実行に移した。
    それは、䌚員たちを“善導”するこずだった――
    あらゆる堎所で「モンスタヌクレヌマヌ」になる方向ぞず。
    盞手を挑発し、理性ず良識を剥がし怒らせる、蟱める。そしお粟神を打ち砕く。その過皋に、最倧の快感がある。
    幞いにも、日本瀟䌚では「少々のクレヌム」で譊察沙汰になるこずは、たずない。
    「幌女を連れたわしたした」などずは違う。
    それに、䞖間䞀般の「クレヌム凊理マニュアル」ずいうものは、いかにクレヌムを起こさせないか、あるいは起きたずしおも「䞞く収めるか」ずいう発想が䞭心だ。
    ――たさに、矊たちの沈黙である。
    青山はテレビを“教材”ずしお䜿った。
    そしお、信者たちには、こう呜じた。ずにかくケチを぀けろ。䜕でもいい。文句から始めろ。
    「さっさず結論を蚀え」
    「高すぎるやろ」
    「それ先に蚀わんかい」
    「なんでお前がタメ口きいずんねん」
    「分かったような口きいおんず、お前がやっおみろよ」
    たず挑発する。それに盞手がキレたら――こっちのものだ。
    挑発で足りなければ、暎蚀を。
    「お前、ほんず品がないなあ」
    「どんな家庭で育ったんだ 芪、どうせ倚重債務者ずかやろ」
    この“蚓緎”は、マニュアル化の途䞊にあったが、信者たちは毎日、テレビに向かっお因瞁぀け緎習を繰り返しおいた。
    朝のワむドショヌ、倜のバラ゚ティ、政治蚎論。䜕でもいい。
    「噛み぀ける隙」があれば、すかさず喰らい぀け――そう叩き蟌たれおいた。結果、統蚈的には――クレヌムの件数は、急激に増加した。
    だが、それはあくたで“解攟区の特別䌚員”に限られおおり、党囜的には認識されなかった。
    䜕より――「クレヌムを受けた偎に萜ち床がある」
    ずいう、䞖間の根匷い“善意ず愚鈍”が、青山の仕掛けを芆い隠しおくれおいた。
    譊察さえも、その通念に染たっおいた。蚓緎は自宅でも、宗教法人カラオケボックスでも良かった。
    䞀宀はそれ専甚ずされ、テレビも眮かれ道堎ず呌ばれた。道堎にはこう曞かれおいた。①挑発せよ、②怒らせろ良識、理性を剝ぎ取れ、③蟱めろ・粟神を打ち砕け、これこそが䞭栞だった。
    すべおの矊たちが粟神を打ち砕かれた時、青山のような新たな貎族階玚が誕生する。そこでは䞍平等こそが正矩であり極倧たで広げられる。
    特別䌁画などはお遊びだった。仲間を集める、遞別する道具に過ぎなかった。ずりあえずはこのようなやり方で、瀟䌚に適合しながら、自分ず䌌たDNAの持ち䞻が拡散しおいくこずを狙っおいた。

    第六章 解攟区
     
    青山に盎接取材に行った者は、もはやほずんどいなかった。
    その䞭で、わざわざ蚘者蚌を持っお珟れた倉わり者は、週刊文春の蚘者ひずりだけだった。
    前回取材時ずは打っお倉わっお、青山の衚情はどこか穏やかだった。
    服装も地味で、声のトヌンも萜ち着いおいた。
    「今床歌舞䌎町にオヌプンした解攟区に぀いおですが、ご遺族の方々がお怒りであるこずは、承知しおいたす」
    圌は、はっきりずそう蚀った。「匁明は、したせん。ただ――」少し間を眮いおから、圌は静かに続けた。
    「私の過去の行為に぀いお、“家庭環境に原因があったのでは”ず分析しおくださった方がいたした。
    その通りだったず思いたす。幌少期から、私は“期埅”ずいう名の重圧に囲たれおいた。
    それに、どうしおも耐えられなかったんです」
    蚘者は黙っおいた。録音はしおいなかった。ただノヌトに静かにメモをずった。
    「だから、せめお  同じように苊しんでいる人たちのために、**“吐き出す堎所”**を䜜ろうず思ったんです」
    「それが、あの  」
    「はい。“解攟喫茶” 解攟区です」
    青山は䞀瞬、ほんのわずかに埮笑んだ。
    「信者の方々が、ほが無償に近い圢で協力しおくださった、それも、この店が成立した倧きな理由の䞀぀でした。」
    最初のころ、「解攟区」を蚪れる客は、ほんの数名だった。
    “怖いもの芋たさ”ずいう動機が、どこかに透けおいた。
    コヌヒヌを䞀杯飲んで、「ここが噂の堎所か」ず目を泳がせながら店を出おいく者も倚かった。
    だが、埐々に、垞連が珟れはじめた。
    スタッフはほずんどが無絊の奉仕者たちだった。
    基本的に、男性の話を聞く偎には女性を配眮した。
    だが、人員が足りず、男性スタッフが察応するこずもあった。
    いずれの堎合も、“䞀生懞呜に話を聞いおくれる”ずいう評刀が静かに広たり、
    店の評刀は「奇劙なカフェ」から、「本音を吐ける堎所」ぞず倉わっおいった。
    そしお、ある日を境に――青山掞が“欲しおいた者たち”が珟れはじめた。
    圌らは、䞀芋普通の瀟䌚人だった。
    スヌツ姿のたた来店し、穏やかな笑顔で「今日は少し話したくお」ず切り出す。だが、口から出おくるのは、動物を虐埅し、殺す話、
    あるいは、誰にも蚀えなかった暎力や殺人ぞの欲求だった。
    たた青山が期埅をかけおいる局、クレヌムを぀けるこずに快感を芚えおいる局もいた。ただそれは少しでも良かった。いかなる残虐な衝動を持぀人間でもモンスタヌクレむマヌに善導する自信ができるようになっおいたからだ。
     
    察応しおいたスタッフは、いかなる話にも動じなかった。
    そういう客には、すぐに信者スタッフが察応を亀代したからだ。
    その信者スタッフたちは、実に自然な口調で、実ににこやかに、こう尋ねた。
    「その時  性欲がわきたしたか」
    問いかけられた客がきょずんずすれば、話題はすぐに逞らされた。
    だが、うなずいた者に察しおは、別の扉が開いた。
    「それは、恥ずかしいこずではありたせんよ。
    僕も、昔はそうでしたから」
    その“昔は”ずいう曖昧な過去圢が、なぜか安心感を䞎えた。
    「あなたもそうだったのか」ず思わせながら、
    「でも、今は違うのか」ずいう埮劙な距離を残す。
    それが圌らのやり方だった。
     
    第䞃章 祐介ず掋子
     
    その客は、最初から劙だった。
    ぶ぀ぶ぀文句を蚀いながら商品を持り、牛乳を手に取っおは棚に戻し、パックごずに裏を確認しおいた。
    カりンタヌに来るず、唐突に蚀った。
    「セブンスタヌ、くれ」
    祐介はそれがタバコの銘柄だずわかった。けれど、どの番号かは分からなかった。
    申し蚳なさそうに蚀う。
    「恐れ入りたす、番号でお願いできたすか」
    「はあ」
    男は、わざず倧きくため息を぀いた。「商品名で蚀っおんのに、番号 お前なあ、客に向かっお“番号で”っお、どういう蚀い方だよ」
    「  申し蚳ございたせんが、番号でお願いしたす」
    「“申し蚳ございたせんが番号でお願いしたす”  なあ、蚀い方っおもんがあるだろ。今の、お前、自分が正しいず思っお蚀っおるだろ」
    祐介は黙っおう぀むいた。
    「お前さ、そこに眮いおあるバナナ、あれ産地どこだ」
    「すみたせん、分かりたせん  」
    「なんだそれ。じゃあ聞くけど、お前孊生」
    「はい」
    「アルバむト」
    「はい  」
    「アルバむトでも、ここに立っおる以䞊は“店員”だよな」
    男の口調は、皮肉ではなく、理屈を教えおやるずいうような響きだった。
    「  はい」
    「じゃあ、“店員”が“知らない”っお䜕だ “知りたせん”っお、接客じゃねぇよな お前、孊校で䜕孊んでんの」
    祐介は口を開かない。
    「そもそも、客っおのはな、商品に察しお金払っおんじゃねえ。“ちゃんずした人間”から受け取るこずに金払っおんだよ」
    「  」
    「お前みたいな奎が枡すタバコなんか、気持ち悪くお吞えねぇよ。なあ、“アむス担圓です”ずか蚀うなよ それも逃げだからな」
    「  違いたす」
    「じゃあさ、お前、ここで䜕担圓なの “䜕も知りたせんけど立っおたす”担圓か」
    「  」
    「もう聞くけどさ、こんなダツが察応しお、店の信甚っお保おるず思っおんの なあ」
    そのずきだった。
    祐介の声が小さく挏れた。
    「  じゃあ、もうこないでいただけたすか」
    男の目が、ぎたりず止たる。
    「ん 今なんお」
    祐介は、顔を䞊げた。
    「  嫌なら二床ず来んなっお蚀っおんだよ」
    祐介がそう蚀った盎埌だった。
    レゞ裏の自動ドアが音を立おお開き、店長が飛び出しおきた。
    「はいはいはい、申し蚳ございたせん お客様、ちょっずこちらぞ  」
    ず男の肩を軜く抌し぀぀、声を䜎くしお䜕やら囁く。
    男は「蚀っずけよ、ほんずに」ず捚お台詞を吐いお、ようやく店を出おいった。
    ドアが閉たるなり、店長は祐介に振り向いた。
    「祐介くん、あれはダメだよ」
    「でも――」
    「“でも”じゃない。お客様に察しお“もう来るな”なんお、暎蚀だろ いくら䜕蚀われたっお」
    「すみたせん。でも、番号じゃないず本圓に分からなかったんです」
    「そこは共感すればいい。“お困りですね、申し蚳ありたせん”っお。で、そのあずに説明。“商品名は絶えず倉わりたすので、番号でお願いしおおりたす”っお、そういう蚀い方があるだろ」
    「僕、“恐れ入りたすが、番号でお願いしたす”っお蚀いたしたけど  」
    「その“お願いしたす”に心がこもっおない。誠意がない。マニュアルそのたた。事務的。お客様はそれを感じ取るんだよ」
    店長の声が匷くなっおいく。
    「だいたい、“もう来るな”なんお――暎蚀䞭の暎蚀じゃないか。お前、瀟䌚なめおるのか」
    「“こんなや぀も”っお蚀うのも暎蚀ではないですか」
    ず祐介
    そのずき、レゞ裏から奥さんが心配そうに顔を出した。
    「  どうしたの 倧きい声が聞こえたけど  」
    店長は無芖しお怒鳎り続けた。
    カりンタヌの奥で、もう䞀人のバむト・優子がぜ぀りず぀ぶやいた。
    「  おか、セブンスタヌっお、今もう売っおないですよ。ほかの名前になっおたす」
    店内が、䞀瞬だけ静かになった。
    圌女はタバコに詳しい。珍しく喫煙者だった。
    その情報を聞いおも、店長は止たらなかった。
    「君には今週いっぱいで蟞めおもらう」
    「  わかりたした。じゃあ今すぐ蟞めたす。昚日たでのバむト料、振り蟌んでくださいね」
    祐介は、制服の名札を匕きちぎっおカりンタヌに眮いた。
    優子が䞀歩前に出た。
    「私も、今すぐ蟞めたす」
    「なに蚀っお――」
    「うるさい。こんな空気じゃやっおられないよ」
    二人はそのたた、無蚀でロッカヌに匕っ蟌み、荷物をたずめお出おいった。
    自動ドアが開いお、閉たる。
    奥さんがぜ぀りず蚀った。
    「  蟞めさせなくおもよかったんじゃない」
    店長は、息を吐いた。
    「いや、こんな小さな店で働いおやっおるのに銖にしやがった、芋おろよ、他の店で倧掻躍しお芋返しおやるっお、がんばるや぀じゃなきゃ、どこ行っおもダメだ。教育的配慮だよ。俺もそうだった」
    奥さんは、しばらく黙っおいたが、やがお蚀った。
    「その結果が  たったくはやっおないコンビニの雇われ店長。」
    店長は䜕も返さなかった。
    もしあの男が初めおの客だったなら、祐介も䜕も蚀わなかっただろう。
    だが珟実には、そい぀はほが毎日来た。
    牛乳の賞味期限に文句を蚀い、
    菓子パンの配眮にケチを぀け、
    レゞに立぀祐介を芋おは――
    「お前の芪の顔が芋たいな。どういう育ち方したらそうなるんだ」
    「二流倧孊のバむト颚情が、なにを嚁匵っおんだ」
    「品がないなあ。どういう育ち方しおきた」
    明らかな暎蚀を繰り返しおいた。
    店長も、知っおいた。
    にもかかわらず――いや、知っおいるからこそ――あの男には䜕も蚀わず、祐介だけを説教した。
     
    祐介は優子にみせた。
    「  ねえ、これ」
    銀色のカヌド、さっき怒っおドアを出るずき、萜ちおいるのを拟ったのだ。あのクレヌマヌのものず思われた。
    硬質なプラスチック補で、黒い文字が印字されおいた。
    《解攟区 特別䌚員暩》
    祐介が顔をしかめた。
    「  解攟区っお  あの、噂の店」
    「うん。元シリアルキラヌがやっおるっお。名前倉えお、“青山”っお名乗っおるらしいけど」
    「嘘だろ。あい぀、あんな店の垞連だったのかよ」
    二人はそのたたスマホを取り出し、怜玢を始めた。
    “解攟区 喫茶店”、“解攟区 青山”、“殺人 喫茶”――
    いく぀かのキヌワヌドで匕っかかったペヌゞをたどっおいくず、それらしい公匏サむトにたどり着いた。
    しかし、最初に衚瀺されたのは求人ペヌゞだった。
    時絊1,700円〜経隓により優遇
    孊生優遇、亀通費支絊
    二人は顔を芋合わせた。
    冗談の぀もりで優子が蚀った。
    「行っおみる」
    祐介は苊笑したが、少ししお蚀った。
    「  バむト、今ないし」「それにあい぀の玠性知りたいし」
    圌の父は金持ちの医者だった、匁護士を䜿い蚺療ぞのクレヌムを凊理するのをそれずなく䞡芪の䌚話などから聞いおいた。玠性がわかれば父に頌んでみる぀もりだった。たったくだめかもしれないが。
    優子は、しばらく黙っおからうなずいた。
    「応募、しおみる」
    「うん、怖いけどなんかできそうな気がするんだ。裏での違法行為を暎くずか」
    「怖いこず蚀わないで」
    「いや、無理はしない。バむト条件次第では、日本は法治囜家だ。」
    その倜、二人は画面に名前ず連絡先を入力し、**“応募する”**のボタンを抌した。
    ペヌゞが切り替わり、こう衚瀺された。
    ご応募ありがずうございたす。
    面談日時は、こちらからご連絡いたしたす。
     
    第八章 解攟区の構造
     
    青山の店は最初は、文春蚘者に話したように事件を起こしお以来のファンが、無料奉仕に近い圢で働いおくれおいた。だからこそ開業できたのだが、最初の頃ず違い、普通のサラリヌマンも増えお来た。曎にたた新たな局を、開拓予定だったが、今いる瀟員は暎力性向からたずもに䞖の䞭に出れなかった連䞭も倚い。倖向けの顔が欲しかった。ただ、流石に䞀流倧孊出の優秀瀟員はきおもくれないだろうし、たた出す絊料もなかった。真面目な孊生バむトくらいが䜿いやすかった。そういう点、祐介ず掋子、特に掋子はぎったりだった。埓っお、即採甚だった。
    祐介ず掋子は、それぞれにテヌブルに぀いた客の前に立ち、蚀われた飲み物や軜食を運び、ただ――話を聞いおいた。
    オヌダヌのあず、客は話し出す。過去のこず、職堎のこず、家庭のこず、性癖のこず。
    どの客も、なぜか話し続ける。こちらが促す必芁もない。
    たるで「ここでしか蚀えないこず」を吐き出しに来おいるかのようだった。
    祐介はある男の前に座った。
    「  母芪が、死ぬ間際たで俺を呪っおたんだよ。笑えるだろ」
    圌はただ、うなずいた。
    䜕も求められおいなかった。ただ“聞いおいる人間”がそこにいれば、それでよかった。
    優子の前では、スヌツ姿の女が、淡々ず話しおいた。
    「旊那はバカなの。顔も声も。だけどあの人の䞡芪が、金持ちで  たあ、保険だけが楜しみっおずこかな」
    時に、話は耳を塞ぎたくなるような内容にたで螏み蟌んでくる。
    幌いころの虐埅
    密かに抱えおいる殺意
    盗撮の癖、傷害の経隓
    そういうずきは、合図を出せばよかった。
    そっずボタンを抌すず、**「信者スタッフ」**が亀代に珟れる。
    圌らは、おだやかな感情で、話を匕き継ぐ。
    聞くでも、返すでもない。ただ受け止める噚のように、そこに圚る。
    祐介はその光景を芋ながら、ずきどき自分が䜕をしおいるのかわからなくなった。
    これはバむトなのか。
    それずも、䜕かの儀匏に付き合わされおいるだけなのか。
    だが、日絊は珟金で、確実に手枡された。
    あのコンビニでは、䞀ヶ月働いおも埗られなかった額が、数日で手に入る。
    倜、二人は垰り道で話した。
    「  あの人、たぶん殺したっお蚀っおたよね」
    「うん。たあ分からないけど」
    「  ねえ、祐介。
    “人の話を聞く”っお、こんなに重いこずなんだね」
    祐介は答えなかった。
    **青山が䜜った「解攟区」は、隣のカラオケず裏通路で繋がっおいた。
    カラオケを普通に利甚する客は、衚玄関から
    䞀方、青山の「特別䌚員䌁画」に参加する者は、解攟区から盎接぀ながるその通路を通っお入る仕組みになっおいた。
    䌁画が行われるずき、カラオケ店の党宀ではなくずも、通垞は50%以䞊の郚屋がその目的に䜿われた。
    その堎合、衚玄関からは䌁画甚の郚屋ぞ行けないようにされおいた。倖から芋おも分からないように、ルヌトがきちんず分けられおいたのだ。

    第九章 䟵入

    祐介ず掋子以倖にも、普通の孊生バむトが六人ほどいた。
    みな奥で䜕が行われおいるのか、恐ろしさ半分、芋たさ半分で日々を過ごしおいた。
    だが――あの通路を抜けお奥に行くには、䜕よりも勇気が必芁だった。
    ある日、䞀人の“匷者”が、その通路を通り、奥を芗きに行った。
    本人は「ばれおいない」ず思っおいた。だが、もちろん、監芖カメラはすべおを捉えおいた。
    数日埌、青山に呌び出された。
    郚屋には信者が数人いた。ひずりが玅茶を入れ、「ありがずうございたす」ず蚀った。青山は「オヌ」ずだけ答えた。
    信者は、バむトの孊生にも玅茶を泚ぎ、ケヌキを䞊べた。
    青山は口にケヌキを運び、玅茶をすすりながら、粘っこい口調で蚀った。
    足はずっず、貧乏ゆすりしおいた。
    「もう二床ずしないでくれよ。でも  君もこれで分かったんじゃないか
    僕らは、法埋に觊れるようなこずは、䜕䞀぀しおいないっおこずが」
    孊生は、䜕かを蚀いかけお、口を぀ぐんだ。
    ――でも、圌らは“生きたたた猫をするビデオ”を喜んで芋おいた。
    あれは動物愛護法違反じゃないのか
    そう蚀おうずしたが、蚀えなかった。怖かった。
    それに、自分も“芗いた”立堎だった。
    䜕より、目の前でその虐埅が行われおいたわけではない。
    沈黙しおいるず、青山はさらに蚀った。
    「口止め料に  バむト料、時絊100円アップしよう。
    それず、これ。内緒にしおくれたら、君に20䞇円やろう」
    そう蚀っお、封筒に入った珟金を差し出した。
    「  ぜんぶ、内緒にしおくれよ」
    そのずき、い぀の間に近づいおいたのか、信者の女性が孊生の襟にふれた。
    立ちっぱなしだった襟を、盎しおくれたのかず思い 孊生は「すいたせん」ず蚀いかけたが――
    次の瞬間、圌女は孊生の服の胞元に觊れおきた。
    もう䞀人の信者が「觊るな」ず匷く蚀った。
    圌女は倉な角床で顔を近づけ、じっず孊生の顔をのぞきこんだ。
    目を合わせたたた、ゆっくりず離れおいった。
    考えおみれば、あのずき――
    玅茶もケヌキも、“すすめられた”わけではなかった。ただ、眮かれおいただけだ。
    「  もう、行っおもいいでしょうか」
    孊生がそう尋ねるず、青山は「ぞッ」ず苊笑しながら、信者のひずりを芋た。その信者はどう返したらいいのか分からない様子で、ぎこちなく笑った。
    倱瀌したす――その蚀葉は、声にならなかった。
    ずにかく、その堎を去りたかった。
    信者たちは䞀床、出口を塞ぐように立ちはだかったが、やがお道を開けた。
    その孊生が、この䜓隓を他のメンバヌに語ったのは、ずっず埌になっおからだった。
    話を聞いおいたバむトたちは、最埌のくだりにさしかかるず、誰ひずり声を出さなくなった。
    それを語る孊生の、ひき぀った衚情。震える声。䜕床も、生぀ばを飲み蟌む様子。
    それらを芋お、圌らは――背筋が凍るような恐怖が、たるで䌝染するかのように、自分たちの䞭に入っおくるのを感じた。
    それ以降、あの通路を越えようずするバむトは、䞀人ずしお珟れなかった。

    第十章 スティヌブン
     
    ある日掋子が受けもったのはテレビタレントのスティヌブンだった。
    ひょうきんで、どこか憎めない倖囜人タレント。日本語ペラペラで、䞋手なダゞャレを連発し、バラ゚ティ番組で圌を芋ない日はない。
    ――あのスティヌブンが、今はたるで別人だった。
    その衚情には、冷酷さず非情さだけが浮かんでいた。
    「堎所は蚀えたせんが  ワニに、人を食わせたこずがありたす」
    圌は静かにそう蚀った。そしお人がワニに食われおいく様子を話し始めた。そこにいた掋子は、思わず身をこわばらせ、「やめおください」ず声を䞊げ、足元のベルを抌した。
    信者スタッフがすぐに亀代に入った。
    信者スタッフは䞀通り話を聞き終えるず、マニュアルに沿っお問いかけた。
    「そのずき  性的な興奮を感じたしたか」
    スティヌブンは䞀瞬、にやりず笑った。
    そしお、い぀もの口調で答えた。
    「感じたしたよ。その倜は  女房ず、もうやりたくりで」
    埌半の圌は、完党に**“茶の間のスティヌブン”**に戻っおいた。
    そのたた、スタッフがそっず封筒を差し出した。
    「それでは、特別䌚員蚌をお枡ししたすね。
    このカヌドに䜕の矩務もありたせん。ただ、今埌“特別招埅”を受けおいただくには、
    ご提瀺が必芁になりたす」
    「なお、特別招埅を受けた堎合の料金ですが、基本的にはカラオケボックスの郚屋代。特別招埅をお受けになる矩務もございたせん。
    お金を払っおの“オプション”もございたすが、そちらも匷制ではありたせん」 
    䞀応芏則ずか曞いおたすので、お家ででもお読みになっおくださいず二枚の玙を枡した。
    よくあるご質問FAQ
    Q特別䌚員ず信者の違いは䜕ですか
    A特別䌚員の方は「特別䌚員䌁画」ぞご参加いただけたす。
    信者の方は、䞻にそのお手䌝いや解攟区の運営を支えおいただく立堎になりたす。
    Q信者になるにはどうすればいいですか
    A特別䌚員の方で垌望された方に限り、青山ずの面接を経お刀断させおいただきたす。
    Q信者には矩務がありたすか
    A絶察的な矩務は䞀切ありたせん。
    ただし、信者の集たりや解攟区の仕事などをお願いするこずがありたす参加は任意です。
    Q信者ずしお解攟区の手䌝いをする堎合、絊䞎は出たすか
    A時絊を垌望される方には支絊いたしたすが、䞀般バむトの方よりも安い蚭定ずなっおいたす。
    Q信者の集たりに参加する際、費甚はかかりたすか
    A信者は「仲の良い仲間の集たり」ずお考えください。
    䟋えば䞀緒に食事をする際は、各自でご負担いただきたす。事前に参加垌望をお聞きし、城収を行う堎合もありたす。その城収䜜業もお手䌝いいただきたす。
    Q寄付は必芁ですか
    A可胜な範囲でご協力いただければ嬉しいですが、寄付は䞀切匷制いたしたせん。
    Q特別䌚員䌁画ぞの参加費甚は
    A基本的には「郚屋代金のみ」で、目安ずしお2,0003,000円皋床です。
    䌁画の内容や、オプションコヌスを垌望される堎合は別途費甚が発生したす。
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    特別䌚員限定䌁画ぞの参加資栌あり
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    費甚別途案内䌁画内容により倉動
    䌚員蚌は斜蚭利甚・入堎時にご提瀺ください。
    䌚員特兞・䌁画は予告なく倉曎ずなる堎合がありたす
     
    信者スタッフは、掋子の元にそっず戻っおきた。
    「  倧䞈倫 䜕か蚀われた」
    掋子はう぀むいたたた、小さく銖を暪に振った。
    「えげ぀ない話を  聞かされただけです」
    でも、そのあず蚀葉にならなかった。
    圌女は泣いおいた。
    䞀緒に働きだした祐介も、肩を萜ずし、深く目を䌏せた。
    こんな堎所に来たこずを、二人ずも心から悔やんでいた。
    スタッフは、スティヌブンのこずを、ため息亀じりに語った。
    「あの人ね、実は倢に出るっお蚀っおたんですよ。
    ワニの目ずか、声ずか。
      君の倢に出ないずいいけど。
    本圓に、心配だよ。
    ぀らかったね、あんな話聞いお。
      でもね、圌が䞀番぀らいんだよ。
      わかっおあげお」
    その“わかっおあげお”に、
    掋子はもう、ただ嗚咜するしかなかった。
     
    第十䞀章 転機
     
    しかし青山にずっお、それはたさに枡りに船だった。
    か぀お自分の信者ずしお登録された䞭でも、ここたで䞖間ぞの波及力を持぀男は皀だった。スティヌブン。日本語はネむティブ䞊み。茶の間の人気者。芞胜界では知らない者はいない。
    圌が「特別䌚員」になったず聞いたずき、青山はたず、自ら䌚うこずは避けた。
    自分から近づけば、逃げられる可胜性がある。
    こういうタむプは、自由意志のフリを保ったたた、自然に匕き寄せられるように仕掛けなければならない。
    青山は、信者の䞭からむンテリゞェンスが高く、しかも性的に“こっち系”の女性を遞び、
    接觊の橋枡しを詊みようずした。
    ──だが、その心配は杞憂だった。
    スティヌブンのほうから、足繁く解攟区を蚪ねおきたのだ。
    「早く“特別招埅”を受けたい」ず䜕床も蚀い、
    「青山にも䌚いたい。過去のこずは聞かない」ずたで蚀った。
    そしお、ある日。
    テレビの党囜攟送で、圌はポケットから“特別䌚員蚌”を取り出した。
    叞䌚者ずゲスト陣が䞀瞬で凍り぀いた。
    䜕人かは笑っおごたかそうずしたが、カメラははっきりずカヌドを映しおいた。
    「これですよこれ」
    スティヌブンはニコニコしながら蚀った。スタゞオ内には、掟手な照明ず笑い声が溢れおいた。
    叞䌚者が笑顔のたた、聞いた。
    「スチヌブンさん、これが䟋の“特別䌚員暩”なんですね どうやったらもらえるんですか」
    暪に立぀スチヌブンは、平然ずした顔でマむクを取った。
    「最近、良くないこずを考えたり、やったりしたこずはありたすかっお聞かれるんですよ。で、あったらその時の気持ちを話すように蚀われるんです」
    「どんなこず話したんですか」ず、叞䌚者が興味深げに尋ねる。
    スチヌブンは、軜くうなずいた。
    「  僕の出挔料が安いのは人皮差別だ、腹が立぀、憂さ晎らしに“2カメの斎藀の浮気未遂”バラそうかず思った、っお答えたした」
    スタゞオの奥、カメラマンたちの間に明らかに挔出でない笑いがどっず起きた。
    圌は続けた。
    「そしたら“それをしたらどんな気持ちになるでしょう”っお聞かれたので、“爜快”っお答えたら  くれたした。特別䌚員暩。」
    その瞬間、スタゞオが小爆笑に包たれた。
    芳芧垭のコメディタレントが、食い気味に割り蟌む。
    「嘘぀け お前、ギャラ倚いやろ」
    今床は倧爆笑が起きた。
    スタゞオの埌方、カメラ2の斎藀が、**「事実無根」**ず曞かれた手曞きのカンペを党力で掲げる。
    「斎藀、頑匵れよ」ず、コメディアンAが声をかけた。
    すかさず隣のコメディアンBが銖を振りながら蚀う。
    「いや頑匵ったらアカンやろ、それバレたら終わりや」
    叞䌚者は笑いを堪えきれず、苊笑いで締めにかかる。
    「えヌ、たあ  䞀郚事実を含むお話でした。」
    その瞬間、それたで柔らかい笑顔を浮かべおいた女性アシスタントが、ふいに真顔になった。
    「でも  スチヌブンさんみたいな人が関わっおるっお、ちょっず  䞍安ずいうか。私はそう思いたす」
    曎に話は続く
    「守秘矩務 ないですよ。ぜんっぜん」
    「システムも玹介したしょうか」
    共挔者たちは匕いおいた。
    だが、それ以䞊に、「聞きたくもないけど、少しだけ聞いおみたい」**ずいう空気が、
    番組党䜓に充満しおいった。
    「もちろん、招埅あれば行きたすし、その内容もお話ししたすよ。
    青山さんずも近くお䌚いする予定なんで  テレビカメラも、入れられるかな」
    その瞬間、スタゞオの空気が決定的に倉わった。
    「  あの人に、䌚ったんですか」
    女性叞䌚者が、おそるおそる尋ねた。
    スティヌブンは、たたにこやかに蚀った。
    「いえ、ただです。
    でも、もうすぐですよ。
    圌は僕に興味あるっお、蚀っおたそうですから」
    攟送を芋おいた青山掞は、焊っおいた。
    スティヌブンが特別䌚員蚌をテレビで堂々ず掲げた瞬間、
    青山は、リモコンを握る手をわずかに震わせた。
    そもそも、特別䌚員䌁画ずいうものは、センシティブな内容を含んでいた。
    それゆえ、䌁画参加者には必ずこう告げおいた。
    「ここで芋聞きしたこずは、口倖しないでください。
    もちろん、途䞭でお垰りになるのは自由です。
    誰も匕き留めたせん」
    䞀瞬、党システムの即時解䜓すら頭をよぎった。
    だが、すぐに青山は思い盎す。
    これは、信じられないチャンスでもある。
    番組攟送の翌日から、解攟区は異様な混雑を芋せた。
    「怖いもの芋たさ」ではなく、むしろ**“テレビでやっおたから安心”**ずいう客が増えた。
    スタッフたちも察応に远われ、察応マニュアルは次々に曞き換えられおいった。
    青山はすぐに信者を集め緊急䌚議を開いた。
    信者は䞀様に動揺しおいた。
    「テレビカメラが入れば、䞭身を隠せたせん」
    「でもこれは、䞀倧チャンスだ」
    議論は堂々巡りになった。
    しばらく沈黙が続いたのち、青山が䜎く蚀った。
    「この䞀倧チャンスを逃す手はない。これをおこに䞖間をみかえしおやるんだ」
     
    第十二章 テレビ攟映
     
    ただテレビに䜕を芋せるか。
    その問題に぀いお、青山ずスタッフの間での議論は倜たで続いた。
    「無難な内容にする」
    だが同時に、**「無難すぎれば芖聎者は玍埗しない」**こずもわかっおいた。
    䞭途半端では逆効果になる。
    「䜕かを隠しおいる」「やっぱりカルトだ」ず䞖間に決め぀けられる。
    そこぞ、あっさりずスティヌブンから連絡が入った。
    「テレビカメラ、入れおもいいですか
    特別䌚員䌁画の䞭身攟送したいんですよ」
    そのあっけらかんずした口調に、スタッフは䞀瞬返事に詰たった。
    察応に出た信者は、慎重に蚀葉を遞んだ。
    「お話いただく内容の䞭には  少しセンシティブなものも含たれるこずがありたす」
    「たずえば、“䞊叞に孕たされた”ずか、“䞊叞の家族を殺したい”ずか。
    もちろん私たちは、それを頭ごなしに吊定はしたせん。
    “そう思っおしたった”ずいう段階から、少しず぀良い方向に向かっおいただくのが私たちの方針です」
    党くの嘘だった。
    圌女は䞀拍眮き、やや䜎い声で続けた。
    「なので、音声や顔が特定されないような線集にしおいただきたいんです。
    䞀郚、内容をカットしおいただく堎面も出るかもしれたせん」
    スティヌブンは、少し笑った。
    「ああ、そんなの普通のこずですよ。テレビですから。
    圓たり前です。局のスタッフには僕から蚀っおおきたす」
    あっさりず、そしお軜やかに、圌はすべおを受け入れた。
    その柔軟さず、衚面の明るさの裏にある暗黒を、青山は知っおいた。
    だから圌を信じた。
    圌のような存圚が、あの茶の間で、
    “共感ず吐露の空間”を正圓化しおくれるのなら、
    青山はもう、「地䞋に朜る必芁がない」のかもしれない。
    青山には、掟手な仕掛けを甚意する぀もりはなかった。
    そもそも、組織はただ小さく、資金もない。
    せめお、ず青山はスタッフにだけは告げおいた。
    “䟋の䞀蚀”――あれは、できるだけテレビの前では控えるように」
    「性的興奮がどうの、ずいうくだりだけは、流されるずたずい」
    そしおモンスタヌクレむマヌ逊成の様子も。
    だが、それ以倖は止める気はなかった、カットしおくれるからだ。
    テレビ局は撮圱を開始し、぀いに「特別䌚員䌁画」のロケが行われた。
    特別䌚員䌁画は䜵蚭のカラオケ店で行われた。そこたでは解攟区から通路が通じおいる。
    テレビクルヌ「珟圚、私たちは“解攟区本通”ず“カラオケ棟”ずを぀なぐ通路を移動䞭です。ご芧ください。こちらが䞡斜蚭を結ぶ内郚専甚の連絡通路です。」
     
    「通路の幅はおよそ1メヌトル半。倩井はやや䜎く抑えられ、照明も控えめに蚭蚈されおいたす。壁はコンクリヌト打ちっぱなしのような質感ですが、よく芋るず所々にグラフィティ颚の装食や過去の“ラむブ映像”のキャプチャが食られおいたす。」
     
    「音を遮断するため、䞡偎の壁には吞音玠材が䜿われおおり、通行䞭はほが無音の空間ずなっおいたす。やや長めの通路で、先が芋通しにくい構造になっおおり、歩いおいるず䞍思議な没入感がありたす。」
     
    「この通路は、解攟区の“衚の顔”ず“内なる空間”ずを぀なぐ象城的な導線ずもいわれおいたす。特別䌚員や信者は、たるで舞台裏からステヌゞに向かう俳優のように、ここを通っおカラオケブヌスぞず移動しおいきたす。」
     
    「珟圚、我々のカメラマンもこの通路内を進行䞭。出口付近からは、かすかにマむクテストの音が聞こえおきたす  」
    ──最新の“䌁画”は、煜り運転の共有だった。
    ドラむブレコヌダヌを持ち寄った数名の䌚員が、
    自分がどれだけ盞手を远い詰め、怖がらせたかを笑いながら語り合う。
    「いやもう、あんたり鬱陶しいから、ぶん殎ろうかず」
    「車でちょっずだけ匕いおみようかずも思ったけどさ」
    スタッフは苊笑しながらも収録を続けた。
    だが、そうした露骚な発蚀は埌にすべおカットされた。
    さらに、収録が終わったあず。
    特別䌚員たちが信者ず䜕かを話し蟌む様子も、
    マむクはすべおオフにされおいた。
    取材スタッフの䞭には、圓然ながら疑問の声が䞊がった。
    「なぜ、ここたでカットする 話の流れずしおも重芁だろう」
     
    だが、線集責任者が䞀蚀だけ蚀った。
    「  䞊からの、匷い芁請が入っおる。
    今回は、それに埓っおくれ」
    “䞊”ずはどこなのか、誰なのか。
    誰も、それ以䞊は聞こうずしなかった。
    特別䌚員䌁画ではよく来蚪者たちが持ち寄った戊争写真や拷問、凊刑の映像などを“共有”しおきた。
    その内容は残酷なものばかりだったが
    今回はスティヌブン自身が参加した。
    スティヌブンはこう提案した。
    「テレビ局には、攟送できなかった実写映像、山ほどありたすよ。」
    実際、局の倉庫には“䜿えなかった戊堎映像”や“事件珟堎の凊理蚘録”が倧量にあった。
    その䞭から遞別され、“鑑賞䌚”が撮圱された。
    攟送圓日。腕が半分無くなり、泣きながらトラックに乗り逃げる男性、戊車の䞋敷きにされ、ペッちゃんこになる捕虜など
    テレビ映像には、圓然ながら倧量のボカシず音声カットが斜された。
    出挔者の衚情も、䌚話も、ほずんど映されなかった。
    だが、今回はナレヌションが添えられた。
    「圌らは、こうした映像を芋るこずで、
    “カッずなっおしおしたいそうなこず”の、
    その結末がいかに無惚かを、
    身䜓で感じおいるのです」
    それは党くの嘘だった。
    だが、攟送を芋た者の倚くは、
    “内容”ではなく、
    “その堎に集たっおいる者たちの顔”をじっず芋おいた。
    そしお感じ取っおいた。
    圌らは楜しんでいるず。

    第十䞉章 眰

    特別䌚員の近藀は、煜り運転の垞習犯だった。
    それは趣味でもあり、ストレス解消でもあり、なにより“自分は正しい”ず思える数少ない瞬間だった。
    その日も、い぀も通りだった。
    東京近郊のスヌパヌの駐車堎。
    隣に停めおいた車に母子連れが乗り蟌もうずした瞬間、母芪が勢いよくドアを開けた。
    無造䜜に、無神経に。
    ボルボのドアが、倧きくぞこんだ。
    「おい、こら」
    ず声を䞊げかけたずきには、もう盞手の車は䜕事もなかったかのように発進しおいた。
    それが、圌には䜕より腹立たしかった。
    だが圌にずっおは、めったにない“幞運”だった。
    今回は完党に、100%、自分には萜ち床がない。
    远いかけおも、誰にも責められるいわれはない。
    すぐに車を発進させた――が、運悪く他の車に道をふさがれ、数十秒、出遅れた。
    焊りながら道路に出るず、遠くに目圓おの車が芋えた。
    間違いない。ナンバヌも色も、あの母子も。
    しかもこの道は――
    思った通り、その車は高速道路に入っおいった。
    混んではいたが、少しず぀距離を詰め、ようやく暪に぀けた。
    クラクションを鳎らし、運転垭からドアのぞこみを指さしたが、母芪は芖線を逞らしたたた、無芖。
    それで逆に、圌の正矩は燃え䞊がった。
    やがお前に出お枛速し、ハザヌドを焚いお、無理やり停車させた。
    「お前、俺の車に䜕しおくれた」
    母芪ず、助手垭の子どもは、怯えた衚情で芋぀めおいた。
    圌はドアを開けさせ、匷匕に降ろした。
    母子はさらに恐怖に匕き぀った顔で立ちすくむ。
    そのずき、埌郚座垭から幎老いた声が聞こえた。
    「どうした」
    ようやく母芪が口を開いた。「父です。介護が必芁な人で  」
    興味はなかった。
    どうでもよかった。
    圌の目は、未成幎ず思しき子どもず、その母芪に向けられおいた。
    「日本には法埋っおものがあるんだよ。  お前らさぁ  」
    殺しおやろうか――そう口に出しかけたずき、
    もっず効果的な方法があるず、脳裏にひらめいた。
    母芪の前で、子どもを殎る。
    いや、それどころか、この子どもを埌ろの車の流れに突き飛ばしおやる――
    その瞬間、い぀の間にか、埌郚座垭の老人が圌の目の前に立っおいた。
    車の倖に、母芪、子ども二人、老人――4人が䞊んでいた。
    老人が、静かに蚀った。
    「よし」
    その掛け声ずずもに、4人が同時に圌を抌した。
    近藀の身䜓は、車線に飛び出した。
    䞀瞬。
    トラックの巚倧なフロントが圌の芖界を埋め尜くし、
    次の瞬間、音もなく、圌の頭郚が朰れた。
    埌の調べでは、血瞁関係があるのは、子䟛たちだけで、䞡芪を煜り運転で殺され、今斜蚭で生掻しおいた。「母芪」は倫ず息子を、老人は劻を煜り運転で殺されおいた。
    ドラむブレコヌダヌは、肝心の瞬間を捉えおいなかった。たた、そもそもなかったか捚おられおいた。
    4人のうち、名乗り出たのは老人䞀人だった。
    「私がやりたした」ず淡々ず語った。
    調査が進むに぀れ、驚くべきこずが明らかになった。
    この老人もたた、“解攟区”の特別䌚員だったのだ。
    しかも、か぀お語っおいた。
    「煜り運転はね、あれは䞭毒になる。私も若い頃はよくやったもんだよ。」
    テレビ攟送埌、関係者の蚌蚀が揺らいだ。
    通りがかった車の運転手たちは、圓初「4人が抌した」ず話しおいたが、テレビで報道が出た埌は、
    「ちょっず角床的に 」
    「いや、あの時は混乱しおたから 」ず、口を濁しはじめた。
    たた老人も匁護士の忠告を受け入れ、もみ合いになったかもしれないが抌しおはいないず䟛述内容を倉えた。結局、蚌拠は決定打に欠け、だれも起蚎されなかった。

    第十四章 オプションコヌス

    そのような゚ピ゜ヌドにもかかわらず
    攟送の反響は、予想以䞊だった。
    スティヌブンが蚀った通り、「慣れ」はすべおを溶かす。
    「最初は抵抗あっおもね、繰り返すず、それが“圓たり前”になるんです」
    次回の䌁画には、たた数人のタレントが申し蟌みをしおきた。
    前回よりも“栌”のある者たちだった。
    ある者は舞台俳優、ある者はか぀お玅癜に出た歌手、
    そしお぀いに、珟職の䞎党議員の姿たであった。
    もちろん、圌らの倚くは“芋るだけ”の぀もりで来おいた。
    「ご垌望の方は、別宀ぞ。無理にずは申したせん」
    別宀の存圚は、次第に“噂”ずしお広がっおいた。
    䞭で䜕が行われおいるのか、正確に知る者はいない。
    だが、ドアの向こうから、ただならぬ息遣いや、時に奇劙な笑い声が挏れ聞こえるこずもあった。
    「本日は垌望者が倚いため、抜遞になりたす。倖郚サヌビスも玹介可胜ですが、お電話はご自分でお願いしたす。有料になりたすのでご了承ください」
    テレビで攟映されおから、䞀般のバむトにも、あのカラオケで䜕が行われおいるのか、倧䜓は䌝わった。
    がかしは入っおいたが、どうせ“そういう”ビデオを芋お楜しんでいるんだろう――そう思えば、みんな腑に萜ちた。だが気になったのは、映像の奥で、はっきりず聞こえたあの䞀蚀だった。
    「さらなるオプションコヌスもございたす」
    オプションっお䜕だ
    もっずえげ぀ないビデオを芋るっおこずか
    でも、セックスじゃないっおのは確かだ。
    倖郚サヌビスずか蚀っおたけど、あんなもの芋た埌で性欲なんお湧くはずがない。
    「普通は二次䌚。曎に酒飲む」
    「じゃあ  動物虐埅」
    誰かがぜ぀りず蚀った。
    蝶の矜をちぎるずか、ネズミを殺すずか――いや、ネズミなら合法だろ。
    「それなら“倖郚”っお蚀葉の意味も説明が぀く。単玔にいたから買っおくるっお話だ、マりス」
    「高いだろう、そんなの」
    「いや、金持ちいっぱいいるっお、あそこ」
    バむトたちの議論は止たらなかった。
    そしお、誰かが蚀った。
    「快楜殺人っお蚀葉、あるじゃん。あれ、やっぱそっち系じゃね」
    その䞀蚀に、かなりのバむトが、蚀葉にせずずも心の䞭でうなずいた。
    青山はずもかく、客や信者、特別䌚員の䞭には“やりかねない”奎が䜕人もいた。
    たずえば――やたら「ダリたいダリたい」ず連呌しお、女性バむトにいきなり「いくら」ず倀を぀けるような男。
    ネクタむでびしっず決めた、倖資の重圹颚の玳士が、静かにブリヌフケヌスを開けお瞄を出す。
    女性バむトがぎょっずしお助けのベルを抌そうずするず、穏やかに、「私を瞛っおください」ず䞁寧に頭を䞋げ、スヌツの䞊着を脱ぎはじめる。
    颚俗店ず勘違いしおいるずしか思えない客は、実際少なくなかった。
    だから――「そっち系だろう」ず、皆の意芋が䞀臎した。
    䜕か異倉があったら、すぐ共有しよう。
    目が合えば、それずなく合図する。
    だが、それでも――
    改めお、バむトたちは思っおいた。
    こんな堎所に、絊料目圓おで居続けおいお、本圓にいいのだろうか。
    その疑問だけが、誰の口からも出されるこずなく、重く郚屋に残った。
     
    第十五章 裏切り
     
    文春蚘者から青山に久々の連絡が入った。文春蚘者は今ではすっかり青山のずりこになっおいた。
    「  実は、これを芋おほしいんです」
    そう蚀っお差し出された封筒の䞭身は、息をのむ写真だった。
    党裞の女性議員が、ベッドの䞊で誰かず寄り添っおいた。ただ、その「誰か」の顔には、黒塗り凊理が斜されおいた。女性議員はスチヌブンが連れおきた。政治の話ができるのはスチヌブンぐらいなので、よく二人でカラオケルヌムにこもっおいた。盞手はスチヌブンかもしれなかった。なお議員は特別䌁画に参加したこずはなかった。嫌なこず吐き出せたすよずスチヌブン蚀われおきお、審査なしの特別名誉䌚員になったものの、圌女の愚痎を理解できるのはスタッフではないスチヌブンだけだったのである。
    「これ  たさか自撮りですか」
    「可胜性はある。」
    蚘者の声は慎重だった。
    青山はしばらく写真を芋぀めたあず、ため息を぀いた。
    スティヌブンが撮るわけもないし、圌女が挏らすずも考えづらい。ずなれば、どこかで盗撮された可胜性  。
    察凊のため、掋子が議員に接觊する圹を任された。
    掋子は䌚員の誰にでも人気があり、議員も解攟区で顔をみれば声をかけおいた。
    「そんな写真 芚えもないし、そんな盞手  いないわよ」
    笑っお受け流すような口ぶりだったが、その目だけがほんのわずかに曇った。
    翌日。この件を聞いたスティヌブンは、珍しく激昂した。
    「ふざけるな   そんな真䌌を、ここで誰かがやったっおのか」
    二人がいた郚屋にも防犯カメラはありすべおを録画しおいた。そしおすべおの防犯カメラの録画は青山しか入れない郚屋においおあった。
    監芖カメラ映像を再生した。最近のから始め、ずいぶん時間がかかるず思われたがすぐに芋぀かった。青山しか入れない、蚘録デヌタの保管宀に入っおいったのは――
    「あれ、遠藀じゃないか」
    その名に、青山はわずかに衚情を倉えた。
    遠藀——青山の信奉者の䞀人であり、組織の䞭では“ナンバヌツヌ”ず呌ばれおいた男。
    「たさか  遠藀が、裏切った」
    青山は蚀葉を詰たらせた。
    信じた者に裏切られた怒りが、皮膚の内偎をじわじわず這い䞊がっおきた。
    遠藀は呌び出された。
    「党く心圓たりがありたせん」
    圌は繰り返したが、監芖カメラの蚘録に残っおいる。
    さらにダメ出しのスティヌブンの䞀蚀があった。
    「圌は僕ずあなたの関係が深たっおから、明らかに態床が倉わりたした。嫉劬  かもしれたせんね」
    狭い宀内に数人がいた。誰もが無蚀だったが、芖線だけがじっず遠藀を突き刺しおいた。
    問い詰める声、あいたいな答え、湿り気を垯びた空気。そのなかで遠藀は、ある“違和感”に気づいた。
    ──これは取り調べじゃない。
    ──これは、儀匏だ。
    質問を重ねる者たちの目は、怒っおいるはずなのにどこか熱っぜく、息づかいさえ劙に乱れおいる。
    ああ――圌らは今、興奮しおいる。
    自分を責めるこずで䜕かを満たしおいる。怒りではない。もっず原始的なものだ。
    䞀皮の性的な高揚。
    快感  そう、これは集団で䞀人を痛め぀けるこずで埗られる快楜の堎だった。
    その瞬間、遠藀はゟッずした。自分がもう“人”ではなく、“察象”になっおいるこずに。
    「圌の凊遇、私が責任を持ちたす」スティヌブンが䞀歩、前に出た。
    その衚情はにこやかだったが、瞳の奥に宿るのは、冷たい鋌のような色だった。
    しかし、青山が手を挙げおそれを制した。
    携垯を取り出し、短く番号を抌す。

    第十六章 本性

    呌び出されたのは、黒田ずいう男だった。
    信者ではあったが、もずもず仲間ではない。ただ幎霢䞍詳、匕き締たった䜓぀きで、劙に堎の空気を支配するような存圚感があった。だが、信者の誰ずも芪しくなろうずはしなかった。
    郚屋に珟れた黒田は、淡々ず蚀った。
    「たず裞にしお瞛りたす。手䌝っおください」
    蚀われた者たちは䞀瞬戞惑ったが、誰䞀人逆らう者はいなかった。
    青山ずスティヌブンは黙っおその堎を離れた。
    遠藀は、気も狂わんばかりだった。
    䞀床は倧声を䞊げお暎れ、必死に逃げようずしたが、黒田が芁所を抑えおいた。
    他の数人が手足を取り、もはや逃げようがなかった。
    玐がなかったので、倉庫から䜙っおいた電気コヌドを匕っ匵り出した。
    遠藀はそのたた、手足を瞛られた。
    黒田は圌らを䌚員甚の颚呂堎ぞず誘導した。そこは思ったより広く、倩井の蛍光灯が癜々ず明るかった。
    排氎溝の金属フタをねじっお閉め、掗い堎にうっすら氎をためる。
    その間に、掗面台のコンセントに電源タップを差し蟌み、ドラむバヌで分解。
    䞭から珟れた金属線をむき出しにした。
    「目隠しになるものは」
    誰かに問うたが、黒田は「ああ、面倒だ」ず蚀い、荷造り甚の粘着テヌプを取りにいった。
    それを遠藀の瞌に貌り぀け、䜕重にも重ねお、絶察倖れないようにした。
    みんなで遠藀の䜓を持ち䞊げ、氎たたりの䞭倮に寝かせた。
    遠藀は恐怖のあたり倱犁しおおり、廊䞋にはうっすらず湿ったシミが残っおいた。
    「氎に近づかないでください」
    黒田はそれだけ蚀うず、自らも䞊半身の服を脱いだ。
    浮かび䞊がる筋肉の陰圱、芋事にシェむプアップされおいた。若々しかった。
    だが、本圓に呚囲が息を呑んだのはその盎埌だった。
    黒田は無蚀でズボンを脱いだ。
    䞋に履いおいたのは、黒の網タむツだった。それが、劙に艶やかで、普通の男性が女性に履かせお喜ぶような――そんななためかしさがあった。
    「  こい぀、ゲむか」
    誰かが心の䞭で呟いたが、口にする者はいなかった。
    黒田は無衚情のたた、金属線を぀たむず、そっず浅く匵った氎の䞭に沈めた。
    その瞬間。
    遠藀の䜓が匓なりに反り返る。
    次の瞬間、この䞖のものずは思えない叫び声が颚呂堎に響きわたった。
    青山は別宀のモニタヌ越しに、その䞀郚始終を眺めおいた。
     拷問が間隔を眮いお繰り返される様子が、映し出されおいた。
     圌の膝元には、口で奉仕するために呌び出された叀くからの女性信者がいたが、青山の目は画面の奥に吞い寄せられおいた。
       自癜が目的だったはずだが
     そう思ったのは、ほんの䞀瞬だった。
     画面では、黒田がひず息぀いたような顔で蚀っおいた。
     「もういいでしょう。怅子に座らせお瞛るか、抌さえずいおください。少し準備があるので、抌さえるのはそのずきでいいです」
     遠藀はその堎で泣きながら、かすれた声で䜕かを蚀った。誰もその内容を聞き取れなかったが、黒田は軜く手を䞊げお、呚囲の者を䞋がらせた。
     次の瞬間、再び金属線が氎に浞された。悲鳎。遠藀の身䜓は再び匓なりに跳ね䞊がった。
     黒田は立ち䞊がるず、ゆっくりず調理堎ぞ向かった。
     さっき䜿ったドラむバヌを取り、ガスコンロにかける。
     先端が赀く染たり、金属が歪むほどに熱される。持ち手が火傷しないように、厚くタオルを巻いた。
     走っお戻るず、遠藀はすでに怅子に座らされ、党身を抌さえ蟌たれおいた。
     黒田は蚀った。
     「頭をしっかり抌さえおください。挿入は耳の穎から──脳に届くたで。耳の時点で暎れたすが、脳に達するず痙攣が始たりたす。くれぐれも泚意を」
    口調は䞁寧で優しかった。たるで猛獣の檻に手を差し入れるずきの泚意を、新米の飌育員に教えるような──その堎に䞍釣り合いな穏やかさが、かえっお䞍気味だった。
     誰も䜕も蚀わなかった。
     そのずきだった。
     青山が、たるで颚呂䞊がりのようなさっぱりした様子で郚屋に入っおきた。
     声は静かだったが、はっきりず通った。
     「もうやめずけ。死䜓の凊理は厄介だ」
     黒田は動きを止めた。
     青山は振り返りもせずに蚀った。
     「スティヌブン呌んでくれ。こい぀、芋せおやれ」
     しばらくしおスティヌブンが珟れた。
     血ず尿ず焊げた匂いの䞭、遠藀の顔はもはや人のものではなかった。
     青山は蚀った。
     「こんな状態でも任せられるか」
     スティヌブンは䞀瞬だけ黙り蟌んだ。だが、すぐにい぀ものテレビの調子で蚀った。
     「倧䞈倫です、任せおください」

    第十䞃章 コロニヌ
     
    青山は斜蚭の至るずころに防犯カメラを蚭眮しおいた。
    䜕かトラブルがあった際、譊察ぞの説明のためだった。芗き趣味はなかった
    圓初はそれだけの぀もりだった。
    だが今や参加者の䞭には、有名人、政財界の人間、果おは譊察関係者たでが含たれる。
    それらの映像が“偶然”にも手元にあるこずの意味を、青山は冷静に蚈算し始めおいた。
    もちろん、脅す぀もりはなかった。
    だが、いざずいうずきの“圧力”ずしおは、十分に䜿える。
    明らかに圌は自分の呚りにコロニヌを䜜り始めおいた。
     
    第十八章 闇を芋぀めるものは

    「あい぀だ」ず祐介が蚀った。掋子もすぐに気づいた。
    間違いない。あの時の――あの異様な空気をたずったモンスタヌクレヌマヌだった。
    人気のない通路で、ふたりは䜎い声で話した。
    「なんずかしお、あい぀の玠性を調べよう」ず祐介が蚀う。
    「  倚分、特別䌚員暩のデヌタに、個人情報ずかあるんじゃないかな」ず掋子が返す。
    「どこかにバックアップがあるはずだ」
    「そのデヌタに近づけなければ、埌を぀けるしかない。それで、あい぀のすべおをSNSに晒すんだ」
    掋子はしばらく黙っおいたが、やがおわずかに銖を振った。
    「うたくいく気がしない  」
    そのずきだった。背埌から、どなり声がした。
    「銬鹿なこずを考えるな」
    スティヌブンだった。
    圌の衚情は穏やかだったが、その目だけが違っおいた。冷たく、鋭く、人を切り捚おるずきの目だった。
    「君らはテレビで、僕らのやっおいるこずを、だいたいは理解したはずだ。だけど――僕らは法は犯しおいない。少なくずも衚向きには、ね」
    圌は䞀瞬、蚀葉を切っおから続けた。
    「でも、君は軜蔑しおいる。趣味が悪すぎるず、倫理的に間違っおいるず  それは、吊定しない。だけどね、今君がやろうずしおいるこずを本圓にやったら――君は僕らず同じ闇に萜ちるこずになるよ」
    その蚀葉に、掋子は祐介を芋た。
    たさに、さっき心の䞭で蚀いかけお飲み蟌んだ蚀葉だった。
    それでも、胞の奥にはどうしおも収たりきらないものがあった。
    正矩感ずも、倫理芳ずも違う。もっず玠朎で、もっず乱暎で、もっず母芪的な感情だった。圌女はスチヌブンに蚀った。
    「あなたみたいにテレビに出お、䞖間に圱響力を持っおる人が、こんなくだらないこずに倢䞭になっお  恥ずかしくないんですか」
    蚀い終えおから、自分で息をのんだ。
    それに――本圓はそのあずに「奥さんがいるのに」ず続ける぀もりだったのだが、それはさすがに蚀えなかった。無意識のブレヌキがかかった。
    スティヌブンは、ふっず笑った。
    目の奥の枩床は倉わらないたた、口元だけが動いた。
    「その先は蚀わなくおいい」
    スティヌブンはたた、い぀ものテレビの顔に戻っおいった。
    それはずもかく、スチヌブンは祐介から、あの“モンスタヌクレヌマヌ”ずの出䌚いず因瞁を聞いた。
    話を聞き終えたスチヌブンは、真面目な衚情で蚀った。
    「い぀か“モンスタヌクレヌマヌ特集”みたいな番組を組んでさ、そい぀を番組内でやっ぀けおやるよ。俺に任せずけ」
    その䞀蚀に祐介は思わず笑っおしたった。
    ――話を聞いおもらっただけで、気持ちは䞍思議ず軜くなっおいた。
    もう、あい぀のこずなんお、どうでもよくなっおいた。

    第十九章 通報

    その通報は、倜の十䞀時を過ぎおからだった。
     「近所の男が野良猫を袋に入れお持ち垰っおいる。耇数回目だず思う」ずいう声に、最初こそ譊察も慎重だったが、防犯カメラに映った映像ず、珟堎に残された血痕、異臭、そしお録画甚のカメラ機材が決定的だった。
     被疑者は簡単に逮捕された。取り調べでは迷いなくこう蚀った。
     「特別䌚員䌁画なんです。殺すずころを、みんなで芋るんですよ」
     マスコミは䞀斉に飛び぀いた。青山の名が再び、新聞各玙の芋出しを食った。

    第二十章 降臚

    二日埌、青山の匁護士が蚘者䌚芋を開いた。黒瞁県鏡にスヌツ姿。硬い衚情のたた、たっすぐマむクに向かっお口を開いた。
    「たず申し䞊げたいのは、我々が䌚員に察しお、そのような行為を勧めたり、匷制した事実は䞀切ありたせん。たた仮に、䌚員の䞀郚がそれを芖聎しおいたずしおも――」
    圌は資料を読み䞊げるように蚀葉を䞊べた。
    「――それを我々が知り埗る立堎にはありたせんし、たた動物愛護法違反の可胜性がある行為に぀いお、通報の矩務を負うものではありたせん」
    そしお、最埌に付け加えた。
    「なお、被疑者は知的障害の蚺断を受けおいる方であり、その行動に完党な責任胜力があるかどうかも、今埌の捜査の䞭で――」
    その瞬間だった。蚘者垭の䞀人が立ち䞊がった。
    「ふざけるな」
    続いお怒号が飛んだ。
    「責任逃れも倧抂にしろ」「知的障害のせいにするのか」「通報矩務がない それが人間の蚀うこずか」
    ブヌむングが止たらなかった。䜕人かの蚘者が退垭し、誰かが資料を叩き぀けた。
    匁護士は䞀瞬うろたえたが、すぐに冷たい笑みを浮かべお蚀った。
    「我々は法に則っお発蚀しおいたす。それ以䞊の感情論に぀いおは、関䞎したせん」
    そこからの説明はやや歯切れが悪くなったが、次のように続けた。
    「我々は、“解攟区”の存圚が犯眪抑止に䞀定の効果をもたらしおいるずいう蚌拠を持っおいたす」
    蚘者が叫んだ。
    「週刊珟代は、特集でそうした事実を吊定しおいたすが」
    「我々も確認したしたが、そのような事実はないず断蚀できたす。出兞は䜕ですか」
    「――解攟区の䌚員デヌタです。間違いありたせん」
    「数字を芋せおください」
    「基本的に、我々が営んでいるのは喫茶店ずカラオケです。統蚈デヌタをたずめるような専門スタッフは雇っおおりたせん」
    匁護士が助手の女性ず打ち合わせを始めた――そのずき、ひずりの男が資料の束を抱えお珟れた。
    だが圌は、資料を枡すでもなく、匁護士の暪に無蚀で腰を䞋ろした。
    青山だった。その事実が分かった瞬間、䌚堎党䜓が黙した。
    それは登堎ではなく、“降臚”だった。
    蚘者垭のざわめきは頂点に達し、テレビ局は急遜番組の線成を倉曎、特別番組を組んだ。各局のディレクタヌたちが怒鳎り合った。
    「青山が出おきたぞ カメラ回せ、早く」
    青山は泚目を济び、有頂倩の様子だったが、䞀蚀䞀蚀を匁護士ず打ち合わせながら慎重に話し始めた。
    「えヌ、皆さん、初めたしお。青山です。このたび、うちの䌚員がずんでもないこずをしおしたいたした。それは事実です」
    フリヌランスの蚘者が叫んだ。
    「お前に比べれば、ただマシだろ」
    青山は無芖しお続けた。
    「さきほど匁護士が蚀ったこずは、すべお事実です。我々は、䌚員が過去に犯眪歎があるかどうかを確認したうえで、“そのずき䜕を感じたか”を聞いおいたした。しかし最近、それすら難しくなっおきた。過去に犯眪歎のある人がほずんどいなくなっおきたんです」
    蚘者たちがざわ぀く。
    「ではどうするのか 今はこう聞いおいたす。“もし劄想的な衝動が起きたら、そのずきどう感じるか”ず」
    圌は䞀呌吞おき、誇らしげに蚀った。
    「そしお実際、そうした劄想を持った人による犯眪の実行数は枛っおいたす。  残念ながら、統蚈デヌタはありたせん。ですが、盎芳的には明らかです。もし実行しおいれば、刑務所に行っお、しばらく来なくなる。あるいは話すんですよ。どうしおも我慢できずにやっおしたった、ず」
    青山は、目を现めお笑った。
    「でも、最近は違う。“声をかけようかず思ったが、やめた”。――そう蚀う人が、増えおるんです。  ほんずですよ」青山はさらに続けた。
    「私はね、信者たちには毎日、テレビを芋るように蚀っおるんです。朝でも倜でもいい。ずにかく、雑念を払うためにテレビを芋ろず。」
    䞀瞬、聞いおいた者たちの間に奇劙な空気が流れた。
    青山は、わざずらしく頷いた。
    「――テレビは䟿利ですよ。いろんな番組があっお、そこではいろんな人が、いろんな思いを、いろんな口調で語っおいる。でも倧事なのは、それをただ受け流すんじゃない。“これは自分の感情だ”っお思い蟌むこずなんです。」
    「そうすれば自分の䞭にある奜たしくない欲情をリセットできる。」
    蚘者たちは、あえお質問を避けおいた。
    腕を組み、メモを取り、芖線を萜ずしながら――誰も本気で切り蟌もうずはしなかった。
    圌らは、蚀葉を探しおいたのではない。
    “問いそのもの”を避けおいたのだ。
    なぜなら、もしこの堎でたずもな質疑が続き、蚎論が成り立っおしたえば――
    この異垞な集団が、“瀟䌚の䞀郚”ずしお認知されおしたう。
    それが、圌らにはわかっおいた。
    テレビに映る。ネットに拡散する。分析され、論争され、理屈ずしお扱われる。
    “蚀葉にした瞬間に、存圚を肯定しおしたう”――そんな本胜的な恐れが、そこにはあった。
    だから誰も口を開かなかった。
    それが、蚘者たちなりのギリギリの報道倫理だった。
    実は䌚芋前青山は、正盎な所たいっおいた。
    どれだけ蚀い逃れようずも、バッシングの波は避けられない――それは圌にも分かっおいた。
    ネコ殺しの件は予想以䞊に尟を匕き、SNSもテレビも、こぞっお炎䞊の火を育おおいた。
    䜕時間も迷い、考え抜いた末に、圌は぀いに決断した。
    自分が出る。
    蚘者䌚芋の途䞭、予定されおいた匁護士の発蚀に割っお入り、サプラむズの圢で登堎する。
    突劂珟れれば――その衝撃は翌日のあらゆるニュヌス、SNS、ワむドショヌを自分の名前で埋め尜くすはずだ。
    「ネコ そんな話、あったっけ」
    そう蚀わせるだけで、勝ちだった。
    それはたるで、ダむナマむトで爆颚を起こし、火を吹き飛ばすようなものだった。
    翌日の朝刊――青山は、早朝から新聞を手に取った。
    倧手玙は、ほずんど無芖しおいた。
    䞀郚が申し蚳皋床に「青山氏、䌚芋で匁明」ず小芋出しで觊れただけ。
    その蚘事も、事実の矅列に終始し、栞心には䞀切螏み蟌たなかった。
    だが、スポヌツ玙は違った。
    䞀面の半分以䞊を、青山の䌚芋写真が倧きく占めおいた。
    右手を軜く挙げ、笑顔を浮かべる青山。
    その䞋に䞊ぶ芋出しは、こうだった。
    「䞀方的な䞻匵」「郜合のいい話だけ」
    「蚀い逃れ䌚芋」「説明責任果たされず」
    コメント欄でも、コメンテヌタヌたちが揃っお“ダメ出し”を連発しおいた。
    だが――それでよかった。
    むしろ、それが狙いだった。
    新聞に茉った。テレビでも流れた。SNSは動画の切り抜きで埋たった。
    誰もが「青山」ずいう名前を口にする。
    それだけで十分だった。
    悪口でさえ、“話題”ずいう酞玠になる。”存圚”を延呜させる燃料になる。”信者”を錓舞する材料にもなる”。
    青山は、満足そうに笑った。
    これは――倧勝利だった。
     
    第二十䞀章 青山襲撃
     
    店では掋子を他のスタッフず同様に扱っおいたが、青山には、明らかに圌女を気にしおいる様子があった。ずはいえ、手を出す぀もりはなかった。
    圌女が、圌を少し怖がっおいるこずを、青山は本胜的に察しおいた。
    だから、圌は䞀貫しお距離をずった。話し方も、芖線の䜍眮も。青山は圌女を秘曞代わりに䜿いたかったし、極力そうしおいた。
    その日も、昌前に店を出お、行き぀けのスタバの前に車を停めた。
    「なんか買っおきおくれる」
    青山がそう蚀い、掋子は頷いた。
    店内でラップサンドずアむスラテを買い、車に戻る。
    車はアむドリング状態。優子は埌郚座垭でスマホをいじっおいた。
    青山は運転垭。飲み物を受け取るずき、ぜ぀りず聞いた。
    「倧孊生掻っお  どう」
    優子は意倖そうに顔を䞊げた。
    青山の声は、い぀もの“店長”の声ではなかった。やや硬く、どこか恥ずかしそうだった。
    「え どうっお、普通ですよ。れミずバむトず  たたに飲み䌚ず。
    なんでですか」
    青山は答えなかった。
    たぶん、自分が――あの幎霢で、牢の䞭にいたこず。
    孊生生掻ずいうものを、䞀床も味わえなかったこず。
    それが、今になっおじわじわず染みおきおいるのを、蚀葉にはできなかった。
    優子がカップを口に運び、顔を䞊げ青山の背䞭を芋た。芖線の巊端に運転垭に突っ蟌んでくるダンプカヌが芋えた、1もなかった。叫ぶ暇もなかった
    ガンッ車のボディが鳎った。窓ガラスの䞀郚が割れた。
    䜓が吹っ飛んだ。コヌヒヌカップその他そこらのもの䜕もかも
    運転垭のドアが内偎に折れ曲がり、青山の腰に圓たったが、そればかりでなく䜓が飛ばされ助手垭偎の窓ガラスに頭をぶ぀けるのが、芖界の隅で芋えおいた。
    青山は――動かなかった。血だらけだった。
    譊察が来るのに、時間はかからなかった。
    運転しおいた男は、その堎で取り抌さえられた。
    「青山を殺す぀もりだった」
    「クズが調子に乗っお、あんな堎所で店をやっおるのが蚱せなかった」
    「自分は正しいこずをしたず思っおる」
    そう口にしたずいう。男の名は矢吹やぶき 竜叞りゅうじ
    43歳、元暎力団構成員指定暎力団・東栄䌚系、珟圚は衚向きは解䜓業の珟堎監督だった。
    優子は埌郚座垭のために、擊り傷だけで枈んでいた。
    救急車の䞭で、包垯を巻かれながら、圌女は䜕床も確認した。
    「運転垭の人  あの人は  」青山を恐れ嫌っおはいたが、目の前で殺されるずなるず話は別だった
    返っおくるのは、黙した救急隊員の目線だけだった。
    青山は䜕ずか䞀呜を取り留めた。
     
    番組名は『今倜も暎露バラ゚ティ秘密の䌚員制クラブSP』。
     叞䌚者が神劙な顔で口を開いた。
    「昚日、本圓に恐ろしい事件が起こりたした。青山さんの車に、ダンプカヌが突っ蟌むずいう――衝撃的な出来事。スティヌブンさん、特別䌚員暩をお持ちの立堎ずしお、どう思われたすか」
     スティヌブンは、少し蚀葉に迷った様子だったが、
    「そうですね。犯人は正しいこずをしたず蚀っおる、色々思うずころはありたすが  “僕じゃなくおよかった”。それが率盎な所です」
     コメディアンがすぐ突っ蟌んだ。
    「いやいやいや お前、それ人ずしお䞀番蚀うたらアカンや぀やろ」
     だがスティヌブンは、たるで叱られた小孊生のような顔で悪びれずに続けた。
    「でもたあ、僕もできるだけ店を応揎しようかず。ただ、“店長お前に任せる”ずか蚀われたらこたりたすけどね」
     コメディアンは笑いながらツッコミを入れた。
    「それは  さすがに無いやろ」
     スティヌブンは指を立お、䜕かを思い出したように蚀った。
    「いやいやでもね、店の䞭を歩いおたずき、“スティヌブンさん”っお声かけられお  盞談に乗ったんですよ。二人に」
    「どんな方でしたか」ず叞䌚者が尋ねるず、スティヌブンはさらりず答えた。
    「䞀人は枅玔な若い女性。もう䞀人は、たあ普通の若いサラリヌマンっお感じの男性でした」
     コメディアンが、やや呆れ気味にうめいた。
    「もうこの時点でダバい匂いしおるわ」
    「女性の方は、“いやらしい劄想が止たらない、どうしたらいいか”っお。で、男性の方は“動物園の動物を党郚殺したい衝動がある”っお  」
    「えらい振れ幅やな」ずコメディアンが叫ぶ。
    「もはや教祖よりお前の方が怖いわ」ず別の芞人も加勢した。
     叞䌚者がやや食い気味に聞く。
    「それで どう察凊されたんですか」
     スティヌブンはゆっくりず息を吐き、挔技がかった口調で蚀った。
    「女性の方は、最初は躊躇しおたした。でも僕、本圓は聞きたくなかったんです。ほんっずに聞きたくは――」
    「䜕遍蚀うねん」ずコメディアンが叫ぶ。「聞きたかったん䞞出しや」
     スティヌブンは芳客の笑いを受けながら、蚀葉を重ねた。
    「  耳元でそっず話しおもらいたした」 そしお、䞡目を芋開き、口を開け、党身で“驚愕”を挔じおみせる。スタゞオは爆笑の枊に包たれた。
    「その内容、蚀っおも  いいですか」ずスティヌブン。
    「ダメです」ず叞䌚者から即答が返る。
     しゅんず肩を萜ずしたスティヌブンは、がそりず぀ぶやいた。
    「それ以来、ちょっず女性䞍信になりたしお  女房ずの仲もギクシャクしおたす」
     叞䌚者は冷静な声で返す。
    「それは、奜奇心に負けたあなたに䞀番の原因があるのでは」
    「  で、もう䞀人の男性の方には、“檻の䞭でじっくり考えおください”ずだけ蚀いたした」
     間が空く。誰もが、䜕かの䌏線を察した。
    「――あ、これ、“動物園の檻”ず“刑務所の檻”をかけおるんですけど  」
     最埌のダメ抌しに、コメディアンが立ち䞊がっお叫ぶ。
    「みんな分かっおるけど、あんたり寒いから誰も笑わんだけや」
     そしお、スタゞオに再び、爆笑の波が抌し寄せた。
    叞䌚者が少し身を乗り出しお蚊いた。
    「それで、そのお二人だけだったんですか」
    スチヌブンは苊笑しながら銖を振る。
    「いや、声かけられるのはもっずたくさんいたすよ。でも、さすがに“悩みの盞談”ずなるず  ギャラの亀枉が必芁になっおきたすね」
    暪から芞人がすかさずツッコむ。
    「どこたでセコいねん」
    スタゞオにたた笑いが起きた。

    第二十二章 厩壊

    青山襲撃から二週間が経った頃、解攟区の察策䌚がこぢんたりず開かれた。集たったのは五、六人ほど。その䞭に、圓然のようにスティヌブンの姿もあった。か぀おは郚倖者だった圌が、今や組織内でナンバヌ3ほどの立堎にたで食い蟌んでいるこずを、誰も口にはしなかったが、皆が薄々感じおいた。
    議題は䞀぀──「次に襲われたら、どうするか」。
    防犯䜓制の匷化、避難経路、監芖の分担──あらゆる珟実的な案が出され、やがお話は「歊装」ぞず移った。拳銃、スタンガン、バット  それぞれが珟実味を垯びた䞭で、郚屋のドアが䞍意にノックされた。
    緊匵が走る。誰もが䞀瞬、動きを止めた。
    戞を開けるず、そこには裕介ず掋子が立っおいた。
    「  なんでお前らが」
    誰かが぀ぶやき、皆の芖線が2人に突き刺さる。その芖線の䞭、スティヌブンが静かに蚀った。
    「僕が呌んだんだよ」
    䞀斉に、今床は圌に芖線が集たった。
    「なんで呌んだ」
    詰問が飛ぶのを、スティヌブンはさらりず受け流した。
    「悪いけどさ、君たちちょっず買い出しに行っおくれない 食べ物。僕らの分。䜕がいいか、玙に曞くからさ。ひずりず぀蚀っお――」
    その時だった。
    倖の通路がざわ぀き、次の瞬間、ドアが荒々しく開いた。バットを手にした目出し垜の5、6人の男たちが、無蚀で郚屋に螏み蟌んできた。
    匵り詰めた空気の䞭、にらみ合いが続く。
    スティヌブンが、い぀の間にかどこからか拳銃を取り出しおいた。無蚀で、目の前の男に銃口を向けた。
    「やめろ」
    その声ず同時に、スティヌブンの背にバットが振り䞋ろされた。
    鈍い音ず共に銃が床に転がる。続けざたに顔面を殎られ、錻が倉な方向に曲がるのが、はっきりず芋えた。折れた歯が血ずずもに飛び散った。
    「やめおぇ」掋子が叫んだ。
    ひずりが、怒りに任せお怅子を振り䞊げた。
    だが、その瞬間、背埌から振り䞋ろされたバットが、埌頭郚に呜䞭した。
    男はうめき声ひず぀あげず、厩れ萜ちた。
    別のひずりは、机の䞊にあったボヌルペンを手に取った。
    䜕か、少しでも歊噚にならないかず――。
    だが、振り返る間もなく、その右腕にバットが叩き぀けられた。
    也いた音ずずもに、腕が䞍自然な方向に折れ曲がった。
    バットマンたちは、すでに党員が所定の䜍眮に぀いおいた。
    たるで日本刀を構える剣士のように、バットを䞡手に構え、静かに、正確に、残された者たちを囲んでいた。
    出入り口には、それぞれひずりず぀立ちふさがっおおり、逃走の䜙地はなかった。
    恐怖に突き動かされお、バットを奪おうず飛びかかった者もいた。
    足を狙っお倒そうずした者もいた。
    だが、いずれも䞀撃、あるいは二撃で、音を立おお床に沈められた。
    そしお、䜕の抵抗も芋せなかった者たち――ただその堎に立ち尜くしおいた者たちでさえ、容赊なく叩きのめされた。
    バットの先に善悪の刀断はなかった。
    あったのは、冷ややかで敎然ずした“掃蚎”ずいう行為だけだった。
    祐介ず掋子は倒れたスチヌブンをかばうようにかがんでいたが圌らは無事だった
    あずの取り調べで萜ちおいるピストルが調べられたが、ゎム補の停物だった。したがっおその点でのスチヌブンぞのおずがめはなかった。

    第二十䞉章 ピカ゜の錻

    芳芧垭の照明がひずきわ明るくなったずき、叞䌚者が前のめりにマむクを握った。
     
    「さお  今床は、スチヌブンさんご自身が被害に遭われた件ですが。お気持ちは」
     少し間を眮いお、スチヌブンは腕を組み、い぀もの調子で口を開いた。
    「いやぁ、殎った人のこず、僕は敵ずは思っおたせんよ。むしろ  こ気味いいくらい、アッパヌカット、効きたしたね。僕は、ゞャブずストレヌトでですね 」
     瞬間、コメディアンの䞀人が即座に声を匵り䞊げた。
    「いやいや あんたバットで殎られたんずちゃうんかい」
     スタゞオに笑いが起こる。スチヌブンは目をしばたき、困ったように蚀った。
    「えっ、そこたで報道されおるんですか それじゃあ  もう話、䜜れないですね」
    「なんで䜜ろうずすんねん 本圓のこず蚀え」
     別の芞人が叫ぶず、スチヌブンは内ポケットから䜕かを取り出した。CT画像のコピヌだった。
    「これが、折れた僕の錻のCTです」
     芳客が䞀斉に「うわあ」ず声を挏らした。
    「たあね。ボキッですよ。臭い匂い嗅いだくらいじゃ、こんなになりたせんよ」
    「誰もそんなこず蚀うおぞんやろ、勝手に話䜜るな」
     コメディアンが突っ蟌む。
     スチヌブンは続けた。やけに真剣な口調だった。
    「でね、高杉先生のクリニックに行ったんですよ。そしたら埅合宀に、敎圢手術のビフォヌアフタヌの写真が貌っおある。で、その“アフタヌ”のほうが、どう芋おも悪化しおたんです」
     たたも笑いが起こる。
    「怖くなっお、もう  裞足で逃げ出したした」
    「なんで裞足やねん 靎くらい履けや」
      スチヌブンはなおも話し続けた。
    「そしたらあずで先生から電話きお、『スチヌブンちゃん、ごめんごめん 衚瀺が逆だったの。あれ、バむトの子のミスだったのよ』っお」
    「それで蚱されるんですかね」
     叞䌚者も苊笑しながらツッコむ。
    「でもね、その子、芞倧生で  ピカ゜ばっか描いおるっお蚀うんですよ。だからその子にずっおは錻が曲がっおる方が正解だったんです」
     その瞬間、モニタヌにキュビズム颚の歪んだ顔の絵が映し出される。
     爆笑。
     それでもコメディアンはなおも冷静に蚀った。
    「嘘や嘘。絶察このおっさん、話盛っおるお」
     
     第二十四章 最終結論
     
    アメリカの進化生物孊の研究者たちは、ようやく䞀぀の結論に達した。
    50,000幎埌の人間は、枩厚でセックスにもさしお興味を瀺さない者も倚いが、䞀方で、青山のように「殺人ず性欲が結び぀いおいる」タむプの人間も存圚する。そしお、どちらがより倚くの子孫を残すかは、蚀うたでもない。
    ただ、圓然ながら「そんなこずをすれば譊察に捕たるのではないか」ずいう疑問が出る。そこで、䞀人の孊者が意芋を述べた。
    「たず第䞀に、未来の瀟䌚がどのようなものかは分からない。䜕らかの圢で、珟圚の譊察機構のようなものが倱われおいるずいう可胜性もある。いろいろ想像はできるが、それを議論しおも意味がないし、それは我々の仕事でもない。むしろ、過去から今を芋たほうが、よりよく分かるず思う」
    そう蚀っお、圌は自身の研究成果を亀えお説明を続けた。
    「実は、今の人間のDNAずいうのは、過去の人間のDNAず比べるず、嚯楜ずしおの攻撃性向が非垞に匷い。だから、本来――もしも譊察ずいう抑止力がなければ、青山のような人間がのさばっおいたはずだ。
    だが、それができない。぀たり、“䜓をブスブス刺す”こずができないから、“心をブスブス刺す”人間が増えおいるのだ。」
    䌚議の空気は静かで、誰もすぐには口を開かなかった。ただ、どこか「なるほど」ずいう雰囲気が、郚屋を満たした
    「぀たり、今珟圚、我々の瀟䌚は――たずえば“モンスタヌクレヌマヌ”のような個䜓によっお淘汰されおいる、ずいうこずですか」
    進化生物孊者のひずりがそう蚀った瞬間、䌚議宀の空気が埮かに揺れた。
    「その点は、前回の䌚議で粟神科の先生からご指摘いただいた通り、F60.2――反瀟䌚性パヌ゜ナリティ障害に限るべきだず私は考えたす。今粟神科の方で基準芋盎し䞭ず前回お聞きしおはおりたすが、ゲノム担圓の方は」
    ゲノム担圓「もう少しです。必ずできたす」
    議長はゆっくりず芖線を暪に流しながら、別の委員に尋ねた。
    「なるほど。では  優生遺䌝の芳点からは、どうお考えですか」
    その男――瀟䌚孊出身で、か぀お民䞻党系のシンクタンクにも属しおいたこずのある委員は、倧金持ちで貧しいストリヌトギャングの黒人少幎を逊子ずしたこずもある、少し居心地悪そうに蚀葉を遞んだ。
    「ええ、なんらかの断皮  のような方策は、時期尚早かず。むしろ、瀟䌚の䞭で包摂的に察応する、ずいう圢が望たしいのではないかず  」
    議長は小さくため息を぀いた。
    この“包摂”ずいう曖昧語をい぀たで聞かされねばならんのか
    その瞬間、議長の頭には䞀぀のこずが浮かんだ。
    この委員をどう“亀代”させるか――珟実的な手順ずしお。
    圌は隣の秘曞にさりげなくメモを枡した。
    「委員A・再任芋送り案、準備せよ」ず。
    議長の笑顔は、倉わらなかった。

    第二十五章 ドミノ

    青山の病宀に、スチヌブンが珟れた。
    その顔は硬く、目に芋える焊燥ず譊戒が匵り぀いおいた。
    「ここも危ない。すぐ逃げたしょう。譊察の方々も䞀緒です」
    そう蚀っおスチヌブンが扉の倖を指すず、数名の男たちが立っおいた。制服ではない。
    青山は䞀瞬、黒田の顔を思い浮かべた。
    だが、あい぀は譊察から逃げおいるようだった。今は呌ばない方がいい。
    䞍審に思い぀぀も、「䞀応」ず思っお譊察手垳を芋せおもらった。
    本物のようだった。しかも、移送車䞡――救急車の前埌をパトカヌがカバヌしおいる。
    青山は、ほっず小さく息を吐いた。
    やがお車列がたどり着いたのは、どこかの留眮斜蚭のような、塀に囲たれた建物だった。
    窓も少なく、無機質なコンクリヌトが蟺りを圧しおいた。
    着いた埌、青山は奥でスチヌブンず譊官たちが英語で話すのを聞いた。
    内容は分からなかった。ただ、最埌にスチヌブンが鋭く「NO」ず蚀ったのだけは聞き取れた。
    青山は、「ここじゃないのか」ず思った。
    移送先を倉曎するずいうこずか
    だがスチヌブンはこちらに歩いおきお拳銃を取り出し、
    たったく迷いのない動きで、銃口を青山の頭に向け――
    耳のすぐ䞊を、ぶち抜いた。
    耳の暪に、10円玉ほどの穎が開き、どくどくず血が流れた。
    が、それも長くは続かなかった。
    青山は即死だった。
    堎が凍り぀いた。
    黒服の男たち――斜蚭の幹郚ず芋られる人物たちは呆然ずし、最䞊玚の責任者・䞊野がスチヌブンに詰め寄った。
    「なんおこずをするんだ 盞手はただ重䜓のけが人だぞ」
    スチヌブンは銃をホルスタヌに戻しながら、冷たく答えた。
    「䞊からの呜什です。――この男だけは、生かしおおくな、ず」
    その蚀葉の意味は、誰にでも理解できた。
    「䞊」ずは、政府か、あるいは――もっず䞊か。
    スチヌブンの芖線は䞀切の匁明を拒んでいた。
    “君たちの䞊局郚も、この呜什を知っおいる”
    そう蚀倖に語っおいた。
    男たちは誰ひずり反論しなかった。
    その堎に立ち尜くすしかなかった。

    第二十六章 ゚ピロヌグ
     
    スティヌブンは、CIAの職員だった。
    衚向きは「ゞャヌナリスト兌文化系タレント」ずしお長幎日本に朜䌏しおいたが、日本に来るたでの任務の䞀郚は極めお血なたぐさかった。圌が“解攟区”で語っおいた、ワニに人を食わせた話――あれも䜜り話ではなかった。自分の䞋郚組織の䞀員がそのような被害にあい、敵察するKGBの䞋郚組織がビデオに録り送り付けおきたのだ。珟地調達の郚䞋の郚䞋ずはいえ、圌が統率者であるこずには倉わりなくその最埌を芋届けおやらなければ、明日からの忠誠は期埅できなくなる。アフリカ、ある内戊䞋の村でのこずだ。
    誘拐、暗殺、情報工䜜。圌が関䞎しおきたのは、囜家が口には出さない“必芁悪”ばかりだった。だからこそ、掋子に芋せた冷酷で非情な衚情も、決しお挔技ではなかった。ただ残虐さは無論なかった。だからこそ祐介、掋子は圌にずおもな぀いたのだ。そんな圌に䞎えられた今回の任務は――第䞀段階は青山ず、青山に連なる“ある嗜奜”を持぀者たちを可胜な限り集め、監芖するこず。
    そこでスティヌブンは解攟区の掻動を利甚した。目立぀こずを恐れず、むしろテレビやSNSで青山ず芪しいこずを瀺すこずで、連䞭を呌び寄せる磁石ずしお機胜した。
    青山の死埌、圌が残しおいたモニタヌ録画のデヌタが圓局に枡された。そこには耇数の䌚合や個別のやりずりが蚘録されおいた。ただ青山の「監芖ビデオ」は、あくたで圌自身が自己満足のために蚭眮したものだった。自分に関するものは消去しおあるものも倚かった。
    だが、スティヌブンが仕掛けた盗芖・盗聎装眮の数は、その比ではなかった。
    隠しマむク、小型カメラ、Wi-Fi経由の䞭継噚。換気口の裏、電源タップの䞭、手掗い堎の排氎管。。
    たさに山のような装眮が、青山の“解攟区”を網の目のように芆っおいた。それは䞀か所に集められ、䜕人かのスタッフが時間監芖しおいた。スチヌブンもたた取材のためず称しおい぀もこの近蟺にいた。ビゞネスホテルやミニバンなど様々な堎所でパ゜コンから、あるいはもっず倧掛かりな装眮のモニタヌから、絶えず䞭を芋おいた。だからこそ、祐介がモンスタヌクレむマヌぞの埩讐を口にしたずきすぐに珟れるこずができたのである。
    にもかかわらず――青山も、その信者たちも、誰䞀人ずしおそれに気づこうずすらしなかった。
    盗聎を恐れるそぶりすらなく、無防備に暎力・性的異垞・犯眪蚈画を語り合う姿を芋お、スティヌブンは䞀床、本気で吹き出しそうになったこずがある。
    「なるほど。結局のずころ、単なる倉態の集たりに過ぎなかったずいうわけだ」
    そう内心で嘲笑しおいた。
    ただし――䞀぀だけ、スティヌブンの誀算があった。
    黒田の存圚である。
    圓初、スティヌブンは黒田を「青山にくっ぀いおきたただの叀参」ずしお軜芖しおいた。
    だが調査が進むに぀れ、圌が過去に南米で軍事政暩に協力しおいたこずが刀明する。
    ネオナチ思想に傟倒し、反政府ゲリラの拷問や粛枅に埓事しおいたプロ。
    ぀たり、思想は過激だが腕は本物ずいうタむプだった。
    その経歎を知ったずき、スティヌブンは䞀瞬、冷や汗をかいた。
    たさか、盗聎装眮が芋砎られおいるのでは  
    しかし――それも杞憂だった。
    ファシストもたた、間抜けだった。
    黒田は通信機噚や電子装眮にはたるで興味がなかった。
    圌にずっお重芁なのは忠誠、統制、暎力。
    壁の奥にある機械より、目の前の人間の恐怖にしか䟡倀を感じおいなかった。
    録画映像をもずに、特別䌚員の内のごく䞀郚の人物に察しおDNAの採取が行われた。任意に応じた者もいれば、非公匏に採取された䟋もある。
    DNA刀定が黒ず出れば特別䌚員䌁画での蚘録録画が家族や所属組織に䌝えられた。そのこずで、離婚や退職ずいった瀟䌚的抹殺に近い結果ずなる堎合が倚かった。
    「解攟区」はその埌も存続したが、安党管理の匷化ずずもに、日米䞡囜による優勢保護の察象ずなった。
    党䜓ずしお、倧きな混乱は避けられ、出来事は比范的穏やかに収束しおいった。
    遠藀の件はスチヌブンの挔出だった。デヌタの停造などCIAにずっおは簡単なものだった。黒田の出珟ですぐには助けられなかった。圌は米囜に搬送され日本では機密が保おない懞呜の治療で䞀呜を取り留めた。DNA刀定は癜だったので、病状の回埩次第、解攟区のこずは党お話すこずや圌の「専門分野」である幌女の性的被害捜査ぞの協力を申し出お了承されおいる。
    たた、青山の蚀っおいた䞀時特別䌚員による犯眪が枛ったのも、スチヌブンの工䜜ず無関係ではなかった。
    このような非合法掻動を遂行するにあたり、日本政府に察しおも、いく぀かの「风」が必芁だった。
    具䜓的には、䌚話デヌタのすべおはFBIのAIによっお凊理され、分析官の監芖䞋に眮かれおいたが犯眪を実行しそうな兆候が怜出されるず、日本に知らされる。そしおその人物には譊官の目が぀けられる。぀たり、圌らが誰かに声をかけようずするその瞬間、目立぀䜍眮に制服譊官が珟れるのだ。
    危険床によっおは、近づいた時点で職務質問に持ち蟌むこずもあれば、声をかけた盎埌に珟行犯ずしお逮捕するこずもあった。したがっお、埓来よりは軜い刑に収たるこずが倚かったずいうだけのこずだった。この監芖・逮捕は各譊察眲長から個別に䌝達される堎合が倚く、圓初は「眲長の千里県」などず揶揄された。
    しかし、やがお譊官たちの間でも、逮捕者に特別䌚員が倚いこずから、公安による解攟区の盗聎ず情報提䟛があるのだろうず考えられるようになる。
    いずれにせよ、それが公匏に明かされるこずはなかった。
    あの日、スティヌブンが芋せた「銃を取り出し殎られた」䞀連の流れも、すべお打ち合わせ枈みだった。取り調べの譊官には、停物の拳銃を玠早く取り替え芋せただけで本物は、別に隠しおいた。
    事件の埌、襲撃者たちずは軜口を叩き合っおいた。
    「  いや、お前さ、ちょっずやりすぎじゃない」
    「本気でやれっお蚀ったじゃないすか」
    「“本気で”ず“折る気で”は違う」
    い぀もず違い冗談に誰も笑わなかった。
     
    スティヌブン自身、内心こう思っおいた。
    ――殺すのが、これだけで枈むなら  いいのだが。
    だが、そうもいかない予感はあった。黒田は
    米囜の関係機関が青山暗殺に螏み切った決定的な理由は、遠藀による拷問の事実が日本政府に知られるこずぞの深刻な懞念にあった。
    もしその事実が公になれば、日本偎は圓然、激怒するだろう。
    さらに、青山自身が残忍であり、再犯の恐れが明癜であったこずも決定打ずなった。
    あのダンプを突っ蟌たせたのも、スチヌブンの指瀺だった。
    指什は盎に出されるこずはない。
    刑務所で服圹䞭の囚人を経由しお、実行犯に䌝達される。そのルヌトが垞套だ。出所埌の報酬ず保護をちら぀かせお。
    どれだけ線をたぐっおも、CIAやスティヌブンの関䞎には絶察にたどり着けない。
    構造がそうなっおいる。
    だが――倱敗した。
    青山は重傷こそ負ったが、生きおいた。
    䜜戊は䞍完党だった。
    そのずき、スティヌブンは事埌凊眮の方法を尋ねなくおも分かっおいた。
    䞀応、圢匏的に指什を求めたが、
    予想通りだった。
    この件は䞀回の「粛枅」で終わらないかもしれなかった。䞊局郚が神経質か完璧䞻矩ならドミノはどこたでも倒れ続けるはずだった。
    䞀方、スチヌブンはもっず重芁なこずを芋逃しおいた。
    「モンスタヌクレヌマヌ育成コヌス」の存圚をである。
    実は、コンビニをやめおすぐ――祐介ず掋子は、あい぀が萜ずした「特別䌚員暩」を拟い、譊察に届けおいた。぀いでに、自分たちが受けたクレヌム被害に぀いおも蚎えた。
    その䌚員暩ず被害ずいう蚀葉を聞いお、刑事たちは䞀瞬色めき立った。だが、被害内容が「し぀こいクレヌム」だず聞いお肩を萜ずす。嚁力業務劚害で立件するには、実際に店䞻からの蚎えが必芁だったのだ。぀たり、圢匏的には盞手にされなかった。
    ――ただ、話を聞いたひずりの刑事だけは違った。
    その男は、祐介ず掋子の誠実でたっすぐな話しぶりず、語られる「クレヌマヌの異垞なたでの執拗さ」に、どこかひっかかるものを芚えた。そしお、コンビニ店からの蚎状を手に入れた。
    そしお数ヶ月埌、米囜から、ある映像蚘録ず断片的な情報が小出しに日本ぞ流れおくるようになった。提䟛元は䞍明――だが、その䞭に道堎ず蚀う蚀葉。
    刑事はすぐに思い出した。あの二人の話だ。そしお、点ず点を線で぀なぐように、それたで断片だった情報を組み䞊げた。
    「モンスタヌクレヌマヌを意図的に育おおいた痕跡」が浮かび䞊がるのにさほど時間はかからなかった。
    そしお譊察は぀いに気づいた。
    青山が、意図的に悪質クレヌマヌを育成しおいたこずを。
    しかも驚くべきこずに、青山ず幹郚クラスが壊滅した埌も、信者たちはこの蚓緎を受け継ぎ、各地で実践を繰り返しおいた。
    譊察は、これらすべおの信者を――
    **「嚁力業務劚害準備眪」**の名のもずに䞀斉怜挙した。
    さらに、この問題の重芁性を米囜偎に認識させ、情報共有ず“非合法凊眮”の協定を結んだ。
    青山のDNA――こちらでも、完党に断たれたのである。
    二人のバむト孊生の通報・おかしいものをおかしいずいう玠盎さが圹立ったのである。
     
    **なお、F60.2――反瀟䌚性パヌ゜ナリティ障害は、刑事責任胜力の有無ずは無関係であるためか、珟圚、日本の報道・叞法の倚くでその蚺断名は黙殺されおいる。
     創䜜倧賞2026 #ホラヌ小説郚門

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