
元エージェント人事の脱エージェント戦略|第3回:スカウト不要の組織づくり ― 応募全体の60%を「自然流入」に変えたファンベース戦略
第3回の記事をご覧いただき、ありがとうございます!
前回の記事では、約10,000件の面談から編み出した「返信率40%を叩き出すスカウト術」についてお話ししました。スカウト文面に魂を込め、候補者の方の心を動かすアプローチは今でも私の強力な武器です。
しかし、私の究極の理想は別にあります。それは、「スカウトを1通も打たなくても、理想の候補者から勝手に応募が来る状態」を作ることです。
「そんなの有名な大企業だからできることでしょ?」と思われるかもしれません。ですが、知名度がほぼゼロの状態からスタートした私が関わる組織では、現在、応募全体の60%以上(自社HP経由40%、無料掲載メディア25%)を「自然流入」でまかなっています。その結果、採用コストは前年比で約70%削減されました。
今回は、採用活動を「マーケティング」として捉え直し、広告費や有料ツールに頼らず自走する組織へと変貌させた舞台裏を公開します。
1. 採用は「マーケティング」である。ドラッカーに学ぶ「スカウト不要」の極意
経営学の大家ピーター・ドラッカーは、企業の目的は「顧客の創造」であり、そしてマーケティングの本質とは「販売しなくても売れる状態を目指すこと(=販売を不要にすること)」であると説きました。
※参照:
この言葉を知ったとき、元営業職の私は「え、どういうこと?」と正直思いました。「営業活動をしないで自然に売れるなんて、本当に可能なの?」と。
最初はそう疑問でしたが、少しずつ学びを深めるうちに、なんとなくその意味が見えてきました。(実はドラッカーさんの本って、私にとっては結構とっつきにくくて……。勧められて読んでみたものの、1回では理解できない自分の国語力に悲しくなり、結局は専門家の方に詳しくお聞きしてようやく腑に落ちました💦)
でも、もしそんな世界が実現したら、みんなハッピーだなぁと思います。やっぱり「営業される」と思うと身構えてしまう方も多いですし、私自身、グイグイと売り込まれるのは苦手だからです(昔はグイグイ営業している時もあったので大きな声では言えないのですが。。)
ドラッカーさんの言葉を学んで、ふと思ったんです。 「これって、採用もまったく同じじゃないか!」と。
採用活動における「顧客の創造」とは、「自社のファン(候補者)を創造すること」。そして、ドラッカーの言うマーケティングの本質を採用に置き換えるなら、それはまさに「プッシュ型のスカウトを打たなくても、自然と応募が集まる状態を目指すこと」だと捉えたのです。
多くの企業は、転職市場にいる「今すぐ転職したい人」だけを追いかけ、他社とスカウトを送り合うという“販売(プッシュ営業)”のレッドオーシャンで消耗しています。一説によると、人気のある候補者には毎日20〜30通ものスカウトが届くそうです。そうなると、大量のスカウトの中から求職者が最初に開封するのは、やっぱり「すでに知っている会社」からのメッセージではないでしょうか(実際、私が転職活動をする側ならまず知っている会社から開いてしまいます)。
しかし、まだ自社を知らない潜在的な層にアプローチし、じわじわとファンになってもらう仕組みさえ作れれば、そもそも“販売(プッシュ型のスカウト)”自体が不要になります。
私はこのドラッカーの思想をヒントに、「会社名を知っている層」だけでなく「まだ知らない層」へどうリーチし、最終的にファンになってもらうかという「採用ファネル(認知・興味・関心・応募)」を描き、すべてのプロセスを設計し直しました。

2. 「いつ・どこで・誰と・何を為すか」の4軸で魅力を再定義
では、自社の知名度がゼロの中で、どうやって売り込まずに求職者の心を惹きつけるのか。ここで第1回でもお話しした「マズローの欲求5段階説(+第6段階:自己超越)」が再び登場します。

条件や給与といった「生存・安全の欲求」だけでマッチングしようとすると、資本力のある企業には勝てません。なので、1,2の階層は満たされていルけど、3−6の階層にモヤモヤしている方を対象に考えていっていました。
こちらから売り込む(販売する)必要をなくすためには、ピラミッドの最上階にある「パーパス(社会的意義・自己超越)」で共鳴してもらう必要があります。
そのために、自社の魅力を「いつ・どこで・誰と・何を為すか」という4つの軸で再定義しました。
いつ・どこで(環境):どのようなフェーズの組織で、どんな柔軟な環境で働くのか。
誰と(仲間・風土):どんな想いを持った仲間と、どんなカルチャーの中で高め合うのか。
何を為すのか(パーパス):私たちの事業は、社会のどんな課題を解決し、どんな未来を創るのか。
これらを綺麗事ではなく、現場のリアルな言葉として言語化し、フレームワークに落として発信していきました。

3. デザインと文字で「未来」を伝え、Googleなどのクローリングサイトに見つけてもらう
魅力を言語化したら、次はそれを「届ける仕組み」です。お金をかけずに「勝手に応募が来る状態」を作るための最大の鍵は、SEO(検索エンジン最適化)の仕組みを正しく理解することにあります。
現在、多くの求職者がGoogleで「職種×地域」などで検索をしているそうです。Googleには「Google for Jobs(求人検索)」という仕組みがあり、自社の採用サイトが正しく構造化されていれば、広告費を払わなくても検索結果の上位に無料で表示されるのです。
また、他にもindeed(無料版)、求人ボックスなど無料の媒体に掲載することで自社採用ページがクロールされなくても、無料の媒体からクロールされる可能性もあるので、掲載しておくことをお勧めします!
※用語解説:
クローリング(Crawling)とは?
Googleなどの検索エンジンがインターネット上のWebサイトを巡回し、新しいページや更新されたページを見つける作業のことです。
SEO(Search Engine Optimization)とは?
日本語で「検索エンジン最適化」と呼ばれ、Googleなどの検索結果で自分のWebサイトや記事を上位に表示させるための取り組みです。SEOの目的は、広告を使わなくても検索から多くの人に記事を見つけてもらうことです。
つまり、
クローリング=「検索エンジンに記事を見つけてもらうこと」
SEO=「見つけてもらった記事を上位表示させる工夫」
と捉えられます。

ただし、検索されてページに辿り着いてもらえても、中身がフリー素材ばかりの「ありきたりな採用ページ」では、すぐに離脱されてしまいます。文字とデザインの力で、会社の「リアルな未来」を伝えることが不可欠です。

文章が苦手な私だからこそ、着飾った表現ではなく、徹底的に「誰に、何を届けるか」を泥臭く考え抜きました。会社のパーパスに心から共鳴してくれる未来の仲間へ向けて、適切なデザインと適切な言葉を配置する。この丁寧なプロセスこそが、応募全体の60%を自然流入に変えたファンベース戦略の正体です。
4. 応募を奪う「書き方」のテクニック:候補者目線の3ステップ分析
自社の魅力を資産化し、Googleに見つけてもらう土台ができたら、最後は「文章の細部」に神を宿らせる番です。 ここでも徹底すべきは「ユーザー(候補者)目線」。候補者が求人に出会ってから応募するまでの行動を「求人をクリックする」「求人を見る」「エントリーする」の3ステップに分解し、それぞれのフェーズで離脱を防ぐライティングテクニックを実践しています。
① 求人をクリックする:無名ベンチャーは「件名」で勝負する
ネームバリューがある大企業なら、社名だけでクリックされます。しかし、知名度ゼロのベンチャーが同じ土俵で戦ってはスルーされるだけ。勝負すべきは「求人件名(タイトル)」です。 第2回でお話ししたスカウト文面と同じように、件名にはユーザー目線での魅力を表すキーワードを必ず2点以上盛り込みます。 例えば、【フレックス×グローバル環境】自社プロダクトの価値を世界へ届ける〇〇エンジニアといった形です。媒体によって文字数制限や使用可能な記号(【】や★など)のルールが異なるため、そこは細心の注意を払いながら、限られた文字数の中に強烈な魅力を凝縮させます。
② 求人を見る:冒頭3行に魂を込め、20行でリアルを描く
件名に惹かれてクリックしてくれた候補者が、次に直面するのは「求人内容」です。ここで画面いっぱいにぎっしり文字が詰まっていると、その時点で読む気を失い、離脱されてしまいます。 だからこそ、まずは「冒頭3行」に魂を込めます。 パッと画面を開いた最初の3行で「求人の全体像」がわかり、ターゲットが思わずワクワクして読み進めたくなるようなフックを仕込むのです。この「3行」を研ぎ澄ますために、私はAIと何度も壁打ちをしてターゲット分析を重ねています。 冒頭の3行でグッと引き込んだら、残りの20行ほどで、具体的な業務内容、仕事のやりがい、チーム体制など、働く姿が鮮明にイメージできる内容を配置します。特に「やりがい」のセクションでは、実際に働くメンバーのリアルな声を反映させますが、会社のフェーズや職種に合わせて「エモさの度合い(熱量)」を絶妙に調整し、ターゲットの心に一番刺さる温度感に仕上げるのがコツです。
③ エントリーする:最後の一歩は徹底的にシンプルに
どんなに求人内容で心が動いても、最後のエントリー(応募)画面で「職務経歴の詳細を入力してください」「志望動機を200文字以内で」など、入力項目が多すぎると求職者は面倒になって逃げてしまいます(カゴ落ち現象です)。 ファンベース採用のゴールは、まずは接点を持つこと。そのため、エントリー画面はできるだけシンプルに、入力項目を最小限に抑えて離脱を防ぎます。「まずはカジュアルに話してみたい」と思える心理的ハードルの低さを演出しつつ、人事として次回のアプローチに必要な最小限の情報だけをスマートに受け取れる設計にしています。
おわりに
ドラッカーさんが言ったように、プッシュしなくても「集まる状態」をどう作るか。そのために自社の魅力を磨き、言葉やビジュアルとして資産化していく「ファンづくり」への投資に変えていくこと。それこそが、持続可能で強い「ごきげんな組織」を創るための、人事の本当のマーケティング戦略ではないかな、と思います。
次回(第4回)は、こうして集まってくれた大切な仲間を、いかにウェットに、かつ確実につなぎ止めるか――「採用後のオンボーディング設計」についてお話しします。
どうぞお楽しみに!