
マロンの物語 #5|短い足と小さなつまずき

マロンと暮らす部屋には、人の目線では気づきにくい段差がありました。
丸い体の下からのぞくのは、マンチカン譲りの短い足です。あの小さな足を見ていると、私が何でもなく通り過ぎる場所も、マロンには少し違って見えていたのかもしれません。コンセントにつまずいてしまったのは、そんな足の短さを感じる出来事でした。
コンセントのところで足を引っかけ、マロンの歩みが途切れました。小さな体を支える足が短いものだから、人にはさほど気にならないものにもつまずいてしまいます。その一瞬を思い浮かべると、丸い体と足もととのわずかな隙間まで目に浮かびます。
猫というと、高い場所へ軽々と跳び乗る姿がよく似合います。けれどマロンには、部屋の中のコンセントにつまずくような一面もありました。いかにも猫らしい身軽な姿を思い描いていると、その足もとから、ちょっと待ってと言われたような気持ちになります。
「そんなところで」と言いかけてしまいそうになりますが、その「そんなところ」は、人間の高さから眺めた部屋の話なのでしょう。
目線を床近くまで下げて考えてみると、いつもの部屋が違う広さを持ちはじめます。家具の脚は高くなり、足もとの小さなものにも存在感が出てきます。同じ屋根の下にいながら、マロンは私よりずっと床に近い世界を歩いていました。
あの短い足がかわいいと思う気持ちの隣には、足もとを気にかけたくなる気持ちがあります。つまずいた姿を思い出して頬がゆるむのも、うまく歩けなかったことがおかしいからというより、あまりにも小さな足で暮らしていたマロンの姿が浮かぶからです。
コンセントひとつが、あのときのマロンには少し高かったのです。そのことがわかると、床を歩く小さな体をただ上から眺めているだけでは、見えないものがあるのだと思います。
猫と暮らしていると、かわいいという言葉の中身が少しずつ増えていきます。顔や毛並みを眺める楽しさに、その子の体つきや暮らしぶりを知る親しさが重なり、いつしか小さなつまずきまで、その子を語る話になります。
マロンの短い足についても、ただ「短くてかわいい」と言うだけでは足りません。コンセントのところで引っかかってしまったあの一瞬まで含めて、私の中にあるマロンの姿なのです。
家の中のコンセントに猫がつまずきました。人に話せば、それだけで終わってしまうような出来事ですが、マロンとの暮らしには、こんな小さな話がよく似合います。大きな冒険をしなくても、いつもの部屋には物語になる場所がありました。
その物語を歩いているのは、丸い体を支える、あの短い足でした。
次回も、マロンと暮らす部屋で起きた小さな出来事をお届けします。