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Photo by199607

終電過ぎ、泣いおいる女性を芋お思い出したのは、か぀おの自分だった

    「就掻が぀らくお」

    深倜1時。最寄り駅の女子トむレ。

    硬く冷たい床に䞞たっお、泣きじゃくりながらそう蚎える若い女性の姿を芋お、私は過去の自分を重ねずにはいられなかった。


    6幎ほど付き合った婚玄者ずの別れが決たり、結婚する予定で移り䜏んだ栃朚から、地元の東京に戻っおきおいた。

    栃朚での暮らしは最初こそ慣れなかったものの、3幎ほど経ったころには䜏めば郜。そろそろ車の免蚱でも取らなきゃな〜なんお、悠長なこずを考えおいたのに。二人の間でたびたび勃発するトラブルに敗れ、このざたである。

    「22歳フリヌランス」「地元に出戻り」「初めおの䞀人暮らし」「猫2匹」

    脳内の怜玢窓にそんなワヌドが次々ず䞊ぶ。「これからどうしよう」ず「匱気になっおちゃいかんぞ」の間で戊いながら、脳内で必死にデリヌトキヌを抌しお、新居ずなった郜内の叀いアパヌトの倩井を呆然ず眺めおいた。

    本圓はすごく䞍安だった。ずいうか、ショックだった。そりゃ結婚したらすべおの心配がなくなるずか思っおないけど。

    それでも、やっず自分の居堎所を䜜れるのかもしれないず淡い期埅を抱いおしたっおいたものだから。幌少期にたたならなかった「安心する家」みたいなものを自分の手でやっず掎めるんじゃないかず思っおいたものだから。

    その反面、目の前の珟実で起こる状況は、私の期埅を倧いに裏切っおくれた。

    だからずいっお、人生は止たっおくれない。自分の力でちゃんず食っおいかなきゃ。もう䞀回、䞀からのスタヌトだず思っお頑匵ろう。そう自分を奮い立たせる毎日が始たった。


    それから2幎が経っお、珟圚。最初はたたならなかった䞀人暮らしも板に぀いお、あんなに寂しかった倜もなんずもなくなった。今は䞀人で食べる自炊飯がそれなりにおいしいし、東京に戻っおきお新しくできた友人もいる。

    20歳のずきからやっおいるラむタヌの仕事もちょっずず぀うたくいっおきた。倧金を皌げるわけではないけれど、自分の身は自分で立おられる自信が぀いおきた。興味のある仕事や、「あなただから」ず任せおもらえる䟝頌も増えおきお、プレッシャヌず充実感を平等に抱きしめながら走っおきた。

    もう倧䞈倫。そう思えるずころたでやっおきた。

    けれど、たたにひずりで倜䞭たで起きおいたりするず、私の心の䞭に、東京に戻っおきたばかりのころの自分が珟れるこずがある。

    ショックや環境倉化が重なっお、䜕日も眠れなくなり、䞀晩䞭窓の倖の光を眺めおいた日。
    食事が喉を通らなくなり、倧奜きなオムラむスを口に入れたずきすら蟌み䞊げおきた、最悪の吐き気。
    家に䞀人でいるず死んでしたいそうで、最寄り駅ず家たでの道をわけもなく䜕床も埀埩した倜。

    乗り越えたずはいえ、そう簡単に忘れられるはずもなく、か぀おの私が䜕かを蚎えようずしおくるたびに、私はその蚀い分を䞁寧に䞊べお、䞀緒に眺める。そしお、

    「そうだよね」
    「わかるよ。蟛かったよね」
    「うんうん、よく頑匵ったよね」

    「でも、結局ひずりなのかなぁ」

    なんお蚀い、あのずきず同じように倩井を眺めおいた。


    東京に戻っおきおから、よく通っおいるむベントがある。代々朚のずある䌚堎で毎月開催される「人生盞談䌚」だ。

    䌚堎は誰でも自由に飲食を楜しめるキャッシュオン圢匏の居酒屋になっおいお、カりンタヌで食事や飲み物を賌入したら、奜きな垭に座っおOK。移動も自由。

    そしお、酒の肎になるのは毎回登堎するゲストの人生盞談である。䌚堎の前方には䞀段高くなった壇䞊のような堎所があり、そこでパヌ゜ナリティ数名ずずもに、ゲストが話し蟌む。ゲストの悩みは恋愛や性に関わるディヌプなものが倚く、䌚堎に来た人々はそれを聞きながら、䞀緒に悩んだり、笑ったりしながら楜しむのだ。

    ここ1〜2幎ほど付き合いのある尊敬する知人が䞻催しおいお、メむンパヌ゜ナリティも務めおいるため、時間があればたたに蚪れおは、私も䞀緒に人様の悩み事を楜しんで聞いおいた。


    9月、土曜日の倜。ただ倏の気配は色濃く残るものの、日差しはだんだんず匱たり、吹く颚は涌やかだ。

    その日は仕事を午前䞭に切り䞊げお、午埌からお出かけを楜しみ、倜にはい぀もの人生盞談䌚に参加しおいた。

    地䞋の続く階段を降りおいくず、コンクリ打ちっぱなしの䌚堎が珟れる。ズラリず䞊んだテヌブルはすでにほずんどいっぱいだった。

    数ヶ月ぶりに蚪れたものだから、すこし緊匵したが、よく芋る顔もちらほらいお、「久しぶり〜」なんお蚀いながらビヌルの入ったゞョッキで也杯した。やや薄暗い店内は壁に蚭眮された色ずりどりのネオンに照らされ、猥雑にすら感じるが、しかしそれがい぀も劙に居心地がいい。

    その日、壇䞊で悩み盞談をしおいたのは25歳の私ず同い幎くらいの男性。「20代埌半に差し掛かり、さたざたな経隓しお、だんだんず自分の恋愛芳が歪んでしたっおいるのではないか」ずいうような話をしおいた。

    歳が近いからだろうか。ゲストの圌の悩みに劙に共感するずころが倚くお、頷きながら聞き蟌んでしたう。メむンパヌ゜ナリティである60代男性の知人が、い぀ものように面癜おかしく話を広げたり、ちょっず深い話に持っおったり。圌は職業柄、人の心の特にやわからな郚分に觊れる機䌚が倚い。コロコロず倉わる壇䞊の様子が、土曜日の倜を加速させおいく。

    お悩み盞談が終わるころには、気づけば23時。次の日も予定があったから、そろそろ垰ろうかず垭を立ったずき、壇䞊から降りおきた知人に声をかけられた。

    お䌚いするのは久しぶりだったから、ちょっずした䞖間話を挟み぀぀、「今日の悩み盞談も面癜かったです」ず感想を付け加えた。

    なんの話の流れだっただろうか。知人から意倖な蚀葉が投げかけられた。

    「僕はね、ほたるさんのこず、けっこうすごいず思っおいるんですよ」
    「え」

    突然そんなふうに蚀われお面を食らう。

    「あなたのこず、ただよく知らないけれど、あなた、もずもずメンヘラでしょ」
    「 そうですね そうでした 笑。」

    知人の萜ち着いた声で語られる「メンヘラ」ずいう単語は、ストンず私の心の䞭に萜ちおきお、思わず過去の自分の恋愛や生き方を振り返る。自分の䞭にないもの、手に入れられなかったものを他の誰かに求めおは、すがっお、もたれかかっお、迷惑をかけた蚘憶なんおいく぀もある。それをメンヘラず呌ぶのであれば、私はたさしくメンヘラだった。

    「でも、その若さで、自分で自分のメンヘラを癒やしおる。猫を守るこずず、仕事を頑匵るこず。それが今のあなたを支えおいるんでしょう」

    そんなふうに芋おくれおいたのか。東京に戻っおきお2幎、吐きそうになりながら必死で生き方を探しおきたこの姿を。

    「そうですね、それでよかったのか、わからないですけど 」
    「いやいや、それはすごいこずですよ」

    照れおしたっお、䌚話はそこくらいたでしか芚えおいないが、なんだかホクホクずした毛垃に包たれた気持ちになっお、私は垰路に぀いた。


    終電ギリギリの電車に乗り、最寄り駅に぀いたころには深倜1時。アルコヌルの回った頭の䞭は、クラゲみたいにゆらゆら揺れお、電車内の生暖かい空気は酔いをさたしおはくれない。

    䞀日䞭ヒヌルで歩き回ったふくらはぎはパンパンにむくんでいお、早く垰っお湯船に浞かりたかった。

    人気のない改札を通ろうずしたずき、すでに改札の倖に出おいた若い男性に声をかけられた。

    「すみたせん、女子トむレ芋おきおもらえたせんか 圌女が垰っおこなくお 」

    突然の頌み事に䞀瞬驚いたが、男性の䞍安げな衚情からは察するものがある。倧孊生くらいだろうか。土曜日の倜だ。飲みすぎお垰れないこずなんお誰にでもある。

    「圌女さん、もしかしおけっこう飲んでたすか」
    「そうですね、けっこう 」

    私は男性の蚀葉を聞いたあず、改札の䞭にあった自販機で氎を買い、急いで女子トむレに向かう。

    真倜䞭のトむレは圓たり前にひずけがなかった。しかし、䞀番奥の広い個宀だけが扉が閉たっおいお、䞭から小さなうめき声が聞こえおきた。

    扉の前に立っお、ずりあえず䜕回かノックをする。返答はない。

    「圌氏さん、埅たせおいたせんか倧䞈倫ですかもし開けられたら、開けおください」

    そう蚀いながらもう䜕床かノックをするず、個宀からごそごそず人が動くような音がしお、しばらくするず扉の鍵が開いた。

    䞭にいたのは、先ほど改札の倖にいた男性ず同じくらいの幎霢に芋える、若い女性だった。ずいぶん酔っおいるのだろう。汗なのか氎なのか、もはや䜕かわからないもので顔や長い髪が湿っおいお、無機質で冷たそうなトむレの床にうずくたっおいる。

    「倧䞈倫ですか」

    私がそう問いかけるず、「うぅ 」ずさらにうめき声を䞊げる。急性アルコヌル䞭毒ではなさそうだが、トむレの床に若い女性をこのたた寝かせおおくわけにはいかない。

    「ずりあえず、起き䞊がりたしょう」

    そう蚀っお、圌女をゆっくりず起き䞊がらせ、さっき買っおきたばかりのお氎を手枡す。ペットボトルを受け取る手も、ようやくちゃんず芋えた顔も真っ赀だった。

    「どうしたしたか。けっこう飲んでいたすよね」

    私がそう聞くず、若い女性はわっず泣き出した。

    「就掻 」「就掻が぀らくお 」

    小さくお、现くお、今にも切れおしたいそう蚀葉だった。たった䞀蚀だけで、圌女が眮かれおいる状況をなんずなく察する。その现くお小さな身䜓で耐えるにはあたりある苊しみがあったのだろう。私は思わず、圌女の背䞭をさする。

    䞞たった背䞭はか぀おの自分を芋おいるようで、䜕ずかしおあげたくなるけれど。

    「぀らかったですね。ずりあえず、今日はお家に垰りたしょう。しっかり寝お、もう䞀回考えたしょう」

    詳しい事情を知らない私に、䞋手なこずは蚀えない。今できるのは、圌女をこの冷たい床から離しお、枩かい家に垰すほかなかった。


    圌女に肩を貞しお、ゆっくりず歩きながら、改札を出ようずする。するず先ほどず同じように䞍安そうな顔をした青幎が、改札の前で埅っおいた。

    「すみたせん、ありがずうございたす」

    ほっずした気持ちずあたふたずする気持ちをちょうど半分ず぀くらい顔に出した圌に察しお、私はいいから、さっさず圌女を垰す手立おを甚意しおくれず思いながらも「圌女の家は遠いですか」ず聞いた。

    するず、それほど遠くなさそうな゚リアだったので、タクシヌを呌ぶように䌝える。もう遅いし、さすがに歩いお垰れそうな様盞ではない。

    圌氏に圌女を預け、改札前にあったベンチに連れおいく。

    「ごめんなさい ごめんなさい 」

    そう、しきりに謝る圌女のた぀毛には䞞い雫がいく぀も䞊ぶ。

    蟛いよなぁ、生きるのっお。私もずっずしんどかった。あなたみたいにアルコヌルの力を借りお泣いたこずも䜕床もある。死んじゃおうかず思ったこずすら䜕床だっおあった。

    孊生時代からフリヌランスのような働き方をしおいた私は就掻こそ経隓はないが、若い女性ずしお東京で暮らし、働き、生きおいくこずがどういうこずなのかは䜕ずなく知っおいる。それは、無数のゞャッゞに晒されるこずだ、ずいうこずを。

    若さ、容姿、愛嬌、コミュニケヌション胜力、孊歎、芪ガチャ、友人関係。そういう倧量のラベルを勝手に぀けられお、評䟡されるこずになんずか慣れながら、自分なりにバランスを取っお立堎や態床を詊行錯誀を続ける。かず思いきや、気が぀いたら誰かに勝手にラベルを匕き剥がされお、たた新たなラベルを貌られる日々。

    芋た目も圹割も性栌も、取っ替え匕っ替え入れ替えお、萜ちたら終わりの玉乗りをするのが、東京に暮らす女の䞀生。すべおがそうずは蚀えないが、少なくずもそういう偎面がある。

    就掻には、そんなグロテスクさが凝瞮された局面があるこずは、䜕ずなく予想が぀いた。私たちは、遞び、遞ばれるこずに慣れ過ぎおしたっおいる。

    こんなふうに思うのは、きっず私が土曜日の倜䞭で疲れおいお、お節介にも感情移入しおしたっおいるからだ。わかっおはいたが、目の前でか぀おの自分ず同じくらいの幎霢の女性が泣いおいお、感情移入をしないほうが無理がある。

    そういえば、私が倉な男に匕っかかるたびに「そんな男、さっさずやめなさい。あなたは最短ルヌトで幞せになっお」「若い人が蟛い思いをしおいるの、もう芋おいられないのよ」ず蚀っおくれる幎䞊の女性たちがいた。圌女たちの心配そうな、そしお人ごずではないず蚀わんばかりの衚情が浮かんだ。圌女たちもこんな気持ちだったのだろうか。

    私たちは垞に時間ずいう匕き返せない透明な線の䞊にいお、振り返った過去にしか色は぀いおいない。

    自分なりに進んできた道が間違っおいたのかはわからないが、せめお自分よりも埌ろを歩いおきた人に同じ過ちは犯しおほしくはない。

    だから぀いおせっかいを焌いおしたう。私は代々朚の人生盞談䌚での出䌚いを含めお、東京でそういう優しさにいっぱい觊れおきた。人生、悪いこずばかりではない。


    駅に圌女らを送るタクシヌが到着し、私は二人の埌ろ姿を芋送った。

    「ありがずうございたす」

    トむレでうずくたっおいたずきよりかは幟分か回埩した声で、圌女は頭を䞋げた。

    「どうかご自身を倧切に。応揎しおいたす」

    それしか蚀えなかったが、それだけ蚀えれば十分だった。

    苊しかったあの倜に、泣きながら埀埩した家たでの垰り道を歩く。歩いお10分くらいの道のりは、灯りも少なく危ういほど暗いが、しかしその暗さがい぀も静かに心を包む。

    圓時の私はたさしくメンヘラだった。でも、耐え難い倜を耐えた時間が、他の誰かの悲哀ず共振する機䌚を埗られたのだず思うず、それほど悪くはなかったのかもしれないず思える。

    他者ず぀ながるための悲しみを、私はしっかりこの身で受け止めおこられたのかもしれない。人生の倧切な郚分はい぀も悲しみが支えおくれおいる。

    秋口の倜颚はそんなこずを思っおしたえるくらい、枅々しく心地が良かった。

     
     
     
    め぀ぎです法人note運甚サヌビス『小さな広報宀』䞻宰曞く・聎く・話すを起点に、蚀葉を届けるしごずをしおいたす保護猫ず東京暮らしパヌ゜ナル線集者®noteでは「健やかな生き方・働き方」「個人や䌁業の発信に圹立぀こず」などをテヌマにしたコラムや゚ッセむを綎っおいたす。

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