私の好きな「叱咤激励」
「四字熟語トレーディングカード」が存在するならば、私が最後の切り札として大切に温めているカードがある。
それは、「叱咤激励」
まず、漢字の字面が強い。
「咤」という漢字は普通に生活していて見かけない。この文字がやけに「本社から来たお偉いさん」っぽい雰囲気を纏っている。
更に、「シッタゲキレイ」という響きが強い。
もし、そんな名前の競走馬がいたら、稀代の強さを誇るに違いない。
促音と、尖った濁音を持ちつつも、ラ行のエレガントな音を持つこの四字熟語は、あらゆる刺激で鼓膜を震わせる。
人は誰かを好きになる時、つい見た目から入る。私は意味を知るより先に、この言葉のビジュアルを好きになった。
このパワーワードは、お祝いの席など厳かな場面で姿を現す。「ありがたいお言葉をもらう」ぐらいの意味しか掴んでいないのに、その言葉の虜になった。
「叱咤激励」が私を魅了するには、その字面と響きだけで十分だった。
令和の今、「叱咤激励」はパワハラという轍のすぐそばにいる。時代の移ろいとともに、叱咤が影を潜めていく。
激励のみが残された。
「大丈夫だよ」
「そのままでいい」
「なんとかなる」
嫌いじゃない。むしろ好き。
ただ、そこには私の好きな「叱咤激励」はもういない。
「おーい叱咤、戻ってこいよ!」
激励が叱咤を探している。
小学校低学年の頃、不注意にも道路を飛び出した私の前で、一台の車が止まった。
知らないおじさんだった。
「飛び出したら危ない!大怪我するところじゃったぞ!右左見て渡らんか!」
突然の叱咤に私は面食らった。
「叱咤激励」とは少し違う。
それは「叱咤行動改善案」だった。
歯ぎれの悪いカードだ。
だが、子どもの私にこのカードの効果は絶大だった。
以来私は、道路を渡る時しつこく右左を見るようになった。
おじさんの言葉は、
「事故になったら俺が捕まる」ではなかった。
「轢かれたらあんたが大怪我するぞ」だった。
おじさんは、舌打ちして通り過ぎることだってできた。
見ず知らずの子どもに関わる必要もなかった。
それでも叱咤してくれた。
「自分の命を大事にするんだよ」という激励だったのかもしれない。
普段の私は波風を立てず、周りに迎合して生きている。
けれど、大切な人が危ない方向へ歩いていたら、大きな声をあげる覚悟はある。
嫌われるかもしれない。
それでも「あんたが痛い目に遭わないように」
叱咤激励する。
だから私はいつも懐に、「叱咤激励」カードを大切に温めている。
