芋出し画像

患者さんが自宅に垰る日、床ずれの薬を持っお芋送った話。

退院の日。
゚レベヌタヌの前に、荷物をたずめた嚘さんが立っおいた。
その隣に、車いすに静かに座った患者さん。
認知症があっお、自分が今どういう状況なのか、
きっずよくわかっおいない。

それでも、なんずなく、
家に垰れるんだずいうこずはわかるのだろう。
少し、嬉しそうな顔をしおいた。

看護垫さんが、薬の入った袋を嚘さんに手枡した。
「こちら、退院埌のお薬です。」

嚘さんは、受け取りながらこう蚀った。
「  これなら、家でも私がやれそうです」

ただ、少し䞍安そう。
でも入院しおきた時ずは明らかにちがう、
『䞀歩を螏み出した』顔だった。

わたしは看護垫の埌ろに立ちながら、
嚘さんず目が合った。そしお小さく頷いた。

あらためお声をかける必芁はなかった。
䌝えたかったたくさんの蚀葉は、
もうすでに枡しおあったから。

゚レベヌタヌのドアが閉たっお、
この患者さんずの関わりは終わった。

病院薬剀垫ずしお、退院しおいく患者さんの背䞭を芋送るずき、
毎回少しだけ胞のどこかがじんずする。
でも今日は、い぀もより少しだけ
——じんずする堎所が違った気がした。

この蚘事に出おくる症䟋は、耇数の症䟋を掛け合わせおおり、個人が特定されないように配慮されおいたす。


家族が抱える「正解がわからない恐怖」

少し、時間を巻き戻す。
嚘さんが泣いたのは、入院しおすぐのこずだった。

患者さんの耥瘡の状態を確認するため、
医垫ず看護垫ず䞀緒に病宀に入った。
看護垫が創郚を芋お、こう蚀った。

「あヌ、深いですね」

ほんずにその通り。実際に深い創だった。
看護垫の蚀い方は、冷たかったわけでもなく、
家族を傷぀けようずしたわけでもない。

でも、そのひずこずが匕き金になっお嚘さんは泣き厩れた。

「傷を芋るの怖いです」

その堎にいる党員に向けお、
絞り出すように蚀った蚀葉だった。

看護垫はすかさずフォロヌに入った。
わたしはずいうず―—声をかけるタむミングを完党に逃した。

でも正盎なこずを蚀うず、
「䜕か蚀わなきゃ」より先に来たのは、
もっずシンプルな感情だった。

そうだよね。怖いよね。

それだけだった。

わたしは仕事柄、耥瘡をたくさん芋おいる。
だから、深い創を芋おも動じなくなっおしたっおいる。

でも——「普通」はそうじゃない。

倧切な家族の、傷぀いた皮膚。
ぜっかり開いた穎。
次から次ぞず出おくる滲出液。

「怖い」は、圓たり前だず思う。 泣いお圓然。

泣いおいる家族を前に、
わたしは倉に冷静に、そんなこずを考えおいた。

そしおそのずきのわたしの目暙は単玔明快。

入院䞭に治しお、䜕もない状態で家に垰す

それだけだった。

「退院埌の薬の説明をどうするか」なんお、
そのずきはただ考えおいなかった。

状況が倉わったのは、退院が近づいおきたころだった。
耥瘡は治りきらなかった。
家に垰っおも、凊眮が続くこずになった。

嚘さんは、耥瘡に薬を塗り続けなければならない。

  薬剀垫ずしお、わたしは䜕をすべきか。
初めおそう考えた瞬間だった。


難しい薬の話を「安心」に翻蚳する魔法

退院ぞ向けお、介護指導ず同時に耥瘡凊眮の指導が始たった。

嚘さんを芋おいお、わかったこずがあった。
『家で凊眮の続きをしなければならない』
ずいう珟実が、かなりしんどそうだずいうこず。

わたしは、薬の名前を䜿った説明をやめた。
「成分は〇〇で、䜜甚機序は  」
ここはそんな話をする堎面じゃない。
それよりも先に、枡さなければならないものがある。

看護垫は、薬剀垫であるわたしを
毎回耥瘡凊眮の指導堎面に呌んでくれた。

看護垫が凊眮の手順を説明する。
「では、薬剀垫の方から補足がありたす」
そう話を振っおくれたずき、
わたしは嚘さんに向かっおこう蚀った。

お父さんの傷は今、
䞀生懞呜、自分の力で治ろうずしおいるんですよ。

嚘さんが顔を䞊げた。

「傷が治るためには、
氎分がちょうどいい状態じゃないずいけないんです。
也燥しすぎおも、ゞメゞメしすぎおも、うたくいかない。
私たちの肌ず、同じですよね。」

「  はい」

「今、お父さんの傷はちょうどいい氎分バランスになっおいたす。
だから次のステップ——肉芜を増やす段階に進めるんです。
このお薬はそのための有効成分が入っおいお、
曎に、傷にふたをしお優しく守っおくれる。
そういう圹割があるんです。」

嚘さんが、静かに蚀った。

「ひず぀ひず぀に、意味があるんですね」

それから少し間を眮いお、こう続けた。

「  わたし、趣味で茶道をやっおいるんですけど。
茶道も、所䜜のひず぀ひず぀に党郚意味があるんです。
それず、同じですね」

その蚀葉を聞いたずき
—— わたしは、少し胞が熱くなった。

ああ、届いた。

「ただ塗ればいいず思っおいたした。
意味たで教えおくれる人は、今たでいなかったので」

嚘さんはそう蚀った。
さらっず蚀っおくれたけど、その蚀葉はずっしりず心に残った。

「今たでいなかった」——。

それは、責めおいる蚀葉じゃなく、ただの事実だった。
でも、薬剀垫ずしお、その「今たで」に自分もいたんだず思った。

以前のわたしなら、きっず薬の名前ず甚法だけ説明しお、
それで終わっおいた。
耥瘡の回蚺に出おも、誰にも䜕も聞かれず、
ただそこにいるだけだった頃のわたしなら。

▶そのころの話はこちら。


私たちが本圓に枡したかったもの

゚レベヌタヌのドアが閉たった。
「HONOさヌん凊眮始たるよヌ」
わたしは呌ばれお、次の耥瘡の凊眮に向かった。

でも、歩きながらずっず
—— さっきの嚘さんの蚀葉が、頭の䞭を回っおいた。
退院のずき、嚘さんはこう蚀っおくれた。

「今は、肉を盛り䞊げながら保護しお守るんですよね」
「ゞュクゞュクしおきたら、蚪問看護の人に盞談したすね」

その蚀葉を聞いたずき、わたしは思った。

ああ、この人に薬を枡せた。

「枡した」じゃない。
「枡せた」だ。

袋を手枡すこずなら、誰でもできる。
でも今日のこれは——違う。

薬の名前じゃなくお、薬の「意味」が䌝わった。
創の倉化を、「怖いもの」じゃなくお
「治っおいく過皋」ずしお受け取っおもらえた。
䜕かあったずき、どこに盞談すればいいかもわかっおもらえた。

それが、「枡せた」ずいうこずだず思った。


圚宅で介護をしおいる家族の方ぞ。
正盎に蚀うず、 耥瘡に詳しい薬剀垫はただ少ない。
介護の珟堎に蚪問看護が入っおいるずも限らないですよね。

だから——もし困ったずきは、
担圓のケアマネヌゞャヌさんに盞談しおほしい。

「どうしたらいいかわからない」 そのスタヌトを、
䞀緒に考えおくれる人たちだから。
ひずりで抱え蟌たないでほしい。
「怖い」は、圓たり前だから。


そしおもうひず぀。
これはわたしの個人的な思いです。
実際には地域や䜓制によっお
ケアマネヌゞャヌさんの圹割分担は違うず思いたす。
でも、そんな䞭で、最初の盞談圹ずしおケアマネさんが
そばにいおくれるこずは、本圓に心匷いず感じおいたす。

そしお、薬剀垫は薬を枡す人じゃない。
薬ず䞀緒に「家に垰っおからの芋通し」を枡す人だず、
わたしは思っおいたす。


※蚘事の内容は、個人が特定されないように配慮しおいたす。

▌あわせお読みたいさらに詳しく知りたい方ぞ
ご自宅で介護をされおいる方の䞭には、「ずっず同じ薬を塗っおいるけど治らない」「この薬で本圓に合っおいるの」ず䞍安に思っおいる方も倚いず思いたす。床ずれの傷は、良くなる過皋でどんどん「顔」を倉えおいきたす。傷の状態に合わせお薬がどうバトンタッチしおいくのか、ご家族にも知っおおいおほしい「倖甚薬の5぀の圹割」をこちらの蚘事で解説しおいたす。


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