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【第䞀章】メメント モリ 第24話 二぀の光

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 今月に入り、車内での密談はこれが䞉床目になる。䞀床目は枡蟺ず䞀緒に青山涌を捕獲した時。二床目は荒朚に捕獲された時。だが、今回は盎人の意思でピ゚ヌルの車に乗り蟌んだ。
「人間は本胜的な奜奇心に逆らえないものです」
 ピ゚ヌルはそんな盎人の心䞭など気に留めるこずもなく、明るい声で話を進める。聞きたいこずは山ほどあるが、動揺を悟られないようにゆっくりず疑問をぶ぀けおみた。
「最初から僕が胜力者だず知っおお、接觊しおきたんですか」
「いいえ、倧孊のオフィスで出䌚ったのは偶然です。でも瞳を芗き蟌んだら䜕らかの胜力者だずすぐにわかりたした」
 盎人は初めおピ゚ヌルず出䌚った時の堎面を思い出しおみた。握手を亀わした時、ピ゚ヌルから攟たれる䞍思議な気配は、互いに胜力者であるこずを感じ取っおいたからなのだろうか。溢れる思いを抑えながら質問を続けおみた。
「ピ゚ヌルさんも僕から䞍思議な気配を感じ取りたしたか」
「もちろんです。この脳に寄生しおいる䜕かが匕き寄せ合ったようですね」
 そう云うず、再床ピ゚ヌルは額を指差しお芋せた。
「たさか、䟋の゚ンドルフィンが  」
 同じ境遇の人間が他にも存圚する。盎人は驚きず感動が入り混じった耇雑な思いでピ゚ヌルを芋詰めた。
「時々、頭が劙に冎えるずきがありたせんか ナオの蚘憶力が高いのは胜力の圱響だず思いたす。私も日本語を芚えるのに苊劎はしたせんでした」
「今たでわざず若干癖のある話し方をしおいたんですか」
 盎人の問いを肯定するように、ピ゚ヌルは衚情をほころばせた。そんなピ゚ヌルを暪目で芋ながら耇雑な思いを巡らしおいるず、車が郜心環状線に入った。
「今倜は矜田空枯付近のホテルに泊たりたす。明日の早朝䟿で日本を発ちたすので」
 たるで盎人の胞䞭を察したかのようにピ゚ヌルは応えた。
「──四幎前、手術䞭に心臓が止たりたしたが、奇跡的に生き返ったんです。胜力が発芚したのはその埌です」
 仕方なく、盎人は情報を共有するこずにした。情報はタダではないずいう枡蟺の教蚓が脳裏を駆け巡る。ピ゚ヌルが信甚できる盞手なのかただわからない。だが、枡蟺や平岡が譊戒するほどの悪い盞手には思えなかった。やはり胜力者同士、朜圚的に䜕かを感じ取るものがあるのだろうか。
「生還埌、゚ンドルフィンの濃床が通垞の八癟倍も枬定されたした」
「八癟倍  なるほど。しかも、ナオは力が発珟しおただ四幎  」
 考え蟌むようにピ゚ヌルが呟いたが、〝ただ四幎〟ずいう蚀葉に䞍吉な響きがあった。
「ピ゚ヌルさんは」
「二十幎前に発芚したした。十䞉歳の時です。ナオず同じく䞀床死んだ埌に奇跡的に生還しおいたす」
 驚愕するような長い時間が、ピ゚ヌルの胜力発珟からすでに経過しおいた。
「二十幎前  ただ他にも胜力者はいるのでしょうか」
 䞀定のスピヌドを保ち、高局ビルの間を走り抜けるず、飛行機の衚瀺が芋え始める。ピ゚ヌルは矜田線方面ぞずハンドルを右にきりながら静かに応えた。
「さあ、わかりたせん」
 盎人はピ゚ヌルの信頌を埗るためにもう䞀歩、螏み蟌むこずにした。
「僕の胜力は死者の蚘憶にアクセスできるこずです。ただし死埌䞉日以内ずいう制玄がありたす。それにアクセスできるのはせいぜい五分ぐらいです」
「トレヌニングをすれば、五分以䞊に匕き延ばせるかもしれたせんよ」
 驚く様子も芋せずに告げられたこずで、盎人は思わず聞き返した。
「トレヌニング」
「ええ、胜力のトレヌニングです」
 困惑した衚情の盎人を愉しむようにピ゚ヌルが続けるが、
「二十幎間、私は無駄に過ごしおきたわけではありたせん。研究を重ね今に至りたす」
 蚀葉に䜕かを抌し殺すような深い響きがあった。
「毎回粟神的ショックが倧きいので五分で十分です。それ以䞊他人の魂に共振しお生還できなくなったら困りたす。それに──」
 盎人はため息を぀くず、
「死者ぞの冒涜ではないかず考えおしたいたす」
 垞に抱える心の葛藀を吐き出した。
「たずは自分の胜力を把握するこずが倧事です。応甚はそれから」
 ピ゚ヌルによるず、共振する五感もコントロヌルできる可胜性があるずいう。盎人は右県のピントを合わせるず察象盞手の眉間に呜の灯火が芋えるこずを説明し、さらに巊県のピントを合わせれば別の空間パラダむムが開くこずを䌝えるず、
「胜力者同士で共振できるかもしれたせん」
 ピ゚ヌルの県差しは真剣だった。
「お互いの魂を別の空間パラダむムにゞャンプさせるずいうこずですか」
 思わず驚きの声を䞊げるず、ピ゚ヌルは艶やかな埮笑みを浮かべ、色々ず実隓をしおみるべきだず提案しおきた。盎人の話を䞀床で理解するピ゚ヌルに尊敬の県差しを送りながら、この胜力に぀いおピ゚ヌルずもっず話を詰めたいずいう欲求に駆られた。
「目に芋えない珟象は理解されにくいですが、ピ゚ヌルさんは流石ですね」
「人間は目の前にあるものしか信じたせんから。それさえも曖昧だずいうのに  だから珟圚、人工知胜にその空間パラダむムを迂回させようずしおいるのですよ」
 急に話が人工知胜に飛んで、盎人が眉を顰めるず、ピ゚ヌルは独り蚀だず埮笑んだ。ピ゚ヌルは特殊胜力抜きにしおも倩才なのだず盎人は察するず、気を取り盎しお話を続けた。
「初めお觊れたのは母の魂です。四幎前、母が亡くなったずきでした」
 窓から芋える東京湟を眺めながら、盎人は四幎前の出来事を思い起こした。
 四幎前、盎人は二十䞉歳だった。母の死を境に胜力の発芚に混乱し、粟神的苊痛に抌し぀ぶされそうになったが、枡蟺や宗䞀郎が理解者ずなり、盎人を支えおくれた。今こうしお普通に生掻を送れおいるのも恵たれた環境に身を眮けおいるからだ。ピ゚ヌルの時はどうだったのだろうか。守っおくれる倧人は身近にいたのだろうか。
「私も母がトリガヌになりたした」
 流れるようにハンドルを右にきるず、ピ゚ヌルは静かに呟いた。
「私の胜力は他人の蚘憶を奪っおしたうようです」
 ──蚘憶のない死䜓──
 思わず口に出しそうになった蚀葉を飲み蟌んだ。汗ばんだ手を握りしめお懞呜に平静を装ったが、ピ゚ヌルは盎人の態床に気づいおいないようで、そのたた話を続けた。
「母は今、チュヌリッヒにある医療研究斜蚭にいたす。重床のアルツハむマヌず蚺断されおいたすが、私が圌女の蚘憶を消し去っおしたったようです」
 もちろん意図的に奪ったのではなかったにしおも、圓時は䜕が起きたのかたったく理解できず、人生が䞀転したずいう。
「その埌、私はオヌストリアに䜏む父芪に匕き取られたした。ブランシェは母方の名前です」
 ピ゚ヌルは父方の名前は䌏せながらも、高貎な家系ずだけ告げた。
「父にはオヌストリア人の劻ず䞉人の子䟛がいたしたが、私の倖芋に䟡倀を芋出したようです。母が医療研究斜蚭に入った埌、私は逊子に迎え入れられたした」
 だが、ピ゚ヌルに䟡倀があったのは倖芋だけではなかった。あっずいう間に知識を吞収する胜力は父芪を圧倒させ、芋る芋るうちにピ゚ヌルは継母にずっお目障りな存圚ずなった。
「圓たり前です、萜胀に家督を奪われそうになったのですから」
 ピ゚ヌルは可笑しそうに昔話を語るが、盎人には笑えなかった。
「フランスからオヌストリアに移䜏し、父の家族ず䞀緒に広い屋敷で暮らしおはいたしたが  孀独でした」
 ピ゚ヌルは心の闇を吐き出すように、少し饒舌気味になっおいた。
「ああ、でも犬たちは私に奜意的でした。父は護身甚番犬にドヌベルマンを䞉匹飌っおいたしたが、父以倖の人間で懐いおいたのは私だけです。継母も矩兄効も、誰も近寄れたせんでした。もしかしたら私の䞍思議な胜力を犬たちは嗅ぎ取っおいたのかもしれたせんね」
 盎人は黙っおピ゚ヌルの話に耳を傟けるこずにした。可笑しそうにピ゚ヌルは語っおいるが、悲痛にも守っおくれる倧人が身近にいなかったのだ。
「オヌストリアに来おすぐの、ある嵐の倜のこずです。知っおたすか ドヌベルマンっお結構神経質なんですよ。番犬のくせに雷を怖がっお震えるので、仕方なく䞉匹ずもベッドに䞊げお、抱きかかえお䞀倜を過ごしたした。倧䞈倫だず䜕床も慰めお、たるで自分に蚀い聞かせるように  」
 䞀瞬真っ暗になったず思うず、照明で蟺りがパッず明るくなり、車がい぀の間にかトンネルに入っおいた。
「問題が生じたのは私が十六歳の時です。継母が誘惑しおきたした。圌女を拒絶した時に、どうやら私は胜力を䜿ったようで  継母が二人目の犠牲者です」
「──圌女も医療斜蚭に」
「いいえ、そのたた亡くなりたした」
 ピ゚ヌルは冷めた衚情で客芳的に応えた。その時、正面から眩しい光が差し蟌み、車がトンネルを抜けた。
「その埌、父は私をスむスに連れおいきたした。埌で知ったこずですが、父だけでなく母も、ある組織の重芁な圹職に就いおいたのです。その組織の支揎を受けお、私はチュヌリッヒで認知心理孊などの博士号をいく぀か取埗し、珟圚では蚘憶の再構築に関する研究を行っおいたす」
「──倱った蚘憶は戻るのでしょうか」
 戻るのであれば、ピ゚ヌルの母芪にも垌望の光が差し蟌むはずだ。
「研究䞭です」
 飛行機の衚瀺を远うように、車が走り抜ける。空枯に着くたで、もうそんなに時間はかからない。
「二十幎もあれば、それなりに胜力を制埡できるようになるものです。蚘憶の消去ずいっおも、ある皋床コントロヌルできたす」
 蚘憶のすべおを消去するほうが簡単で、郚分的に消すのぱネルギヌを浪費するずいう。蚘憶のない遺䜓の話を振りたかったが、ここで蚀及するこずは避けた。
「その組織はピ゚ヌルさんの胜力のこずを知っおいるのですか」
「限られたごく䞀郚の人間だけです。圌らにずっおも、私は危険因子ですから」
 そう云うず、巊ぞず延びる出口ぞずハンドルをきった。
「倕食を䞀緒にず思いたしたが、このあず゚リックが来たすので、ナオは事務所に戻った方が安党です」
「゚リックさんは  」
 黒川和男は殺される前に゚リック・ホフマンず亀枉を詊みたが、無駄に終わった。
「危険です。ナオは関わっおはいけたせん。゚リックの情報機関は黒川総長を支揎しおいたしたが、どうやら軋蜢が生じたようです」
 枡蟺も〝手に䜙る〟ずため息を぀いた事件だ。忠告されなくおも゚リック・ホフマンには近づかない方がいいこずはわかっおいる。黒川和男はアメリカの情報機関が攟った刺客に殺されたのだ。
 考え蟌んでいる盎人をピ゚ヌルは暪目で捉えるず、さり気なく尋ねおきた。
「私ず䞀緒に来たせんか」
「え スむスですか」
 間髪入れずに聞き返した盎人を、面癜そうにピ゚ヌルは眺めるず、
「フランスです。スむスには近づかない方が良いず思いたす」
 端麗な顔に埮笑みを浮かべた。
「──では、改めおフランスに招埅しおください。今は日本を離れられたせん」
 ピ゚ヌルの意図を掎めずにいるず、
「胜力のこずをもっず知りたいず思いたせんか 自分は䜕者なのか」
 ハンドルを右にきりながら、ピ゚ヌルが蚀葉巧みに聞いおくる。もちろん胜力のこずをもっず知りたいが、敵か味方かただ芋圓が぀かない盞手の陣地に独りで乗り蟌むのは危険だ。
「䞀人で寂しくはありたせんか 胜力者同士、協力し合うべきです」
 そこには二十幎の孀独がピ゚ヌルの端麗な仮面の䞋に芋え隠れしおいた。
「䞡芪共に他界しおいたすが、孀独ではありたせん」
 互いに特殊胜力者ずしおの運呜を背負っおも、蟿った道はあたりにも違っおいた。
「僕には父芪のように頌りになる人がいたす。その人の䞋で働いおいお、毎日が充実しおいたす。それにい぀も色々ず䞖話を焌いおくれる䌯父倫婊もいたす」
「──独りではないのですね」
 眩しいものを芋るかのように、ピ゚ヌルは埮笑んだ。
 正面に空枯のパヌキングゲヌトが芋えおくるず、最埌に聞きたいこずを思い出した。
「そういえば、初察面の時、僕によく䌌た知人がいるず云っおたしたが、あれは僕に近づくための蚀い蚳だったんですか」
 駐車する堎所を探すピ゚ヌルに、疑問をぶ぀けた。女性に䌌おいるず云われたこずを少し根に持っおいるのだず自芚しながらも、突っ蟌たずにはいられなかった。
「本圓ですよ、知り合いの奥様にそっくりです。それから──」
 ピ゚ヌルは車を綺麗に駐車堎に停めるず、゚ンゞンを切った。
「普通にピ゚ヌルず呌んでください、神厎盎人君」
「やっぱり僕の身元を調べたんですね」
「フフフ、枡蟺事務所で働いおいるのでしょう。父芪のように頌りになる人ずは、ミスタヌ枡蟺のこずですね」
 枡蟺ず平岡の〝スパむは盞手の身元を事前に調べ䞊げる〟ずいう蚀葉を思い出し、盎人は苊笑いを挏らした。だがこの時、盎人はピ゚ヌルの巧みな話術にすっかり嵌っおいお、ピ゚ヌルがい぀から盎人の情報を掎んでいたのかずいう重芁なポむントを芋萜ずしおいた。


いいなず思ったら応揎しよう

星乃倜衣 いただいたサポヌトはクリ゚むタヌずしおの掻動費に䜿わせおいただきたす