
第七回 プリンでシュークリーム

私は人間なので、ラテアートみたいな可愛さに憧れる。カフェラテの泡は、周りにいる人たちを自然と笑顔にしてしまう。
私は毎日、顔に色んなものを塗って、色んなものを隠している。そばかすも、ニキビも、泣いて赤くなったまぶたも。けれど、どんなに複雑に重ねても、隠せないものがある。この、なんだかもやもやした気持ち。それでも、今日も何かを塗らないわけにはいかない。いつか、隠せるといいんだけれど。
私はカフェラテにゃんこが羨ましい。
食べる。寝る。スキ。キライ。怒る。無視。
そう、猫は正直。
猫は、天井に届きそうなほど片足を上げて、毛づくろいをしている。私は声をかける。
「白と茶色を塗るだけでキミは可愛いね」
しーん。
「ねーねー」
しーん。
笑っていない目がたまらなく可愛い。人間みたいに無理して笑ったりしない。
私は鏡の前に座る。飲みかけのラテアートみたいな顔が映っている。なんだか歪んでる。よし、新しいチークで気分を上げよう。無心で塗っていたら、オカメインコのようなほっぺが鏡に映る。鏡の端には、私を見つめる猫が映る。まるで獲物を狙う目で、片足は上げたまま。私はおかしくて笑ってしまう。

さて、ちょっぴり遅めの朝ごはん。こんがり焼けたパンを、そおっとお皿にのせる。焦げ目が美しい。バターを塗ったら、もはやアート。じゅわっと溶けていく過程もまるごと作品みたい。
そういえば猫が静かだ。毛づくろいに満足したのか、今はレシートを見つめている。レシートが好きな猫って他にもいるのかな。今日もレシートをちゃんと読んでいる気がして笑ってしまう。
「何をそんなに真剣に見てるの?」
私は猫を抱きあげる。ふわふわ。猫に触れていると、絡まったもやもやが、ちょっぴりほどけていく。
私は猫を抱えたまま、冷蔵庫からプリンを取りだす。
つやんつやんのプリン。私はデザートまで待ちきれなくなって、プリンの蓋を開ける。その瞬間、手に肉球の衝撃。抱えていた猫とプリンが舞い上がる。
私は目で追う。猫は床の上に着地した。完璧。プリンはこんがり焼けたパンの上に着地した。
「えっと…これはなんですか?」
目の前で、見たことのない料理ができあがっている。
「パンにプリンが塗られているんだけど…この組み合わせがまずいわけないよね。よし、食べてみよう」
上唇にひんやり揺れるプリンの感触。下唇にサクサクのパンの感触。鼻に抜ける甘ったるいカスタード。溶けたバターのコクと香ばしさ。口の中で合わさると、正直に言って、あの味。
「何を隠そう、シュークリームの味がする!」
猫は何事もなかったように、食卓に溜まった1週間分のレシートとじゃれている。
痩せたいけど食べたい気持ち、アイスを冷凍庫に入れ忘れたこと、急な雨で欲しくもないのに買った傘、お米炊き忘れ事件、ドレッシング買い忘れ事件、バーベキューが中止になって落ち込んだ気持ち…
どの日もあたふたしたのに、今は笑えてしまうのが不思議だな。
私は再び鏡の前に座る。塗りすぎたチークを丁寧に落とす。そこにはもう、飲みかけのラテアートみたいな顔は映っていない。鏡の端には、ふわふわのカフェラテが映る。これから、周りにいる人たちを自然と笑顔にする一杯。
「にゃー」
甘ったるい音で鳴く、一杯。
塗っても塗らなくても、正直な日曜日だ。
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🐾「カフェラテにゃんこのレシート観察」は、
全七回の連作エッセイです。
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