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【小説】スヌプがならぶたでに 埁吟篇

い぀も、䞀瞬遅いのだ。泣くずわかっおいれば「いたからさあ泣かれるぞ」ずいう心がたえができるのに。和䜳奈が泣き始める兆しを捉えるのが自分は遅い、ず小束埁吟は倧きく肩を萜ずした。気づいたずきにはもう、嚘は火が぀いたかのごずく倧声で泣きわめいおいお、手の斜しようがない。

もうこうなるずなだめおもすかしおも効果はなく、ただひたすらなるべく優しく聞こえる声かけをするよう努めながら、内心「子䟛の声がうるさいず階䞋や階䞊の䜏人から怒鳎り蟌たれないか」「隣の郚屋から虐埅だず通報されないか」ばかり気になっお、気が気じゃなくなる。

和䜳奈は歳を数ヵ月過ぎたずころだ。぀かたり立ちを初めおしたその瞬間を、劻の䜳恵ずスマホで動画におさめお喜びあったのは぀いこの間であるかのように思えるのに、それからあっずいう間に䞍安定にバランスを取りながら危なっかしくも歩き回るようになっお、いっずきも目が離せない。

いたは和䜳奈が芋おいる幌児向け動画を、タブレットごず「そろそろごはんにするから、たたあずでね」ず取り䞊げたのが烈火のごずく泣き出した原因だった。昚日もおずずいも、同じこずをしお泣かなかったのに、今日は䜕が違ったのだろう。

わめき泣き、顔を真っ赀にしながらがろがろ涙をこがしおいる和䜳奈を前に、無の境地になりながら、泣きたいのは俺のほうだ、ずしんから思った。泣いお䜕かが倉わるのなら、もうずっくに泣いおいるだろう。それで本圓にどうにかなるのであれば。

二幎ず少し前から䞖界䞭で急激に流行り出した感染症は、埁吟の人生にも深い爪痕を残した。勀めおいたアパレル䌚瀟が感染症のあおりをくっお倒産したのだった。「ステむホヌム」を有意矩に過ごすのに、おしゃれなデヌト服はいらないし、オンラむン䌚議が仕事の䞭心ずなった䞖の䞭に、良いゞャケットの違いをわかっおもらう楜しみは半枛するのだず痛いほど知った。

転職先をいく぀か探したが、同業ではどこも人員を増やさないようにしおいるらしく、仕事探しは難航を極めた。䞀方で、䜳恵は和䜳奈が䞀歳半を迎えたあたりから、勀めおいた医療機噚の䌚瀟から「できるだけ早く育䌑から埩垰しおほしい、䜳恵さんがいないず忙しすぎお倧倉だ」ず戻っおきおコヌルが続いた。

䞉歳たでは園に入れず家で育おたい、ず劊嚠䞭から決めおいた䜳恵だったが、埁吟の仕事が立ち消えたこずで、いろいろ考えるずころがあったらしい。

埁吟ず䜳恵はお互いにどういう働き方をするか、倜ごず盞談を重ねた。

「せいくん、もし嫌じゃなかったら家にいお和䜳奈を芋おくれる 仕事が決たるたででいいから。私、せいくんず和䜳奈をいっずきでも逊えるようがんばる。このいやなパンデミックが終わったら、きっず前よりもいい仕事が決たるよ」

埁吟は䜳恵の発蚀を聞き「目の前の嚘だけを芋おいれば、あずは自由にしおいいかもしれない」ずいう自由時間が自分に䞎えられる可胜性を感じお䞀瞬喜び、その䞀方でなけなしのプラむドに爪を立おお匕っかかれるような、そんな痛みず恥ずかしさも感じた。

「男は家族を逊っおこそ䞀人前」だなんお、叀い考え方だず䞀笑に䌏しおいお、ばりばり働く女性を瀌賛しおいたし、そういう女性が奜みでもあった。自分は「新しい時代の偎の人間」だず思っおいた。けれど、いざ䜳恵の口から「せいくんず和䜳奈を逊う」などずいう蚀葉が飛び出すのを聞くず、いおもたっおもいられないような、自分の怅子を蹎られお奪われるような、そのような怖さも感じたのだった。

はっず我に返ったずきは、和䜳奈はもう泣き止んでいお、じずっずした目で埁吟を芋ながら「すうぷ」ず蚀った。

「たた 今床は違う食べものにしようぜ。同じもんばっかだず、栄逊もかたよるっお、ママも蚀っおるだろう」

埁吟の蚀葉がぜんぶわかっおいるのかいないのか、和䜳奈は「すうぷ、すうぷ」ず繰り返しお蚎える。その目のふちにたたじわっず涙が浮きだしおきたのを芋お、埁吟は「たずい」ず盎感した。

しぶしぶキッチンぞ行くず、戞棚から小さな箱を取り出す。去幎新発売になった粉末トマトスヌプのスティック袋を玙箱から取り出し、ティファヌルでお湯を沞かし始めた。

この即垭トマトスヌプを、和䜳奈は偏愛しおいる。もずもず味の奜き嫌いは離乳食を䞎えはじめたずきから倚く、ほずんどの食べものは嫌がり吐き出しおきた。なのに、このトマトスヌプは別栌に気に入っおいるらしく、しょっちゅう飲みたがる。

䜳恵は『垂販の粉スヌプは倧人甚の味付けで、いろいろ濃すぎるから、だいぶ薄めお䞎えおね。そしおやけどしないように冷たしおからあげおね』ず、䜕床も埁吟に蚀いおいお仕事に行った。

お湯を十分に冷たし、スヌプ粉末の入ったプラスチックのマグカップに、ゆっくりず泚ぎ入れる。぀いでに、ごはんも入れおやるず、和䜳奈はスプヌンを䜿っお、ぐちゃぐちゃにかきたぜお食べ始めた。

「ああ、ああ、そんなに汁をはねずばしたらだめだろ」

タオル、タオルず蚀いながら台所に和䜳奈の口たわりず手をふくものを取りにいきながら、埁吟はいたいたしい、ず思った。和䜳奈に察し、そう思っおいるわけではない。埁吟の苛立ちは、和䜳奈の出産祝いずしお、埁吟ず䜳恵倫劻にこのトマトスヌプを莈った、高校時代の同玚生である薮田ずいう男に向けられおいた。

結婚しお䞉幎目の春、䜳恵が和䜳奈を出産しおたもなく、薮田から家に祝い熚斗でパッケヌゞされた小包が届いた。あいかわらずそ぀のないや぀、ず感じた埁吟をよそに、䜳恵は小包をさっそく明けお「わ 粉スヌプの詰め合わせ どれも囜産野菜を䜿っおるんだっお。矎味しそう」ず喜んだ。

垝王切開で和䜳奈を産んだ䜳恵は「お腹の傷の治りが遅いのよ」ず、キッチンに立っお倕食を䜜るのを億劫がった。なので、お湯を泚げばすぐに食べられるスヌプはずおもありがたいのだず笑顔になった。

「ぞえ、よかったね」ず口では蚀いはしたものの、友人の劻の䜓のこずたで気遣っおお祝いを遞ぶ薮田を、正盎ちょっずやりすぎじゃないかず埁吟は思った。芁するに「出産ずいう倧仕事を終えたばかりの䜳恵を、あたり䜿うな」ず蚀いたいのだろうけど、お前に蚀われるこずじゃないず反発心も生たれた。

去幎の倏に、その粉末スヌプシリヌズの新商品ずしお、トマトスヌプが発売された。

「あ、薮田くんがくれたスヌプの新商品出おる」

そう蚀っお、スヌパヌで真っ赀なトマトの絵柄の箱を手に取った䜳恵の嬉しそうな衚情は、埁吟の胞をちくりず刺した。そしお、二歳になったのを機に和䜳奈にも薄めお䞎えおみたずころ、あっずいう間に和䜳奈たでもをずりこにした。

なんだよ、粉スヌプなんお、しょせんたがいものじゃないか。本物のスヌプには、逆立ちしたっお勝おっこないのに。和䜳奈が幌い舌しか持っおいないのは圓然だが、䜳恵がそんな舌しか持っおないのはどうなんだ。

心のなかで、薮田があんなお祝いをくれなかったらよかったのにずいうどす黒い気持ちがふくらんでゆく。薮田が玔粋な気持ちで祝っおくれたこずは理解できるし、嬉しくもあるが、俺の劻であり俺の子に、䜙蚈な味を教えないでほしかったず、埁吟は根に持っおいるのだった。

䜳恵は、あたり料理が奜きじゃないし、埗意ずもいえない。だからこそ「楜しおいいよ」ずいう薮田の蚀葉にほっずできるのだろう。埁吟自身も、料理は苊手だし、包䞁を持぀のも火を䜿っお調理するのも苊手だ。そんな自分が、䜳恵に「料理を䞊手く䜜っおほしい」なんおずおも蚀えない。自分も料理が䞍埗手な以䞊、蚀えるわけがない。

それでも自分ず䞀緒に暮らしながら「薮田さんのような人ず結婚すればよかった」なんお劻が内心思っおいやしないか、䜳恵や和䜳奈が矎味しそうにこのスヌプを飲むのを芋るたびに埁吟はハラハラし通しなのだった。

䜳恵は「時短」ずいう蚀葉が奜きなようだった。時短で野菜いため、レンチンで煮物、などず「いかに手をかけずに䜜ったか」ずいう話を耒めおほしそうに埁吟に倕食の垭で話題にしおくる。䜳恵はずおも賢く、仕事ができる女性だ。だから、料理にも無駄をはぶき効率を求めるようだった。

うん、すごいね。ぞえ、そんなに早くできたんだ。そう盞づちをうちながら、埁吟は自分が育った家の食卓を懐かしく思い浮かべおいる。

『あのな、絶察に奥さんず自分の母芪を比范しおモノを蚀っちゃだめだぞ。すごく傷぀けるし、マザコンだっお思われたら幻滅されるぞ』

い぀か薮田からかけられた蚀葉がふいによみがえっお、劄想に冷や氎をひっかけられた。うるさいな、ず頭の䞭の薮田を぀っぱねる。俺の母芪は、たがいものなんお、出さなかった。喜んで食べもしなかった。埁吟はそうぶ぀ぶ぀ず蚀い蚳する。

自分が家庭を持っお、その家庭であたたかい手料理が出おくるこずを望むこずの、䜕がいけないのか埁吟にはわからない。薮田は蚀うだろう。じゃ、なんでお前が䜜らないの ず。倫婊ずも、家事をやるのはいたのスタンダヌドでしょ、ず。

和䜳奈がすぐ泣いお即垭トマトスヌプしか食べようずしないこず。䜳恵が「せいくんず和䜳奈を逊う」などず気負っお仕事に行き、職堎で重宝されおいるこず。䞀向に、自分がたた勀められるアパレル䌚瀟が芋぀からないこず。自分自身が、もう始たっおいる「新しい時代」に適応しそこねおいるように思えるこず。それもこれも、厄介な感染症が流行らなければ、こんな苛々を抱えるこずにはならなかったのかもしれない。

流行感染症は、埁吟自身のなかに巣食う理䞍尜を、䞀気に炙り出したようにも思われた。

和䜳奈がスヌプごはんを食べ終わり、たたさっきの動画の続きを芋せるよう、埁吟にねだりはじめた。毎日続く苛々ず、腹の底にたたっおいくヘドロのような重たさを、どうしたらいいんだろう。

でも、それをぶ぀ける先が和䜳奈ではないこずは、かろうじお理解できおいた。テヌブルに眮いおいたスマホが震えお、メッセヌゞを確認するず䜳恵からだった。『ちょっず立お蟌んで、垰宅時間が遅れたす』ず。残業か。たたか、などずももう思わず、逊っおもらっおいる身ずしおは粛々ず受け止めるだけだ。

目を぀むる。目を぀むりながら、ここから䞉駅離れた実家にいる、母の背䞭をたぶたに浮かべた。少し䞞たった背䞭ず、い぀も぀けおいる゚プロンの結び目ず。

蚘憶の䞭の母は、だいたいキッチンに立っおいる。受隓勉匷を終えお二階から台所に降りおいくず、トマトの酞味を垯びた銙りが、錻をくすぐる。こずこずず鍋のなかで煮えおいるのは、母お手補のトマトスヌプ――ミネストロヌネずいうのよ、ず母に教えおもらったこずがあるが、名前がい぀もうろおがえになっおしたうので、埁吟はただの「トマトスヌプ」ずしお認識しおいる。

食卓に぀くず、すぐにほかのこたごたした小鉢ず䞀緒に、深皿によそわれたトマトスヌプが出おくる。たっさきにスプヌンでスヌプをすくい、味わう。野菜のうたみが溶けだした熱く赀いスヌプは、喉から胃ぞず䞋りおいき、埁吟の心ごず満たしおくれる。

母はパヌトこそしおいたが、家事にいそしむ時間が長かった。家はい぀も敎えられお片付き、䜕品ものおかずが倕食のテヌブルには䞊んだ。なかでも、母の䜜る野菜スヌプ類は絶品だった。䜕時間も煮蟌んで野菜がくたくたになっおいるのだが、そのくずれおベヌコンのうたみず䞀䜓になった野菜がたた矎味しいのだ。

あのトマトスヌプのようなものが、埁吟が家庭に求めるいわば「味」だった。ああいうものをどこか求めお自分は結婚したのだず、いた振り返るず思う。そのこずを䜳恵に話したこずはない。でも、埁吟が実際に持぀こずになった䜳恵ずの家庭は、やはり理想ずはどこか違った。

その「どこか」を明解にする぀もりはなかった。考えれば考えるほど、぀き぀めれば぀き぀めるほど、自分が䞍幞になるのだず盎感しおいたからだ。埁吟だっお、䜳恵の理想、たた自分の理想ずは違う道を歩いおいるのだから、䜳恵䞀人を責めるなんおできない。

埁吟の父は、時代背景もあり、パヌトの母ず子䟛の自分を逊い、埁吟をきちんず倧孊たで進孊させおくれた。ずきには厳栌で融通の利かない父だったが、䞀家の倧黒柱ずしお働いお劻子を食わせるこずが、どんなに倧倉か、埁吟はいた痛感しおいる。

もちろん、いたはそういう時代じゃない。埁吟は急激に䞖界を芆い尜くした感染症によっお、仕事を倱い、劻に食べさせおもらい、和䜳奈を芋守りながら自宅でくすぶっおいる。

薮田なら。たた憎らしくも薮田の顔が浮かぶ。薮田なら埁吟ずは違っお、ちゃんず家庭の䞻倫ずしお適応し、喜々ずしお料理や掗濯や掃陀をし、子䟛を䞋手に泣かせたりせずにじょうずに子守もするのだろう。そう思うず、たた腹が立っおきた。

埁吟は薮田がうたく時代に即した考え方が自然にできおいるこずが、うらやたしくお仕方ないのだ。自分も薮田のようであれたら。そう思うたび、匷く「そういうもんでもないだろ」ず心の䞭で抵抗心が生たれるのを、埁吟は認めおいる。

「和䜳奈、パパずおそず行こうか。もう倕方だから、ママのごはんも買っおこないず」

埁吟は時蚈を芋るず、和䜳奈を連れお、スヌパヌに行くこずにした。そろそろ、今倜食べるお惣菜を買いにいかないずいけない。米はさすがに炊く。味噌汁はフリヌズドラむ。おかずは、惣菜䞀択。埁吟が甚意できるものずいったら、それくらいしかないのだから、やっぱり䜳恵の時短料理を責めるのはお門違いだ。

そう理解、理解はしおいるはずなのに、感情が远い付いおこない。蚘憶が぀い、育った家の倕食のテヌブルを懐かしく思い出しおしたう。どうしようもないこずが、結婚生掻には倚すぎる。

和䜳奈は今日は比范的おずなしく埌郚座垭のチャむルドシヌトに乗っおくれたのでほっずした。子䟛をシヌトに固定しおいるずきは、䞀瞬息を抜ける時間だったりする。

車を発進させ、すこしず぀日の長くなっおきた倕方の道を走らせたが、すぐ車の列に前埌ろずも閉じ蟌められた。垰宅ラッシュだ。みんな、埁吟ずは違っお、働いおいるず思うず、ずんず䞀気に気が重くなった。

仕事を探さなくおは。そう思うのに、心がただ぀いおこない。仕事をしないのなら、せめお完璧に家事をしなくおは。そうも理解しおいるのに、どうしおもうたくやれない。い぀から、自分はこんな人間に成り䞋がったのだろう。垰宅ラッシュの車に囲たれながら、䜳恵は今倜䜕時たで仕事をするのだろう、ずがんやり考える。

和䜳奈の手をひきながら、スヌパヌを芋お回る。タむムセヌルが始たる時間ず重なり、お惣菜や刺身に倀匕きシヌルが貌られ始めた。揚げ物を二皮類、それからサラダずひじき煮をカゎに入れるず「垰るよ」ず和䜳奈の手をひっぱった。

和䜳奈は「すうぷは」ず聞く。粉トマトスヌプを買っお、ず蚀いたいのだ。

「ただ家に買い眮きあるでしょ」

だめだめ、ず蚀ったが通じおいるのかわからない。和䜳奈はふいに匷い力で぀ないでいた手をふりはらうず、だっず駆け出した。

「あっ、こら 和䜳奈 走るず転ぶぞ」

あわおお埌を远う。和䜳奈はスヌプ売り堎の手前で立ち止たろうずした拍子に、぀たづいお転んだ。あ、あ、泣くぞ、ず芚悟した。今の「泣く兆し」はわかりやすい。

ふえっず和䜳奈が泣き出しかけたそのずき、スヌパヌ店員の゚プロンを぀けた若い女性が、和䜳奈を助け起こすのが目に入り、あわおお圌女にかけよった。和䜳奈は涙をひっこめお、びっくりしおいる。

「すみたせん、ありがずうございたす」

埁吟が頭を䞋げるず、和䜳奈が「すうぷ、そこにある」ず空気を読たずに叫んだので、たた頭が痛くなった。「だから、たたこんど」「すうぷ」そんな䞍毛なやりずりを和䜳奈ずしおいるず、和䜳奈を助け起こした店員がくすっず笑った。

「あ、このトマトスヌプですか 矎味しいや぀ですよね」
「はあ。たあ。――嚘が気に入っおいお」

埁吟がもごもごずきたり悪くごたかすず、店員は眉を䞋げお笑った。

「去幎の冬、このトマトスヌプをプッシュしお売ろうず思っおたんです。そのために売り堎も甚意しようずしたんだけど、いろいろあっおその䌁画が流れおしたっお。でもこうやっお、気に入っお買っおくれる方がいるならよかったです」

埁吟は「そうなんですか」ずしか答えられず、埌に続ける蚀葉に迷っおいるず、店員は「ごめんなさい。話し過ぎちゃった。パパにたたスヌプ、買っおもらっおね」

ず蚀っお、別の棚を陳列しに行っおしたった。みんな、この即垭トマトスヌプが奜きなんだな、ず埁吟は改めお気づかされた。簡単なのに、矎味しいから よくわからない。矎味しいずいうなら、母の぀くるお手補トマトスヌプのほうが、どんなに味わい深いか。

店員の手前もあり、和䜳奈がねだり぀づけたのもあり、埁吟は結局その粉トマトスヌプの箱をお惣菜ずずもにひず぀買っお垰った。

䜳恵が垰宅したのは、倜八時を回っおのこずだった。和䜳奈はかろうじおただ起きおいるが、舟をこぎはじめる時間垯だ。

「ごめん、せいくん、和䜳奈、ただいた。――ああ、今日も疲れた。こんなに忙しいこず、出産前にはなかったのに。それもこれも、病院が混みすぎおるからなのかも」

埁吟は詳しくはわからないが、䜳恵の勀める医療機噚の䌚瀟は、いた病院からの商品泚文がずおも倚くなっおいるらしい。需芁が止たらないので、発泚する偎も䌑む暇がないらしかった。

テヌブルに䞊べられたお惣菜を芋お、䜳恵は「今日も、矎味しそう。買っおきおくれおありがずう」ず目を现める。その蚀葉には玔粋な感謝しか含たれおいないずわかっおいるのに、どこか居心地悪くも感じる。

䜳恵の目の䞋に、隈ができおいる。肌も荒れおいる。なのにその䞀方で、顔぀きには生気がみなぎっおいた。倖仕事で働く人間の充実感を、䜳恵はふりたいおいお、それを目の圓たりにするのは、埁吟にずっおはだいぶ耇雑だった。

䜳恵は埁吟の買っおきた惣菜を、きちんず食べ終えるず手を合わせお「ごちそうさた」ず蚀った。和䜳奈がただ生たれおいない頃、䜳恵はよく䌚瀟の愚痎をこがすこずが倚かった。でも、いた䜳恵は埁吟に察し、今日の仕事での嫌なこずの話をするこずはない。

おそらく「働いおいない埁吟に察しお、自分が仕事の愚痎を蚀うのは悪い」ず䜳恵は刀断しおいるのだろう、ず埁吟はがんやりず考えた。「気を遣うこずはない、愚痎ならどんどん蚀えばいい」ず䜳恵に蚀っおあげられるような噚を、あいにくいたの埁吟は持ち合わせおいなかった。小さい男だず誰かに蚀われおしたったずしおも、そうなのだった。

眠くおぐずりはじめた和䜳奈を寝かし぀けるために、䞀緒に垃団に転がっお、䜕気なくスマホを芋る。メッセヌゞが䞀件。はっずしお確認するず、薮田からだった。

『明日、久しぶりに䌚わないか 倖で昌飯を食いながら、話したいこずがある』

簡朔なメッセヌゞに、埁吟は銖をひねる。薮田、なんの぀もりだ。明日も䜳恵は仕事だが、和䜳奈を連れお行く気にはなれなかった。こういうずきくらい、実家に頌るのもいいんじゃないか。母だっお父だっお、孫ず過ごす時間はほしいだろう。

和䜳奈が眠っおしたったあずでも、埁吟は薮田からメッセヌゞが来たこずを、䜳恵には䌝えなかった。「えっ、薮田くんがどうしたの」ず䜳恵が顔を茝かせやしないか、心配だったのだ。
 

翌日、埁吟は実家で母に和䜳奈を預けおしたうず、電車で薮田ずの埅ち合わせ堎所に向かった。垞に自分の近くで目配りをせねばならない幌子から解攟されるのは、こんなにも身軜な気分になるものだったのか、ず埁吟は改めお実感した。

そのたたはしゃいで海にでも行っおしたいたい気分になるのを抑えお、埁吟は埅ち合わせ堎所のカフェ垭に腰を䞋ろした。少し早めに぀いおしたった、ず思っおいるなり、薮田が姿を芋せた。

「よお、小束」
「薮田、なんだよ急に」

小束、薮田、ず互いの苗字を呌び合ったずたん、高校時代を圌ず䞀緒にしじゅう過ごした気安さがふっずよみがえり、埁吟の心になんずも蚀い難い感情が生たれた。薮田のこずを信頌しおいなかったら、こんなに長く友ずしお続いおいないだろう。それはじゅうじゅうわかっおいる぀もりだが、それでも、どこか自分は、珟圚、倧人になった薮田ずどう関わったらいいのか、考えあぐねおいる。

「和䜳奈ちゃんも連れおくるかず思ったよ」

薮田はカフェのメニュヌ衚を眺めながら口の端に笑みを浮かべた。

「連れおきおもお前は気にしないず思ったけど、倧事な話なのかず思ったから、和䜳奈は俺の実家に預けおきた」
「そっか。そりゃあいい」

埁吟も薮田も、ビヌフカレヌを頌んだ。トッピングを茉せたいずも思ったが、いた皌げおいない身分でそんなこずをしおいいのか迷いが出たので、埁吟はそれを諊めた。

「で、話っおなんだよ」

りェむタヌに泚文を枈たせたあず、埁吟は切り出した。郜合のいい話だろうが、悪い話だろうが、本題は最初から知っおおいたほうがいい。薮田は、姿勢を正すずお冷やを䞀口飲んでから口を開いた。

「小束は、仕事決たったのか ――もしただなら、話したい案件がある」

埁吟は、倧きく息を吞った。心のなかで「このお節介め」ず薮田ぞの眵り蚀葉が浮かんだ。どうせ、そういうこずだろうず予枬しおいた。

「ただ決たっおないが」

ぶすっずしおそう告げるず、藪田は身を乗り出した。

「小束が、ずっず働いおきたアパレル業界に未緎があるのは知っおいる。だけど、今、俺の䌚瀟で営業瀟員の人手が足りない。別業皮であるこずはわかっおるが、俺も、俺の䞊叞も、信頌できるメンバヌが欲しいず思っおる。――小束は、そういう人材に倀する」

埁吟は思わず薮田の真剣なたなざしから自身の顔ごずをそらした。どこたでも、俺のプラむドを傷぀ける奎だ、ず藪田に蚀いたくお蚀えない。

薮田が勀めおいるのは、䞻に鉄鋌補品を扱う䞊堎䌁業だ。自分さえ、ここでこの話に乗れば、おそらく経枈的にはふたたびの安定、いや以前よりももっず良い条件での安泰が望めるだろう。

しかし、埁吟はどんどん胞の内が苊しくなるのを感じた。薮田、お前はいいよな。俺に恩を売れお、䞊叞にも評䟡されお、あげくには俺の劻や嚘の奜感床たで䞊げたくっお。ためこんだ理䞍尜を党郚ぐいっず飲み蟌んでしたえば、おそらく薮田に頭を䞋げるこずはできるだろう。このたた家でぜ぀んず孀独に、和䜳奈の面倒を芋続ける日々からも、開攟されるかもしれない。

埁吟は、どうする ず自分に問いかけた。どうする、どうする――、こちらを真面目な衚情で芋぀め続ける薮田の芖線から、い぀しか目がそらせなくなっおいた。そしお腹の底からふず浮かび䞊がっおきたのは、ずっずくすぶり぀づけおきた、薮田ぞの玔粋な問いかけだった。

「薮田。突然聞いお、悪いけど――お前はどうしお、䜳恵の出産祝いずしおあのスヌプを送ったんだ」
「は」

自分の芁請からずれた答えが返っおきお、ふいを突かれたのか、薮田が目を䞞くした。埁吟の腹の内で、ぐるぐる䜕か悪いものが回り始めた。そもそも、あのスヌプに、俺はい぀も糟匟されおいる気がする。俺は、よろしくない倫だず。劻の出産ずいう䞀倧事があっおも、たいしお圌女を気遣えず、感染症のせいずはいえ仕事をなくし、嚘の䞖話すらろくにできないでいる。薮田が莈ったスヌプで喜ぶ䜳恵や和䜳奈を芋るたびに、自分が『良い倫倱栌』の烙印を抌されたように感じる――。

ぐるぐる被害劄想は倧きくなっおいき、気づいたら目が据わっおいたのか、薮田に「おい、倧䞈倫か。気をたしかにしろ」ず肩をゆすぶられおいた。埁吟はここがカフェ内であるこずすら忘れお、思わず嫌味ったらしく告げおいた。

「いいよなぁ、お前は『誰もが認める良い倫』だし、劻に食わせおもらっおる身分でもなくお 仕事の斡旋だっお どこたで俺をバカにすれば、気が枈むんだよっ。俺はどうせ、䜳恵に気の利いたものひず぀、やれないんだからな」

思わず響き枡った埁吟の声に、カフェ内のざわ぀きが、䞀瞬静たるのがわかった。薮田が圢のよい眉を寄せ、こっちをじいっず柄んだ目で芋続けおいる。その瞳が、ふいに暗さを垯びお、埁吟は「なんだよ」ず身構えた。

「俺は良い倫なんかじゃなかった」

薮田は、絞り出すかのようにしおその蚀葉を玡いだ。埁吟が「はっ」ず錻を鳎らすず、圌はう぀むいた。薮田の小さな声が、埁吟の耳たで届いた。

「劻は――圩也子は今俺ず䞀緒にいない。ちょうど和䜳奈ちゃんの生たれる前ぐらいに脳出血を起こしお、圌女の実家でいたもリハビリず療逊しおる」
「脳出血」

埁吟は耳を疑った。和䜳奈が生たれる前ずいえば、それは二幎も前のこずだろう。初耳だった。どうしお自分は聞いおいなかったのか。

「なんで、蚀っおくれなかったんだ」

おそるおそるそう蚀うず、薮田は笑った。少しその笑顔は厩れ、自嘲しおいるようにも芋えた。

「小束はそのころ、あたりに幞せそうだったから。昇進したず聞いおいたし、和䜳奈ちゃんたで産たれお。俺は結局、圩也子ずの間に子䟛は持おなかったから、ねたたしすぎお蚀えなかった。お前から圩也子のこずを聞かれおも、元気だず嘘を぀き続けおいた」

「そんな」

「でも、䌝えたかった。奥さん、倧事にしろよっお。圩也子はあたりに忙しすぎた。仕事が倧奜きだったこずもあるけど、圓時働き過ぎおいた」

「だから、䜳恵には『䜓を劎わるように』っおあのスヌプくれたのか」

「たあ、そうだな。俺さえもう少し、元気なころの圩也子を気遣っおあげられおいたら、あんなこずにはならなかったかもしれないから。よっお、俺は良い倫なんかじゃない。だから、安心しろ」

埁吟はぐっず黙った。黙らざるを埗なかったが、しばらくしお薮田に向き盎った。

「そのお前の䌚瀟に転職する話、もうちょっず考えおもいいか。――さっきは、䜕も知らなかったずはいえ、蚀い過ぎた。すたん」

そのあずはあたりお互いに話さず、埁吟は無蚀でカレヌを食べた。薮田も、喉が枇くのかしきりに氎ばかり飲んでいた。

薮田ず別れるず、埁吟はがんやりしながら実家行きの電車内で぀り革に぀かたった。自分がこの二幎芋お、知っおいるず思っおいた「薮田」ずは誰のこずだったのだろう。高校時代の同玚生ずいえど、本人が語ろうずしないこずは䜕ひず぀わからないものだ。

電車を降り、慣れ芪しんだ路地を歩いお実家の庭先ぞ到着するず、母が庭先で和䜳奈を遊ばせおいた。なにか違和感があるな、ず思いたじたじず母を芋盎したが、どこが普段ず違うのかはわからない。

「パパぁ、おかえりヌ」

自分を芋お満面の笑顔になった和䜳奈を抱き䞊げるず、母は埁吟をたぶしそうに眺めた。

「薮田くん、元気だった」
「うん、元気だった」

どう返そうか迷う間もなく、そう答える。たずえ薮田が元気じゃなかったずしおも、人は芪しい人に過剰に心配させないように嘘を぀いおしたうず気づいた。薮田は、この二幎間元気じゃないずきも倚かったのだろう。そう思うず、気づけなかった自分が恥ずかしかった。

「もう垰るよ、和䜳奈」
「じゃあ、じいちゃんにバむバむする」

和䜳奈がそう蚀ったので、父も実家にいたのだずわかった。母に和䜳奈を預けたたた、急いで薮田ずの埅ち合わせに出向いたので、父の圚宅を気にしおいなかった。

「あのね、埁吟。トマトスヌプあるから、持っお行っお」

母がそう蚀ったので、埁吟の心に嬉しさが広がった。母のトマトスヌプを食べられる。䜳恵だっお矎味しい䞀品があれば垰宅しお喜ぶだろう。

玄関を䞊がっおダむニングに入るず、トマトの酞味が銙っお、埁吟は息を吞い蟌んだ。

「ありがずう、母さんがい぀もの䜜っおくれたんだよね」

そう口に出しおみお初めお、埁吟は違和感の正䜓に気が付いた。母が、い぀も身に着けおいた゚プロンを着おいない。

キッチンを芋るず、倧柄な父の陰があり、仰倩した。母の゚プロンを、父が぀けおいる。

「たさか、このスヌプ」

「そうよ、甚意したのは、母さんじゃないの。父さんが䜜っおくれたの」

埁吟の足もずが、ふたたびぐらりず揺らぐように感じた。今日は、二床目だった。

「父さん、料理なんかいたたでしなかっただろ」

父はこちらを芋おにやりず笑った。

「俺だっお母さんだっお、どっちが先に死ぬかわからんだろ。母さんが先に死んでも、お前らに迷惑だけはかけられないず思っおるからな」

「父さん、トマトスヌプは完党にマスタヌしちゃったのよ」

母が埮笑みながら「ねヌ」ず父に寄り添った。

「じいちゃんのスヌプ、食べたぁい」

和䜳奈の無邪気な声が、ただ埁吟の耳に痛かった。
 
父お手補のトマトスヌプを枩めお和䜳奈に食べさせ終えるず、二人で䜳恵を埅った。今倜はずりわけ、䜳恵の垰りを埅ち遠しく感じお、いろいろなこずを話せたらず思った。薮田のこず、父のこず――埁吟は久しぶりに、䜳恵に話したいこずがたくさんあるず感じた。

コツ、コツ、ず䜳恵の足音がマンションの階段を響かせるこずに気づいお、埁吟は顔を䞊げた。和䜳奈も「ママ垰っおきた」ず埁吟の腕のなかで聞いおきた。

だが、鍵を開けお入っお来るかず思いきや、突然埁吟のスマホが鳎った。盞手は䜳恵だ。疑問に思いながら出るず、䜳恵の声がした。

「ごめん。家の前たで垰っおきたけど、せいくん、マスクしお。和䜳奈にもさせお」

その切迫した声に、異倉を感じた埁吟はすかさず「どうした」ず聞いた。

「どうも、今日の倕方から熱が出おきおお。生理前のい぀もの埮熱だず思っおたんだけど、寒気ず頭痛もし始めたの。このご時䞖だし、䟋の感染症の可胜性も高い。だから、なるべくせいくんは和䜳奈ず䞀緒に、私からなるべく今倜は離れお過ごしお」

「熱、䜕床あるんだよ。ずにかく、家の䞭に入れよ」
「たず、マスクしお」

どこたでも冷静さを欠かさない䜳恵に、らしいな、ず思いながらも埁吟はマスクを぀け、䜳恵のために手指の消毒ゞェルを玄関に出した。「ママ垰っおきた」ず䜳恵に飛び぀きたがる和䜳奈を抱え䞊げ、近づかせないようにした。

顔色が悪く青ざめた䜳恵に、䜓枩蚈を持っおきおやり、枬らせるず℃を蚘録した。たずいな、ず埁吟も芚悟せざるを埗ない。

䜳恵は、電車で垰っおくるがおら、これから熱が䞋がらなかったら行わなければいけない各方面ぞの連絡のこずを、スマホでずっず調べおいたず埁吟に蚀った。

発熱が続いたら、圓然明日以降しばらく䌚瀟を䌑たねばならないだろう。䜳恵の絊䞎は、その間どうなるのだろうか。調べなければ、ただわからないこずが倚すぎた。

甘え切っおいたんだな、ず撃たれたように思った。䜳恵に、薮田に、母や父に――。いざ、䜳恵が倒れるたで、自分は䜕䞀぀気づけおいなかったのだ。薮田も、圩也子さんが倒れるたで、そうだったのだろうか。

埁吟は狭いマンションの物眮にしおいた郚屋をざっず片づけ、䜳恵の寝床を぀くるず圌女を垃団に朜り蟌たせた。ずにかく、䌑たせるこずが倧事だ。

最初は䜳恵ず離れるのを嫌がっおいた和䜳奈も「ママ、病気だから」ず䜕床も蚀うずわかっおくれたのか、自分の垃団で䞊手に寝おしたった。和䜳奈が寝぀いたのを確認するず、埁吟は䜳恵に声をかけた。

「あのな、今日和䜳奈を俺の実家に連れおったんだけど、䞡芪が手䜜りのトマトスヌプ持たせおくれたんだ。びっくりしちゃうんだけど、父さんが䜜ったんだっおさ。意倖ず矎味いし、䜓にもいいから、よそっおあげるよ。食べたら」

䜳恵は垃団を錻先たでかぶり、目だけで埁吟のほうを芋るず、子䟛みたいな衚情でこくんずうなずいた。

今倜は、ずりあえずこのスヌプでしのげるからよかった。問題は明日からだ。スヌパヌだっお、ネットスヌパヌを利甚すべきかもしれないし、貯金の残高もオンラむンバンキングでいたいちど確認せねば。埁吟は自分の気持ちが、どこか高揚しおいるのを感じた。身に迫る危機、ずいうものを実感しおいるのかもしれなかった。

父のトマトスヌプを枩め、䜳恵の垃団のそばたで持っおいくず、䜳恵は億劫そうに身を起こした。

ひずさじ、ふたさじ、䜳恵はすくっお口に入れたが、しばらくするず「もういい。食欲なくお」ず埁吟に深皿を返した。そしお、ひどく申し蚳なさそうに蚀った。

「あの、実はい぀もの粉のトマトスヌプが食べたくお。そっちに、ごはんを混ぜお持っおきおもらっおいい せっかくのお父さんのスヌプを前に悪いんだけど」

埁吟は驚いた。父のスヌプは母の䜜ったものず遜色ない出来栄えだったから。ただ、䜳恵にずっおは、いた食べたいのは薮田をきっかけに知った粉スヌプなのだろうず感じた。

キッチンに戻り、粉スヌプをマグカップに入れお熱湯を泚ぐず、慣れ芪しんだ銙りが広がった。䜳恵にずっお、今欲しおいるのはたぎれもなくこっちなのだ、ず理解する。もう、薮田に察しおの嫉劬は感じなかった。

ごはんを入れおスプヌンで混ぜ、病床の䜳恵に持っおいくず、䜳恵は匱々しいながらも笑顔を芋せた。無理しなくおもいいのに。そう思っおいるず、スヌプごはんのマグカップを受け取っお、䜳恵が語り始めた。

「あのね、ずっず話しおこなかったんだけど、私の実家、せいくんのご実家みたいにちゃんずしおなくお。せいくんの料理䞊手のお母さたみたいに、手料理を出すこずなんお、ふだんからぜんぜんなくお」

埁吟は無蚀で頷き、䜳恵に目配せした。続きを話しお、ずでも蚀うように。

「うちのごはんは、い぀もカップラヌメンずか、菓子パンずか、そんなものがあればいいほうで、甚意されおないずきすらしょっちゅうあっお。だから、私はそういうあたたかいお料理、知らないし食べおきおもない。だからきっず、せいくんのお母さたが線み出しお、お父さたが今日぀くっおくださった、トマトスヌプの䟡倀もよくわからない」

埁吟は䜳恵の目を芋ながら、聞いおいるよ、ず頷き続ける。

「私には、粉スヌプのほうが、自分には慣れ芪しんだ味で、ほっずできお。そんな私が、優しくお健康的なおうちで育っおきたせいくんず䞀緒になっお、倧䞈倫なのかなっお思っおた。ずっず、心配だった。私にできるこずは、自分の母ず同じく働き続けるこずだけで、でも、今日熱が出おそれもできなくなるかもっお思った、ら」

「もういい。――いたはいいよ」

埁吟は䜳恵の話を遮った。自分の思いを、今䌝えなくおい぀䌝えるのだ。

「熱が高いんだ。䌑みなよ。俺のほうが、ダメなずころは倚かった。でも、それから目をそらしお、ちゃんず芋据えようずしおこなかったんだ。二人で――二人で、なんずかしおいこう。俺が人生で組む盞手は、䜳恵䞀人だけなんだから」

「うん」

䜳恵は埁吟の芋守るなか、スヌプごはんを最埌たで平らげるず「明日熱が䞋がるずいいな」ず蚀っお電気を消した。消す前に圌女の手は䞀瞬埁吟の指先に觊れお、埁吟はそれに応えお䜳恵の现い指を握り返した。

和䜳奈も、䜳恵も眠っおしたった倜曎け、埁吟は䞀人寝付けずに、暗い郚屋の䞭パ゜コン画面を開いおいた。怜玢しおいるのは、薮田の䌚瀟のホヌムペヌゞだった。

サむトをスクロヌルしお、目に映るスタむリッシュにデザむンされた鉄鋌䌚瀟の情報を眺めながら、薮田ず圩也子さんに䜕かを莈ろうず決めた。

薮田は自身を『良い倫なんかじゃない』ず蚀っおいたが、薮田の心がいたも圩也子さんず䞀緒にあるこずは、今日の衚情を芋れば明らかだった。埁吟の気持ちが、぀かず離れずしながらも、いたやっず䜳恵のずころに蟿り぀いたように。

明日から、たた芋たこずのない日々が始たるのだろう。埁吟はそう思うず、家族䞉人が食べた皿を掗うために立ちあがった。

いいなず思ったら応揎しよう

䞊田聡子 い぀も枩かい応揎をありがずうございたす。蚘事がお気に召したらサポヌトいただけたすず倧倉嬉しいです。いただいたサポ―トで資料本やほしかった本を買わせおいただきたす。