
職場に新人さんがやって来た
『借りてきた猫で武装する、 ももまろ』
自分で意外だと思うし、自分で言うのは抵抗があるんだけど。
わたしって、繊細さんだ。
あっ、言っちゃった。図々しい……。ごめん。
HSPや発達障害じゃない。
だけど感覚過敏な性質で、心が固まることが割とある。再起動できる端末が羨ましいと思うほど、わたしの気持ちにはスイッチがなくて。
初対面の人は、最初からタメ口。
仕事を教えているとき、
「ああ、はいはい」と返ってきて、心が止まる。
心を観察すると、わたしは怯えていた。
「ああ、はいはいって言われちゃった!
怖いよぅ」心にある核がポロポロ涙を流して、
「何か、間違ったことを言っちゃったかな」
顔はなるだけ満面の笑みを浮かべる。意識して口角を最大限に上げ、
「分からないことがあったら、すぐにおっしゃってくださいね」
本当は
「もう、わたしに訊かないで!傷ついちゃう」
心にもないリップサービスする、情けなさ。
一人で作業をする最中、
「わたし、何か間違ってたかな」
さっきの場面を何度も何度も振り返り、振り返るほど、心に生えた尻尾が下向きになる。
「あっ、手元の用具が少ない」
周りを見て、在庫が少なくなっている。
そそくさと倉庫へ行き、箱いっぱい用具を詰めて、周りに配る。
「そこ、置いといて」
初対面の人に、「そこ、置いておいて」と言われて、また萎縮する。
こういうとき、なぜか理想とする自分像が浮かんできて、理想を体現してみた。
「はい」
何を言われても口数少ない、ニコニコしている自分。美しい言葉遣いと仕草。
こんなときに発揮しなくても、相手を正せばいいのに、物分かりがよい顔をしている。
自分じゃない自分はおとなしく、優等生だ。
借りてきた猫で武装して、相手を敵に回さないよう、ひっそりしている。
いつもこうならいいのに。
「ありがとう」を期待していたのかもしれない。心音が汚いわたしは、既に小屋に閉じこもり、軽く返事をして離れた。
「ふぁ〜」と、あくびする音が聞こえて、わたしの肩がビクッと動いた。
定時に近づく頃、今日一日のデータを出す。
わたしの隣から延々と自慢話が聞こえる。
「そうなんですか」「凄いですね」
わたしは一体、何を言わされているのだろう。
……目が笑わない自分に気づいて、ありったけの気力で目を細めた。
わたし、やっぱり無理なんだ。
距離感が近い人。
距離感近い人はフレンドリーだから、すぐに職場に馴染んでしまうんだよね。
表面では、波風立てないようにしているわたしは、ただの空気。
そして、苦手なタイプといるときが最も理想的な自分を演じている。
好きな人の前では言葉遣いが悪いし、塩対応だったり、性格が悪い自分で居られて自己嫌悪に陥るのに。
どうして?
この先、職場の新人さんと上手くやっていけるのだろうか。
上手くやらなくていい。
黙々と仕事をし、職場の調和を重んじて動きさえすれば。これで失敗したことがない。
それにしても、わたし、弱すぎる。
借りてきた猫たちに守られて、今日も出勤する。