
分断を生む、ホワイトハラスメント
ホワイトハラスメントですよ、時代は進化しましたね。
昨日も私は店長じゃないのに、始終ワンオペ。
前日、残された指示書には
「これらって、管理職の仕事じゃん」
安い時給で、業務を押し付けられたことへ憤りと諦念で疲れがドッと出た。
中年の私には今さら成長なんて求めていない。
昨日も今日も明日もルーティンワークで充分だ。ブラック企業の実態だよ。
ホワイトハラスメントとは、それと逆行し、
新人は未熟だと仕事を任せないなどの、成長を止めてしまうハラスメントなのだという。
言い換えれば『過保護ハラスメント』かもね。
なるほど。
こっちは任されすぎて潰れそうなんだけどな。
それは新入社員が早々に退職してしまい、企業に定着しない恐れから、上司や先輩が新人へ過剰な配慮をしてしまうからなんだとか。
残業をさせないのも、ホワイトハラスメント。
もっと仕事がしたいと望む新人にやらせないのも、ホワイトハラスメント。
氷河期世代のオジサンとオバサンはね、若い頃
「早く帰りたい……」と熱望し、
「これ以上、やりたくない」と鬱々になったもんだ。
そのモチベーションが眩しいよ。
ところで、ホワイトハラスメントって、誰のための言葉なんだろう。
ヤル気に満ちた新人のため?
失敗を恐れた上司のため?
なんか、それっぽく言ってみたのかもしれない。
任せないのが問題と言われても、任せすぎて壊れる側の話はどこに行くんだろう。
ブラック企業が「ウッシッシ」と、ほくそ笑んでいるのを知ってるか。
私が昔、現場で見てきたのは、ホワイトハラスメントは新人へではなく、定年間際の先輩達への扱いが、まさに、そうだった。
その頃は大手企業に勤務しており、第一次ベビーブームに誕生した先輩達は、窓際族で第一線から追いやられていた。
廊下をふらふらと歩いて、各部署へ顔を覗かせる先輩。食堂で一日中、テレビや新聞を見ていた先輩。机にうつ伏せになって寝ていた先輩もいた。
誰も怒る人はいない。
おとなしく、定年までのあと数年をやり過ごしてくれという会社からの方針。
ちょうどリーマンショックの頃で、会社全体が人員整理に動いていた時期でもあった。
女性の先輩達は、管理職以外は早期退職制度で、条件のいい時に会社を去っていった。
一方で男性の先輩達は残る選択をし、結果的に、退職金がマイナス二百万円から五百万円ほどになるケースもあったと聞く。
若年層の私達は終電に乗れなかった日もあるのに、定時になると帰っていく先輩達へ恨めしい気持ちと、若いのに任されて活躍する層を眺める先輩達との静かな分断を、肌で感じていた。
「先輩達が定年したら、この状況はなくなる」と思っていた矢先、会社は再雇用制度を実施した。
先輩達が定年したら、この状況は終わると思っていた。でも再雇用で、それは『自分達のやがて行く道』になった。
やることがない先輩達は、朝、出勤すると、上長の机の前に並んでいた。
仕事の“配給”をもらうためだ。
名前が書かれた紙に、やることが一つでもあれば『当たり』
白紙の日もあった。
仕事がない先輩達は、下の世代に「何かやることはないか」と言いに来る。
でも、こちらには仕事を振る権限がない。
本当は、いくらでもあった。
データ入力でも、ファイリングでも、洗い物でも。誰かにやってもらえたら助かる仕事は山ほどある。
でも、それを頼むことはできなかった。
仕事がない人と、仕事が溢れている人。
同じ職場にいながら、そこには明確な線が引かれていた。
分断はさらに溝を深めた。
次第に先輩達は勝手に人の部署へ居座り、コーヒーを飲んだり、雑談を求めるようになり、現役世代の邪魔を始めた。
今思えば、見せしめだったのかもしれない。
『残るとこうなる』と、ひっそりと示されているようにも見えた。
あれもまた、ホワイトハラスメントだったのかもしれない。