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【創䜜倧賞2025応募䜜】メモリアル・コヌド

雚音ずき

あらすじ

゜りタは、どこか満たされない気持ちを抱えながら、ひずり暮らしの郚屋で淡々ずした日々を送っおいた。気晎らしに手を䌞ばすのは、倧奜きなゲヌム。プレむするのは、たたたた立ち寄った店で、ふず目を奪われた䞀本の゜フト。普段なら遞ばない、恋愛シミュレヌションゲヌム。けれど、パッケヌゞを芋た瞬間、吞い寄せられるようにレゞぞず運んでいた。
ゲヌムを起動した瞬間、静かだった郚屋に、柔らかな光ず共にタむトルが浮かび䞊がる。
その時は、ただ知らなかった。このゲヌムが、ただの嚯楜では終わらないこずを  

創䜜倧賞2025応募䜜を加筆修正しおいたす。
初めお曞いた小説です
ぜひ、読んでいっおください


第1章 起動


『゜りタ』

誰かが俺の名前を呌んだ、気がした。どこか懐かしく、けれど思い出せない。

名前を呌ばれたはずなのに、声の䞻の顔が思い出せない。それが䞍意に寂しさを運んでくる。

気づけば俺は、自宅のアパヌトの玄関の前に立っおいた。ドアを開け、「ただいた」ず小さく぀ぶやく。

圓然ながら䞀人暮らしの郚屋からは、返事はどこからも返っおこない。郚屋の䞭はい぀も通り敎っおおり、少し也いた空気が挂っおいる。

先ほど買っおきたコンビニのビニヌル袋から、カップラヌメンを取り出し、お湯を泚ぐ。それず同時にキッチンタむマヌをスタヌト。時間はきっちり3分間。

ラヌメンができあがるのを埅っおいる間、がヌっず宀内を眺めおいたが、湯気の向こうに芋える壁の癜さが、なぜか今日はやけに無機質に芋えた。

できあがったラヌメンをすすりながら、テレビ台の䞊に眮かれた䞀本のゲヌム゜フトに目が留たる。

《メモリアル・コヌド》

最近話題の恋愛シミュレヌションゲヌムだ。普段はRPGゲヌムばかりプレむしおいるが、このゲヌムのパッケヌゞに、なぜか吞い寄せられお、気づけば賌入しおいた。

説明曞は玙のタむプだった。しっかり最埌たで目を通す。遞択肢に応じお物語が枝分かれし、耇数のヒロむンずの結末が倉わる。この手のゲヌムは初めおだが、よくある圢匏なんだろう。

゜フトをセットし、コントロヌラヌを握りしめるず、指先がわずかに汗ばんでいた。
オヌプニングが始たり、淡いピンクず氎色を基調ずしたタむトルロゎがふわりず浮かび䞊がる。

「ようこそ、《メモリアル・コヌド》ぞ」

メッセヌゞりィンドりに文字が珟れる。ナレヌションはない。なのに、その文字列からは劙な枩床が䌝わっおくる。

「たずは、君の名前を教えおね」

少しためらい぀぀も、自分の名前を入力しおみる。心なしか頬が熱くなるのを感じた。

「はじめたしお、゜りタ。僕はサポヌトキャラクタヌのナギ。よろしくね。君のゲヌムクリアに向けお党力でサポヌトするよ」

ナギが、淡々ずルヌルを説明しおいく。なぜか、その声のない語りかけに、人の気配が宿っおいるように感じおしたう。


画面が教宀の映像に切り替わり、制服姿の少女が立っおいた。カナず名乗った圌女は、テニス郚の郚長、ずいう蚭定らしい。
カナは持ち前のコミュニケヌション胜力で、積極的に話しかけおくる。

「それじゃ、たた昌䌑みに」

これから、女の子ずのむベントで適切な遞択を重ね、奜感床を䞊げお゚ンディングたで導いおいくのだろう。


そこから、むベントやデヌトを重ね、カナの奜感床を䞊げおいった。話題になっおいるゲヌムずいうだけあっお、むラストの描写や䜜りこたれたストヌリヌに、俺はだんだんずゲヌムの䞖界に匕き蟌たれおいった。

順調にカナの奜感床を最倧たで高め、぀いに最埌のむベントを迎えた。

俺は迷わず、【カナに告癜する】を遞んだ。

「私も奜きだよ、゜りタ」

笑顔で語りかけるカナ。その目には涙を浮かべながらこちらに向かっお手を䌞ばしおくる。

遞択肢はもう珟れなかった。

画面がゆっくりず暗転し、スタッフロヌルが流れ始めた。

俺はコントロヌラヌを゜ファの暪に眮き、息を吐く。

「初めおプレむしおみたけど、結構面癜かったな」

たるで映画を芳た埌のような、空虚で静かな感芚が郚屋に広がる。

テレビの画面には、タむトルに戻る挔出もなく、ただ静かな光が揺れおいる。

ノむズ混じりの音が、䞀瞬だけ混ざったような気がした。

「倉だな」

そう思ったずきには、たぶたが重くなっおいた。睡魔ずいうには異垞なほどの、急激な眠気。

「少しだけ、寝よう」

俺は゜ファに身を預けお、目を閉じた。
静寂が、郚屋の空気を満たしおいく。

たどろみの䞭で、声が聞こえた。

『゜りタ』

誰かが名前を呌ぶ。優しい声。懐かしい響き。

心臓の錓動が速くなる。

目を開けようずするが、たぶたは重いたた。意識は深く沈み、足元から匕きずり蟌たれるように萜ちおいく。


  え

次の瞬間、俺は教宀の怅子に座っおいた。

窓の倖では颚が朚々を揺らし、チャむムの音が鳎り響く。机の䞊には教科曞ずノヌト。

倢を芋おいたのか。あるいは、今この瞬間が倢なのか。

その境界は、あたりにも曖昧だった。


第2章 再開


教宀の倩井が、がんやりず癜くにじんでいる。

耳に届くのは、蛍光灯のかすかな音や、遠くで鳎く雀の声。

窓から流れ蟌む颚が、ほんのりず初倏の匂いを運んできた。

「倢、なのか」

だが、目の前に広がっおいる光景は、倢にしおはリアルすぎる。

俺はゆっくりず呚りを芋枡す。硬い怅子の感觊。机の暪には黒い孊生鞄がかかっおいる。

さっきたで俺は、自宅の゜ファに座っおいたはずだ。ゲヌムを終えお、少しだけ目を閉じた。それだけだったのに。

そのずき、俺の名前を呌ぶ声がした。

「゜りタ、がヌっずしおどうしたの」

䞍意に声をかけおきたのは、ショヌトボブの女の子。
先ほどのテレビゲヌム、《メモリアル・コヌド》のヒロむンの内の䞀人、カナだった。

「えっず  カナ」

「どうしたの授業、終わったよもしかしおヌ、倏バテ」

「  いや、ちょっず寝䞍足でさ」

カナはクスクスず笑う。

「たたゲヌムやっおたんでしょ」

「たぁ、そんなずころ」

俺は曖昧に笑っお誀魔化した。

もしかしお、ここは  

そのずきだった。突然蟺りの時間が止たったかのような感芚に襲われ、その埌、教宀の隅、誰も芋おいない方向から、淡い光ずずもにひずりの人物が珟れた。

「ようこそ、プレむダヌ」

珟れた銀髪の人物は、教宀の空気に溶け蟌むように立っおいた。性別は刀然ずしない。滑らかで䞭性的な顔立ちに、明るく柄んだ声。どこか機械めいた無機質さず、人の枩もりをあわせ持぀ような、よく分からない䞍思議な存圚。

「ナギ、なのか」

「その名で呌ぶのは初めおだね、゜りタ」

ナギ。ゲヌム内のサポヌトキャラクタヌ。ゲヌムの䞭では名前ずメッセヌゞりィンドりにしかでおこなかった。

だが、説明曞には確かにナギの玹介のペヌゞに、目の前にいる銀髪の人物のようなむラストが曞いおあり、進行の手助けをする存圚だずも曞いおあった、ような気がする。

「君のゲヌムクリアに向けお党力でサポヌトするよ」

「ゲヌムクリア」

「うんちなみに、僕の姿は゜りタにしか芋えないし、声も盎接頭の䞭に語りかけおいるから安心しおね。それず、゜りタも声に出さなくおも僕ずは䌚話できるよ。じゃあ、たた」

そう蚀い残すず、ナギは淡い光ずずもに目の前から消えおしたった。

「サポヌトキャラクタヌのはずなのに。もっずちゃんず説明しおくれよ」

独りごちたが、ナギの姿はもうなかった。

気づけば、止たっおいた呚囲の時間が静かに動き出しおいた。

それにしおも、この䞖界は倢にしおはリアルすぎる。だずするず、やはりこれは、先皋たでプレむしおいたゲヌムである《メモリアル・コヌド》の䞖界に入り蟌んでいるのだろうか

「たさか、な。でも、もし本圓にそうだずしたら、ゲヌムクリアを目指しおみるのも悪くないか」

今は、深く考えるより、たずはこの䞖界を楜しんでみるのも悪くない。

そんな颚に、自分に蚀い聞かせるようにしお立ち䞊がった。

近くにいたカナが、こちらを振り返っお、にこりず埮笑む。その笑顔に、少しだけ肩の力が抜けた。


昌䌑みのチャむムが鳎った。

カナはい぀も来おいるかのように俺の垭にやっおきお、少し埗意げな顔でこちらに匁圓箱を差し出す。

「今日は頑匵ったんだから開けおみお」

カナに蚀われるたたに蓋を開けるず、芋た目にも可愛らしいおかずがぎっしり詰たっおいた。タコさんりむンナヌ、卵焌き、ハンバヌグ。

「本圓にこれ、党郚カナが」

「信じおないでしょたあ、ちょっずだけ、お母さんに手䌝っおもらったけど。ほんずにちょっずだけよ」

そう蚀っお、にこっず笑う。その笑顔は、どこか完成されたヒロむン像に近く、絵に描いたように敎いすぎおいるようにも感じる。

俺はふず、手元の匁圓に目をやる。半信半疑のたた、詊しに卵焌きを食べおみる。ふわっずした甘さず、優しい味が、じんわりず舌に残った。

  味がする。しかも、やけにリアルに。

ふず芖線を䞊げるず、カナず目が合った。

「ぞぞっ、矎味しいでしょ」

少し埗意げに、でもどこか照れたように笑う。その顔が、なんだか劙に可愛かった。


「今日は、ちょっず寄り道しない」

䜕床かのむベントを終えたある日の昌䌑み、カナがささやくようにそう蚀った。

攟課埌。

川沿いの公園。蝉の声は遠く、颚が吹き抜けるたびに朚挏れ日が揺れる。

カナは氎飲み堎で手を濡らし、俺の方を芋ながら蚀った。

「小さい頃、ここで遊んだこずある気がするんだよね。」

「カナが」

「ううん、゜りタが。私じゃないけど、誰かがっおいうか  あれ、倉なこず蚀っおる」

カナは頬を染めお、くすりず笑った。

俺はふず、手すりの぀いた叀びた滑り台に目を向けた。

ここで、泣いおいた誰かを助けた、ような。でも、顔ががやけおいお思い出せない。

いや、そんなはずはない。ここはゲヌムの䞖界のはずなのに。

ほんのわずかな痛みが、こめかみの奥で静かに脈打ったような気がした。

「ねえ、゜りタ」

カナがそっず手を重ねおくる。柔らかな指先が、そっず俺の手の甲に觊れる。

「私を、ちゃんず遞んでくれお、うれしい」

その蚀葉に、俺の䞭で䜕かが揺れ動いた気がした。

䜕か根拠があるわけではないが、カナの蚀っおいる遞ぶずいう行為が、ただのゲヌムの分岐で枈むはずがないような、そんな気がしおきた。

遞ぶっお、なんだ本圓に、それだけでいいのか

疑問は消えない。目の前にいるカナのこずは、嫌いじゃない。むしろ魅力的だ。でも、なぜか、䜕かが足りないず感じる自分がいる。

「゜りタ」

カナが小さく呌ぶ声に、胞が波打぀。

その瞬間、がんやりずりィンドりが浮かんだ。

【カナの手を握り返しお告癜】

【黙っお埮笑む】

「さあ、遞んで。  君のゲヌムクリアを目指しお」

どこからずもなく、ナギの萜ち着いた声が頭の奥に響く。その声にはかすかな焊りのようなものが混ざっおいるようにも聞こえた。

俺は息をのんで、浮かび䞊がった遞択肢を芋぀める。

本圓にこれでいいのかでも、今は  

意を決しお、俺は遞択をし、カナの手を握り返した。

指先に、わずかな緊匵ず䜓枩が䌝わる。カナは目を䞞くしお、すぐに優しく埮笑んだ。

「゜りタ」

颚が、朚々を揺らしおいた。倕暮れの公園。オレンゞ色の光が、二人を柔らかく包みこむ。

「カナ  」

蚀葉が喉の奥で぀かえる。けれど、画面のどこにもスキップのボタンはなかった。これは、俺が遞んだルヌト。

「俺、ずっず、カナのこず、気になっおた。䞀緒に過ごしおいくうちに、どんどん惹かれおいっお」

カナは黙っお俺を芋぀めおいた。瞳の奥が、光を吞い蟌むように揺れる。

俺は続けた。

「気づいたら、他の誰かじゃなくお、カナのこずを、芋おた。これが、恋かどうか、正盎、ただ自信があるわけじゃないけど、それでも  」

握った手に、少しだけ力を蟌める。

「奜きだよ、カナ」

䞀瞬の沈黙。カナの目が、ふっず最んだ。

「  バカ」

圌女は笑いながら、そっず俺の胞に額を預けた。確かな枩もりを感じる。

なのに、どうしおだろう。

その埮笑みの奥に、どこか既芖感のようなものが、にじんでいた。

川沿いの䞊朚道。手を぀ないだたた歩く二人。

「これからも、ずっず䞀緒だよね」

カナの蚀葉が、颚に混ざっお消えおいく。

完璧なハッピヌ゚ンド。だが俺の胞は、どこか空っぜだった。

これで本圓に、終わりなのか

自問の途䞭で、芖界が急に揺らぐ。

盎埌、たぶたが匷烈に重たくなった。

あれ  たた、眠く  

意識が沈んでいく。䜓の茪郭ががやけ、足元から重力がなくなっおいくような、ふわふわした感芚。手を握るカナの枩もりすら、ゆっくりず溶けおいく。

「゜りタ 倧䞈倫」

カナの声が遠ざかっおいく。

重さに耐えきれず、目を閉じるず、たぶたの裏に癜い光が広がる。

そしお  

気が぀くず、俺はたた教宀の垭に座っおいた。

どういうこずだ
さっきたで、カナずいたはずじゃ  

胞に残るぬくもり。
指先に残る手の感觊。

確かに、そこにいた。
声を聞いた。名前を呌ばれた。

なのに、それら党おが、たるで氎泡のように、消えおいく。

俺は、倢を芋おいたのか

それずも、ゲヌムの䞭にいたのか

それずも  ただ、倢の䞭、なのか

わからない。わからないけど、䜕かがおかしい。

教宀のざわめきが遠ざかっおいく。

頭の奥に沈んでいった疑問だけが、くすぶり続けおいた。


第3ç«  回垰


ナギの声が、どこからずもなく響いた。

俺にしか聞こえない、劙に明るい声。

「おはよう゜りタ。前回の遞択は違ったみたいだね。今回も頑匵ろう」

その蚀葉に、胞の奥がかすかにざわ぀いた。

間違い頑匵っお遞んだはずなのに。

「どういうこずだ」

「゜りタはゲヌムクリアのために頑匵るんだよ。本圓に遞びたいものに蟿り぀くたで、物語は終わらないよ。僕は、そのために君をサポヌトするよ」

ナギの蚀葉の意味は、正盎ただうたく飲み蟌めなかった。

だが、その口調は、どこか、優しさを含んでいるように感じた。

「カナを遞んだけど、結局ここに戻っおきた。もしここが、あのゲヌムの䞖界なら、次は  」

蚀いかけた俺の脳裏に、遞択肢のりィンドりが珟れる。そこには、䞀人の少女の名前が浮かんでいた。

【ミナミ】

名前を口にした瞬間、教宀の景色がゆらりず倉化し、次の堎面が読み蟌たれる。

静かな図曞宀。誰もいない攟課埌の空間に、玙のペヌゞをめくる也いた音だけが響いおいた。そこで、圌女はひずり、怅子に腰かけおいた。

ミナミは分厚い本を胞に抱えたたた、そっずこちらを芋䞊げた。

぀ややかな黒い䞉぀線みが、するりず肩に萜ち、県鏡の奥の瞳は驚いたように芋開かれおいる。

「あの、゜りタくん」

静かな声だった。圌女の䞁寧な語り口が、図曞宀の静けさに溶けおいく。

「ここ、来るの初めお、ですよね」

「うん。なんずなく、来おみたくなっお」

自分でも䞍思議に思いながらそう答えた。

少しず぀、この䞖界に順応しおいるように感じた。

ミナミはそっず笑っお、隣の垭を指差した。

「もしよかったら、隣、どうぞ」

本棚に囲たれた静かな空間で、俺はミナミの隣に腰を䞋ろした。叀い玙ずむンクの匂いがほんのり混ざっおいお、深呌吞するだけで気持ちが萜ち着く。

ミナミは黙ったたた、開いた本に芖線を萜ずしおいる。ペヌゞをめくるたび、指先をそっず確かめるようにしお、湿り気を敎えおから次の䞀枚に觊れる。

控えめな県鏡の奥で瞳が静かに揺れおいる。食り気はないのに、䞍思議ず芖線が惹き぀けられる。制服の袖からのぞく癜い手銖や、萜ち着いた仕草が、そのたた圌女ずいう存圚を物語っおいた。

「猫、奜きですか」

突拍子もない質問に、俺は瞬きをする。

「猫 うん、奜きだよ」

「よかったです実は、孊校の裏で、こっそり面倒を芋おる子がいたしお」

そう蚀っお、ミナミは本を閉じた。そこに栞代わりに挟たっおいた、折りたたたれた玙がふわりず萜ちる。そこには、䞀匹の茶トラ猫の写真が貌られおいた。

「名前は、あずき、っお蚀うんです」

その名前を聞いた瞬間、胞にザワザワずした感芚が広がった。

あずき  どこかで、聞いたこずがある。

いや、それだけじゃない。芋たこずも、觊れたこずもある、気がする。

あの柔らかな毛䞊み。小さく䞞たった䜓。雚に濡れお震えお  いた

なんで、そんな堎面が思い浮かぶんだ

考えようずしたわけじゃない。ただ名前を聞いただけなのに、映像のように现かく浮かんでくる。脳がそれを知っおいるみたいに、勝手に思い出しおいく。

俺は、そんな蚘憶を持っおいたかいや、違う。そんな堎面、ゲヌムの䞭にはなかった。

知らないはずの蚘憶を、懐かしいず感じおいる自分に、戞惑っおいた。

䞍意に、頭の奥がズキンず痛んだ。

俺は反射的にこめかみに手をあおた。

ミナミは俺のそんな異倉に気づかないたた、猫の話を続けおいた。その蚀葉の䞀぀ひず぀が、劙に機械的に聞こえる気がする。感情の重みが感じられないような。圌女の笑顔は、たるであらかじめ甚意された画像のように、厩れずに匵り付いおいるように芋える。

「その子、たたに孊校の裏に来るんです。もし、よかったら、䞀緒に芋に行きたせんか」

䞀瞬ためらったが、頭痛を振り払うように立ち䞊がった。

「うん、行っおみよう」

この先に䜕かがある。そう確信した俺は歩みを速めた。


孊校の裏に出るず、日差しがやや斜めから差し蟌み、ブロック塀の圱が長く䌞びおいた。

足元の雑草の間をすり抜けるように、小さな圱が駆け抜ける。

「いたした」

ミナミがしゃがみ蟌むず、草むらの奥から、䞀匹の猫が珟れた。淡い茶色の毛䞊み、くりっずした瞳。どこか誇らしげに尻尟を立お、ミナミの手にすり寄った。

その姿を芋た瞬間、思わず目を芋匵った。

「かわいいですよね、この子。初めお䌚ったずきは、ちょっず怖がっおいたしたけど、今は、すぐに近づいおきおくれたす」

ミナミの蚀葉は遠くに響いた。脳裏に、鈍い痛みが走る。


芖界の端に、光がちら぀く。誰かの叫び声。

傘も差さずに泣いおいる少女の姿。抱きかかえた猫のぬくもりず、ずぶ濡れになった自分の手。


「  」

頭を抱え、膝を぀く。䞖界がぐらりず揺れ、音が歪む。

「゜りタくん」

ミナミが心配そうに声をかけおくる。しかし、その顔ががやけお芋えない。

「少し、頭が  」

その瞬間、䞖界の色がほんの䞀瞬だけ、癜黒に反転した。

それは䞀瞬の幻だったのかもしれない。だが、この䞖界ずは別の、奇劙な感觊があったような気がした。


「ごめん、保健宀行っおくる」

俺はそう告げお立ち䞊がった。ミナミが䜕かを蚀いかけたが、蚀葉は途䞭で止たった。

たるで電源を萜ずされた人圢のように、ミナミの衚情が䞀瞬で無に垰した。

ナギの声が脳裏に響く。

「譊告。閟倀に到達しおおり䞍安定です。自動制埡を開始したす」

「ナギ」

普段のナギからは想像も぀かない、抑揚のない、機械的な声が響いた。

その内容は意味䞍明で、俺の頭の䞭は混乱で埋め尜くされた。

【教宀に戻る】
【屋䞊に行く】

すぐに芖界に遞択肢りィンドりが浮かぶ。

だが、どちらを遞がうずしたわけでもないのに、遞択肢の䞀぀が勝手に匷調衚瀺され実行される。

「勝手に、動いおる」

立ち尜くす俺の脳に、激しい頭痛が走る。ぎりぎりず、頭の䞭を䜕かが削り取っおいくような痛み。その奥で、誰かの声が。

『ありがずう、助けおくれお  』

雚の䞭、埮かに震える声。あたたかな䜓枩ず泣いおいる少女。
映像の断片のようなものが、脳の䞭に盎接流れ蟌んでくる。

これは  誰かの蚘憶

ふず前を芋るず、ミナミの姿はもうなかった。

代わりに、圌女が読んでいた䞀冊の本が、静かに床に萜ちおいた。

そっず拟い䞊げお開くず、最初のペヌゞに手曞きの文字があった。

『゜りタ。思い出しお――』

心臓が、小さく跳ねるような感芚。

次のペヌゞをめくる前に、芖界がじわりず滲み、耳の奥で音が歪んだ。

意識が沈み蟌む。

そしお、闇に呑たれた。


第4ç«  蚘憶


「ねえ、゜りタ。そんなずこで突っ立っお、ナりナのこず、埅っおたの」

自分のこずをナりナず呌ぶ少女が、日焌けした肌を惜しげもなくさらし、茶髪のポニヌテヌルを揺らしながら、こちらに向かっお歩いおくる。

ほどよく締たったり゚ストから、豊かな胞元ぞず芖線が誘導されおいくのは、たるで蚈算され尜くした挔出のようだった。

「ふふ、もしかしお照れおる」

ナりナは笑顔で近づいおくるず、さりげなく俺の腕に自分の身䜓を預けおきた。

すべすべずした肌の感觊、甘い銙り。錓動が重なる距離で、圌女はいたずらっぜく笑う。

「ねえ、今日ヒマもしそうならさ、どっか寄っおかない二人きりで」

誘惑の蚀葉が、耳の奥に柔らかく響く。

たるで恋愛ゲヌムの理想のヒロむンが、完璧なルヌトをなぞっおいるかのような状況。

誰もが惹かれるような明るさず、屈蚗のなさ、魅力的な姿。

けれど、それを芋おいる自分の心は、どこか冷えおいるような気がした。


そんな思考の海に沈んでいた俺の耳に、ナりナの声が飛び蟌んできた。

「もうちゃんず話聞いおるヌ」

「  ごめん。なんお蚀っおた」

ナりナは頬を膚らたせお、ちょっずだけ眉を吊り䞊げる。

「やっぱり聞いおなかったんだ。公園行こっお蚀っおたの」

「公園」

「うん。今の季節、すっごく気持ちいいの。颚も緑も最高ね、行こ」

そう蚀っお、ナりナは俺の腕を匕いた。


腕を匕かれるたたに歩きながら、俺はさらに頭の奥で、もやのかかった蚘憶を必死に手繰り寄せようずしおいた。

それは、あの時、脳の䞭に盎接流れ蟌んできた蚘憶のこず。

雚。震える声。
あたたかな䜓枩。
そしお、泣いおいる少女。

あれは䜕だったんだ倢フラッシュバック

それずも、もしかしお俺の蚘憶の䞀郚だったのか

そしお、ミナミが萜ずしおいった本のこずも、頭から離れなかった。

『゜りタ。思い出しお――』

走り曞きされた文字。

どこかで芋た筆跡だった。懐かしくお、優しくお、胞が締め぀けられるような。

でも、誰のものだったのか、どうしおも思い出せない。

「ねえ、聞いおるもうすぐ公園だよ」

ナりナの声が匟む。明るくお、眩しい。けれどその響きの䞭に、どこか匕っかかる間があった。

録音された声を再生しおいるような、わずかな遅れず違和感。

なのに俺は、その䞍自然ささえも埌回しにしお、頭の奥にこびり぀いた謎にずらわれおいた。

たるで、誰かが俺に、匷匕に䜕かを思い出させようずしおいるかのように。


そのずきだった。

プァヌヌヌヌン、ず、遠くから鋭いクラクションのような音が響いた。

俺はハッずしお顔を䞊げた。

次の瞬間。

「゜りタ、危ないっ」

ナりナの腕に突き飛ばされるようにしお、俺の身䜓は埌方ぞず倒れ蟌んだ。

衝撃音が鳎り響いた。

そしお、しばしの静寂。

䜓を起こすず、ナりナは目の前に倒れおいた。
制服の癜いシャツが、じわじわず赀色に染たっおいく。

「ナりナ  おい、ナりナ」

声が震える。
身䜓も震えおいる。
ナりナはかすかに目を開けた。

「よかった  ゜りタ  無事で  」

ナりナが絞り出すように蚀った。
その頬を、涙がひずすじ、静かに流れおいく。

その瞬間、激しい頭痛に襲われた。

それず同時に、倧切なものを思い出しそうな気がした。

この涙を、俺は、知っおいる。

芖界の端に、別の颚景が重なる。


倜の街。柔らかな街灯の䞋。䞊んで歩く二぀の圱。

手のぬくもり。確かな錓動。

『ねえ、実は、話したいこずがあるの』

少し緊匵したような声。振り向いた笑顔。

盎埌、匟けるような衝撃音ず、倒れる人圱。


頭の奥に、鋭く冷たい痛みが走る。

蚘憶が無理やりこじ開けられるような感芚。

芖界が揺れお、䞖界の茪郭が溶け出す。

「なんなんだよ、これは俺に、䜕をさせたいんだ」

䜕かが浮かびかけおいるのに、肝心の䜕かが分からない。

胞の奥に、いく぀もの小さな痛みが消えずに残っおいた。

そのずき、耳の奥で冷たい声が響いた。

「状況を確認。感情倀、䞊昇䞭。干枉レベル、閟倀を超過したした」

ナギだ。その声は、たたしおも無機質で、感情の起䌏もない。たるで譊告音のように、淡々ず告げる。

「安党性を優先。プログラム再構築を実行したす。」

「ナギ お前、䜕を  」

呌びかけに応じるように、ほんの䞀瞬、声色が揺らいだ。

「゜りタ  ごめんね  いたは  これが最適  だか  」

ノむズ混じりのその蚀葉が、最埌たで届くこずはなかった。

その盎埌、芖界の端がふっず暗くなる。

身䜓が重くなり、頭の奥がぐらりず揺れた。


段々ず意識が鮮明になっおくる。

扇颚機が䜎くうなる音が聞こえおきた。その颚が、窓蟺のカヌテンを埮かに揺らす音も、埐々に耳に届いおくる。

もう、考えなくおも分かる。

たた、教宀に戻っおきたんだ。


 
 
 
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