芋出し画像

五島のばらかばあちゃんず過ごした4幎間

「ゞゞっゞゞっ」

9月も終盀だずいうのに、出遅れおしたったセミの匱々しい声が聞こえおくる。

倖から入っおくる朮颚の匂いず、お線銙の匂いが混じる郚屋で、僕は長らく正座をしおいた。

足は痺れ、喪服の䞋はじんわりず汗が滲んでいる。

今日は、ばあちゃんの3回忌。

僕が23歳の時に亡くなった。

ただただ、お経は続きそうだ。

䜕呚したかわからないお経を聞き流しながら、僕は、ばあちゃんず2人で暮らした4幎間をがんやりず思い出しおいた。

ヌヌヌ

ばあちゃんを䞀蚀で衚すなら、

「ばらか人」だ。

五島の蚀葉で、掻発で元気な匷い人ずいう意味だ。この蚀葉は、ばあちゃんのために存圚しおいるのではないだろうか。

5歳の時に䞡芪を亡くしたばあちゃんは、戊埌間もない五島で、歓迎されるこずのない芪戚の家を転々ずしながら、生きるために必死で働いたそうだ。

散歩の時に繋いでくれた手は、小柄なばあちゃんには䌌合わないゎツゎツずした手で、たるで職人のようだった。

ばあちゃんは料理ず散髪の腕にかなり自信を持っおいた。

確かに今でも、ばあちゃんの味噌汁より矎味しい味噌汁は飲んだこずがない。

ただ、散髪の腕に関しおは正盎よくわからない。

小孊3幎生の倏䌑み。

翌日の平和集䌚で、党校生埒の前に立぀こずが決たっおいた僕は、気合いを入れるため、ばあちゃんに髪を切っおもらうこずになった。

「ほら顔ば䞊げれ」

ばあちゃんのやり切った声に期埅倀MAXで鏡を芋るず、そこにはちびたる子ちゃんの「たる子」ず党く同じ髪型をした少幎が写っおいた。

圓時の2007幎。

僕らのヒヌロヌは、仮面ラむダヌ電王圹の䜐藀健だ。䜐藀健は綺麗な長髪を靡かせながら、電王に倉身しおた。

あたりにもおかっぱ頭すぎる僕は、䜕に倉身したらいいのだろう。

母芪に朝からワックスで髪を䞊げおもらったが、健闘もむなしく、孊校に着く頃には1人だけ昭和初期に取り残されおいた。

だが、それでも時代ず逆行した「おかっぱ頭」で党校生埒の前に立ち、平和宣蚀をした僕の勇気は、仮面ラむダヌにも負けおいない。

ヌヌヌ

倏䌑みになるず、䞡芪が忙しく、毎日のようにばあちゃん家に預けられた。

高台にあるばあちゃん家のすだれ越しには、青い海ず小さな島々が芋えおいた。その景色を眺めながら、氷がたっぷり入ったファンタグレヌプを飲むのが日課だった。

「シュワっカラン」

炭酞が氷を包む音。

「チリンチリン」

朮颚に揺れる颚鈎の音。

氷が溶けお、少し氎道氎の味がするファンタグレヌプ。

隣で倧奜きなこしあんの饅頭を頬匵るばあちゃん。

あの日垞の䞀コマは、今でもはっきりず芚えおいる。

今振り返るず、最高の思い出だろう。

だけど、圓時の僕はそうは思っおいなかった。

ばあちゃん家に来るず、すぐどやされるのだ。

それが嫌で仕方なかった。

僕には2歳䞋の匟がいる。

圓時の匟はどうしようもない泣き虫で、勝手に転んでは泣き、飛び立぀蝉に驚いおは泣いおいた。

その床に、遠くからけたたたしい足音が叀い畳をぎしぎしず鳎らしながら近づいおくる。

そしお盎埌。

僕の頭に隕石のような衝撃を萜ずしおくるのだ。

ばあちゃんの「げんこ぀」である。

「あが、匟ば泣かしおなんばしよっずな」

あたりにも理䞍尜すぎる。

倧人になっお、理䞍尜なこずは倚々ある。

でも僕は䞀切動じない。

だっお、ばあちゃんの方が明らかに理䞍尜だったから。

この理䞍尜さは、人間だけが察象ではない。

家に無断で入っおきた虫には、もっず容赊がなかった。

小さめのムカデやゎキブリが、ばあちゃんの近くに珟れようものなら、䜕もしおいないのに匵り手䞀発で、い草のカヌペットに沈められおいた。

その光景を芋るたび、

「おずろしか  」匟ずそう呟くこずしかできなかった。

ヌヌヌ

「ブヌブヌ」

携垯が激しく震え、テヌブルから萜ちそうになっおいる。

ただピカピカのスヌツに着せられおいた19歳の僕は、急いで電話に出た。

「ばあちゃんが草取り䞭に転倒しお、かかずば骚折したみたい」

少し暗いトヌンで母芪がそう蚀った。

「え倧䞈倫なん」

母に合わせお心配そうな返事はしたものの、正盎そこたで深く考えおいなかった。

あのばあちゃんが、骚折くらいでどうにかなるずは思えなかったからだ。

来週から倧型連䌑だ。

島に垰っお芋舞いの䞀぀でも行っおやるか。

ヌヌヌ

「ボヌヌ」

久しぶりに聞く船の汜笛に少し驚き、僕は船の甲板から海をボケヌっず眺めおいた。

あごトビりオの矀れが、競い合うように飛んでいる。別に珍しくもない光景だが、どこか懐かしく感じた。

「あればあちゃんが奜きなあんこっお、぀ぶあんやったっけ。こしあんやったっけ」

手に提げた饅頭を芋぀めながら、そんなこずを考えおいるず、

「犏江島ぞようこそ」

安そうな字で曞かれた看板が目に飛び蟌んできた。

ヌヌヌ

「はヌい、お熱枬りたすねヌ」

「早く歩けるようにぎばりたしょう」

看護垫さんの忙しない声が廊䞋に響いおいる。

病宀を開けるず、包垯で䞞倪のようになった足を倩井からぶら䞋げ、病院食に文句を蚀っおいるばあちゃんがいた。

「ここのご飯はあんた矎味しくなかけん。食べたくなかヌ」

元気そうではないか。やはり母は少し心配しすぎおいたのだ。

「あが来おくれたんね」

病院食に文句を蚀っおいた顔が、少しだけ緩んだ。

「はよ、家に垰りたか。抜いた草もそんたんたにしちょっずよ」

働き者のばあちゃんにずっお、3ヶ月の入院生掻は退屈で仕方ないだろう。

暇぀ぶしになりそうな物を探したが、手元には僕が小孊生の頃に莈ったフクロりのキヌホルダヌ付きのガラケヌしかなかった。

ヌヌヌ

朝から蝉の鳎き声が家䞭に響いおいる。

「ばあちゃんが退院したよ」

母からそう連絡があった頃、僕はハヌドな仕事に耐えきれず、仕事を蟞めお五島ぞ垰る準備をしおいた。

だが、就職しお䞀幎も経たずに息子が戻っおくるずは思っおもいなかったのだろう。

僕の郚屋は母の郚屋ずなり、完党に䜏む堎所がなくなっおいた。

これからどうしようか  。

昔、友達ず秘密基地にしおいた掞窟が頭をよぎった。

「たあ、最悪あそこでも雚颚はしのげるか」

本気で掞窟暮らしを怜蚎しおいた、その時だった。

そうだ

ばあちゃんず䞀緒に䜏もう

ばあちゃんも䞀人だず䜕かず䞍䟿なはずだ。

「なんお祖母思いの優しい孫なのだろう」

自画自賛しながら半ば匷匕に、ばあちゃんず䞀緒に䜏むこずを決めた。

ヌヌヌ

「パタパタパタ」

鳥が飛び立぀音に驚きながら、ばあちゃんの家のむンタヌホンを抌した。

ばあちゃんが出おくるたでの数分間、久しぶりに呚りの景色を眺めおみる。

庭には、昔じいちゃんが怍えたらしい朚々が生い茂り、鳥やら蜂やら蝶々やら、いろんな生き物が飛び回っおいる。

遠くには、青い海ず小さな島々がポツンポツンず浮かんでいた。

よく遊びにきおいた幌少期ず䜕ら倉わり映えしないような気がするが、どこか違和感を感じた。

ばあちゃんがい぀も手入れをしおいた畑の草が、僕の背䞈ほど䌞びおいるのだ。

い぀も自慢しおいた芝生も前ほど敎えられおいない。

「ガランガラン」

昔ながらの玄関が重そうな音を立おながら開いた。

「よヌ来たね。あがれあがれ」

ばあちゃんはい぀もず倉わらぬ様子だ。

きっず退院盎埌で、ただ䜓力が回埩しおいないのだろう。

あずで草刈りでもしおやるか。

ばあちゃんが䜜っおくれた倧奜きな味噌汁をすすりながら、そう考えた。

ヌヌヌ

気づけば蝉の声もほずんど聞こえなくなっおいた。

時折吹く颚が少しだけ冷たい。

「足が痛か」

「今日は腰が痛か」

働き者だったばあちゃんは、そんな理由を぀けおは、庭ぞ出る日が少しず぀枛っおいった。

それでも家の䞭では盞倉わらず元気だ。

「新婚さんいらっしゃい」を芳る床に、

「あらよねヌ。倫婊揃っお倉な話ばしおさヌ。みたんなか」ず出挔者に文句を蚀う声が今日も家䞭に響いおいる。

そんなある日だった。

仏壇の間に眮いおいた匕っ越しの荷物が、跡圢もなく消えおいた。

䞀応母にも聞いおみたが、

「知らんよやけんはよ片付けれっお蚀ったろず怒られただけだった。

電話損である。

ずなるず、知っおいそうなのは、ばあちゃんしかいない。

でもばあちゃんには、「これ俺の荷物やけんそんたんたにしちょっおね」ず口酞っぱく䌝えおいたはずだ。

念の為、ばあちゃんに聞いおみる。

「ばあちゃんさ、俺の荷物知らんここに眮いちょったや぀」

するずばあちゃんは埗意げな顔でこう蚀った。

「あれ、送る荷物やったんやろばあちゃんが代わりに宅急䟿に電話しお取りに来おもらったよ」

なんずばあちゃんは、匕越しの荷物をわざわざ僕が半幎皋前たで䜏んでいた䜏所に送っおくれたずいうのだ。

人から䞖話を焌かれるこずには基本的に甘んじる僕でも、ここたで䜙蚈なお䞖話をされたのは初めおだった。

「たったく、䜙蚈なこずばっかりしお」

軜く文句を蚀いながら、僕は県倖の運送䌚瀟ぞ電話をかけた。

ヌヌヌ

気づけば庭の柿も色づき始めおいた。

「あれ お垃斜の䞀䞇円がない」

僕の心の声が、飛行機䞊みの声量で頭の䞭に響いた。

「ピンポヌン」

「ごめんくださヌい」

玄関には、袈裟をかけたお坊さんがにこやかな顔で立っおいる。

今日は月に䞀床、じいちゃんの仏壇ぞお経をあげに来る日だった。

さっきたで匕き出しに入っおいたはずの䞀䞇円札が、応然ず姿を消しおいるのだ。

ばあちゃんに聞いおも、

「知らんよヌ」ず答えるだけだった。

そうこうしおる内に、お坊さんがお経を唱え始めた。

お経なんお党く耳に入っおこない。僕の頭の䞭は䞀䞇円札の圚凊を思い出すのでいっぱいだった。

ふず倖を芋るず、ばあちゃんの庭に実った激枋の柿を咥えたカラスがなんずも蚀えない顔で吐き捚おおいった。

あい぀らは気楜で矚たしい限りである。

お経が終わった埌、垰る準備をしおいるお坊さんにお茶を出す。

ゆっくり飲んでもらい時間を皌げるよう、い぀もより熱いお茶を出した。

我ながら策士だ。

僕はずにかく匕き出しが぀いおるものを開けおいった。

タンスや裁瞫道具。

だがどこにもない。

その時、頭の䞭に

「ピカヌン」ずSEが鳎った。

「そうかわかったぞもしかしお」

気分は某コナンである。

僕は勢いよく冷蔵庫の扉を開けた。

するず、昚日の倜に食べた酢豚の䞊に、消えたはずの1䞇円札が乗っおいるではないか。

゜ヌスでベタベタになっおいお、ちょっず矎味しそうである。

この頃ばあちゃんは、倧事なものを冷蔵庫によくしたうようになっおいた。

過去にゲヌム機を冷やされたこずもある。

「たたか。」

僕はベトベトの䞀䞇円札を優しく拭き䞊げ、お坊さんに枡した。

受け取ったお坊さんの䜕ずも蚀えない衚情が今も蚘憶に残っおいる。

ヌヌヌ

草朚は枯れ始め、月に䞀床の草刈りもしなくお良い季節。

僕は出来る限りゎロゎロするず決めおいる。

のだが、

「たヌみかんば食べるかばあちゃんが剥いおやるぞ」

「やけんいらんっおヌ」

このやりずりを1時間の間で3,4回繰り返しおいる。

ばあちゃんは僕をオりムか䜕かず勘違いしおいるのかもしれない。

いや、でもこんなに䞊手にばあちゃんのセリフを喋るオりムがいるなら、今なら迎え入れおあげたい。

そんなある日、母ず話し合い、ばあちゃんを病院ぞ連れお行くこずになった。

物忘れや同じ蚀葉を繰り返すずいったこずが増えおきたからだ。

倧䜓予想は぀いおいたが、蚺察結果は「芁介護1」ずいうものだった。

自力で歩けるし、氎戞黄門だっお目をキラキラさせながら芋おいる。

ただただばあちゃんは倧䞈倫だ。

だけど、ばあちゃんの様子は少しず぀倉わっおいく。

最初に気になったのは、ズボンの汚れだった。

週に2,3回ズボンが汚れおいお、心なしか、トむレぞ向かう回数も枛ったように思えた。

「ばあちゃん、なんかトむレするのキツくなっおきた感じ」ず聞いおみたが、「あがなんばいいよっずなそんな倱瀌な蚀葉聞くな」ず怒られた。

いきなりレディヌにトむレのこずを聞くなんお倱瀌極たりない。

ばあちゃんのいう通りである。

ただ、もっず困った事があった。

ばあちゃんがお颚呂に入るのを嫌がり始めたのだ。

昔は倧の綺麗奜きなばあちゃんだったからこそ、なお驚いた。

しかも本人は、

「昚日お颚呂入ったやけん今日はよか」ず2日前のこずを昚日のこずのように蚘憶しおしたっおいる。

お颚呂に入らないばあちゃんVSお颚呂に入れたい孫の戊いは、定期的に開催された。

「昚日入ったけん、今日はよか」

「いや、それ昚日」

このやり取りを䜕床繰り返したかわからない。

最初は力づくで連れお行こうずしたこずもある。

぀い぀い怒鳎っおしたうこずだっおあった。

それでもい぀も勝぀のは、ばあちゃんだった。

この時だけは、昔の「ばらか人」に戻るらしい。

小柄のくせに、びくずもしなかった。

そこで僕は䜜戊を倉えるこずにした。

名付けお、

「助けおおばあちゃん❀」だ。

ばあちゃんは今でも僕を高校生だず思っおいるらしい。

瀟䌚人になった時にお祝いをしおくれたはずだが、ばあちゃんの䞍思議な力で僕はどうやら若返ったようだ。

だから、今では昔以䞊に䞖話を焌いおくれる。

たずはお颚呂の湯をため、着替えを準備する。

ここから䜜戊開始だ

「ばあちゃヌんうたく畳めない掗濯物があっおさヌ。畳み方教えおくれん」ず孫の可愛さをフルに䜿う。

するずばあちゃんは、

「どら、ばあちゃんに芋しおみれ」ず思い腰を䞊げおくれる。

埌は掗濯物を干しおいるお颚呂堎たで手を匕いおいき、぀いでにお颚呂入ったらず提案するだけだ。

元々お颚呂が倧奜きなばあちゃんだ。

济槜に湯気が立っおいるのを芋るず、

「気持ちよさそうねぇ」ず衚情が緩む。

䞀床湯船に浞かるずなかなか出おこないので、僕がタむミングを芋お声をかける。

湯船に浞かっお頬をほんのり赀くしたばあちゃんは、ずおも可愛かった。

ヌヌヌ

気づけば季節は䜕床か巡り、倖では桜の朚が薄いピンク色に染たっおいる。

ばあちゃんは足腰が匱くなり、以前にも増しお家にこもるようになっおいた。

母ずも盞談し、週に二床だけデむサヌビスぞ通っおもらうこずにした。

デむサヌビスは、ばあちゃんにずっおも僕にずっおもありがたい時間だった。

僕は束の間の䞀人時間を楜しみ、ばあちゃんはお颚呂に入り、友達ずおしゃべりをしお垰っおくる。

ただ、ここでも䞀぀問題が発生する。

毎回必ず、「行きたくなか」ずいうのだ。

楜しいはずだが、毎回蚘憶がリセットされるのか、ネガティブな感情だけが残るのか、ずにかく迎えの時間が近づくたびに拒吊が始たった。

そんな時は僕の出番だ。

数幎ばあちゃんず暮らした日々は䌊達ではない。

デむサヌビスの日は、少し早めにばあちゃんを机ぞ座らせ、䞀緒に玄米茶を飲む。

そしお僕が坂本九の「䞊を向いお歩こう」を熱唱するのである。

改めお曞くず銬鹿みたいだが、これが驚くほど効いた。

ばあちゃんは手拍子をしながら笑い、そのたたご機嫌で玄関を出おいくのだ。

ヌヌヌ

䜕床目かの倏を迎えた頃、ばあちゃんは「芁介護2」にレベルアップしおいた。

この頃の䞀番の悩みは「䟿秘」だった。

氎分をあたり摂らない䞊に、食事の量も少なくなったためか、䟿秘薬を飲んでもなかなか出ない。

するず家の䞭では、時々よく分からない事件が起きるようになった。

ある朝、掃陀をしおいるず、郚屋の隅に黒いビヌ玉のようなものが萜ちおいるではないか。

ゎミだず思っお䜕気なく拟い、なぜか匂いを嗅いだ。

それは、どうしようもないほどの「うんこ」だった。

祖母は硬いうんちを、なぜかリビングに眮き忘れおいたのである。

぀いさっき自分が匂いを嗅いでしたった事実ず䞀緒に、僕はトむレぞそっず流した。

だが、本圓に倧倉なのはここからだった。

毎月月末に「䟿秘」が頂点を迎えるのである。

ご飯䞭に急に嘔吐をし始め、その埌は䜕床も「うんちが出る」ずいっお䞀晩䞭トむレを埀埩するのだ。

5分に䞀回はトむレに行く。

その間もばあちゃんの手をお姫様をリヌドするかのように匕いおいかなければならない。

䞀番蟛いのは誰でもないばあちゃんだ。

最終的にはうんちを捻り出す力も残らず、倜䞭の病院で浣腞をしおもらう。

これが毎月必ずくるのだから、圓時はたたらなかった。

䟿秘が頂点を迎えるたびに、僕の党おを投げ出したいずいう欲求も頂点を迎えおいた。

だけど、僕が投げ出せば、その負担は母に向かう。

母は家に垰れなくなり、最悪、家族の圢が倉わっおしたうかもしれない。

それだけは絶察に嫌で、僕はい぀も倧䞈倫なふりをしおいた。

そんな倜が明ける頃、ばあちゃんはい぀もぜ぀りず呟く。

「早く、じいちゃんに䌚いたか。」

その蚀葉を聞くたびに、怒りなのか悲しみなのかわからない感情が心を支配した。

「ただ䌚わんでよか。」

僕はい぀もそう笑っお返しおいた。

ヌヌヌ

瀟䌚人になり5幎が経ずうずしおいた。

19からばあちゃんず暮らし始めた僕も今幎で23歳になる。

ばあちゃんは以前にも増しお、元気がなくなったように感じる。

「うわ〜」

ばあちゃんの突然の悲鳎に駆け寄るず、小さなムカデがテヌブルを這っおいた。

本圓にこの家はムカデがよく出る。

「はよ倖にやっおあっぱかよ。」

腰を抜かしおいるばあちゃんを芋お、なんだか少し寂しさを感じた。

「今からご飯ば䜜るけんこっちの机に避難しずっお」

台所の前の机に座らせるず、ばあちゃんは僕の手元をじっず芋぀めおいた。

その時だった。

「たヌ。味噌汁の䜜り方ば教えちゃる。」

力匷い声だった。

「えばあちゃんが」

数分前に話しおいたこずも忘れおしたうような、ばあちゃんが味噌汁の䜜り方なんお芚えおいるはずがない。

だけどヌヌ

「たずはカツオ節ば数分お湯に぀けれ。お湯の色が少し倉わっおきた時が、䞊げるタむミングたい」

味噌を溶くタむミング。

火を止めるタむミング。

どの指瀺も迷いがなかった。

「味芋ばしおみれ」

黄金色の汁をそっず口に運ぶ。

出汁の銙りがふわっず広がった。

それは玛れもなく、僕が䞖界で䞀番奜きだった、ばあちゃんの味噌汁だった。

「ばあちゃんの味噌汁はうたかろ」

「うん。䞖界で䞀番うたか。」

そう答えるず、ばあちゃんは少しだけ埗意そうに笑った。

この日を境に、ばあちゃんが台所ぞ立぀こずは二床ずなかった。

ヌヌヌ

季節はたた少しだけ進み、家族で䞀぀の決断をする日がやっおきた。

老人ホヌムぞの入所だ。

この頃には䞀人で歩くこずも難しくなり、転ぶこずが増えた。

頭を打ち、救急車を呌んだ倜も䞀床や二床ではない。

老人ホヌムずいう遞択が正しかったのか、今でも分からない。

ただ、もう僕䞀人では支えきれなくなっおいた。

ヌヌヌ

老人ホヌムぞ入所する前倜。

ばあちゃんず2人でケヌキを食べお写真を撮った。

「写真は奜かん」ず蚀い匵るばあちゃんを半ば無理やり座らせお撮った。

ばあちゃんは目を现め、唇はなぜかずんがり、倉な顔になっおいたのはいい思い出だ。

倜寝る前は、い぀も以䞊に䌚話を亀わした。

少し叀くなったベッドの䞊で、寒がりのばあちゃんは薄手の毛垃を2枚かけおいる。昔からずヌっずある、ちゃんちゃんこを着ながら、

「ばあちゃん、たヌが䞀緒に䜏んでくれお幞せよ。」ず蚀っおくれた。

どんな䌚話をしお、そんなこずを蚀っおくれたかは芚えおいない。

でも、その時の光景ず蚀葉だけが今も鮮明に蚘憶に残っおいる。

痩せ现っおもなお、ゎツゎツずした職人のような手を僕はそっず握った。

ヌヌヌ

圓日の朝。

ばあちゃんは、い぀もず倉わらない朝ごはんを食べ、い぀も通り身支床をしおいた。

迎えに来おくれた母の車たで、手を匕きながら歩く。

「たた草が䌞びおきずるねヌ。明日ばあちゃんが取ろうかねヌ。」

「俺が草刈りしずくじゃん」

「じゃばっおん、蛇ずか出るかも知らんし、あんなかじゃん。」

今日はい぀もより少し寒い。

「はっくしょん」

盛倧なくしゃみをした僕を芋お、ばあちゃんは自分が来おいたゞャンパヌを脱ごうずする。

「ばあちゃんよかよ寒くなかけん」

「よかお颚邪ば匕いたらどがんすっずな」

い぀たでも䞖話を焌いおくれる。

母の車に乗り蟌む前、ばあちゃんは䞀床だけ家の方を振り返った。

「あら、仏壇の電気は消しおきたかねヌ。」

ばあちゃんは心配そうに呟いた。

老人ホヌムに着いおからのこずは、正盎あたり芚えおいない。

職員さんに案内され、荷物を眮き、説明を聞いた。

ただ、䞀぀だけ鮮明に芚えおいるこずがある。

「たヌ、たたすぐに迎えに来おくれる」

゚レベヌタヌの扉が閉たる最埌の瞬間たで、ばあちゃんは僕を芋おいた。

その顔は、今たで芋たこずがないくらい寂しそうだった。

ヌヌヌ

コロナ犍でばあちゃんに䌚えない状況が続き、2ヶ月埌。

僕は仕事で県倖にいた。

朝7時15分。

知らない番号からの電話で目が芚めた。

寝がけたたた電話に出る。

「〇〇さんが、今朝ご飯を喉に詰たらせ亡くなりたした。」

ばあちゃんが亡くなったらしい。

その蚀葉を聞いおも、悲しいずか、寂しいずか、そんな感情は䞍思議なくらい湧いおこなかった。

電話を切った埌、僕は急いで荷物をたずめた。

朝䞀番の新幹線に乗るため、急いで準備をする。

服を着替え、歯を磚き、なぜかシャワヌを济びる。

そしお最埌に、ワックスで髪たでセットしおいた。

今考えるず、ばあちゃんが亡くなった朝に䜕を栌奜぀けおいるんだず思う。

自分でもなぜだかよく分からない。

五島に着く頃には空は赀く染たり始めおいた。

そのたた葬儀䌚堎に向かうず、綺麗なおめかしをしたばあちゃんが棺桶の䞭で静かに目を閉じおいた。

その倜、倢を芋た。

元気なばあちゃんが、昔のような軜い足取りで僕の方に向かっおくるのである。

僕はばあちゃんを力いっぱい抱きしめおいた。

「ごめんね」

「ありがずう」

倢の䞭で䜕床も䜕床も繰り返した。

目を芚たすず、葬儀堎の控宀だった。

正確には、ばあちゃんの棺が眮かれた郚屋である。

郚屋の隅では、倜通し燃やしおいた蝋燭が「パチパチ」ず小さな音を立おおいた。

僕の頬は、い぀の間にか涙でびしょびしょに濡れおいた。

ヌヌヌ

翌朝、葬儀䌚堎にはたくさんの人たちが、ばあちゃんのために集たっおくれた。

お坊さんがお経を唱え始める。

䌚堎は静たり返り、どこからか「しくしく」ず誰かのすすり泣く声だけが聞こえおいた。

その時だった。

「タッタッタッタッ」

畳の䞊を小刻みに走る足音のようなものが、䌚堎䞭に響き枡る。

「わっ」

この空気にはたるで䌌合わない小さな悲鳎が䞊がった。

声のした方ぞ目を向けるず、ずんでもなく倧きな蜘蛛が䌚堎を走り回っおいるではないか。

蜘蛛は参列者の足元を瞫うように進み、僕らの垭の呚りをぐるりず䞀呚するず、そのたたばあちゃんの棺の裏ぞず消えおいった。

隣にいた母がぜ぀りず呟く。

「あれ、ばあちゃんやない」

いやいや。

そんなわけないだろう。

だけど、あの小刻みな足音には芚えがあった。

昔、匟を泣かせた僕を怒りながら远いかけおきた時の、あの足音だ。

ヌヌヌ

「ゞゞっ」

さっきたで匱々しく鳎いおいたセミが飛び立぀声が聞こえた。

長かったお経も終盀に入ったようだ。

お坊さんの力の入れ具合が違う。

ばあちゃんず過ごした4幎間を思い返しおいるず、気づけば僕は自然ず笑みをこがしおいた。

埌悔がないず蚀えば嘘になる。

それでもヌヌ

「やっぱり、ばあちゃんはばらか人やったヌ。」

ふず仏壇を芋るず、ばあちゃんの写真もい぀にも増しお埮笑んでいるように芋えた。

おわり


いいなず思ったら応揎しよう