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徒花の彼女

    そうやって泣いてれば

    みんなに心配してもらえていいよね

    どうせ大した悩みもないくせに


    ユキが彼女に抱いていた最初の感情は最悪なものだった。


    こっちはどんなに大変でも耐えてるのに

    どこかで嫉妬もあったのかもしれない


    教室で大勢の前で弱みを曝け出して

    慰めてもらってる光景を何回か見た事があり、その度に苛ついた。


    けど学生の1日なんてめまぐるしく過ぎる


    さっきまでどこか視線を集めていたあの子もすっかり落ち着いて

    それぞれがもう全く違う事を考えていた


    あーバイト増やさなきゃな…

    6時間目の授業が始まり次の時間になる

    ちゃんと教科書に目を移している子なんか

    数人で

    真面目そうに見える斜め前の子も

    よく見ると有名キャラクターを書きこんだりしていた。


    ユキの視線はスケジュール帳に注がれていた

    もうすぐ夏になる

    受験生になる3年は塾や夏期講習が詰め込まれていく

    ただ模試ひとつとっても自腹と考えると痛い出費だ


    面倒そうに模試が〜塾が〜と言ってる生徒の中には親が費用を出してくれる子もいるのだろう


    そういった費用を始め

    奨学金を借りる事になるとはいえ受験費用さえもかかってくる、0ではないのだ


    頭が痛くなってスケジュール帳を閉じた

    前の方をぼーっと見てたら

    さっき泣いてたあの子は泣き疲れたのかしっかり睡眠に入っていた


    やば寝てた、バイト……駅まで走ればギリギリ間に合う

    ひとつ上手くいかなくなると

    色んな事が崩れてしまいそうになる

    急いで支度して走ろうとしてた時

    あの子が声をかけようとしてきた

    「ごめ、急いでるからまた…」

    「電車だよね?今日迎えくるから自転車使わないんだよね。駐輪場に置いといてもらえれば大丈夫だからよかったら…」

    意味がわからなかった

    接点もあまりない

    だけど正直とても助かる

    「ありがとう!今度ジュース奢る!!」

    その子は嬉しそうにうんと言って鍵をくれた。


    バイトには間に合った

    正直自転車がなければ電車に間に合わない可能性もあった。

    何で助けてくれたのかわからないけど

    後でお礼言わないと

    SNSのフォロー欄からその子を見つけ出しメッセージを送った


    って言ってもその後は特に何かがあったとかもなく

    日常にその出来事もまみれていった。


    どうしても忙しない日々を過ごして
    心に負荷も加わると余裕がなくなる


    どうしても疲れちゃって耐えきれなくなってしまって

    誰もいない場所に向かって走った。

    もう泣いて全部を吐き出してしまいたかった。

    だから人の気配を察知した頃には

    もう逃げるタイミング見逃して

    気づいたら声をかけられていた。


    「大丈夫?」

    泣いてる所を見られてしまったことで

    ただただ居心地が悪くて何も言えなかった。

    その子は続けた、

    「きっと疲れちゃったんだね。大丈夫、誰にも言わないから」

    いつものイメージとは違う落ち着いた声


    感情を出すのも知られるのも苦手だ

    だけど不思議と嫌な気はしなかった。

    袖から見えた手首の傷にこの子もきっと沢山傷ついてきたんだろうと思った。

    前に大した悩みもないくせにと勝手に決めつけた自分を恥じて

    未熟な自分が余計苦しくて嗚咽がとまらなかった。


    そんな私を傍目に何をするでもなく黙って傍にいてくれた。 

    そろそろ戻ろうかな、授業始まるし⋯


    「よしサボろっか」

    「ん!?」聞き間違いかな

    「サボろっか」

    聞き間違いじゃなかったー

    え、授業始まるし、サボる、サボ⋯え?⋯


    「意外と真面目だよね

    1日くらい休も、行こ」


    引かれた手を振り払う理由なんてどこにもなくて

    気づいたら彼女と走り出してた


    「ふぃー疲れた」

    何とか学校を抜け出した私達は

    ファストフード店に腰を下ろしていた  


    学校を抜け出したドキドキと

    久しぶりに高校生みたいな事をしてる心地よさとで

    ぐちゃぐちゃだったけど

    今まで全然知らなかった彼女と話して

    意外と話しやすいことにも

    どこか楽しいと思っている自分に驚いた。


    写真撮ったりぶらぶらして解散して

    翌日先生に少し注意されたくらいで済んだ

    ちょっと張っていた気が緩んだ気がした


    あ、昨日の写真載せてる

    SNSには2人で撮った写真が乗っていた


    ⋯にしても病んでる投稿ばっかだな

    もちろん高校生らしい内容のものが多かったが

    きえたい、くるしい、そんな書き込みばっかりだった


    楽しかったひとときも過ぎ

    学校は受験、就職組に分かれて準備が本格化されていった。 


    ユキは受験組だったので就職組の彼女とは別のグループでひたすら小論文とにらめっこしていた。


    元々彼女とはお互い違うグループに属していたし

    この間話してギャップを感じるくらい

    何というかふわふわした存在だった。


    きっとその間も色々悩みは積もっていってたんだと思う

    だけど当時、いやそれからもずっと

    自分のことで精一杯できっと見ようともしてなかった


    彼女は何回か不安定になってる時はあったけど

    後で連絡したり放課後一緒にいたり

    学校で隣にいた機会が多かったわけではないけど

    いつしか一方的に特別な存在になっていた。


    やがて、入試が終わり

    無事に進学先も決まった

    一足先に就職が決まっていた彼女とプチパーティーをしながら

    一人暮らしするとしたら、とか展望とか

    そんな事を若いが故の無責任さで語り尽くした。

    だからまさかあんなにあっけなく別れが近づいてるとは思ってもいなかった。  


    高校を卒業して

    進学してまたバイト三昧になった

    ただ新しい環境、授業、サークル

    色んなものが新鮮で

    自分なりに一生懸命で過ぎるのもあっという間だった


    最初は彼女のぐちや不満の連絡にも付き合ってた

    だけど時が過ぎると 

    だんだん充実してきて忙しくて後回しにしてしまうことが増えた


    『最近全然返信くれないよね』

    『ごめん!忙しくて返してなかった』

      

    そのやり取りも段々ペースが空くようになった


    タイムラインに流れてくる

    彼女の不安定さも目には入ってきていたけど

    いつの間にかいつもの事だろうと慣れてしまっていた


    そんな中で彼女から電話がかかってきた

    何回かしにたいって言ってた

    だけど前にもそんな事が何度かあって

    その度に自己満足な説得をして

    どこかでしにたいと言ってるって事は死ぬ事はないんだと思いきってしまっていた


    電話なんかで済ませないで

    せめて会いに行けば良かった

    もっと話を聞いてあげれば良かった。


    きっとまた当たり前のように

    連絡をとって会って

    いつだってあの子の事は頭にあった。

    またタイミングが来ると後回しにしてただけ


    どうせいつもの事だろうと思ってた

    彼女はしっかり傷ついていたのに


    最近連絡来ないなくらいにしか思っていなかった。

    かつてのクラスLINEに一つのトークが流れて息ができなくなった。


    彼女が死んだ。

     



    現実味がないまま葬儀に向かった

    斎場で目にしたのは地獄のような光景だった

    恩知らず!今まで育ててやったのに! 

    中年の女性が叫んでる姿を見て 

    まるで彼女の事をわかってなかった

    初めてそれに気づいた感覚に

    背筋が冷えて

    対照的に彼女の笑顔が浮かんで

    あんなに感情を曝け出すのは嫌だと思っていたのに


    大声で泣き喚くしかできなかった。



    #創作大賞2026  
    # エッセイ部門

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