あの時言えなかった一言/第12話「残したままにするという選択」
あらすじ
何も残らなかった関係だと理解した主人公は、それでも消えない違和感と共に生きることを選ぶ。答えを出さなかった過去を否定することも、やり直すこともできない中で、彼は「終わらせない」という自分の選択そのものと向き合う。
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思い出そうとするのを、やめた。
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思い出せないものを、無理に辿っても意味がない。
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そう判断した。
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合理的だと思った。
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残っていないものは、存在しないのと同じ。
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そうやって、整理する。
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頭の中を。
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違和感も、同じように扱う。
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理由がないなら、考えない。
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答えがないなら、求めない。
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それで済むはずだった。
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でも。
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完全には消えない。
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何もないはずの場所に。
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引っかかりだけが残る。
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説明できない。
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思い出せない。
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でも、ある。
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それが一番厄介だった。
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意味がないのに、消えない。
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日常の中に、混ざる。
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ふとした瞬間に浮かぶ。
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理由もなく。
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何かを見たとき。
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誰かの言葉を聞いたとき。
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関係のない場面で。
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突然。
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浮かんでは、消える。
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追いかけても、掴めない。
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だから、やめる。
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最初から。
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追わない。
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触れない。
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そう決める。
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それが一番、楽だから。
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選び続けてきた方法。
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変える理由がない。
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変える必要もない。
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そう思う。
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それでも。
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一つだけ、残る。
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あの時。
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選ばなかった言葉。
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何を言うべきだったのか。
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それは、もうわからない。
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でも。
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言わなかったという事実だけは、消えない。
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それが、すべてだった。
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正解はない。
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間違いもない。
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ただ。
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選ばなかった。
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それだけ。
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それが、残る。
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時間が経っても。
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消えない形で。
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意味を持たないまま。
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残り続ける。
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だから。
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消そうとしない。
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整理もしない。
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答えも出さない。
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そのままにする。
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最初から、そうしてきたように。
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終わらせない。
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確定させない。
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残したままにする。
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それが、自分のやり方だから。
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最後まで。
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変わらなかった。
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