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空色のルービックキューブ

    「そういえば、昔ルービックキューブ買ってもらったな」

    部屋の時計が壊れて止まっているせいか、なかなか時間が進まない暇な夜の思いつきでした。

    大学生になってからというもの、眠気が来るまで惰性でスマホを見続けるのにも嫌気がさしていたので、突然そんなことを思ったのでしょう。

    スマホとルービックキューブ、どちらの方が有益かはわかりませんが。

    自分の部屋を探したところ、案外すぐに見つかりました。

    一面だけ揃ったルービックキューブが。

    きっと、このルービックキューブに挑戦した最後の人は、一面を揃えるのが限界だったのでしょう。
    六面すべてを揃えるのは無理だと悟ったけれど、自分ができる最もきれいな状態で終わりにしたい、といったところでしょうか。

    そんな先人に心を配りつつも、静かだった自分の部屋に、カチャカチャという音が鳴り出します。

    ルービックキューブのような、IQを必要とするものは得意ではありません。
    ですので、まずは先人に倣い、一面を揃えるところから始めます。

    同じ色が一番集まっている面を基準にするのが良いだろうと思い、色々と動かしてみると案外簡単に揃ってしまいました。

    崩して、もう一度。
    先ほど同様、そこまで難しくはない。

    逆に色が散らばっている面から始めてみても、難しさは大して変わりませんでした。

    こうなったら六面に挑戦です。
    一面が揃ったルービックキューブを崩してリスタート。

    ところが六面を揃えようと思うと、最初から何をすればいいのか全く分かりません。
    一面、二面、三面という具合に徐々に揃う面が増えていくのか、ばらばらだった六面が突如きれいに揃うのか。
    六面が揃うというのは奇跡に思えて仕方がありませんでした。

    試しに一面を揃えてからやってみても、他の面が揃う前にすぐに崩れてしまいます。

    半ばあきらめかけ、自分の部屋に再びの静寂が訪れます。

    「先人もこんな気持ちになったんだろうなぁ」

    思いのほか一面を揃えるのに苦労せず、意気揚々と六面に挑戦したら何もできず、すぐに諦めてしまう。

    そうして残されたのが、一面だけが揃った不格好なルービックキューブだったのでしょう。

    自分も同じ道をたどりそうになっていたわけですが、なんとか別の道にたどり着きました。

    たどり着いたというのは良いように言い過ぎたのですが、とどのつまりネットで六面の揃え方を調べたのです。

    そこに喜びがないことくらいはわかっていましたが、このまま終わるよりは幾分かましだろうと思ったのです。

    いざ調べてみると、「初心者でもできる!」やら「誰でもカンタン!」だの書かれているサイトがいくつも出てきましたが、どれでもいいので一番上のサイトにとびます。

    そのサイトには、事細かにわかりやすく手順が書いてあり、指示に従って動かしていくと、いとも簡単に揃ってしまいました。

    (ちなみに、最初に一面を揃えるという方向性は間違ってなかったようです。)

    そこで僕は思いました。
    この手順を丸暗記すれば、ルービックキューブを揃えられる人間になれると。

    今となっては、何がそこまで僕を突き動かしたのかはわかりませんが、そう思い、1時間かそこらやっているといつの間にかルービックキューブを揃えられる人間になっていました。

    最初のほうはミスすることもありましたが、慣れていくうちに1分ちょっとで揃えることができました。

    やはり、何も見ずにルービックキューブを六面揃えるということには、多少の達成感らしきものがありました。

    しかしながら、何度か揃えていくうちに、自分が手を動かして揃えているのに他人が揃えてくれているような不思議な感覚が生まれはじめ、達成感らしきものがすぐに虚しさに変わっていくのがわかりました。

    所詮、自分よりも頭の良い誰かが見つけた手順通りに動かしているだけである。そう感じるのも自然なことだ。

    そんな虚しさが芽を出してからはすぐに手が止まった。

    もうこの立方体には興味がない。
    きれいに揃っているはずのルービックキューブは、突如として色を失う。
    突如ではないかもしれない。
    揃え方を調べたときから、徐々に色を失っていたのだ。

    そうして元々あった場所に戻す。
    少し前までは、一面だけ揃えられた状態で置いてあったものが、いまや六面が完璧に揃えられている。

    なんだか気持ちが悪くて、ぐちゃぐちゃにして置くことにする。

    色を失った以上、もう二度とこのルービックキューブが揃うことはない。

    最初に見た、一面だけが揃えられた不格好なルービックキューブ、あれこそが最も美しいものであった。



    #創作大賞2026 #エッセイ部門


     
     

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