
「行きたい」が、「怖い」を少しだけ追い越した。──お遍路へ向かう決意と、初心者の準備記録を少し──
以前にも書いたけど、私は2020年の春に自己免疫疾患を発症し数ヶ月間寝たきりの生活をしていた。それ以前の私はとにかく行動的だったし、なんなら1人でメキシコを訪れるようなバイタリティーすら持ち合わせていた。
だけど寝たきりになって、医師からは「治らない治せない、症状を抑えることしか出来ない」と宣告を受けてからというもの、外へ出ること全てが恐怖へと変わってしまった。ましてや間質性肺炎という診断を受けていたので、コロナ禍から4年を経過していたとはいえ、肺を悪化させる感染症への恐怖は未だに拭えずにいた。当時の私は、「外で倒れたらどうしよう」「呼吸ができなくなったらどうしよう」という思考が常に頭と心の片隅にへばり付いて離れなかったものだから、電車はもとよりバスすら乗れなくなっていたのだ。
こんな状態でどこかへ行くなんて
できるわけが無い
寝たきりになったあの日以来、私は自覚すらないまま、恐怖を基準に生きるようになっていた。自分の可能性よりも「できない理由」を信じて、その思い込みを疑うことさえしなくなっていた。
一方で、本来の私の心は常にどこかへ行きたがっていたのだと思う。みさちゃんとお遍路への出発を決めた時、「行っちゃう?」という言葉が出た0.001秒は今まで抱いていた恐怖を1ミリも考えずに「行きたい!」と答えを出した“むき卵”みたいな自分がいたのだから。だけど、その0.0001秒後には、「体、大丈夫かな・・・。」という赤黒い不安が例のごとくみぞおちの奥底から沸き上がってきていた。だから四国お遍路は、私にとって硬く分厚い恐怖の殻をブチ破って本来の自分への信頼を取り戻す、とても、とても、本当にとてつもなく気が遠くなるくらいの大きな挑戦であったのは言うまでもない。
ただ一つ確実なのは、旅行ではなく“お遍路ならできる”と思えたことだ。いやいや、何を言うんだと思われるかも知れないけれど、結局のところ人間の原動力たるものは「心」にある訳で、人によっては羨望やら嫉妬やらが源となるけれど、私の場合はそれが「信心」であるからなのだ。物理的に存在しない恐怖の殻を破壊するためには、自ら何かしらの行動に移すことで自信をつけるしか打開策は無い。その原動力として八十八箇所のお寺にいらっしゃるご本尊さまに「こんにちは!ご挨拶に参りました!以後お見知りおきを♪」なんて、お会いしに行くと思えば、私にとってこんなに心躍る力の源は他には無かった。
まず、私達はお互いの生活スタイルから一度に回る通し打ちは無理であると判断し、春と秋の比較的気候が過ごしやすい時期に回る区切り打ちを採用した。一度の行程を10日~14日間として、単純計算で4回に分け、2年越しで結願する予定を組んだ。回る予定のお寺も、きっちりとここまでとは決めず、だいたいこの辺りまで回れたらいいねという目星を立てる程度にゆるく設定した。そして一番重要なのは無理をしないこと。なるべく歩くけど、次のお寺までが超長距離の場合は現代の文明の利器である電車やバスを使う、いわゆる“ハイブリッド歩きお遍路”で回ることにした。
凡そ日程を組んだところで、まずは服装と靴を揃えることにした。お遍路では上下共に白衣(びゃくえ)に頭陀袋(ずだぶくろ)、そして白い地下足袋のような靴を履くのが正装らしいが、今は歩きやすい靴と、全身真っ白にせずとも動きやすい服装の上に白衣を羽織る程度でも良いらしいことを知った。となれば山ガールと少し前に言われたような服装が一番合理的だし、登山用の服は速乾性も撥水性も良く、しかも少々草木に引っかかっても破れない強度まであるので事実最適解だった。
しかし問題は靴だった。これは服とは違い本当に難しい選択だと思う。一度お遍路道を歩いたことがあれば感覚が掴めるので靴選びは迷いにくくなるけれど、全くの未経験者の場合、どんなに先人のブログを読み漁り情報を得たとて、歩き方の癖や足の形ほど個人差が顕著なものについては本当に難しい選択だ。だから結局は地図やらブログやらから得た情報を基に、お店の方とも相談したりして決めていくことになるのだけど、私が最初に揃えた靴はモンベルの足首まで隠れる軽登山用靴だった。しかもその靴はダイヤル式で締め付けを調節するタイプのもので、その目新しさに良かれと目がくらんで選んだのだけど、いやはや、これが後に私の足に大問題を引き起こすことになってしまった(笑) というのは、実際のお遍路では山道も歩くし階段をめちゃくちゃ上り下りするしアスファルトも歩くしで、軽登山靴で長時間長距離を歩くと足への負荷がとてつもないのである。
そこで区切り打ち2回目の出発で選んだのがNIKEのトレイルランニングシューズ。ペガサスというシリーズのものだが、この靴に変えたら本当に羽根が生えたかのように体が軽く、疲れ方が嘘みたいに軽減した。そして、雨の日や雨の後の山道を歩いたりもすることを考慮して、ゴアテックスのものを選んだのも良かった。ご参考までに。

靴下は、私は5本指靴下のほうが指のグリップが効くので愛用していたが、みさちゃんは普通のタイプを使っていた。だから本当に人それぞれなのだと思う。
それと、お遍路と言えばリュックだが、私は父を亡くした時に1人で高野山へ登ったことがあり、その時に購入したColombiaのリュックを今回の巡礼でも使う事にした。ポッケも多く容量も30Lと大きすぎず小さすぎず、背中にクッションがついており、腰にベルトがあるのでとても重宝した。というのは、実際のお遍路の荷物は比較的軽めのリュックに入れたとしても総重量でざっと6~7kg程度。そこに500mLのペットボトルの飲料水を両サイドのポッケに入れて歩くので合計8kg近くを背負って歩き通すので、腰にベルトがあるとリュック全体の重さを肩と腰の二点に分散できるのだ。そのため、腰にベルトがあるのと無いのでは、肩への負担はさることながら、体全体の疲労度合にも後々大きく影響してくることになる。たかがリュック一つではあるけれど、靴と同様に、ここはしっかりと投資をした方が良いと思う。

それともう一つ。服装についてオススメなのが THE NORTH FACEのアルパインライトパンツだ。これは私がお遍路に出発する直前にイモトアヤコさんがTVでご紹介されていたのを見て直ぐにお店へ突撃したのだが、本当に優れものだった。まず、伸びるから動きやすく引っかけても破けない耐久性、撥水性抜群、洗っても直ぐに乾く。あと流石だなと思ったのは両ポケットのファスナーが下向きに閉まる仕様になっていて、登りで何かに干渉してもポケットの口が開かなくなっていること。お遍路中で彼女のような断崖絶壁を登るようなことはまずない上に、私のスペックそのものがこの服と合っているとは言えないけれど、服そのものの造りがもの凄くよく考えられている、そのことこそが私にとってめちゃくちゃに心地がよく、着て歩く度に山登りのプロになったかのようで体が喜んでいた。

私はお遍路用品屋さんで売っているような頭陀袋は購入せず、納経帳やお線香、蝋燭、納め札、数珠、お経本などを入れる片肩掛けのショルダーバッグを胸の前に持ってきて使っていたのだが、唯一の失敗は納経帳がこのバッグには入らなかったことだった。納経帳は大判サイズとコンパクトサイズがあり、コンパクトサイズは一般的に売られている御朱印帳と同じサイズなのだけど、大判サイズはちょっと大きい。コンパクトサイズなら難なく入るのだが、私はどうしても土佐和紙を使った大判サイズの納経帳が欲しかったのだ。
歩きお遍路さんは、お寺に到着すると境内のベンチに大きな荷物をおろし、納経に必要なものを一式入れた頭陀袋だけで本堂と大師堂へ向かい読経をする。そしてそのまま納経所へ向かい、お寺でお経を納めた証として納経帳に墨書と朱印を頂く(この一連のことを納経という)のだが、私のバッグには肝心の納経帳が入らなかったので、その都度リュックへ戻る必要があった。このひと手間が毎度かかってしまっていたのだけど、納経帳は私の大のお気に入りだし、スマホやお賽銭、現金やキャッシュカード、健康保険証などといった貴重品も全てこちらのバッグに入れて持ち歩けたので、ストレスを感じることは無く便利に使っていた。

その他準備については多くのブロガーさんがご教授下さっているので、私はこの辺にしておこうと思う。巡礼の記録を書き進めていくうちに思いついたこと、思い出したことがあればその都度書いていこうと思います。
つづく✨